ロードランは今日も平和です   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 ~前書き~

 今回は番外編として『病み村』の話を書いて行こうと思います。

 ちょっとどころか、流石にこれはありえないだろうというオリ設定で書いているので、ご注意を。

 まぁ、可能性が在るか無いかで言えば、ゼロではないのでしょうが……w

 あと三人称です。


 ◆ ◆ ◆



番外編 ~蜘蛛の卵~ 前編

 場所柄、鳥の鳴き声よりも虫の羽音の方がよく聞こえる『病み村』。

 

 村のほぼ全域が足首まで浸かる浅い沼になっている土地だが、そこに暮らす人たちに「沼」という言葉から連想されるような陰鬱な雰囲気などない。

 

 忠誠を誓った主君のためという、今では珍しい美しき主従愛が理由で住みついた者ばかりだからだ。

 

 さて、そろそろ話を進めようと思うが、『病み村』の住人全員から好かれる“混沌の魔女”クラーグの妹、<混沌の娘>の嬉しそうな声が響き渡る『クラーグの巣』から物語は始まる。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

ザカザカザカザカザカッ!

 

 

「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん♪

 聞いて聞いて聞いて♪」

 

 

「あー、聞こえてるよ<混沌の娘>。

 だから廊下を走るな。騒ぐな。

 あと、お前は可愛いんだから、お姉ちゃんの理性を壊さないでおくれ」

 

 

 廊下を走りながら嬉しそうに姉のクラーグに抱きつく<混沌の娘>。

 

 彼女は教育係のミルドレットやエンジーに何度注意を受けても廊下を走るし勉強はサボるという、いたずらっ子。

 

 しかも可愛いから誰もまともに叱れないという性質の悪い甘えん坊なのだが、ここ最近は臨時の家庭教師として暫く『病み村』に滞在してくれた<かぼたん>の教育のおかげで落ち着きも見られていたのだ。

 

 そんな<混沌の娘>が久し振りに廊下を走ってまでクラーグに駆け寄ってきたということは、何かしらあると考えられるだろう。

 

 何もなくとも、久し振りに妹から抱きつかれて満更ではないクラーグなのだが。

 

 

「で、何の用なんだい? 愛しい妹よ」

 

 

「あのね、お姉ちゃん。

 私ってさ、毎日毎日たくさんの卵生んでるよね?」

 

 

「そうだね。あたしらが半人半蜘蛛だとしても、ありえない位にポンポン生んで『病み村』住人の食事にも使われているね」

 

 

 <混沌の娘>はかつて従者が不死の病に苦しんでいるのを見かねて病気の膿を飲み、視力を失うとともに全身を襲う激痛に苦しんでいた。

 

 が、彼女を信奉する「混沌の従者」たちの献身的な介護と、捧げられた『人間性』でその辺の問題は解決した。

 

 ……のだが、病気の後遺症なのか無精卵とはいえ、毎日のように沢山の卵を生む体質になった訳だ。

 

 姉のクラーグは普通に月に一度の周期なのだから、それと比べれば多い方だろう。

 

 

「それでね、お姉ちゃん。

 いつもみたいに卵生んでたんだけど、その中の一つ。見てこれ♪」

 

 

「ん~? いつもの卵……じゃないな。

 ほんのり温かいし、動いて……る?」

 

 

 そう、<混沌の娘>が取り出した卵は何故か溶岩のような熱を持ち、内側で何かが動いているのだ。

 

 ということはもしや……、

 

 

「私、ママになるみたい♪」

 

 

 それをポジティブに受け取った<混沌の娘>に対し、

 

 

「……(きゅ~)」

 

 

 立ったまま気絶してしまったクラーグ。

 

 はてさて、これは一体どういうことなのだろうか?

