コードギアス―抵抗のセイラン―   作:竜華零

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TURN21:「台湾沖 の 戦い」

 黎星刻率いる中華連邦本隊が澎湖諸島の港を経由して台湾近海に入ったのは、金門島放棄から2日と半日が経過した後のことだった。

 少なくない損害を出しつつもシュナイゼル軍の砲撃から逃れ、兵達はまさに不眠不休で動き続け、やっとの思いで辿り着いたのが基隆の港だった。

 

 

 台湾軍管区の主都台北(タイペイ)を背後に持つ基隆港は、軍管区内では最大級の設備を整えていた。

 60近くの埠頭に大規模な船隊を収容できるドック、武器弾薬を納めた倉庫や兵士宿舎、水に食糧……例えベッドが足りず艦船の床で雑魚寝することになろうと、死地を抜けてきた兵士達にとっては十分過ぎる程の休息の地だった。

 

 

「ええ、これらは全て兵士の方々に供与します。食糧は厨房担当者に……」

 

 

 中華連邦軍旗艦、大竜胆(ターロンダン)の最奥、中華連邦の象徴「天子」の部屋であってもそれは同じだった。

 艦内にあっても砲撃の振動とは無縁ではいられないし、断続的に響く戦闘の音は天子付きの女官達を怯えさせていた。

 高級官僚や富裕層の子女が多いので、そう言う意味でのスタミナも少ない。

 

 

 そんな女官達も基隆港に入ってからは少し落ち着きを取り戻し、今では女官の長たる葵文麗の矢継ぎ早の指示に従って慌しく動いている。

 止まっていると不安が増すばかりなので、そう言う意味でも効果的だった。

 そして文麗が今やっているのは、天子に優先的に回ってくる物資、それらの兵士への供与だった。

 

 

「……その他の物資も、それぞれの担当者に遅滞無く届けるように!」

「「「は、はいっ」」」

 

 

 国家元首である天子には、どれだけ物資不足だろうと十分な水・食糧・薬・衣類が回ってくる。

 だが度重なる慰問の中で兵士達の窮乏を見た天子は、己だけが豊かに物資を使うのはおかしいと主張した。

 傷つき痩せ衰えた兵士達の手――その兵士の大半が、すでにこの世に亡いだろう――を握って泣いた彼女は、もはやただの箱入り娘では無かった。

 

 

「ふぅ、ふぅ……」

「天子様、少しお休みになられては……」

「だ、大丈夫です。これくらいは……」

 

 

 そして今も自分の部屋のシーツやカーテンを切って繕い、簡易の包帯や三角巾を作っている所だった。

 もちろん、天子として育てられた彼女に繕い物の経験などあろうはずも無い。

 お世辞にも良い出来とは言えないし、白魚のように綺麗だった手指は今や傷だらけだ。

 

 

 それでも、一生懸命だった。

 少しでも助けになるようにと繕い物をし、兵士達が僅かでも安らげるならばと陣営を歩き回り手を取って語りかける、寝る時間を惜しんで。

 今も近衛の凛華が心配の声をかけるが、ふぅふぅ言いながらも手を動かしている。

 

 

(……侍医としては、気絶させてでも休ませるべきなのだろうけれど)

 

 

 不敬なことを考えながらも、文麗は心の底で喜びを感じてもいた。

 大宦官の下で人形のように扱われていた天子が、今では自分に出来ることを探して頑張れるようになっている。

 もちろん、小娘1人に出来ることは少ない。

 

 

 今回提供した物資にしても、鶏卵80個に豚肉などの缶詰45個、野菜類15キロ、ベッド10床分のシーツ……兵士全てにはとても行き渡らない。

 加えて、天子の傍にいれば非常時でも多少の贅沢が出来ると踏んでいた女官達の間には不満もあった。

 それでもこの行いで救われる兵は、確実に何人かはいるのだ。

 

 

(……あの人の耳にこのことが届いたら、どう思うでしょうか?)

 

 

 そして文麗言う所の「あの人」……星刻の下に、斑鳩の藤堂から緊急の通信が入ったのは、その頃だった。

 内容は、シュナイゼル軍が空挺部隊で澎湖諸島を制圧し、占領した空港から台湾南部高雄(カオシュン)への侵攻の構えを見せているとのことだった。

 

 

「そうか……流石に速いな」

『うむ、高雄を占領されれば、台北まで目と鼻の先だが……そちらの準備は?』

「急ピッチで進めている。空爆や空挺部隊には注意が必要だが、基隆までは今少しかかるだろう……後は」

 

 

 厳しい表情で告げる星刻に、通信画面の向こうで藤堂が重々しく頷いた。

 

 

「後は……」

『ゼロ次第、か』

 

 

 ――――この1週間後、シュナイゼル軍が台北・基隆へと侵攻した。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 シュナイゼル軍の台湾侵攻は、楔形の台湾島を南から北へ切り裂くように進められた。

