1-2 地を征する帝王
時は2013年のこと。
東京の大手町に悠々と聳え立つ全60階建ての白銀の高層ビルは、入る者に緊張感を与える荘厳さを解き放っている。
それもそのはず。この建物は、世界においても知らない者は殆ど居ない、グローバル規模の超大手総合メーカーのスマートブレイン社の本社ビルだからだ。
日本における新卒採用の応募数ランキングでは例年トップ3に入る程の企業で、入社すれば、昇進せず『平』でも安定した生活が送れるそうである。さらに終身雇用の時代は終わりだと周りの世間が騒ぎ立てていたが、どうやらこの企業に関しては例外の一つのようだ。
これに関連して、社会階級で言えば上から数えたほうが位置を早く把握できる程で、合コン等における職業ウケは大変よく、スマートブレイン社社員という肩書きは人々を魅了するのに十分であった。
株式会社であるこの会社は、東証一部に上場している企業で、常にその高い株価は世間の信頼をそのまま反映している。
スマートブレインで働いている社員はどこか自信に溢れていて、身に纏うスーツが輝いて見えてしまう人もちらほらといる。当の本人達においても、日々の仕事に誇りと責任感を持って取り組んでいる。
そんな社員の一人、木下 勇吾は50歳にして会社の代表取締役役員の座に辿り着いた優秀な男だ。
彼は今、マンションの自宅で出勤に向けた支度をしていた。
支度を終えると、青を基調としたジャケットとスラックス、インナーにはネイビーのストライプの入ったワイシャツに、赤のネクタイと、ビジネススーツにしては少しお洒落を意識した格好となっていて、モダンな茶色のテーブルの前にある椅子に座って優雅にコーヒーを飲んでいる。テーブルの上には日刊の『日本社会経済新聞』が拡げられていて、その新聞に載っている経済各界のタイムリーなニュース等に目を通している。一方で慌ただしい足音があちらこちらで響いているのが聞こえたのだがそんなのは気にはならなかった。
時刻は朝の7時。コーヒーを飲み終えた勇吾は、テーブルの上の新聞を畳み、隣の椅子に置いてあるビジネス鞄を手に、白の明るいLEDライトが照らすリビングを後にし、玄関に向かった。
ビジネスマンにおいて、『靴』はライフラインだ。そう考えている勇吾の黒のビジネスシューズは光に当たるといつもその皮素材特有の光沢を放っていた。鷹の絵が描かれているベージュのカーペットの上に座って、その靴に手をかける。手慣れた手つきで靴ひもを結んでいく結果は、きれいな左右平行を保った綺麗なちょう結びだ。
「じゃあ、行ってくるぞ」
「あー、まってまって! 俺も俺も!」
靴を履き終え、いざ出発しようと扉のドアノブに手をかけたところ、一人の少年が乱れたブレザー制服の格好で勇吾に襲い掛からんとする勢いで走ってきた。マッシュチックにかろうじてセットされた髪型はまだどこか不完全で、アホ毛が3本くらい生えている。シャツは中途半端にスラックスから出ていてだらしがない。ネクタイは上まであがっておらず、シャツのボタンは第2まで開けている。玄関に着くと勇吾をよそにそそくさとローファーに足を無理やりツッコむ。これを繰り返したせいかローファーのかかとの上部分には皺がこれでもかと言わんばかりに入っている。勇吾と正反対のタイプとも見える少年は、勇吾より先にドアに手をかけ、玄関を後にしていった。
「いってきまーす! あっ、父さん、出張頑張ってね~!」
高身長の少年の姿が見えなくなると、一人の女性もゆっくりと玄関に近づいてきた。彼女はオレンジ色のチェック柄のエプロンを白のセーターの上から身に付けている。ボトムスは黒のジーンズだ。容姿はどこか年老いたと思わせる皺が垣間見えながらも40,50代の艶めかしさを感じる事も出来なくはない。化粧はしていない。自分の体が動くたびに靡くその艶やかな長い黒髪とキツネ顔ににじみ出ている笑顔はどこか奥ゆかしさが感じられる。
「あの子はいつまでああなのかしらねえ」
