・本編とは関係ありません。
・キャラクター崩壊の可能性があります。
・混乱を避けるため読者投稿キャラは登場しません。
・お遊び要素が強く、整合性・常識を無視する場面があります。
以上のことにご注意頂いた上で、どうぞ。
私立アッシュフォード学園は、日本でも珍しい大学付属型の中高一貫校だ。
正式には私立アッシュフォード大学付属アッシュフォード中等教育学校と言い、高校と中学が一体化した6年制の学校となっている。
大学まで含めると10年制の学校であり、その生徒数は合計すれば万に届くとも言われている。
しかし最大の特徴は10年制教育では無く、学費の異常な安さと卒業後の進路である。
学園のオーナーはブリタニア重工と言う企業であり、海の向こうに本社を置く国際的な多国籍企業だ。
この学園の生徒の多くは卒業後、このブリタニア重工に入社しえ会社の発展に尽くすことになる。
言うなればこの学園はブリタニア重工が将来の社員を生み出すための場所であり、学費が安いのはブリタニア重工の未来への投資とも言えた。
「おはようございまーす!」
「おはよー!」
「おはよう~」
とは言え生徒達にとってはあまり関係の無い話のようで、のほほんとした朝の空気が流れていた。
学園の正門前では生徒達が朝の挨拶を交わし合っている、多国籍企業がオーナーだけあって国際色豊かな所があるが、それでもどこにでもある学校の風景がそこにあった。
そしてその正門前で朝の挨拶運動なる運動をしているのが、この学校の生徒会である。
「会長! おはようございまーすっ!」
「おはようございます、会長!」
「はいはい、おはよう~……ほらニーナ、いつまでも袖引っ張って無いでアンタも挨拶しなさいよ」
「で、でも……」
会長と呼ばれているのは、輝く金髪が特徴的な美人だった。
名前をミレイ、そして彼女の後ろに隠れている小柄な少女はニーナ。
「はいはい、おはよ~! って、あれ、皆さん俺のこと見えてます?」
「ちょっとルル! リヴァルばっかりやらせてないでルルもちゃんと参加してよ!」
そして一番元気に(軽いとも言う)挨拶を繰り返しているのがリヴァルと言う少年で、校門の後ろで何やら騒いでいるオレンジの髪の少女がシャーリー。
全員が生徒会のメンバーであって、世間で言う所の高校生だった。
この学園では生徒会に立候補出来るのは4年生――つまり高校1年生――からなので、自然、高校生の集まりになってしまうのである。
なお、シャーリーが叫んでいる先には1人の少年がいる。
黒髪に紫水晶の瞳、人形細工のような白い肌と、絵に描いたような美少年だ。
ただ彼は挨拶運動に参加するでも無く、校門の裏に座ってサボっている様子だった。
彼の名はルルーシュ、一応、副会長の役を持っている男である。
「ねぇ、ルル!」
「……何だい、シャーリー」
「寝てたの!?」
どうやら寝ていたらしい、胡乱げに目を開けるルルーシュにシャーリーは憤慨したように叫んだ。
ルルーシュの特技は「起きているかのようにカッコ良く寝る」ことだと今思い出した、彼女は腰に手を当てると眉を上げて。
「もうっ、ちゃんとルルも挨拶運動に参加してよ」
「ちゃんと参加してるだろ、カレンのように保健委員の仕事に行くわけでも、ジノのようにサボるわけでも無く、スザクのように遅刻するわけでも無く……立派なものじゃないか」
「そう言うの、自分で言えちゃうんだ……」
「およ? 噂をすれば……おいルルーシュ、あれってスザクじゃないか?」
眉の上に掌を置いて遠くを見ながら、不意にリヴァルがそんなことを言った。
するとどうだろう、凄まじい勢いでこちらにやってくる自転車が見えるではないか。
その上には当然噂のスザクがいる、相も変わらず化け物じみた脚力で自転車を壊しにかかっている。
通りすがりの女生徒が黄色い声を上げるのは、彼もまた整った容姿の少年だからだろうか。
「ん……? アイツめ、また」
それは本当に凄いスピードで、ルルーシュが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた次の瞬間には校門まで辿り着いていた。
くどいようだが、本当にあり得ない音を立てて自転車が止まる。
普通の自転車でマウンテンバイクのような横滑りのブレーキングが出来てしまうのだから、本当に恐ろしい。
「すみません! 遅くなりました!」
「本当に遅いぞ~スザク君。まぁ、家のこといろいろしなくちゃいけなくて大変なのはわかるから……」
「おい、スザク!」
「って、え? ルルーシュ?」
したり顔で理解ある説教を始めたミレイだったが、いつの間にか横に来ていたルルーシュに驚いた顔を向けた。
先程まで校門の裏でサボっていたはずだが、どういう風の吹き回しだろうか。