 その手法はまず大規模な絨毯爆撃により敵の防空戦力を削ぎ、その後大量の航空戦用ナイトメアや陸専用ナイトメアの空挺部隊を投入すると言うものだった。

 それにより高雄、左営、台南、台中、桃園などの軍事的・経済的拠点は次々に降伏させられ、シュナイゼル軍は1週間もかからずに台湾島の6割を手中に収めたのである。

 

 

「……おかしいね」

 

 

 しかし当のシュナイゼルは、驚異的とも言える戦果を前にして疑問を感じていた。

 それはシュナイゼル軍と共に従軍するナイトオブラウンズ、枢木スザクとジノ・ヴァインベルグにも共有されている考えだった。

 つまりこうである、中華連邦軍の抵抗が予測よりも弱い。

 

 

「カオシュンや他の都市には、申し訳程度の守備隊しかいなかった。対空防御も大陸程じゃなかった。まぁ、地方の島の兵力が大陸より弱いってのは当たり前だが……」

「あまりにも弱すぎる」

「だな」

 

 

 シュナイゼル軍が侵攻の前段階として、基隆港と台北市内に空爆を加えている様子を――数百万の人間が暮らしているだろう場所――ラウンズ専用の待機室で巨大モニター越しに見ながら、ジノとスザクは戦況についての感想を述べ合っていた。

 2人の見解はやはり、敵の抵抗が弱すぎると言う点で一致している。

 

 

 こちらの空爆や砲撃に対する反撃が薄いのだ、反撃する力が無いと見るのが普通だろうが、金門島での決死の撤退戦を見ている2人がそう思うことは無い。

 まして捕虜からの情報では、敵の司令部は兵に「台湾に退けば活路がある」と言っていたらしい。

 兵の士気を高めるための方便と言う可能性もあるが……。

 

 

「相手には黒の騎士団、つまりはゼロがいる」

「また何か裏技を使ってくる?」

「それはわからない、けど……」

 

 

 ゼロの仮面の下、そしてその傍にいるだろう彼女。

 2人の顔を思い浮かべながら、スザクは戦況を見守っていた。

 戦況は、唯一出陣しているナイトオブラウンズ、ルキアーノ・ブラッドリーと直属部隊が圧倒的な突破力で敵の防空ラインを切り裂いている所だった。

 性格はどうあれ、ルキアーノの強さは本物だ。

 

 

 同時に、日本で数々のテロや反乱を見てきたスザクから見れば、やはり抵抗が弱いと感じる。

 祖国を失いゆく人々の抵抗の力は、もっと激しく強いものだと知っていたから。

 ずっと、見てきたから……敵の側から。

 ――――彼女を。

 

 

『タイワン島東沖、太平洋側に無数の熱源を感知! 潜水艦を含む複数の艦影と思われます!』

「何だぁ? もう太平洋艦隊が来たのか?」

 

 

 突然アヴァロン内に響き渡った報告に、ジノが首を傾げた。

 皇帝が自ら率いる太平洋艦隊が近くまで来ていることは知っていたが、台湾近海にまで来る予定では無かったはずだ。

 中華連邦本隊の戦力も基隆に集結している今、そんな位置に大型艦船を含む艦隊がいるとは思えない。

 

 

「……いや……」

 

 

 モニターから目を離さず、す……と目を細めながら、スザクはジノの疑問に否と答えた。

 確信に近いものが、あった。

 ただそれは論理的でも具体的でも無く、何故か「そう」感じると言うだけのものだった。

 あえて、無理矢理その感覚を表現するのであれば。

 

 

「……違う!」

 

 

 枢木の血の、成せる技だった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ナイトメアのコックピットは、同タイプであってもパイロットに合わせて微妙に調整がされている。

 例えば月姫はバイクのように跨るオートバイ式コックピットだが、オートバイ式コックピットと言ってもパイロットごとに細やかな調整が行われているのである。

 手足の長さから座席自体の大きさ、果ては計器の位置やモニターの光度まで。

 

 

 それら全てを含めての「専用機」であり、乗ってみて「手が届かない」と言わずにすむように作られている。

 パイロット達が技術部や整備部に出す要望が最優先で叶えられるのは、それがパイロット達の生存率に直結するためだ。

 すなわち月姫のコックピットには、整備士達の想いが詰まっているのだ。

 

 

『ヴィヴィアン、ステルス航行から戦速航行へ移行! 総員、耐衝撃体勢を!』

 

 

 通信機から響くのは、ヴィヴィアンが光学迷彩の衣を脱ぎ捨て戦場に突入すると言う報告だ。

 インド洋から台湾沖まで、インドの潜水艦隊と合流しつつ東南アジアを航破し、来た。

 星刻と藤堂が苦心して稼いだ時間は10日余り、だがそのおかげで彼らが間に合った。

 

 

『黒の騎士団、総員に告げる! この戦いの目的はシュナイゼル軍の殲滅では無い!』

 

 

 戦闘速度への以降と同時に、メインモニターに光が見えた。

 長い長いカタパルト、ヴィヴィアンの艦体に備えられた艦載機射出用のカタパルトだ。

 艦体から専用のプレートが伸びて、重い金属音と振動がコックピットにまで伝わってくる。

 

 

『一撃を与え退かせることが目的だ! 故に深追いはせず、斑鳩と中華連邦軍本隊と合流し――――勝利へと、突き進め!!』

(――――勝利!!)