我が夫である勇吾の近くに寄り添うとクスクスと微笑みながら息子である先程の少年の話を吹っかけた。勇吾は彼女と目を合わせると、堅物と形容するに相応しい彫の深い渋い顔が一瞬にして崩れ去り、顔全体に笑みを浮かべる。ニヤニヤしていると言った方がいいかもしれない。
「さあな。ただ、俺はアイツの可能性を信じている。だから……」
「どうしても、『行ってしまうの?』」
さっきの表情とは打って変わって切ない表情を浮かべ、勇吾の胸に顔を埋める。勇吾の背中に回った両手はどこか力強かった。まるで放っておくとどこかへ飛んで行ってしまいそうな鳥を籠に頑なに閉じ込めているようだ。だが、彼女は震えていた。目にはうっすらと涙が浮かび上がっている。そんな彼女を見るに堪えなくなったのか勇吾もその細い彼女の体を抱きしめてやる。だが、勇吾の顔には迷いなどといったものはなかった。決意に満ちた表情だ。
「ああ。俺は父親として、最後まであいつに何かを残してやりたいんだ。今のこの日本国内は激動の時代を迎えている。人間社会も、そして『俺たちオルフェノクの社会』もだ。俺は『オルフェノクの集合体』とも言えるスマートブレイン社で働く傍ら、ずっと悩みに悩んだ。オルフェノクはどうあるべきか。人間とは共存すべきか。そして俺は『俺ではどうしようも出来ない事に辿り着いた』。なんとか俺は50まで生きてこれたが、これから長生きできるかは分からない。オルフェノクであり続ける限り、『呪い』は併存する。だから俺は、あの子……、あの子『達』に、全てを託す事を決めた。『花形さんも同じ意志』だ。これは次世代を担う子達への問題の丸投げかもしれない。そうである事を否定はしないさ。
だが、これから俺『達』が残すものは、決して負の遺産ばかりではないと信じている。いや、いかにして『正の遺産』を残すかが俺たち世代の責任だと考えている。時には彼らを傷つけてしまうかもしれない。だが、『困難に立ち向かう手段』はしっかりと残して……」
「もういいわ……。アナタは一度決めたら必ず行動に移すもの……。昔っから頑固だったよね……。でも、そんなアナタだったから、私はアナタについていく事にしたのよ……?」
「お前たちには迷惑かけてばかりで済まないな……」
「ふふ……、その言葉、何度聞いてきた事か……、ふふ……」
「……、賢二を頼んだぞ……、そして香織、俺の妻でいてくれて、ありがとう……」
「もう……、 そんなセリフ呟くシリアス映画は今の時代少ないのよ……?」
「ふふっ、そうかい。行ってきます」
「……、行ってらっしゃい、勇吾さん」
最後の別れは悲しいものにしたくなかったのか、ギャグチックに話を着陸させようとしていた。
我が夫をドアの向こうへ送ると、香織は心の中でただただ、勇吾が無事でいて、再び会える事を祈るばかりであった。
「どうか、ご無事で……」
そういって彼女は、玄関に何個か積まれているダンボールを一回見て、リビングへと向かっていった。
マンションのエレベーター内で、一人の服装の乱れた少年がアホ毛を何とか沈ませようと後ろにある鏡を用いて髪をいじっていた。彼の脳内にあるのは、いかに遅刻せずに学校に辿り着くかだけであった。
「父さんまた出張か~、まあ『転勤族』の宿命だよなー。あの家も売っぱらっちゃうそうだし。ま、でももう月に一度受けてた『健康診断』も受けなくていいし学業の『成績証明書』とか俺に関する情報がある書類も出さなくていいらしいから、ラッキーと言えばラッキーなのかなあ。おっ、もう一階だ」
これから自分の身に降りかかるものなんて考えもせずに、エレベーターを降りていったのだった。
「失礼します」
「木下君か、待っていたよ」
東京大手町のスマートブレイン本社ビル60階にある社長室。ピリピリとした空気が流れている、事もなく、室内はモダンな造りで、全体的に白を基調とした色合いになっている。室内中央に置かれた応接用の黒い革素材のソファー二つが、ガラス製のテーブルを挟んでいる。そしてその奥には大手町を一望できるガラス窓がある。その近くに、黒いテーブルと黒の革素材の椅子は、どこか高級感を漂わせる。社長椅子と社長机と呼ぶに相応しいものだ。入って右側の壁には、『顧客創造』と横文字で荒々しく墨で書かれた額縁が飾ってある。