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 『病み村』に衝撃が走ったのはクラーグが気絶してすぐだった。

 

 異変を一番に感知したのは、この家の料理人にしてクラーグの側近のミルドレット。

 

 彼女は持ち前の料理人洞察力により、主人の微かな息使いの乱れを感知し、部屋に入室した。

 

 

「あ~、ミルドレットー♪

 見て見て~、私の卵~♪」

 

 

 入室と同時に嬉しそうな<混沌の娘>の笑顔にニヤけそうになるのを堪えて思考する。

 

 そして一瞬にしてミルドレットの天才的頭脳が、倒れた主君と妹君の持つ卵から解答を導き出す。

 

 

「(これは……、なるほど)」

 

 

 ミルドレットは静かに自身の出した結論に納得し、<混沌の娘>を見据えてこう言った。

 

 

「妹様、私が責任を取りましょう!

 式はいつ頃をご希望ですか?」

 

 

「そうはさせるかぁー!(スパーン)」

 

 

 残念。ミルドレットの脳内解答は少し間違っていたようで、クラーグのツッコミで壁にめり込むこととなった。

 

 

「ミルドレット! あんたの『病み村』での仕事ぶりには感謝しているし、今じゃあんた抜きだなんて考えられない。

 だけど、あたしの妹はお前にだって嫁にはやらん!」

 

 

「いえ、クラーグ様。

 先ほどの発言は、妹様に嫁に来てもらうのではなく、私が嫁入りするのもアリと言う覚悟の元の言葉でして」

 

 

 持ち前のソウルの馬鹿強さで痛みを和らげて平然と立ち上がるミルドレット。

 

 

「それも許さん!

 <混沌の娘>はあたしの妹だ! あたし以外の誰にもやらん!」

 

 

「いいえ、妹様は少しぽやっとしていますが、もうお年頃です。

 そろそろ外の世界や、将来について考えるのも良い年ごろなのです!

 つきましては私がそういうゴニョゴニョなお勉強を教えようかと」

 

 

「チェストー!(スパーン) それも許さん!

 純真無垢な妹に良からぬ事を吹きこむな!!」

 

 

 ボケとツッコミの応酬。

 

 これだけ騒げば巣の外にも騒ぎは聞こえるわけで、

 

 

「い、姫様が妊娠……、結婚……!?」

 

 

 ミルドレットに続き、騒ぎを聞きつけてやってきた<混沌の娘>専属従者のエンジーが衝撃のあまり、普段のナイスミドルなポーカーフェイスを崩して半狂乱になりながら巣の外に飛び出した。

 

 

「ぬぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉーーー!!!」

 

 

 彼は<混沌の娘>が自分のために病気に罹ったことを悔やみ、病気が治った後も彼女に魂の隷属を決意した戦士だ。

 

 だから<混沌の娘>を抱っこ出来る程度には体も鍛えている。つまりムキムキだ。

 

 そして筋骨隆々のエンジーの背には、彼の意思で自由に動く<寄生虫>が蠢いている。

 

 その派手な容姿で村中を叫びながら走りまわれば、そりゃ注目も浴びる訳で、これまた<混沌の娘>の卵騒動の噂が知れ渡るのに10分もかからなかった。

 

 門番隊隊長のミスズはお祝いのケーキを作りはじめ、彼女の率いるデブ門番隊は隊長に付き従って材料集めに奔走する。

 

 火吹き犬一族は<かぼたん>に習った呪術と鍛冶技術を融合させ、お祝いの花火を作って打ち上げる。

 

 大ヒル部隊と小間使いの大蚊たちは、その数によって人間の「混沌の従者」たちにも噂を広めた。

 

 この所要時間が10分。これがこの地の団結力だ!