 

 

 勝利、言葉にすればたった2文字で終わるその言葉。

 しかしその言葉に奮い立たない兵士はいない、青鸞もまた同じだった。

 操縦桿を握る手に力を込め、カタパルトの先にある青空を、月姫のメインモニター越しに見つめる。

 それは勝利へと続く空か、それとも絶望への扉か。

 

 

 コックピットに振動が伝わる、専用のリフトで移動していた機体が固定されたのだ。

 金属が合わさるような感触を、身体中で感じる。

 計器のスイッチを次々に入れ、モニターされる数値を声に出して確認しながら、射出に向けた手順を踏んでいく。

 

 

『月姫、正常位置へ』

「了解。月姫、正常位置へ」

 

 

 オペレーターの言葉を復唱する、モニターに映る文字とスイッチ下のボタンの色は全て緑色。

 オールグリーン、機体には何の問題も無い。

 古川達の整備の賜物だ、青鸞は心の中で謝意を述べた。

 

 

「オペレーター、優先事項の有無を確認」

『了解。現在ヴィヴィアンは第2戦速度で航行中、月姫は速度の相対化に留意しつつ、射出後に加速に入れ。推奨は左舷寄りルート、障害物――――無し』

「了解。左舷寄りルート、障害物無し」

 

 

 月姫の下側、つまり足元に新たな金属の合致音。

 カタパルトの電磁射出装置に青いエネルギーの光が灯る、同時に機体が僅かに押し上げられた気がした。

 月姫の踵部分に足裏を支えるフックプレートが出現し、また背後に衝撃緩衝用の壁が立った。

 

 

『射出重量確認、通常装甲・装備での出撃と認証』

「了解。認証確認、射出ルート入力」

 

 

 メインモニターに照準装置にも似た赤い十字マークが生まれる。

 縦の線と横の線が微妙にズレているそれは、時間が経つごとに中心へと寄って行く。

 方位・距離・風速・艦の速度・機体重量……複雑な計算を短時間で終了させる。

 

 

 出撃承認が出て、青鸞は操縦桿をゆっくりと前に倒して行く。

 飛翔滑走翼を完全起動、心地良いフロート音が青鸞の耳に届いた。

 そして、モニター上に信号機のようなマークが映し出された。

 3つある赤色のマークが1つずつ消えて、そして最後に緑のマークへ。

 

 

「……月姫! 操縦者・枢木青鸞!」

『射出許可認証! 貴女に、天照の加護がありますように……!』

「――――行きますっ!!」

 

 

 操縦桿を一番奥まで勢い良く倒し、同時に機体の射出が始まった。

 凄まじいGが身体を押し、操縦桿にしがみつくようにしながら歯を食い縛った。

 何かの壁を突き破るような音と共に、一息に蒼天へと押し出される。

 

 

 パイロットスーツがGを吸収して血液を循環させ、おかげで意識を保ちながら操縦を続けられる。

 ゆっくりと回転するメインモニターの向こうに目標を見つけて、青鸞は目を細めた。

 そして後から続く仲間達の機体と共に、さらに加速する。

 蒼天の世界を、日本の青き姫が舞う――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ヴィヴィアンとインドの潜水艦隊は、前者は山脈を超えて真っ直ぐに、後者は台湾島を迂回しつつ基隆港の北を目指して潜行した。

 つまり戦場に乱入したのはヴィヴィアン1隻であって、その意味では戦力的には大したことが無かった。

 少なくとも、勝敗を決定付ける程の要因にはなり得ない。

 

 

『な、何だアレは!?』

『ば、化け物ぉっ!?』

 

 

 しかし、局所的な混乱を引き起こすことは出来る。

 特に大きな効果をもたらしたものが2つある、1つはジェレミアの『ジークフリート』である。

 全高25メートルにも及ぶオレンジ色の鋼鉄の塊、強力な電磁装甲に守られたナイトギガフォートレス。

 饗団内にあったほとんど唯一の兵器で、神経電位接続によりジェレミアにしか扱えない。

 

 

 通常のコックピットのように操縦桿があるわけでは無く、オレンジ色の文字が浮かび上がる小部屋のような空間がその代わりだった。

 全方位型モニターに囲まれる座席に腰かけて、ジェレミア・ゴッドバルトは腕を組んでいた。

 彼は動いていない、だがジークフリートは巨大な駒となって、ブリタニア軍の航空部隊の只中に突撃をかけた。

 

 

「同じブリタニアの同胞に剣を向けることになろうとは……しかし! 今は! 忠義が勝る!!」

 

 