この社長室に立って待っていたのは、『大物』を漂わせる雰囲気を身に纏った、青のネクタイを綺麗な結び目で締めている、上下黒のスーツを身に付けている男だ。彼はオールバックにした白髪で、その顔はどこか厳しそうと思われるようなものだ。
「花形社長、ついに『今夜』ですね」
「……迷いはないかね?」
花形という男は勇吾を見つめてそう言い放った。花形の表情に笑みは一切浮かんでいなかった。勇吾という男を試しているかのような視線だった。
「ええ。覚悟なら出来ています」
端的にキリっとした表情で返した勇吾に対して花形は勇吾に対して背を向けると一度大手町を一望できるガラス窓の前へ向かった。
大手町周辺はオフィスタウンといっても過言ではない。軒並み並ぶ数多くの高層ビルを見渡す。今日、数多くの経済活動が活発に行われているだろう。といった物思いにふけっていた。そして、しばらくして、花形はその重い口を再び開いた。
「君は、『失われた20年』の後の世代の人たちをどう思うかね」
「それは、『ロスジェネ世代の若者達についてどう考えているか』という趣旨の質問でよろしかったでしょうか?」
「そうだ。『バブル』が弾けて約20年だ。先の事を考えずに行われた過剰な経済取引で多くの損害がこの国にもたらされた。そして次々と年老いていく人の増加。経済をうまく立て直す『尻拭い』は若者にほぼ全部丸投げ。その上我々をはじめとする人は『バブルの功労者』としての意味合いからか若者より多額の年金が支払われるだろう。その財源はどこから来るか? 殆どが『尻拭い』の主体である若者の血税だ。我々をはじめとする壮年はそんな将来を迎える若者から『老害』や『やりたいことをやるだけやった傍若無人』と叩かれている。『確かにそれは否定出来ない事』だと私は考えている。しかしだ。私はこの問題を放っておくつもりは毛頭ない。私はこれまで多くのものをなるべく世に残そうとしてきた。この会社もその一つだ。少しでもこの世の中に『困難に立ち向かう為の手段』を残そうとしてきたと自負している。これは、若者に対する言い訳でもなければ、私的な自慢でもない。私は次世代を担う若者を支えるという決心だ。『流星塾』の子供たちを見て、そう思うようになったのだよ。そしてこれは、『我々オルフェノクの件』についても言える事だ」
「……、今朝私も同じような事を家内に言ってきました。確かに我々は、負の遺産を次世代に遺してしまいました。それは否定出来ない事でしょう。しかし、我々はそれを自覚した上で次世代を担う人たちを全力でサポートする義務があります。どんな形であれです。これには贖罪の意味合いはありません。純粋に、次世代の『人間やオルフェノク』と向き合うべきだという事だと、私は確信しております」
「……やはり、私の目に狂いはなかった」
花形が勇吾の示した覚悟に安堵したのか、その厳しい表情が一瞬にして崩れ去る。花形は再度勇吾の方を振り向く。そして、笑顔で言葉を続ける。
「君の入社式での顔は今でも忘れない。スマートブレインという肩書き欲しさに入ってきた連中とは違うと君を一目見て分かった。君は大志を抱いていた。そして、君は多くの利益を会社と社会にもたらしてくれた。『スマートフォン』という言葉を浸透させたのは、君が商品開発部に所属していた時に考案した製品だね。君の数々の功績には私も恐れ入るところだ」
「とんでもありません。バブル崩壊後の花形社長の数々の英断をはじめとする経営の舵取りがあったからこそ、私は、私をはじめとする社員全員がスマートブレイン社員として活躍する事が出来たと信じております」
「よく成長してくれたな……」
「おかげさまですよ。花形社長」
「もう何も心配する事はあるまい……。君『達』で本当によかった……。当初の計画通り、今夜決行する」
勇吾は気が付くと右隣に高身長の上下紺色のスーツを身に纏った、黒髪をオールバックにワックスで固めた、50代の外国人の壮年が立っていた。壮年は勇吾の方を振り向いて笑顔で一礼すると、花形の方へ胴体を向ける。
