第二話:かぼたん、目を覚ます
「ふわぁぁ〜あ……、よく寝ちゃいました」
蝋で覆われているとはいえ、何故か涙は普通に出る眼を擦りながら<かぼたん>は目を覚ました。
「……あれ? 私は確か楔の神殿の地下で<古の獣>と共に眠りについていたはずなのにここはどこなんでしょう?
<古の獣>が目を覚ましたのなら、早く神殿に戻って新しい勇者さんのレベルアップに貢献しなきゃ!」
そう言ってベッド、というのもおこがましい、草を敷いただけの寝床から起き出して周りを見るも、なぜか彼女は牢に入れられている。
「はっ! もしや私が可愛すぎて寝ている間に誰かに捕えられてしまったのかしら!?」
手足に枷こそないが、鉄格子には鍵がかけられている。
「うーん、でも何だか<古の獣>は私に吸収されていなくなってしまったみたいですし、ボーレタリア王国への危険は今のところ無いかもしれませんね」
現状確認のついでに<かぼたん>は、自身の中のソウルに触れてみると、永い時を共に過ごした<古の獣>のソウルを感じることができた。
しかもそれだけではない。
<古の獣>が作りだした多くのデーモン達のソウルすら自身の中に感じるのだ。
ファランクス
塔の騎士
つらぬきの騎士
老王オーラント
タカアシ鎧蜘蛛
炎に潜むもの
竜の神
愚か者の偶像
マンイーター
黄衣の翁
審判者
古い勇士
嵐の王
ヒル溜まり
不潔な虚像
聖女アストラエア
それらデーモン全てのソウルを<かぼたん>は自身の中に感じるのだ。
元々彼女、<かぼたん>の持つ能力はソウルを吸収し、特定の人物に再分配する能力。
眠りに付く前、楔の神殿に囚われていた人々のソウルレベルを上げるのには、その人のソウルを全て吸収して再分配することでレベルを上げていたのだが、永い時を眠ることで、無意識のうちに彼女はソウルを自分の物として自分自身に再分配をしてしまったようなのだ。
ドサッ
考え事をしていた<かぼたん>のいる牢の天井が開き、そこから死体が投げ込まれた。
投げ込んだのは騎士の姿をしており、かぼたんを一瞥すると何も言わずに去って行った。
「……ここは、どうも楔の神殿どころかボーレタリア王国でもなさそうですが、自分で調べてみるしかないようですね」
彼女、<かぼたん>は強い。
それは生物全てが持つ魂(ソウル)の総量が莫大であることだけに留まらず、『ソウルを自在に操る能力』そのものが、あらゆる生物の存在そのものに直接的な死を与え、生を与えることに繋がるからだ。
折角なので、ここで<かぼたん>のソウルを操る能力について説明しておこう。
彼女はソウルによる肉体の強化——レベルアップを求める勇者に対して、その者が他者を倒して手に入れてきたソウルと、その者自身が初めから持っているソウルをまず『吸収』する。
そして自らの中でその二つを『融合』させた後、ソウルの元の持ち主に対して『返却』することでレベルを上げているのだ。
この工程の間は、レベルアップを望む者は彼女の胸に手をうずめておく必要があるが、途中でその手を抜けば全てのソウルを失って死ぬこととなる。
それは『ソウル体』という状態にすらなれずに魂ごと消滅することなのだ。
彼女がそれを攻撃手段として、『吸収』、『融合』の後に『返却』をせずに自らのソウルとして取り込んでしまえば相手は死ぬ。
それこそ剣を振るったり、魔法を撃ったり、そんな攻撃が馬鹿馬鹿しくなるほどにあっさりと彼女は人もデーモンも殺せるのだ。
そしてその能力だけでなく、存在そのものが人外であるが故に、彼女の力——筋力なども並みではない。
「えい!」
少し力を入れると牢の鉄格子は簡単に壊れ、そのまま牢を後にする。
先ほど天井から騎士が投げ入れた死体は、牢の鍵を持っていたようだが<かぼたん>に鍵などは不要である。
その後は梯子を登り、進んでいくと篝り火を見つけたのでそこで休むことにした。
「あら? この篝り火って私みたいにソウルによるレベルアップが行えるんですね。
この世界がどういう世界なのかは分かりませんが、ソウルが存在するのでしたら私も有る程度は戦えそうですね」
ついでに魔法の記憶なども可能なようなので、自身の中に宿るデーモンのソウルを魔法や奇跡へと変換して全てを記憶しておく。
「とりあえず私は魔術や奇跡の発動に触媒やタリスマンは必要ないですし、ソウルに関しては世界の存在そのものである<古の獣>を吸収しているから幾らでも使えるみたいですね。
魔術『浮遊するソウルの矢』をデフォで装備しておいて、奇跡『反魔法領域』を私に影響がないようにしながら常時展開。
あとは魔術『完全な防護』に奇跡『一度きりの復活』も永続的に掛けておけば問題ないですかね?」
まさにチートと言うべきだろうか。
しかし彼女は自身の強さというものをいまいち理解していない。
元々ボーレタリア王国で起こった色のない霧も、彼女自身が行動を起こせばあっさりと終わっていただろうにそのことにも気付いていないのだから。
「さて、では先に進みましょうか」
かぼたんの冒険は始まった。
抑圧されてきた欲望が一度解き放たれると凄まじい的な今回の作品。
かぼたんがのんびり楽しく、特に目的もなく旅をする話です。