 そしてもう一つ、精神的にはこちら側の方が衝撃が大きかっただろう。

 それはかつてのナイトオブイレヴンの愛機、ラグネルの登場に端を発するものだ。

 濃紺にカラーリングされたその機体に乗っているのは、もちろんナイトオブイレヴンでは無い。

 彼女の存在を公表するにあたって、黒の騎士団の中で一悶着も二悶着もあったことは事実だ。

 

 

 何しろ彼女はブリタニアの皇族で、多くのナンバーズを虐殺した軍司令官で、つまりは敵だった。

 ジェレミア卿に対してもそうだったが、黒の騎士団はあくまで反ブリタニア勢力であって、その意味ではブリタニア人への風当たりはやはり強い。

 だが最終的にルルーシュ=ゼロは押し切った、黒の騎士団は復讐のための組織では無く、ブリタニアとは違うことを示す……矜持の証明だと、そう言って。

 

 

『我が名はコーネリア・リ・ブリタニア――――』

 

 

 その声と顔がブリタニア将兵の間に流れた瞬間、ブリタニア軍に衝撃が走った。

 立場としては黒の騎士団への亡命者であり、交渉者であり、そして統治者であった。

 エリア11――旧日本の、総督。

 

 

『ブリタニア帝国第2皇女にして、エリア11の正総督! コーネリア・リ・ブリタニアの名において、ブリタニア軍全将兵に告げる……ただちに兵を退け!!』

 

 

 突如現れ、凛とした声で命令するその声に、ブリタニア軍の攻撃が一瞬、緩んだ。

 

 

『この戦いに正義は無い! 全ては第98代皇帝シャルルの私欲による暴挙だったのだ。それ故に私は今ここに宣言する。今上陛下即位以降の全ての戦争を否定し、全植民エリアの解放を支持することを!』

 

 

 そこには当然、エリア11……日本も含まれている。

 これにはブリタニア軍だけでなく、黒の騎士団の将兵も衝撃を受けた。

 何しろ正規のエリア総督が自ら日本の独立を支持したのだ、その裏にどのような意図や取引があるにせよ、その事実だけは変わらない。

 

 

 だがそんな静止した戦場において、唇を歪めて笑う存在もいた。

 ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーである。

 彼は己の愛機『パーシヴァル』をふわりと浮遊させると、フロートの出力を微妙に変化させて機体の向きを変えた。

 その先には、コーネリアのラグネルがいる。

 

 

『アルトぉ、アレをやるぞぉ』

『アレ? ああ、あのラグネル? 本当に皇女様なのかは怪しいけどね』

『構わないさぁ、本当に皇女ならさぞや血が美味いことだろう。それにぃ……』

 

 

 副官にして幼馴染、そんな立場の相手と部下を引き連れて、ルキアーノはラグネルへと向かう。

 コックピットの中、ブリタニアの吸血鬼は凄絶な笑みを浮かべていた。

 

 

『アレは、あの雌豚の機体じゃあ無いかぁ? 嬲り甲斐がある……!』

『はいはい、キミの趣味も大概だね…・・・っと、ルキア君!』

『おぉ?』

 

 

 それを遮る形で、1機のナイトメアが立ち塞がった。

 全身を赤い装甲に覆われながら、右腕だけは剥き出しの銀。

 輻射波動の不規則な輝きを銀の右腕から放つその機体は、黒の騎士団のエース。

 

 

『ここから先は……通さないっ!!』

 

 

 零番隊隊長・紅月カレンの、『紅蓮』。

 まさかブリタニア皇族を守る日が来ようとは……皮肉げな苦笑を浮かべて、カレンは帝国最強の騎士の1人に対して、突撃を敢行した。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「右翼部隊、切り崩されて行きますっ!」

 

 

 ブリタニア軍の旗艦、アヴァロンの艦橋にオペレーターの悲鳴のような声が響き渡った。

 副官であるカノンは気遣わしげな視線をシュナイゼルへと向ける、だがシュナイゼル自身にまるで焦りの色が無いことを知ると、ほっと胸を撫で下ろした。

 まぁ、シュナイゼルが慌てふためいている所など想像も出来ないが。

 

 

 しかし戦況は、あまり良いとは言えないものになっていた。

 奇襲への備えをしていなかったわけでは無いが、基隆・台北を落とせば終わりだと考えていた将兵にとって奇襲はやはり衝撃的だったろう。

 まして、相手に戦女神とまで称された<閃光の>コーネリアがいるのだから。

 右翼部隊が混乱し、その混乱が中央と左翼まで浮き足立たせている。

 

 

「殿下、ここはヴァインベルグ卿と枢木卿に出撃を要請されては……」

「個人の武に頼れ、と?」

「それだけの価値はあるかと……」

 

 

 洛陽攻防戦を決したラウンズの戦力、それをここで投入すれば状況は逆転する。

 カノンの提案は個人の武力に頼りすぎているとも言えるし、逆に使えるものは使うと言う合理主義の策にも見えた。

 実際、シュナイゼルも頬に手の甲を当てて考え込んでいる。

 ただその目は、目の前の戦場以外の方を向いているように見えた。

 

 