「木下勇吾、ホビット・ロビンフッド、『帝王のベルト』は頼んだぞ」
2013年12月20日。
東京都内のスマートブレイン独自の二つの研究所がそれぞれ『怪物』による襲撃に遭う。
研究所職員は全員『失踪』し、『5つの標本』から何かが強奪された痕跡が残っていた。
「さぁ、帝王のベルトの最終チェックだ」
深夜の都内某所。スマートブレイン設立の研究施設で白衣を着た3人の職員が、液体付けになっている二本のベルトを見ながらPC画面とにらめっこしている。3人の目の下にはクマが出来ていて、連日徹夜で研究に没頭していた事が伺える。
「しっかし、『一つの大国』を『一人で』滅ぼせるスペックを有した二本の帝王のベルト。誰が変身できるってんだよ」
「知らねえ。下手すりゃ誰も変身出来ないんじゃないか?ベルトにはAIが宿ってて、そいつが有資格者を決めるんだ。 ぶっちゃけ花形社長の命令で、そのハードルはかなり高めになってるんだよなぁ……」
「おいおいおい。大丈夫かよ。誰も変身できませんでしたじゃ話にならないだろ? 俺たちの『10年』が無駄になっちまうじゃねえか」
「いや、でも多くの個人情報データをベルトに送ってみたけど、各ベルト一人だけ有資格者であるとみなした反応があったんだよ……。だから一応安心っちゃ安心かな? ま、それより早くこの研究終わらせて、バカンス楽しもうぜ。俺たちには『オルフェノクの王』を護るだのそんなのは関係の無い事だ」
「そうだなー。俺はイギリス旅行にいくぜ!」
「俺は日本一周するんだあ!」
3人は仕事が終わってからの事を話し合いながら、目の前のPCを操作していた。
そしてそれはしばらく経ってからの事だった。
ブー! ブー! ブー! ブー!
「おい! 警報だ! どうなってるんだ!」
突如として研究室内に警報が鳴り始める。3人は慌てて研究所正門、研究所入り口、研究所内の至る所に設置された監視カメラの映像を画面内に映し出す。そこに映っていたのは既に灰と化した警備員、自分たちと同じく深夜残業の研究所職員の姿であった。
「おいおいおい、オルフェノクかよ!」
「きっと狙いは『帝王のベルト』だ……!」
二人の研究所職員は外部に助けを求めようとするが、あらゆる電波が遮断されていた。手持ちのスマホも圏外である。施設取り付けの電話も当てにならない。
ドン! ドン! ドン! ドン!
3人がどうこうしている内に、『怪物』は重厚なドアの向こうまで来ていた。ドアには向こうから攻撃が加えられ、凸状のくぼみが至る所に浮かび上がる。3人はそれぞれ、サイ、ゴリラ、ゾウを模した灰色の『怪物』に変身し、襲撃に備える。
そして扉は遂に破壊され、2体の灰色の怪物が奥から姿を現した。
一体は鷹を模した、背中には翼が生えている、すらっとした体系の怪物。
もう一体は、虎を模した、両腕に生えた鋭い鉤爪が特徴の、図体のデカい怪物。
鷹の怪物はサイ・ゴリラの怪物の心臓目がけて光状の白銀の翼を広げてそれをぶつける。彼らの心臓は青い炎に包まれ、焼却されると彼らの体は灰と化して地面に落ちていった。
虎の怪物もその鋭い鉤爪でゾウの怪物の心臓を貫いたかと思うとゾウの怪物も灰と化して命を落とした。
鷹の怪物と虎の怪物はすぐさまそれぞれ、黄金のガラパゴス携帯端末がセットされているベルトと白銀をベースに青のラインが入っているガラパゴス携帯端末がセットされているベルトを液体付けとなっている研究装置から引き抜き、近くのテーブルの上にあるアタッシュケースにそれをしまい、研究室を去っていった。去る際、2体の怪物はアイコンタクトをとっていたのか数秒間静止していた。
都内某所。
住宅街であるこの街に、大きな高層ビルといった騒々しいものは見当たらない。
この街にある一戸建ての住宅の一室に、一人の少年が茶色の木製のベッドの上ですやすやと眠っていた。
この少年の部屋は段ボールとベッドしかない、殺風景と言えば殺風景だった。ベランダへと繋がる窓の前に、青い色のカーテンが付いていて少しは殺風景ではなくなっているかもしれない。