そう思っていたのだが、次に飛び出した言葉で何もかも納得した。
「お前はまた……後ろを見てみろ!」
「え、後ろ?」
ルルーシュに言われ、スザクは後ろを振り向いた。
するとそこには通学路があり、スザクと同じ学生服姿の少年少女が登校してきている姿が見えた。
しかしルルーシュが言っているのはそこでは無い、あえて言うならもっと近くの話だ。
具体的には、スザクの背中に張り付いている物体……いや、人間だ。
「きゅ~……」
「可哀想に、青鸞が目を回しているじゃないか! お前の運動神経は異常なんだから、青鸞のような普通の女の子がついて行けるわけが無いだろう!」
「酷いな、異常だなんて。普通だよ、普通」
「普通の奴が自転車で時速50キロ出すわけが無いだろう!? 自覚しろ! そして妹をもっと大事にしろ!」
「ははは、ルルーシュは相変わらずシスコンだなぁ」
「笑っている場合か……!」
ミレイ達はそれを生暖かい目で見守っていた、シスコンのルルーシュとそうでも無いスザクが言い争うのはこの学園では日常茶飯事である。
そしてスザクの認識がいまいち甘く変化が無いと見たのか、ルルーシュは目を回している青鸞を抱えて自転車から降ろした。
非力なので抱き抱えることは出来ないが、それでも抱くようにして支えることは出来た。
「青鸞、大丈夫か。具合が悪いなら保健室に……ああ、そうか今日は」
「うゆ~……だ、だいじょぶ、だいじょう……ひっ!?」
「……? どうした、やはりどこか」
「い、いやあの……だ、だいじょぶ、です、はい……」
意識がはっきりしたのだろう、目を開けた青鸞はルルーシュの顔が間近にあることに気付くと、火がついたかのように顔を真っ赤に染めた。
どうやら今の自分の体勢に気が付いたらしい、顔を赤くしてモゴモゴ言いながら俯いてしまった。
そしてその様子ですらも、ハラハラしているらしいシャーリーを覗いて皆が生暖かく見守っているのだった。
◆ ◆ ◆
はぅ~、と頬を撫でながら、青鸞は廊下を歩いていた。
流石にもう熱は引いていたが、それでも羞恥心は残っている。
ルルーシュとその妹とは10年来の付き合いだが、青鸞はルルーシュのことが少しだけ苦手だった。
あの綺麗な顔を間近で見ると恥ずかしくて仕方が無い、すぐに顔が熱くなってしまう。
他人から見るとそれは一つの事実を示しているのだが、この時、本人はそれに気付いていない。
それはそれとして、青鸞は自分のクラスに向かっていた。
道行く同級生達と朝の挨拶などを交わしながら、青鸞は教室の扉を潜った。
すぐに親しい友人達の姿を認めて、青鸞は表情を明るくした。
「青鸞っ」
「わっ!」
するとその時、1人の少女が青鸞に抱きついてきた。
ハグと言うにはやや熱烈なそれは、しかし青鸞と同じ純日本人の少女によって行われたものだ。
青鸞よりもずっと長い黒髪と大きな瞳の可愛らしい少女で、名前を。
「か、神楽耶、今日も元気一杯だね? おはよう」
「ええ、おはようございます、青鸞。青鸞は……ふむ」
「な、何?」
すんすん、と鼻を鳴らす和風美少女。
青鸞はそれにちょっと身構えてしまった、引いたわけでは無く、もしかして匂うのかと心配になったからだ。
年頃の乙女らしい悩みと言えるが、神楽耶が気にしていたのは別のことらしかった。
「……殿方の汗の匂いがしますわね」
「え」
「お兄様ですか」
「何でわかるの!?」
「青鸞のことですもの、当然ですわ♪」
予想の斜め上だった、と言うかどうしてわかるのだろう。
そしてどこからともなく取り出したスプレーとウエットティッシュは何なのだろう、
まぁ、流石に汗の匂いがすると言われれば放ってもおけないので、有難く受け取ることにするが。
「せ、青鸞、おはよう……」
「おはようございます、青鸞さん」
「……おはよう」
「あ、皆、おはよー」
そこへさらに3人が加わって、青鸞が普段行動を共にするグループが揃った。
大陸からの留学生であるシルバーブロンドの少女、天子。
名前はちゃんと別にあるのだが何故か皆から「天子」と呼ばれている、かなり良い所のお嬢様らしく世間知らずだ。
もう1人はアーニャ、常に携帯電話を手にしていて、声にも表情にも変化の無いピンクの髪の少女だ。
そしてさらに1人、こちらは青鸞にとってもやや特殊だ。
ナナリー、先ほど青鸞が苦手だと言ったルルーシュの妹である。
つまり10年来の幼馴染でもあるのだが、ナナリーは足が悪く車椅子なので、神社に遊びに来る度にスザクがおんぶで石階段を上がっていたことを思い出す。
ちなみに青鸞は、車椅子を持ち上げようとして押し潰されているルルーシュを手伝っていた。
「……あれ?」
その時、青鸞はあることに気付いた。