「殿下?」

「……ん、ああ。いけないね、目の前の戦場を制してもいないのに……別の場所に意識を飛ばすなんて」

「いえ」

 

 

 にこりと微笑するシュナイゼルに、カノンは苦笑のような笑みを見せる。

 主人と部下、僅かながらそれ以上の空気が2人の間を漂った。

 だがそれに浸ってもいられない、シュナイゼルは意識を今の戦場へと向ける。

 

 

 その時だった。

 

 

 アヴァロンの前方、航空部隊の主力が展開されているあたりを、赤黒い太い2つの柱が引き裂いた。

 シュナイゼルの目には、それがハドロン砲に似ているように思えた。

 そういえば黒の騎士団にはガウェインがあった、だがそれにしては砲撃が強力に過ぎる。

 数秒後、ハドロン砲を追いかけるようにオレンジの爆発光が連なった。

 艦橋スタッフがそのエネルギー源を探れば、それは正面から来ていた。

 

 

「ほぅ……まさか、そんな玩具を用意しているとは」

 

 

 シュナイゼルの笑みの向こう、そこにもう1隻の航空戦艦があった。

 全体を黒く塗られ、艦首に黒の騎士団のエンブレムを白く染め抜いた航空戦艦。

 斑鳩の名前を与えられたその航空戦艦の両側に、巨大な主砲の姿がある。

 遠目に見ても、砲撃直後特有の熱と煙、そして紫電を放っているのが見える。

 戦艦クラスの重ハドロン砲、そしてその影に隠れるようにして基隆の港から次々と離脱しているのは。

 

 

「中華連邦艦隊、戦線から離脱していきます!」

 

 

 斑鳩を殿に、中華連邦艦の熱源が次々と基隆から離れていく。

 それはそつなく、そして秩序だった見事な離脱行動だった。

 とは言え、ブリタニア軍が損害を無視して攻めればまだどうとでもなる、そんな戦況だった。

 だがその時、オペレーターがさらなる悲鳴を上げた。

 

 

「本艦直上、レーダーに感あり! ナイトメアクラスのミサイル群です!」

「迎撃しなさい!」

 

 

 オペレーターの声にカノンが叫ぶ、即座にアヴァロンの上に薄緑色のブレイズルミナスの盾が展開された。

 同時に艦体側面から迎撃ミサイルが射出され、上空から迫るミサイルを撃ち落としていく。

 何事が生じたのかと言えば、それは少し前にドロテア・モニカのラウンズ軍が浴びた奇襲と同じものだった。

 

 

『オラオラオラオラオラァ――――ッ!』

 

 

 枢木青鸞の護衛小隊、ステルスとミサイルポッドを抱えた3機の烈震が展開されていた。

 使い捨てのミサイルポッドを両肩に乗せ、ミサイルを撃ち尽くすまで放ち続けている。

 それにより、アヴァロンの注意を上に引きつけることに成功する。

 そして逆方向、すなわち下から。

 

 

「はあああああぁぁぁ――――ッ!!」

 

 

 青鸞の月姫が、来る。

 ジークフリートがこじ開けた穴を縫うように飛翔し、スラッシュハーケンでアヴァロンのフロートシステムを穿つ。

 巻き戻しの勢いのままにフロートシステムを積んだオレンジの外壁に足をつけ、高周波振動により鋼鉄すら両断する刀『雷切』を突きたて、そのまま振り切る。

 

 

 メインモニターにフロートの部品が散るのを見た次の瞬間、艦体下部の火器の照準が合わされる前に艦体から離れた。

 飛翔滑走翼を翻し、護衛小隊の3機を連れてアヴァロンの射程圏から離脱する。

 フロートから火を噴くアヴァロンを後方に見ながら、青鸞は口の中で何事かを呟いた。

 そして、彼女らは一目散に逃げ出した。

 

 

「……ここまでだね」

 

 

 艦橋スタッフが必死に艦の姿勢を立て直そうとする中、シュナイゼルが冷静に告げた。

 黒の騎士団・中華連邦の連合軍はすでに戦線を離脱しようとしているが、ブリタニア軍がここまで混乱している中での追撃が危険だと判断したのだ。

 それよりは台北・基隆を確保し、部隊の体勢を整えることを優先すべきだと言う考えだった。

 

 

『シュナイゼル、貴方ならそうするだろうと思っていたよ……』

 

 

 そしてヴィヴィアンの艦橋で、ルルーシュ=ゼロはそう呟いていた。

 ルルーシュはシュナイゼルの性格を、その本質を読んでいた。

 シュナイゼルは優秀で、そして空虚な男だった。

 誰かに望まれるままに自分を定義し、それが失われることを本能的に防ごうとする。

 

 

 つまりは勝利することより敗北しないことを優先するタイプで、前進よりは停滞を、革新よりは保守を、その本質としていた。

 だからルルーシュ=ゼロは、一定以上のダメージを短時間に与えれば追撃は無いと踏んでいた。

 まして、ルルーシュ=ゼロ達が一時的に捨てることになる台湾の掌握も済んでいないのに。

 そして、その予測は見事に的中したのだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 スザクは、モニターに映る濃紺のナイトメアの背中をいつまでも見つめていた。