時刻は午前3時半。外は冷たい空気で溢れている。その冷たい空気が、ベランダの窓が開けられると同時に少年の部屋の中に流れ込む。その風に煽られてカーテンがゆらゆらと揺れる。少年は少しその寒気を感じたのが身震いする。
雲一つない夜空にある満月から、月の光が地を照らす。部屋の床には、月の光によってつくられた、翼が拡げられた怪物の影が映りこむ。その怪物が部屋に足を踏み入れると、影は怪物のそれではなくなっていた。手に持っていたアタッシュケースを少年の寝ているベッドの脇に置くと少年の寝顔を一目見る。かわいい。率直な感想だ。
しばらくして、冷たい外の空気が入る事は無くなり、窓は締められていた。
(お前が自己成長を続ける限り、『それ』は、お前と、お前の周囲を、護ってくれるだろう……)
時は2016年、時刻は夜の10時半だ。
六本木界隈は、絶えず光をあちらこちらに放ち、脈動を続けていた。いや、夜でこそ、六本木の街は花を咲かせるのだろう。
軒並み並ぶクラブ等の酒による交流の場所は、年齢層問わず多くの人々で賑わっていた。
そんな六本木に隠れ家のように出店しているバーがあった。紫色の立て看板で、“BAR CLOVER”とある奥の暗い階段は、どこか未知の世界に連れていかれるようだ。
そのバー店内で、4人の男女がカウンター席で酒を嗜んでいた。バー店内の雰囲気は全体的に暗い。青色のネオンライトが部分的に店内を明るくしているくらいだ。カウンター奥には多種多様な銘柄のお酒の瓶が所狭しと並べられていた。国産外国産問わない。それぞれのテーブルの上には、シャンパンが注がれたグラスがある。
「それでは引き続き、あなた方には裏切り者のオルフェノクの始末、並びに『5本の』ベルトを奪って、いや、取り返していただきたい」
シャンパンを少し口にしてそう言い放ったのは、上下黒のビジネススーツを身に纏った、黒のネクタイをゆるめたビジネスマンだった。黒髪はうまく半々に分けられ、爽やかな男だ。しかし、彼の表情からは何を考えているのか分からない。腹の底が読めない男だった。
「……帝王のベルトは私たちの手には負えないかもねぇ~……」
ビジネスマン同様、腹の底が読めない、皺ひとつない真っ白なワイシャツに黒のベストを着用した、綺麗な黒髪はポニーテールでうまく後ろに結ばれている、全身から色気を出しているバーテンダーの女が本当にそう思っているかどうかは分からないがそうつぶやく。
「あなたにしては、随分と弱気ですね」
「フフ、冗談よ。帝王のベルトだろうが何であろうが、私たち『ラッキー・クローバー』に不可能はないわ。必ず奪って見せる。勿論、他の3本のベルトもね」
「そうですよ。我々ラッキー・クローバーを侮らないでいただきたい」
手持ちのタブレット端末とにらめっこしていた、眼鏡をかけた男はどこか知性的な雰囲気を漂わせている。服装は黒のジャケットに黒のジーンズと渋い格好だ。彼は突如として話に割り込んできた。ラッキー・クローバーの一員としてのプライドがそうさせたのか、バーテンダーの女性の話に便乗した。彼はテーブルの上のグラスを持ち、シャンパンを一気飲みしてグラスをテーブルに叩きつけた。その勢いで彼は口を開いた。
「ファイズ、カイザ、デルタ、そして二本の帝王のベルトは、必ず私が手に入れて見せましょう。勿論、裏切り者のオルフェノクの抹殺もです」
「おお、これは頼もしい。やはり、あなた方と組んで正解だった……。期待していますよ、琢磨さん」
ビジネスマンの放った一言が琢磨という男のプライドを更に肥大化させていた。彼はその言葉が嬉しかったのか少し不敵な笑みを浮かべた。彼は手持ちのタブレット端末をハードケースにしまうとカウンター席を立ち、店を後にしていった。
「冴子さん、おいしいお酒、ごちそうさまでした」
この一言を残し、琢磨という男は消えていった。
『ジェイ、あなたにも期待しております。どうか私と……、いや、『私なんかよりも』チャコの為に、その腕を振るってください』
『……、チャコ……』
ジェイと呼ばれた黒人の大男は抱きかかえていた愛犬チャコの毛づくろいをしながら、ビジネスマンに対して御意を示していた。