 

 

「あたしは絶対に認めないぞぉぉぉー!!!」

 

 

 クラーグの絶叫はむなしく響き渡るだけだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「はい、これより第何回かの『病み村』会議を始めるぞ。議長のクラーグだ。

 そして、これまた何度目か分からないが、今回も『病み村』始まって以来の大騒動が議題だ」

 

 

パチパチパチパチパチ

 

 クラーグの会議開始の宣言に、警備部の各代表者達の拍手。会議は始まった。

 

 

「……で、実際問題、あの子の生んだ卵をどうするよ?」

 

 

 村の主要人物を集めての対策会議。

 

 その議題は『<混沌の娘>の生んだ中身の入った卵をとうするか?』ということについてだ。

 

 

「とりあえず、大前提を話そうか。

 この卵を見なかったことにして、いつも通りマヨネーズに加工するのが良いと思う奴は手を上げろ」

 

 

 クラーグは問うが、誰一人として手を上げようとしない。

 

 

「じゃあ次だ。

 この卵を村のみんなで見守って、生まれてくる子を可愛がるのが良いと思う奴は手を上げろ」

 

 

シュババババババババ

 

 素早くその場にいる全員の手が上げられる。

 

 

「ったく、お前ら全員そっちかよ」

 

 

「お言葉ですがクラーグ様。

 我らはクラーグ様と妹様に忠誠を捧げた集まりです。

 そんな我らに妹様の生んだ、お卵様の命を断つなど出来かねます」

 

 

 その場を代表し、クラーグに次いで権限の強いミルドレットが答える。

 

 勿論、彼女だけでなく村の総意なのだから反対する者などいない。

 

 

「それじゃ次の質問だ。

 あの卵の父親だと思う奴、居たら手を上げろ。殺す」

 

 

 クラーグは殺気を込めて一同を見渡しながら言うが、今度もまた、その場にいる全員が手を上げた。

 

 そしてクラーグは全員を一人ずつ殴った。

 

 

「てめぇら揃いも揃って脳みそ腐ってんのか!?

 あの子が夜寝る時はいつもあたしが側に付いてるんだから、そんな隙はなかっただろうが!」

 

 

「我々の愛が時間も距離も超えた……気がする」

 

「心が通じればそれが受精のとき……かもしれない」

 

「自分たちの捧げた人間性を元に生まれた卵……だったらいいな、と思う」

 

 

 とまぁ、色々な理由を挙げてお父さんポジションを獲得しようとする『病み村』勢だが、結局のところそれは問題の解決とは程遠い。

 

 それからも話し合いは一晩中続き、朝を迎えたころで一つの結論が出た。

 

 

 

「……もう、みんなの子どもでいいんじゃね?」

 

 

 疲れきったクラーグの一言に一同は納得したのだった。

 

 

「だとすれば卵が孵るまで待つとして……。

 ミスズ、確かお前に<混沌の娘>の子守りと卵の管理を頼んだけど様子はどうだい?」

 

 

「はい、クラーグ様。

 妹様はお部屋にお連れして寝かしつけておきました♪

 お卵様の方は、肉屋のラレンティウスが持っていた孵卵器に入れていますよ」

 

 

「流石はミスズ。完璧な対応だ。

 それとラレンティウス。あんたも新参者だが、なかなか役に立つじゃないのさ」

 

 

 ラレンティウスは静かに主君に傅く(かしずく)

 

 彼は村に来てからの年月はそれほど長いものではないが、その肉屋としての包丁さばきは専属料理人のミルドレットにすら引けを取らない腕前だ。あと呪術の腕も。

 

 さて、それでは長く続いた会議も終わり、やっとこさ一息つこうとしたところで騒ぎは延長することとなる。

 

 会議が父親ポジションを狙う馬鹿な奴らによって長引き、朝を迎えたこともあり、その間に孵卵器に入れてあった卵にヒビが入ったという報告が来たのだ。

 

 

「おい、お前たち! 会議が終わったばかりだが気を抜くなよ。

 早速、この村の新たなアイドルの誕生の瞬間だ!」

 

 

「「「「うおぉぉぉーっス!!」」」」

 

 

 内心、誰よりも卵が孵化するのを楽しみにしているクラーグ。

 

 そしてそんなクラーグよりも、自分こそが卵の父親だと思っている病み村住人達。

 

 色々と思うところはあるが、それでも卵が無事に生まれてきてくれることを祈って卵の元へ走るのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ちょっ、押すな馬鹿ども!