まず青鸞以外の4人が半袖短パンの体操着姿であること、次いで教室に男子がおらず他の女性が着替えている所だと言うこと、それらに気付いた青鸞は不思議そうに首を傾げた。
「一時限目って、体育だっけ?」
「え? 青鸞さん、今日は一日中身体測定ですよ?」
「……身体測定?」
「先週のホームルームで千葉先生が仰ってたはずですけど……忘れしまったんですか?」
「……記録、ある」
ナナリーにそう指摘されて、青鸞は「あ」と声を作った。
そうだった、今日は年に一度の身体測定の日だった。
それに気付いて顔を顰める青鸞に、神楽耶は首を傾げて見せた。
「もしかして、体操着を忘れてしまったんですの? 元々の時間割では、今日は体育の日ではありませんものね」
「うん……」
参ったなーと言う顔をする青鸞に、神楽耶はやれやれと肩を竦めた。
「仕方ないですわね、私の体操着を貸してあげます」
「え、神楽耶予備とか持って……って、何で脱ごうとしてるの!?」
「え? 大丈夫です青鸞、人肌で暖めてありますから……♪」
「ちょっと待って冷静に何が大丈夫なのか考えてよ」
神楽耶の腕を押さえてどったんばったんする青鸞、騒がしいことこの上無かった。
ただこれもいつものことなので、クラスの面々は誰も気にした風も無かった。
しかし、純粋な天子だけが少しおろおろしながら。
「こ、購買に買いに行けば……」
「そうですね、それが一番良いと思います」
「……記録」
天子の言葉にナナリーが頷く横で、アーニャが携帯電話で写真を撮っていた。
◆ ◆ ◆
多くの学校がそうであるように、アッシュフォードにも購買がある。
ただ購買と言うには聊か規模が大きく、どちらかと言うとコンビニと言った方が正しいだろう。
そして購買で働いているのは職員では無く外部の業者だ、コスト削減と言う世知辛い理由がそこにある。
「すみませ――ん!」
朝のホームルームが始まるまであと幾許かと言うその時間、青鸞は購買を訪れていた。
奥にいるだろう店員を呼んでいるのだが、なかなか出て来てくれない。
またどうせサボっているのだろう、ここの店員はそう言う人物なのだ。
「すーみーまーせーん!」
「だぁ~、んな何回も呼ばなくてもわかってるってんだよ!」
「あ、玉城さん。やっと出てきた、お店の奥で煙草吸うのいい加減やめなよ」
「何でわかんだ!?」
「そりゃそれだけ煙草の匂いさせてればね……」
出てきたのは顎鬚が特徴的な男だった、やさぐれたような猫背で、制服代わりの緑のエプロンが購買の店員であることを示している。
彼の名は玉城、アッシュフォード学園一の問題児――子供では無いが――である。
「良いだろ別に、今日は杉山の奴が休みで忙しいんだよ」
「ふーん……まぁ良いや。それより、女子用の体操着欲しいんですけど」
「あん? 今日体育なのか?」
発想が玉城さんと同レベルだ……青鸞は少しだけショックを受けた。
しかしショックを受けていても始まらない、青鸞は今日が身体測定の日であることを告げた。
玉城はふんふんと頷きながら聞いていたが、はたして自分の話を半分も聞いてくれているのか、青鸞には自信が無かった。
そしてさらに青鸞が自信を無くしていく要因になっているのは、聞き人である玉城が徐々に静かになっていったからだ。
腕を組み、何事かを考えている。
過去の経験上、玉城が何かを考え込んでいる時は大体碌なことが起こらないのだ。
「あのー、玉城さ」
「あ、いたいた。おーい、青鸞!」
「へ?」
嫌な予感に導かれるままに玉城に声をかけようとした所、逆に声をかけられてしまった。
誰だと思って振り向けば、そこにはスザクがいた。
手に持った何かを掲げて見せながら、笑顔でこちらに歩いてくる。
「兄様、挨拶運動は?」
「会長に頼んで抜けさせて貰ったんだ。それより、はいコレ」
手に掲げていたそれをぽんっと受け取る、するとそれは見覚えのある薄桃の袋だった。
まさかと思って中身を確認すれば、思った通りの物が入っていた。
「ボクの体操着だ……兄様が間違って持って行っちゃったの? あれ、でも朝は持ってなかったよね?」
「うん、家に取りに戻ったんだよ」
「取りに……って、うええぇっ!?」
学校に着いてからまだ少ししか経っていない、なのにスザクはもう一往復したと言う。
まさに化け物だ、どんな体力と脚力をしているのか。
まぁそれでも、忘れ物をわざわざ取りに戻ってくれたことは有難い……と、そこで青鸞はあることに気付いた。
「……兄様、この体操着どこから?」
「え? 青鸞の部屋の箪笥から」
「やっぱり! 勝手に人の箪笥開けないでよ! 兄様デリカシー無さすぎ、妹でも女の子なんだから!」
「あ、あー……ごめんごめん、次から気をつけるよ」
