日常と言うものは、変化しないものだ。
特に学生の間はそうだろう、何の変哲も無い、同じようで僅かに違う毎日を過ごしていくものだ。
例えば朝、青鸞は変わらずスザクの爆走自転車で登校している。
「だ、大丈夫ですか、青鸞さん」
「お、おーけーおーけーだよナナリーちゃん……うぷ」
校門の陰でナナリーに背中を撫でられつつ口元を押さえる青鸞、年頃の乙女としてどうかとは思うが仕方が無い。
むしろこの程度で済んでいるのは青鸞だからで、他の誰かであればもっと酷いことになっている。
まぁ、スザクは青鸞以外を自転車の後ろには乗せないのだが。
「スザク、お前は毎朝毎朝同じことを言わせて……!」
「いやほら、だって僕らの家遠いから。遅刻しちゃうし」
そんなスザクにルルーシュがお小言を言うのもいつものことだし、それを生徒会の面々が挨拶運動そっちのけで見守るのもいつものことだ。
それどころかアッシュフォードの名物と化していて、校門を通る女子生徒などはクスクスと笑っている。
いつもの日常が、そこにはあった。
そして、どこからともなく黒塗りのリムジンが校門まで乗りつけた。
言うまでもなく神楽耶の家の車である、中から出てきたのは神楽耶本人と、神楽耶の家にホームステイしている天子だった。
ただいつもと少し様子が違って、神楽耶は青鸞とナナリーを見つけると駆け寄ってきた。
「青鸞、ナナリー! 聞いてくださいな、今朝、中国にいる天子の恋人さんからお手紙が来たんですの」
「はぁ、恋人さんから……え!?」
「天子って彼氏さんいたの!? 嘘ぉっ!?」
「ち、違う、違うよ? し、しんくーとは、その……」
「記録」
いつの間にか来ていたアーニャが、それを携帯電話のカメラに収めていた。
どうやら今日アップする画像は、赤い顔でアワアワする天子のようだった。
年頃の乙女が集まり、まして1人に恋人から手紙が来たとなれば、後はきゃいのきゃいのとお喋りするしか無い。
兄が1人気にしている様子だったが、それを気にする者はいなかった。
楽しい。
神楽耶達とのお喋りに夢中になりながら、青鸞はそう感じていた。
小さなことの積み重ね、その日々を過ごすことに幸せを感じていた。
それだけのことで、満たされる自分がいた。
「えー、それでそれで?」
「それから、手紙を読んでる時の天子の可愛らしさと言ったら……」
「そ、そんなこと無いってば」
兄に困らされて、幼馴染と遊んで、先輩に可愛がられて。
テストや行事に右往左往したり、外に出てゲームで遊んだり、友達と歩いたり。
ただただ平凡なその時間が、愛しかった。
これからもそんな日々がずっと続けば言いと、心から思っていた。
願っていた。
いつか終わる時間なら――実際、ミレイなどは卒業してしまう――もっと長くと、祈らずにはいられない程に。
だが今日、そんな日常に変化が訪れることになる。
「――――おい」
「え?」
声をかけられて振り向いた、するとそこに絶世の美少女がいた。
お尻まで伸びた長い緑の髪を白リボンで2つに流し、静かな感情を湛える金の瞳で細く青鸞を見つめ、染みも荒れも無い滑らかで白く美しい肌の上を黒い制服で覆っている。
肌の露出は少ないのに扇情さを感じてしまうのは、少女が自然と放つ色香のせいだろうか。
見ない顔だし、知らない制服だった。
だが存在感はある、そこにいるだけで全てを引き寄せてしまいそうな、魔女じみた魅力を備えていた。
とても静かな、人形のようにも見える少女。
「おい、聞こえているのか?」
「え、あ、ああ、ボク? ええと、何?」
「ああ、ここはアッシュフォード学園で間違いないか?」
「う、うん、そうだけど……えっと」
周りが見守る中、青鸞は僅かに首を傾げながら少女を見ていた。
おそらく年上だろうとは思うが、やはり知らない。
ここまでのレベルの美少女、一度会えば忘れるはずが無い。
そして彼女は青鸞の様子に何かを思ったのか、ああ、と頷いた。
「そうか、まだ私の身分を話していなかったな」
1人で得心した後、彼女は言った。
誰もが忘れないだろう、そんな名前を。
「私の名前は○○○○――――転校生だ、よろしく頼む」
世界は、終わらない。
彼女達が生き続ける限り、
刹那でしかない時間を永遠に留める、それは願いだ。
誰もが持つ、切なる願いだ。
その願いが永遠の一瞬となるのか、それとも刹那の物となるのかはわからない。
彼女達にはわからない、わかる者がいるとするならば、それは。
……神様、くらいだろうか?
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
今話をもって、「コードギアス―抵抗のセイラン―」は正式に終了となります。
2013年2月から8ヶ月以上の連載、最後までお付き合い頂きまして、本当にありがとうございます。
また完結まで持ってくることが出来たのは、読者・ユーザーの方々の声援があればこそです。
感想やメッセージ、あるいはその他の場での数々のお言葉が、私の背中を押してくれたと感じています。
また、募集に応じて数々の魅力的な提案を頂いた方々にも、改めて御礼申し上げます。
皆様と共に作り上げてきた物語が終わる、何度経験しても寂しい気持ちになります。
しかし終わりあれば始まりがあると申します、今後の予定がどうなるかはわかりませんが、また何か活動できればと思っています。
それでは、またどこかでお会いしましょう。