 そこにいるだろう少女のことを想って、静かに目を閉じる。

 彼の心の奥底にかけられる「妹を守れ」と言う言葉(ギアス)は、今も生きている。

 ともすれば駆け出しそうになる足を、スザクは己の精神力でもって押し留めていた。

 

 

「おいおい。やられすぎだろ、これは」

 

 

 高度が落ちる振動を足裏に感じながら、ジノはそう評価する。

 いくら奇想天外な奇襲を重ねて受けたとしても、これは無い。

 最近のブリタニア軍では珍しい事態であると言えたし、何より自分の出番が無かったことが不満なのだろう。

 

 

 不満、もしかしたらそれはスザクの中にもあるのかもしれない。

 ただそれは、ジノが感じているような不満とはまた違うものだった。

 不満と言うよりは、もどかしさと言った方が正しいのかもしれない。

 アヴァロンに乗っている人員、いやシュナイゼル軍の中で、彼ほど事情を知っている人間はいない。

 ゼロのこと、ギアスのこと、皇帝のこと、妹のこと……。

 

 

「……青鸞」

 

 

 どうして、と問うてきた妹は、もはや手の届かない所にまで行ってしまった。

 そして今、自分はブリタニアの侵略に手を貸している。

 テロを否定し、暴力を嫌い、妹達のやり方は間違っていると言い放っておきながら。

 今や帝国の尖兵として、欧州や中華の人々をナンバーズへと蹴落としている。

 

 

 言動と行動の不一致も、ここまで来れば大したものだった。

 ブリタニアの騎士としては正しい行動だ、だが日本人としては……。

 スザクが己を日本人だと言って、誰がそれを信じてくれるだろう?

 

 

「僕は……」

 

 

 だからと言って、彼はブリタニア人でも無い。

 そしてジノやアーニャと言う個人のブリタニア人を知った彼は、ブリタニア人でさえ明確な悪では無いことを知っている。

 日本人と差など無い、ではどうしてこんなに両者が憎み合わなければならないのか。

 

 

「……どうして、か」

「ん? どうかしたのか、スザク」

「いや、何でも無いよジノ」

 

 

 もはや戦友となったジノに笑顔を見せて、スザクは改めてモニターを見た。

 そこにはもう、黒の騎士団の姿も妹の姿も無い。

 台湾と言う、本来なら彼とは(えん)(ゆかり)も無い人々が暮らす土地が見えるだけだ。

 これから彼の所属する国が、軍が、植民地化する土地だ。

 

 

 思う。

 それでもなお、自分はこの道を歩くのだろうと。

 そうするだけの理由もある、が、それは恐ろしく自己満足に近い何かだった。

 

 

(自分の満足のために他人に痛みを押し付けて、死ぬことも出来ずにみっともなく足掻き続ける……ああ)

 

 

 父を殺し、妹を裏切り、多くの同胞や他国の人間を踏み躙って。

 ふ、と自虐めいた笑みを浮かべて。

 

 

「醜いな、『俺』は……」

 

 

 そう、呟いた。

 その声には、恐ろしい程に力が無かった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ヴィヴィアンは斑鳩と合流後、海上で中華連邦艦隊に追いつく、そしてインドの潜水艦隊とも合流して、一路カゴシマへと進路を取った。

 基隆港で補充できた物資には限りがある、ルルーシュ=ゼロが設定する戦場に向かうまでにあと一度、本格的な補給を受ける必要があった。

 

 

 青鸞は護衛小隊の烈震3機と共に、しばらくはヴィヴィアンと斑鳩の上空で直掩に当たっていた。

 2時間程してエナジーを気にし始めた頃、ヴィヴィアンから斑鳩へと連絡用の小型艇が発進した。

 それにはルルーシュ=ゼロが乗っていて、青鸞はそれについて斑鳩へと入った。

 正直、緊張しなかったわけでは無い。

 

 

(ボク、騎士団の中での扱いってどうなってるんだろう……)

 

 

 頬に一筋の汗を流しながら、青鸞はルルーシュ=ゼロの乗る小型艇に続いて斑鳩の後部ハッチに入った。

 彼女の弟ロロがディートハルトと憲兵隊を撃ち、その彼と共に騎士団から逃亡したのは事実だ。

 つまりは逃亡兵だ、普通、銃殺刑に相当する罪だろう。

 普通なら、何食わぬ顔で戻るなど出来ない。

 

 

『問題ない、青鸞。キミは堂々と月姫から降りて来れば良い』

「とは、言ったものの……」

 

 

 月姫の動力を落としながら、相も変わらずのルルーシュの無茶振りに溜息を吐く。

 まぁ、ルルーシュが大丈夫と言うなら、それは大丈夫なのだろうが。

 5割の緊張と4割の不安、神頼みもとい仮面頼みの1割を胸に、青鸞は月姫のコックピットを開いた。

 そして。

 

 