「成果によって、あなた方の報酬はかなり弾ませますよ。コストを支払うべきところにはとことん支払う。それが私のビジネスにおける流儀でもあるのでね」
そういってビジネスマンの男も目の前のグラスのシャンパンを一気に口の中に流し込むと、店を出ていった。
「村上クン、またいらっしゃいねぇ」
村上という男が座っていたカウンターテーブル上には、1万円札1枚が置かれていた。
(さーてと、今日提出のレポートも出したし、真理さんに髪を切ってもらおうっと)
時刻は15時。
慶城大学の正門を出た、マッシュチックにセットされた髪型、この日の服装は、黒のパーカーにアメコミの恐竜型の怪人が描かれた白のTシャツをインナーとして、黒のスキニージーンズを履いた、ヒップホップを意識したような服装の賢二は、駐輪場に止めてあった黒の二輪バイクを押しながらそう考えていた。車が絶え間なく行きかう道路が目に見えてくるとエンジンをかけ、バイクに跨り、道路へと飛び出していった。
走る事20分。夕方のこの時間も多くの車が走行している東京の道路は、体内を駆け巡る血液のようだ。この日は晴れで、遠く西の方を見渡すと、夕陽を拝むことが出来る。交通整理の役割を果たしている信号も多く設置されていて、一つの信号機の待ち時間は長い。賢二はとある信号の交差点で立ち止まった。目の前の信号は赤。勿論『止まれ』だ。
賢二は退屈しだしたのか、東京の街並みを見渡すように目を動かす。人が多い。第一の感想だ。そろそろ信号機が青に変わると判断した賢二はフルスロットルを回し、バイクを動かそうとした。その時だった。
「この裏切り者のオルフェノクめ……」
「はぁ? 人間と仲良くしちゃいけねえってのかあ!?」
突如として、賢二の脳内に誰かの会話が響き渡った。このやり取りがどこで行われているか。賢二はなんとなく目星がすぐについた。進行方向とは逆方向だ。賢二ははぁとため息をついて、意を決したのか信号が青になると目の前の交差点をUターンして逆方向へ再びバイクを走らせる。
(こんな時間からおっぱじめやがって……)
そうこう考えている内に、やり取りが行われたと思わしき場所の近くの路地裏に着いた。賢二はバイクから降りるとリュックの中身から銀色のアタッシュケースを取り出す。スマートブレインの会社ロゴが大々的に印字されているがそんな事は気にもせず、アタッシュケースを開ける。中には、金色のガラパゴス携帯端末と金色の装飾が施されたベルトを取り出す。ガラパゴス携帯端末には、よく見るとΩの文字が刻まれた、中央に赤い球が埋め込まれているメモリーカードのようなものがセットされている。ベルトの右腰部分には、金色の短剣が装着されていた。グリップの先の金色の鍔は、クワガタのように刃先に向かって長く伸びているのが特徴の一つだ。賢二はベルトを腰に装着し、ガラパゴス携帯端末を開けると甲高い起動音がそれから鳴り響く。
賢二はそれに000と打ちこむ。一歩間違えればモスキート音と呼べるかもしれないような甲高い音がキーを打ち込むたびに鳴り響く。
Standing By
ENTERキーを押すと、『待機』を示すとてつもなく低い音声が発せられ、低いアラーム音が鳴り響く。
「変身」
賢二は携帯端末を閉じる。カチャといい音が鳴る。携帯端末をベルトに装填し、横に傾けるとベルトにちょうどよく携帯がはめ込まれる。
Complete
携帯端末からそう発せられると次第に賢二の体を黄金の光が包み、ベルトから全身にかけて金色のラインが迸っていく。気が付けば、黒を基調としたボディに金色のラインの装飾、肩から腰にかけて厚みのある黒いローブを羽織っている、フェイスには花魁の簪とも見れなくはない、ギリシャ文字のΩを模した装飾が施され、その中心にある赤い瞳は見る者全てを威圧する勢いだ。全身から溢れんばかりの絶対王者のようなオーラは周囲の空気を張りつめるのに十分すぎる。
黒の戦士は、戦闘はすぐ近くで起きている事を感じ取る。バイクを置き去りにして、一歩一歩、戦場へと足を進める。
カァ~、カァ~、カァ~!