あははと笑いながらそう言う兄をジト目で睨む青鸞、この兄がそんなことを言うのはもう何度目だろうか。
「でも探したよ、青鸞。クラスにいないものだから、どこに行ったかと……」
「クラスにも行ったの!? やめてよ恥ずかしいー!」
「ええ? 何が恥ずかしいって……」
きゃいのきゃいのと兄妹が言い争いながら――ほぼ妹が一方的に――購買から出て行く、しかしその後においても玉城は何かを考え込んでいた。
……彼が考えを終え、ぽむっと手を打った時には、すでにホームルームが始まっていた。
◆ ◆ ◆
格差、それは人間が生きていく上でどうしても直面する悲劇だ。
口では平等だ一緒だと言ってみた所で、現実はそうでは無い。
富める者がいれば貧しい者がいる、持つ者がいれば持たざる者がいる。
そう、それは仕方の無いことなのだ。
「ナナリーちゃんの裏切り者ぉ――――ッ!!」
「え、えーと……」
そして、ここに哀しい事実がある。
学園の女子測定室、女性教諭や職員が女子生徒達の身体のサイズを測るための場所であるそこは、多くの生徒で賑わっていた。
特に賑やかなのは
その目の前で床に手をつき叫んでいるのは青鸞だった、彼女もナナリーと同じく半裸姿で、こちらはフリルに彩られた白の下着を身に着けていた。
血の涙を流さんばかりに項垂れている彼女に対して、ナナリーは困ったような笑みを浮かべている。
しかし裏切り者呼ばわりされても傷ついていないあたり、どうやら悪い方向の話では無いようだった。
ちなみに、話の内容はと言うと。
「トップとアンダーの差が12って……それもうBじゃん! あと一歩でワンランクアップじゃん! 去年までボクと同じランクだったはずなのに、いったいボクに黙って何してたの!?」
「いえ、あの……特には何も。でもほら、青鸞さんだって成長して」
「7.2センチじゃ、最下層からは脱却できないんだよ……!」
切実な青鸞の叫び、ナナリーは困ったように笑うばかりだ。
ちなみに何の話をしているのかについては、少女達の秘密である。
「こーら、そこー。列を乱さないの」
「あ、ミレイさん」
助けが来たと表情を緩ませるナナリー、その視線の先にはミレイがいた。
知人の登場に青鸞も顔を上げる、だがその顔はすぐに苦虫を噛み潰したような表情に変わった。
何しろここに来て登場したミレイは、生徒会で……いや学園で最もグラマラスな女性だったからである。
身も蓋も無い言い方をするなら、敵が増えただけである。
「なになに、何の話? お姉さんも混ぜてくれない?」
「きしゃー!」
「あん、どうして威嚇するのよー」
「もがっ」
からかうように抱き締められて、青鸞はミレイの胸に顔を埋めることになった。
そのままわしわしと頭を撫でられながら抱き締められれば、あまりに柔らかさと温もりに抵抗する気力も失せてくると言うものだった。
持たざる者が持てる者に勝てるはずが無い、これもまた世の慣わしだった。
ちーん、と大人しくなった青鸞に苦笑しながら、ミレイは言う。
「まったく、良い、アンタ達。世の中には上には上がいるものよ、私はほら、胸とお尻が大きめだからむしろスタイルって意味ではそれ程では無いのよ?」
「こ、この柔らかさのさらに上が……!?」
「そうよ……アレを見なさい!!」
「!?」
ミレイが指差した先には、オレンジの髪の少女がいた。
どうやら測定を終えた直後だったのだろう、体操着の上を持った体勢でびっくりした視線を向けてきている。
しかしミレイの視線に不純な何かを感じたのか、「な、何ですか!?」と警戒の声を上げながら胸元を隠した。
だがそれでも、水泳で鍛えたしなやかな身体の魅力は聊かも損なわれなかった。
細い手足は引き締まっていて、首や足首は細く、それでいて胸元や太腿の肉付きは十分、腰から下のラインなどは体操着越しでもわかる程に美しい。
誰が見ても、完璧な造形美だった。
「わかったかしら、アレが本当の美と言うものよ。大きくなれば良いってわけじゃないの」
「シャーリーさんは綺麗な方ですから、少し妬けてしまいますね」
「……うう」
ぺたぺたと自分の身体を触り落ち込む青鸞、言葉程には嫉妬していなさそうなナナリー。
もし神様がいるのであれば、おそらく後者に味方するだろう。
……だから、成長に差が出るのだろうか。
なお。
「あの……か、神楽耶、何してるの?」
「成長の記録ですわ♪」
何故か女子測定室で堂々とカメラを回すと言う行為に及んでいる少女がいたのだが、撮っている相手が特定の少女と理解されているためか、誰からも注意されなかった。
大丈夫だろうか、この学園は。
◆ ◆ ◆
一方で、当然のことだが男子達も身体測定である。
女子連と同じように身体のサイズを計り、健康な発育状況にあるかを確認している。