『彼女に罪は無い――――罪ある者がいるとすれば、それは私だ!』

 

 

 ルルーシュ=ゼロのそんな叫びが、彼女を迎えた。

 コックピットの上に立ち上がって周囲を見れば、そこには騎士団や旧日本解放戦線の人間達がいる。

 彼らの視線が、一斉に自分へと向かったのを青鸞は理解した。

 彼女が出てくるまでに何を話したのかは知らないが、ルルーシュ=ゼロはどこか劇場めいた動きで青鸞に手を伸ばした。

 

 

『枢木青鸞……日本の抵抗の象徴! 今一度、我々に力を貸してほしい!』

 

 

 いや、本当にどんな話をしたらそんな展開になるのだろう。

 まるで天岩戸に隠れた天照(アマテラス)のような扱いでは無いか、ルルーシュ=ゼロの裸踊りなど想像も出来ないが。

 第一、彼は西洋圏の出身である。

 

 

 ちなみにルルーシュ=ゼロが騎士団の人間に話したのは、青鸞の出奔――ロロに関しては巧みに話題を逸らしていたが――に関して、全ての責任がディートハルトにある、と言うことだった。

 ディートハルトはもういない、そのためいくらでも責任を押し付けられる。

 それに、彼が独断で行った陰謀に端を発しているのは事実だったのだから。

 そしてルルーシュ=ゼロは、その上で監督責任が自分にあると認めたのである。

 

 

(でも、これは無いよね……)

 

 

 ワイヤーを使ってコックピットから折りながら、内心で苦笑する。

 だが、悪くない。

 悪くないと、そう思えた。

 

 

 だから青鸞はルルーシュ=ゼロと同じ地面に足をつけると、ゆっくりとした足取りでルルーシュ=ゼロに近付いた。

 そして、差し伸べられた手を取る。

 仮面の向こう側の顔が、僅かに苦笑したように思えた。

 後で2人きりの時にいろいろと言おう、そう思いながら……手を、取った。

 

 

『勝利の女神が戻った! 皆、最後の戦いに向けて……一致団結してほしい!』

 

 

 握った手を掲げて、ルルーシュ=ゼロが一同に向けて言う。

 流石に恥ずかしさを覚えたが、それを表情に出しはしない。

 むしろその後に起こった拍手の方が、よほど恥ずかしかった。

 

 

 だがその拍手は、ほとんどが旧日本解放戦線側からの物だった。

 黒の騎士団は元々ルルーシュ=ゼロの信奉者の集まりだし、旧日本解放戦線はそもそもルルーシュ=ゼロに心から従っているわけでは無い。

 そう言う意味で、今の黒の騎士団は特異な組織であると言えた。

 2人の主に従っていると言う、そう言う意味で。

 

 

「青ちゃん、おかえり……って、これ何度目かな?」

「省悟さん、皆……って、省悟さん、顔……」

 

 

 近くに寄って来た朝比奈に向けた笑みは、彼が顔の半分を包帯で覆っていることで消えてしまった。

 だが当の朝比奈は特に気にした風も無く、むしろ小首を傾げて。

 

 

「うん? まぁ、気にしないで良いよ」

「そうだな、むしろ面構えがマシになっただろう」

「ええ? それは酷いんじゃない?」

 

 

 などとおどける朝比奈と千葉に、青鸞は複雑な気持ちを感じた。

 自分がいれば、などと自惚れるつもりは無い。

 それでも傍にいればと思ってしまうのは、人としての度し難い感情なのだろう。

 いずれにしても、それほど時間は経っていなくとも。

 彼女は、いるべき場所に帰って来たのだった。

 

 

『黒の騎士団、総員に告げる!』

 

 

 青鸞の手を離して、ルルーシュ=ゼロが全ての仲間に向けて告げた。

 

 

『今日この時、この瞬間をもって、黒の騎士団と旧……いや、日本解放戦線の合同を解消する』

 

 

 場が沈黙した、ルルーシュ=ゼロの言葉の意味がわからなかったのだろう。

 だがこれは必要なことだった、元より騎士団と解放戦線のメンバーの亀裂は覆しようが無い程に広がっていた。

 いくらルルーシュ=ゼロが青鸞と和解――外見の問題――したとしても、どうしようも無い程に。

 

 

 それだけ、ディートハルトが残した傷は大きかった。

 

 

 だから一度分かれる、別々の勢力になることでガス抜きを図る。

 だがバラバラになってしまってはブリタニアとは戦えない、そこで活きてくるのが中華連邦・インドとの同盟関係だ。

 独立国家共同体と言う連合、その中で新たな関係を構築する。

 そう、日本解放戦線・黒の騎士団・中華連邦・インドを主軸とする新たな同盟。

 

 

『我らはこれより、対ブリタニア大同盟の同志となる!』

 

 

 対ブリタニア大同盟、文字通りブリタニアの覇権に挑戦する諸国・勢力による同盟だ。

 これは後の歴史家には「第二次対ブリタニア大同盟」と呼称されることになる、EUと中華連邦の同盟を第一次と見る考え方からだ。

 