近くにいた鴉たちは、まるで道を開けるかのように、その王者の足音が聞こえると空高く舞い上がっていった。
「オルフェノクでありながら、人間社会に溶け込もうとするこの恥知らずめ!」
「ちゅうか、おまえさっきから上から目線で超ウザってぇ!」
2体のオルフェノクが人気のない建物の裏で戦闘を繰り広げていた。
一体はヘビを模したオルフェノク。頭の部分を見ると、人間でいうドレッドヘアーに近いようなものがあるかもしれないのが特徴の一つだ。
もう一体はムカデを模したオルフェノク。手に持っているムチ状の武器は、ヘビを模したオルフェノクをこれでもかとなぶっていた。
状況はヘビを模したオルフェノクの圧倒的劣勢。何度も地面に伏しては果敢にムカデのオルフェノクに立ち向かっていくが、自身の攻撃は全て防がれ、カウンターを喰らう事を繰り返していた。
「はぁっ!」
「さっきから攻撃が単調なんですよねえ!」
ムカデのオルフェノクは手持ちのムチ状の武器を駆使してヘビのオルフェノクの胸と首の部分を殴打する。手首の動きはなめらかで、ムチはまるで生きているムカデのようにクネクネとしなり、ヘビのオルフェノクに着々とダメージを与えていた。
「グァァッ!」
ヘビのオルフェノクは数m吹っ飛び、再び地に倒れ伏す。ダメージの蓄積が体内の疲労と共に体を動かなくさせる。センチピードオルフェノクは手持ちのムチを地面に引きずらせながら動きを止めたスネークオルフェノクの元へと歩み寄る。まるで、何かの調教師のようだ。ムチと地面との摩擦でセンチピードオルフェノクが足を進めるたび地面に火花が走る。そして、2体のオルフェノクの間の距離はなくなり、センチピードオルフェノクがおもいっきりムチを振るい上げた。
「恨むなら、無力な自分を恨……、グァァァァァッ!」
振るい上げられたムチはスネークオルフェノクに届くことなく、何故かセンチピードオルフェノクが横に吹っ飛ばされる事となった。
しかしスネークオルフェノクはしっかりと見ていた。目の前のオルフェノクが何者かに銃撃されるのを。
そしてまたスネークオルフェノクは感じていた。耳においては人間時代から自信のあるものだったが、オルフェノクになってからは、遠い地で響く音まで聞き取れるようになっていた。
何かの足音がこちらへ向かってくる。歩調はゆっくりめだ。しかし、もうその主体は見えるはず。足音のする方へとスネークオルフェノクは振り向いた。
彼が見たものは、黄金のラインが黒を基調とした装甲に張り巡らされていて、フェイスの中心部は敵を捕えんばかりの赤い眼がこちらを睨んでいる。黒の戦士は気が付けば、自分の隣に立っていた。
「お、お前……、ファイズ……、ではねえようだな」
「……、確かに我は『ファイズ』ではない。我は自警団『アンノウン』の一人。ネット上では『黒の処刑人』と呼ばれているようだ」
目の前の黒の戦士は、あからさまに加工した音声で言葉を発する。加工後の音声は、ニュースの男性に対するインタビューでよく用いられているモザイク音、かなり低みのある声で、空気がこもっていてもごもごと聞こえるようなものだ。
スネークオルフェノクは、一応目の前の黒の戦士が自分に危害を加えるかと考え、身構えたがそれは徒労に終わった。センチピードオルフェノクを銃撃したツールであると思われる、黒の戦士が今右手で持っているガラパゴス携帯端末は、確かに銃の形に変形しているものだったが、その銃口は明らかに遠くのセンチピードオルフェノクの方を向いている。スネークオルフェノクは安心したのか仰向けになって空を見上げる。
「あー、はいはいはい。『黒の処刑人』か~。まさか、『都市伝説』上のヤツがマジでいたとはな~。ツイーターでかなり有名だぜお前」
スネークオルフェノクは少し回復してきたのか、右手で黒の戦士を指さして言い放った。
「それはどうも……」