 あたしが一番に抱っこするんだ!!」

 

「いいえクラーグ様。我ら一同思いは同じ。

 ここは家事育児に定評のある、このミルドレットにお任せを」

 

「いやいや、デブ門番隊という曲者揃いの組織をまとめあげる、意外と優秀なミスズに任せてくださいよ。

 大丈夫、私は子どもに好かれやすいですから♪」

 

「俺も俺も」「僕も僕も」「私も私も」

 

 

 生まれてくる赤ちゃんの抱っこ権を奪いあう大人たち。

 

 それでも卵を傷つけるような愚を犯すこともなく、今まさに卵は孵ろうとしている。

 

 

ピシッパキッ

 

 

「出てくるぞ♪」「感動の瞬間♪」「名前は<混沌の娘の娘>様か<混沌の娘の息子>様か……」

 

 

 卵が割れ、中から出てきたのは溶岩の塊……のように見えるものだった。

 

 

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

 

 

 

「おぉ! 生まれたよ、おい♪」

 

「生命の神秘デース♪」

 

「でも妹様にも村の誰にも似ていませんね?」

 

「別にいいじゃん。我らみんなの赤ちゃんだよ♪」

 

 

 周囲を蹴散らし、一番に抱っこしたのはやはりクラーグ。

 

 というか、生まれながらに炎に包まれている赤ちゃんなので、クラーグでもなければ抱っこするのは難しいだろう。

 

 

「そうだな、では溶岩に包まれて、生まれながらに燃えている体から、<爛れ続けるもの>と名付けよう。 どうだみんな!?」

 

 

「はい、クラーグ様!

 その名前は可愛くないので子どもが将来グレるかもしれません」

 

 

 ミルドレットの率直な意見により、<爛れ続けるもの>という名前は却下。

 

 次案として、「タダちゃん」と呼ぶことでまとまった。男の子のようだ。

 

 

「タダ、お前は愛されて生まれてきたんだ。

 幸せに育つんだぞ」

 

 

 こうして『病み村』に新たな仲間が誕生し、夜を徹してお祝いムード一色となった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ……と、終わればいいのかもしれないが、まだ問題が残っている。

 

 そもそもこのタダちゃんが生まれたの理由は不明だが、、母親の<混沌の娘>が妊娠して生んだ子ではないのだ。

 

 <混沌の娘>をはじめ、村の女性たちの誰も母乳が出せない。

 

 

「え? 赤ん坊って牛乳飲ませちゃ駄目なのかい?」

 

 

「当たり前ですよ、クラーグ様。

 赤ちゃんを育てる知識が無さ過ぎます」

 

 

「でもミルドレットさん、誰も母乳が出ない以上、粉ミルクを用意する必要があるのでしょうが、一体どこに売っているんですかね?

 私も部下たちも知りませんよ?」

 

 

 村人たちが困り切っていると、そこに一人の商人がやってきた。

 

 

「ふっふっふっ、お困りのようだねお嬢さん方。

 話は聞かせてもらったよ」

 

 

 レディのピンチにすかさず登場。

 

 さっそうと現れた金色の鎧に身を包んだ紳士とは一体!? ……次回に続く。

 

 

 




 ~後書き~

 <かぼたん>は<混沌の娘>の家庭教師だけでなく、「『病み村』特別非常勤査察官」という役職をもらっているので何気に村での発言力は一週間程度でかなり大きく得ていたりします。という設定。

 まぁ、そんな役職が役に立つ日が来ないのが『病み村』なんですけどねw

 そもそも死なない人間がクラーグ達の人柄を好いて集まったのですから、彼女らを裏切ったり不正を行うようなら最初から住み着いていませんし。
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