しかし、正直な所女子と違ってあまり面白いことは無い。
唯一の例外があるとすれば、学園でも美形が集まっていると評判の生徒会メンバーだろうか。
「聞いてくれ、スザク。俺は常にナナリーの幸せを祈り、またナナリーが幸せな生活を送れるよう、心を砕いてきたつもりだ」
「知ってるよ、ルルーシュはナナリーのこととなると真剣そのものだからね」
「ああ、俺は真剣なんだ。だがその俺をもってしても、この問題に関しては苦戦を余儀なくされるだろう。そこで同じ兄としてお前の意見を参考にしたいんだが……」
「何だいもったいつけて、僕で良ければいつでも力を貸すよ。友達だろう、僕達は」
身長測定の順番待ちの列の中、スザクはルルーシュに微笑みかけた。
実際、彼ら2人は10年来の親友だ、お互いを掛け替えの無い友だと思っている。
幼い頃にしていたような喧嘩はしなくなったが、知のルルーシュと勇のスザク、2人が組んで出来ないことなど何も無かった。
それ程の仲だ、だからスザクは無条件でルルーシュに……。
「そうか、ではナナリーの測定結果を秘密裏かつ合法的に入手するために協力を」
「あ、もしもし青鸞? ナナリーはいるかい?」
「待て、スザク」
がしっ、と携帯で電話をかけ始めたスザクの手を取って、ルルーシュは言った。
「どうしてこのタイミングで青鸞に電話をかけた? そしてナナリーに代わるよう促したのは何故だ?」
「いや、だって携帯を持っていないナナリーに繋ぐには青鸞を経由しないと」
「なるほど、合理的だ……って、そうでは無く」
素直に理由を話すスザク、ルルーシュは携帯の通話を切るのを確認してから。
「スザク、俺は真剣だと言ったはずだ」
「ああ、僕も至って真剣だよ」
「そうか、お前も真剣になってくれているのか」
「うん、友達だからね」
スザクの言葉に満足そうに頷くルルーシュ、それにスザクも力強く頷きを返した。
繰り返すようだが、2人は固い絆で結ばれた親友同士である。
未だかつて、2人で協力して出来なかったことなど無い程に。
「良し、ならばスザク。ナナリーの測定結果をナナリーに知られないように入手する方法を」
「あ、青鸞? 何度もごめん、実は」
「スザアアアアアアアアアアアアアアアアアアァクッッ!!」
再び青鸞に電話をかけるスザクにルルーシュが絶叫した、周囲の奇異の視線は無視だ。
ルルーシュはスザクに掴みかかった、スザクはされるがままになりながら、しかし視線はルルーシュと合わせようとしなかった。
「ルルーシュ……そう言うの、どうかと思うよ?」
「何故だ!? 俺はナナリーの幸せな生活のためにも、ナナリーの発育・健康状況を知る権利が……いや義務があるんだ!」
「本人に聞けば良いじゃないか」
「……10歳を過ぎたあたりから教えてくれなくなったんだ……」
心の底から哀しそうに言うルルーシュに、スザクは溜息を吐いた。
ナナリーくらいの年頃の少女なら、肉親と言えど羞恥を覚える頃だろう。
だがどうやらルルーシュにはそのあたりがわからないらしい、難儀なことだとスザクは思う。
……この場合、スザクは己のことを棚に上げている。
「お前だって青鸞の健康状態が気になるだろう!?」
「それはそうだけど、本人の知らない所で勝手に調べるのはいけないことだよ」
「ええい、この石頭め!」
「それここで言う台詞!?」
相も変わらず、ナナリーのこととなると思考が暴走するルルーシュである。
スザク程では無いが、そのことを良く知っている友人であるリヴァルは呆れたような笑みを浮かべていた。
そしてリヴァルの隣には、今朝いなかった生徒会のメンバーがいる。
金髪碧眼、長身、美形と三拍子揃った美男子で、鍛えられていてかつマッチョでも無い完成された身体を持つ。
ジノ・ヴァインベルグ、ルルーシュとスザクを除けば、この学校で最もモテる少年だ。
ただ先の2人と違い、彼は進んで己の浮き名を広めているようだったが。
「何だい、副会長は妹君の身体のサイズを知りたいのかい?」
「らしいねぇ、いやはやルルーシュらしいと言うかシャーリーが聞いたら何と言うかって感じで」
「ふん、じゃあ今度ナナリーを夕食にでも」
「やめとけって、冗談でなくルルーシュに殺されるから」
しかし、絶世の美少女であるナナリーの測定結果を欲しがる輩は実の兄だけでは無いだろう。
他にも美少女揃いの学園だ、身も蓋も無い言い方をしてしまえば需要はあるわけだ。
とは言え先に言った通り、場合によってはリアルに血を見ることになってしまうため、学園の生徒でそんなことをする人間はいない。
一度覗き魔が出たことがあるが、その犯人の末路は……リヴァルは思い出すのをやめた。
「あ、ちなみに俺じゃないから」