 

 しかし対抗では無く挑戦としているあたり、この同盟は特異である。

 EUと中華連邦が事実上の敗北を喫しつつある今、ブリタニアは文字通りの世界帝国になりつつある。

 そのブリタニアに挑戦するのだから、その場にいる人間の顔が引き締まるのも無理は無い。

 

 

『これより我らはカゴシマに戻り、補給を受ける! エリア11統治軍の妨害を受ける可能性もあるが、それらは全て無視する! 我らが狙うのは――――』

 

 

 再び劇場にいるかのような身振りで、ルルーシュ=ゼロは東を指差した。

 その場にいる人間の顔が、ルルーシュ=ゼロの指先を追うように東を向く。

 その先にあるものこそ、黒の騎士団と中華連邦軍本隊、そして日本解放戦線が目指すもの。

 すなわち。

 

 

『――――ブリタニア皇帝の、首だ!!』

 

 

 絶望的な状況を打破する、唯一の道だった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 数百キロ南西で多くの人間が血を流している頃、1人の少女が海岸線にいた。

 コンクリートで綺麗に整備されたそこからはトーキョー湾が望める、この湾はエリア11最大の船舶通行量を誇るトーキョー港を擁している。

 現在でもエリア11の海運の中心地であり、3000万の域内人口を支える動脈であった。

 

 

 少女は、そのトーキョー湾……コートー・ゲットーにいた。

 彼女の背後ではブリタニア軍による炊き出しが行われており、配給を待つゲットー住民が長蛇の列を成していた。

 皆ボロ布のような衣服に身を包んだ貧民だが、穏やかな表情で大人しく順番を待っている。

 そこには暴動も略奪も、争いも差別も、日本人もブリタニア人も、何も無かった。

 

 

「はい、並んでくださーい!」

「ありがたや、ありがたや……」

「子供と高齢者が先です、病気の方は医療テントの方へどうぞー!」

「あの、赤ちゃん用のミルクは頂けますか……?」

「もちろんです、どうぞー!」

 

 

 ブリタニア兵が、笑顔で日本人に物資を手渡している。

 無数のコンテナに満載されている物資は、トーキョー租界の富裕層が無償で提供してくれた寄付によるものだ。

 豊かな者が貧しい者に分け与え、余裕のある者が持たざる者に譲り渡す。

 理想の世界が、当たり前のように存在していた。

 

 

「人は皆、慈しみの中で穏やかに生きるべきなのです」

 

 

 海の彼方から来るだろう父に向けてか、あるいは南西の海で血を流す兄に向けてか。

 白いドレスを海風に揺らしながら、ユーフェミアはそう言った。

 表情は穏やかな笑顔だが、口調は哀しい。

 

 

 どうしてわかってくれないのだろう、ユーフェミアは本当に哀しんでいた。

 心の底から、哀しんでいた。

 争い、戦い、多くの人々を悲しみと苦しみの底に追いやる戦争。

 戦争をやめない人達がいることが、ユーフェミアには哀しくて仕方が無かった。

 どうしたら、わかってくれるのだろう?

 

 

「もっと、強くお願いする必要がありますね」

 

 

 両眼のギアスは、毒々しいまでの赤い輝きを放っている。

 舞い上がる鳥の羽のようなその紋章は、以前に比べてより色濃くなっているように思えた。

 より色濃く、より力強く、より広く。

 

 

「優しい世界で、ありますように」

 

 

 世界中の人々が、平和に、穏やかに、命の危険を感じることなく、互いを想い合って生きていけますように。

 心の底からの願いを、ユーフェミアは海の向こうへと向けていた。

 ただただ純粋に、世界の平和を願い続けていた……。




 最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
 原作では黒の騎士団がルルーシュを見限る頃ですけど、ここでは自らへの反対派をあえて切り離す方向へ動いたルルーシュ。
 原作で彼が統一された組織にこだわったのは、つまりそれだけ信頼できる人材がいなかったということなのだろうな、と私は思っています。

 なので、この物語の中では分派を認めると言う行動を取らせてみました。
 まぁ結局、同盟の名前で統一された行動を取らせるんですけどね!(台無し)
 ちなみに世界史に詳しい方なら気付いているかもですが、対ブリタニア大同盟の元ネタは対仏大同盟です。
 さて、あの同盟の結末はどうなったのでしょうね……?
 興味が湧いた方は、一度調べてみてはいかがでしょうか。

 そしていよいよクライマックス、あるいは結末まであと少しです。
 コードの源である根源、ギアス、その意味。
 それらの事象に対して、オリジナルの設定を加えて自分なりの結論を出したいと考えています。

 エピローグまで見えているので、後はそこに到達するだけ。
 それでは、次回予告です。


『決戦前夜。

 いろいろな人が、いろいろな人と過ごしていく。

 戦いが終わった時、生きていられるかはわからない。

 だから悔いが無いように、過ごすのかもしれない。

 その時、ボクはどうしたいと思うんだろう』


 ――――TURN22:「決戦 前夜」

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