「? おいリヴァル、誰に言ってるんだ?」
◆ ◆ ◆
午後に入り、身体測定の項目が反復横飛びなどの体力測定に映った頃、女子生徒の間で噂が立っていた。
曰く、女子の身体測定結果が無くなった、と。
測定を手伝う保健委員の生徒からの話と言うのが、この噂に信憑性を与えていた。
「ほ、本当なのかな、測定結果が無くなったって……」
「ど、どうかなー、噂だしねー……っと」
不安げに首を傾げる天子に、青鸞が反復横飛びしながら応じる。
実際、噂は噂だ。
噂にしては女子達の騒ぎが大きいような気がするが、確認の方法も無い。
なので、青鸞達としては大人しく測定を続けるしか無いわけである。
「本当だとすれば許せませんわね! 乙女の秘密を盗み見るだなんて……」
「……記録」
自分のことは完全に棚に上げて、神楽耶がプリプリと怒っていた。
ちなみに未だに手にはカメラがある、ただしこれは盗み見ているわけでは無いので、その意味では泥棒とは違う……のだろうか。
そしてそんな神楽耶を、アーニャが携帯電話のカメラに収めていた。
他の生徒達も、概ね青鸞達と同じような状態だった。
教職員から中止の話でも来ない限り、生徒達は測定を続ける。
まぁ、噂話まで止まるわけでは無いが。
「……でも、私達の測定結果なんて何に使うのでしょう?」
ふとそんな疑問を口にするナナリー、彼女に対して他の面々が温かな視線を向けていた。
まぁ、天子だけは「そうですね」と頷いていたが。
「ま、きっとただの噂だよ。うちの学園はセキュリティも凄いし」
ちょうどその時、青鸞が反復横飛びを終えた。
そしてそれを見計らったかのように、1人の上級生が声をかけてきた。
「それがねぇ、どうも本当らしいのよ」
「あ、ミレイさん」
ミレイだった、どこか困ったような顔でそこに立っている。
他の生徒会メンバーの姿は見えないが、はたしてどこに行ったのだろうか。
というか、逆にどうしてミレイだけがここにいるのだろうか。
……実は暇なのだろうか?
「って、じゃあ測定結果盗まれたって本当なんですか!?」
「まぁ! いったい誰が私の青鸞の……皇家の権力で社会的に抹殺してやりましょうかしら」
後ろから聞こえてくる声はともかく、青鸞はミレイの言葉に驚いた。
噂は本当だったのか、女子の測定結果が盗まれた。
アーニャは無表情のままだったが、天子とナナリーは意味がわからないなりに不安そうな顔をしていた。
それだけ深刻な事態だった、その割にミレイの顔は暢気だったが。
「ちょ、大事じゃないですか! 何でそんな落ち着いていられるんですか!?」
「何でって、いや、まぁ……」
噂話ならともかく、流石に自分の測定結果が盗まれたとなると冷静ではいられない。
が、繰り返し言うがミレイは冷静だった、普段なら自分で陣頭指揮を執ってお祭り騒ぎにするだろうに。
だが今回に限っては、ミレイは自分が完全に蚊帳の外に置かれていることを知っていた。
というか、することが無かったのだ。
「……まぁ、良いんじゃない?」
「何でですか!?」
その時、チャイムが鳴った。
このチャイムは知っている、校内放送が始まる前兆だった。
そして校内に響き渡ったのは、1人の少年の声だった――――。
◆ ◆ ◆
カレン・シュタットフェルトは引いていた、こんなことなら測定結果の紛失を報告なんてするんじゃ無かったとすら思っていた。
保健委員である彼女が紛失に気付き、それを生徒会に伝えたのは当然の流れであると言える。
だが不幸だったのは、最初に伝わった人間がルルーシュだと言うことだった。
「一応、俺から部活連に話は通したけど……なぁルルーシュ、測定結果が無くなったのって昼休みなんだろ? じゃあ、もう犯人は逃げちゃってるんじゃないか?」
携帯電話片手にリヴァルが首を傾げている、彼らは生徒会室にいるのだが、それにしては雰囲気が緊迫しているように見えた。
理由は、長テーブルを1人で占拠している少年にある。
やたらに美形だが目がギラついているのでまったく目の保養にはならない、ましてテーブルに直接座ってチェスの駒をゴツゴツ音を立てながら盤に叩き付けていれば、余計にだ。
ちなみにテーブルの隅にはニーナがいるが、彼女はパソコンを操作しているので会話には参加していない。
ただ時折、ルルーシュのチェスの駒の動きを確認しては何かをパソコンに打ち込んでいた。
それを見つつ、据わった眼差しでルルーシュはリヴァルに応じた。
「それは無い、学園の監視カメラにはそれらしい人影は映っていなかった。警備員含めて該当時間に学園の外に出た人間はいない。入った人間もだ」
「カメラって……学園に監視カメラいくつあると思ってんだよ」
「およそ450台だな、120の映像に分割して10倍速再生で全て確認した。間違いない」
ルルーシュの言葉にカレンが密かに一歩を引いたことには、誰も気付かなかった。
「じゃあ、生徒の誰かかもしれないだろ。何百人いると思ってるんだよ」
「監視カメラを見たと言ったろう、大学から中等部までの生徒は13437名。その内女子生徒を容疑者から外したとして男子生徒は6599名、さらにその中で測定結果の保管場所付近のカメラで確認できたのは56名。そしてその中の49名がさらに別のカメラで前後の行動を確認できたがそれらしき物は持っていなかった。残った7名についてもすでにアリバイは友人知人職員その他から確認済み、よって生徒の犯行では無い。教師陣についても同様だ、そもそも彼らはその気になればデータベースからデータを引っ張れる、わざわざ紙媒体の測定結果を盗むメリットは無い」
カレンは2歩引いたが、やはり誰も気付かなかった。
「な、何がお前をそこまでさせるんだ……」
「何が? 決まっているだろう!」
ダンッ、とチェスの駒を盤に叩きつけて、ルルーシュは叫んだ。
ギラリと目を輝かせるその様は、まさに悪魔か鬼のようだった。
逆鱗に触れられた竜でも、ここまでは怒らないだろう。
「神聖にして不可侵なナナリーの身体測定結果を盗むだなどと……! そんなことが許されるはずが無い! 天が許そうともこの俺が許さん! 必ずや犯人を捕らえ、この世に生まれ落ちたことを後悔させてやる……!!」
「おーい、ナナリー以外の測定結果も盗まれてるってこと忘れんなよー?」
相手を呪い殺しそうな程の低い声で唸るルルーシュの声と、どこか諦めたような暢気なリヴァルの声。
ちなみにカレンはこれで3歩を引いたのだが、その時シャーリーにぶつかってしまった。
ごめんなさいと謝るカレンに、シャーリーはいいよと言って許した。
ルルーシュに仄かな想いを寄せる彼女だが、この時ばかりはカレンと同じ気持ちだったからだ。
つまり、誰も彼もがルルーシュに引いていたのである。
「――――チェック・メイトだ」
まぁ、当の本人はまるで気にせず、片手の指で通信機を弄びながら。
白のキングを、黒のクイーンで蹴倒していた。
◆ ◆ ◆
「な、何だ何だ何だぁ!?」
彼は慌てていた、、背中に大きな風呂敷を背負いながら慌てていた。
ダダダダッと学園の敷地内を走り回るその姿は、まさに「泡をくった」と言う表現が正しいだろう。
だがそもそも、彼は夜になってから逃げるつもりだったのだ。
何しろ量が量である、昼間に持ち出すことが不可能であるということくらい、彼にもわかっていた。
最初は興味本位だった、が、アッシュフォードの女子の測定結果ならその筋の人間に高く売れそうだということに思い至った。
実際、彼の知り合いに真性のロリコンがいる、彼なら特定の生徒のデータを金を積んででも買おうとするだろう。
誤解の無いよう言っておくが彼自身にはいやらしい気持ちは一切無い、ただお金儲けをしようとしているだけだ。
「いたぞ! こっちだ!」
「ラグビー部レギュラー、突撃ぃ――――ッ!!」
「な、何で俺が犯人だってわかるんだよぉ――――おッ!!」
フル装備のラグビー部員達の突撃に背を向けて逃げる犯人、魂の叫びであった。
ルルーシュが己の智謀の全てを使って彼を犯人だと特定した理由は、いくつかある。
まず彼だけが監視カメラに映っていなかったこと、相互監視下にある職員と違いノーマークで自由に動けたこと、そして購買がお昼休みに限って誰もいなかったこと、そして何より。
風呂敷の間から測定結果の紙が漏れ出ていることだ。
わかっている人間もいるだろうから、もうあえて言ってしまうが。
犯人は玉城である。
彼はラグビー部に追い回され、馬術部に追い立てられ、科学部により隔離され、あとついでに水泳部のお色気攻撃に嵌められ、面白い程にどつぼに沈んでいった。
この男、わかりやすすぎである。
「ぜぇ、ぜぇ……こ、ここには誰もいねぇみたいだな……」
校舎と校舎の間の狭い場所に身を隠して、玉城は息をついていた。
ちなみにかれこれ2時間は追い回されている、データで釣ろうとしたがまるでダメだった、この学園の男子生徒には欲が無いのかと玉城は思った。
が、部活動の人間はルルーシュの「捕まえたら部費100倍」と言う言葉に目の色を変えていたので、十分に欲深だった。
「ここまで来たら、とにかく外に逃げてさっさと売るしかねぇな!」
「うーん、その根性は買うんだけどねぇ」
「だ、誰だ!?」
不意に聞こえた声に下げていた腰を上げる玉城、すると視線の先に苦笑する美少年がいた。
金髪碧眼に長身、軽そうな笑み、ジノ・ヴァインベルグがそこにいた。
校内の有力者の登場に、玉城が警戒心を強める。
しかし当のジノはと言うと、苦笑しながら上を指差した。
「こっちのことより上を見なよ、こわーいお兄さんが来るからさ」
「は? 上ったって何も……」
しかし素直に上を見る男、それが玉城だった。
そして彼は見た、上から落ちてくる色素の抜けたような茶髪の少年の姿を。
彼は回転するように落ちてきて、そのままの威力の右足の爪先を玉城の顔面に打ち込むのだった。
「いや、やりすぎだろ」
あまりにも危ない音が響いたので、ジノは呆れたようにそう言ったのだった。
◆ ◆ ◆
青鸞達がそわそわしながら身体測定を終えた放課後、また新しい噂が校内に広がっていた。
曰く、測定結果を盗んだ犯人が捕まったとのこと。
何でも校門に救急車が来ていたらしいが、それについては直接見ていないので何とも言えない。
ただミレイが言うには本当のことらしいので、青鸞はほっと胸を撫で下ろした。
「何か捕まったらしいね、犯人」
「ええ、そうですわね。うち系列の警察官から連絡がありましたわ」
「……あれ、警察に系列とかってあったかな……?」
神楽耶の言葉に首を傾げつつ、青鸞は教室で他の皆と一緒に制服に着替えていた。
体操着のまま帰宅させない所が、名門アッシュフォードらしい所だろう。
カチカチと携帯電話を操作しつつ、青鸞は脱ぎ捨てた体操着を机の上に置いた。
畳んでくれようとする天子に良いよ良いよよ答えて、青鸞は今来たメールの内容を確認した。
「兄様達、今日は遅いんだって。じゃあ、帰りどうしようかな……」
やや不満そうにそう言う青鸞に、神楽耶が「なら」と手を打った。
「まぁ、それなら私の家の車で皆を送りますわ。いえ、何ならお泊りでも」
「あはは、でもボク達、着替えとかお泊りセットとか持ってきて無いから」
「え、ありますわよ? 青鸞のための部屋だって屋敷に用意してありますから」
青鸞はスルーした、親友の目が何だか危ない気がした。
だらだらと背中に嫌な汗が流れている気がするが、それはきっと気のせいだ。
「そういえば……」
何だかんだで青鸞や皆の体操着を畳みながら、天子がふと首を傾げた。
「どうして青鸞は、自分のことを「ボク」って言うの? 日本だと男の子が使うものなんだよね」
「え、あー……まぁ、何となくかなぁ?」
青鸞にとっては幼い頃からの一人称なので何の不思議も無いが、外国人の天子には不思議に思えたのだろう。
まぁ確かに、自分のことをボク(僕)と言う女の子は少ないかもしれない。
そんなことを思っていると、青鸞のことを危ない目で見ていた神楽耶が「あら」と首を傾げて。
「青鸞が自分のことを「ボク」と言うのは、お兄様の真似でしょう?」
違うんですの? と首を傾げる神楽耶、ああーと頷く天子。
一方の青鸞はと言えば、瞬時に顔を赤くしていた。
かあああぁ……と、それはもう、火でも出るのではないかと言う程に真っ赤だった。
あ、あ……と口を金魚のようにパクパクとさせた後、勢い込んで神楽耶の肩を掴んだ。
「あら、青鸞ったらそんな強引な」
「違うから! そ、そんな兄様の真似とか、そんなんじゃ、違うからね!?」
「私に言われましても……あ、綺麗に撮ってくださいましね?」
「……記録」
パシャリ、アーニャが静かに携帯で写真を撮っていた。
おそらく明日にはブログにされるのだろう、青鸞はますます慌てた。
アーニャのブログがアッシュフォードでも見ている生徒が多いのだ、「兄の真似をして自分を「ボク」と呼ぶ妹」だなどと書かれた日には、もう翌日から不登校である。
だから青鸞は言った、絶対に違うからと。
だが誰も信じなかった、むしろ青鸞がいわゆるブラコン気味であることは、青鸞のグループで知らない者はいないのだ。
毎日兄に起こしてもらい、兄の自転車で登校し、休み時間の度に兄とメールをし、一緒に帰れないと不満そうにする……そんな青鸞の姿を見ていれば、嫌でもそうなるだろう。
「違うからあぁ――――ッ!!」
説得力の無い叫びが、教室に木霊した。
ちなみに、学園一のシスコンとして君臨しているルルーシュはと言うと。
「ナナリー、やはりその測定結果は俺が保管を」
「ダメです♪」
妹にダメだしを喰らっている所だった。
アッシュフォード学園は、今日も平和である。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
今回は雰囲気の説明を込めて軽めのお話になりましたが、次回以降も基本的にこのテイストです。
誰も憎み合いませんし誰も敵になりません、皆でほわほわ笑いながら日常のイベントを過ごすと言う、それだけのお話です。
本編があまりにもシリアスで厳しかったので、皆が幸せに過ごせる話を描きたくて仕方がありませんでした。
……玉城さんは、犠牲となったのだ(え)
それでは、また次回。