「海堂さーん! 海堂さーん!」
二人の会話をよそに、センチピードオルフェノクがいる方向とは逆の方向から、一人の女が駆け寄ってくる。彼女はまだ幼さが垣間見える容姿で、艶のある黒髪をうまく分けて、デコを出していた。服装はピンクのタートルネックのセーターに、チノのスカートと派手ではない格好だ。彼女は傍にいた黒の戦士をよそに、スネークオルフェノクの所へ歩み寄り、彼の無事を確認する。
「海堂さん! 大丈夫ですか!? きゃっ! こっ、こちらの方は?」
まるで今そこにいたことに気が付いたかのように黒の戦士を見てそう言い放つ。
「こいつは……、『黒の処刑人』だ。何故かは知らねえが、オルフェノクの俺を助けてくれたんだ……」
「『黒の処刑人』って……。ネットの都市伝説上の存在じゃないですか……。この方が……。事情はともかく、海堂さんを助けてくれて、ありがとうございます……ッ! ハァッ!」
彼女は後ろから迫り来たムチに気が付き、鶴型のオルフェノクに変身し、その翼を広げて盾代わりとし、ムチの攻撃を防いだ。黒の戦士も迫りくるムチの存在に気が付き、ムチへ対して銃の引き金を引こうとしたが、彼女の方が先に動いていた。
「貴様……、見ず知らずの我を助けるのか……」
「だって……、アナタは海堂さんを救ってくれた恩人だから……」
鶴のオルフェノクはそう言い残して、再び動き出したセンチピードオルフェノクに向かって走り出した。彼女はセンチピードオルフェノクと戦うつもりだ。
しかし、あのセンチピードオルフェノクは手慣れだ。それは、これまで多くのオルフェノクを『処刑』してきた黒の戦士だからこそかもしれないが、そう考えていた。あの女性一人で立ち向かわせる訳にはいかない。いや、もしかしたら彼女に立ち向かわせる訳にもいかないのではないか。そう考えた時には、既に体が動いていた。
「ヘビのオルフェノクとやら、彼女とここから逃げるのです。あのオルフェノクは我が対処する」
「お、おい、マジでアンタ一人で大丈夫かよ……。あいつは相当……」
「我の事は心配無用だ」
「……そうかいそうかい……、お前、『処刑人』とかいう割には随分と優しいじゃねえの」
「……、『俺』も『あなたと同じ』ですから」
「お前……、今なんつって……」
「いいから逃げるのです!」
「……、お前も危なくなったら、逃げるんだぞ~!」
スネークオルフェノクは立ち上がると、フラフラしながらも駆け足で戦場を離脱した。
スネークオルフェノクの姿が見えなくなると、黒の処刑人は視線の先で行われているクレインオルフェノクとセンチピードオルフェノクの戦闘を捉える。
状況はまたもやセンチピードオルフェノクの優勢。クレインオルフェノクの上空からしかける攻撃をもろともせず、ムチを使って着実にクレインオルフェノクの体を傷つけていた。
「はっ……ははははははは! まさかあなたの方から出向いてくれるとは……、『冥帝オーガ』ァ! 冥帝のベルトは必ず私が手に入れてやる……」
「はぁぁぁ!」
「邪魔だ、失せろ!」
「きゃぁぁぁっ!」
クレインオルフェノクは持ち前の翼を活かして上空からの突進を試みたが、センチピードオルフェノクのパンチがうまくクレインオルフェノクの鳩尾を捉えるとドンと良い音が鳴り響き、クレインオルフェノクはその翼をもがれたかのように地に堕ちる。クレインオルフェノクは鳩尾を手でおさえると、なんとかして呼吸を整えようとする。うずくまり、立ち上がる事もままならなかった。
こうして、黒の処刑人とセンチピードオルフェノクが対峙する画が出来上がった。
センチピードオルフェノクはムチを振り回し、地面にたたきつける動作を繰り返している。自分を鼓舞しているのか。はたまた、相手を威嚇しているのか。その意図はわからない。
黒の処刑人の方は、携帯端末をベルトに戻し、手の指をパキポキと鳴らしている。手首足首を回す動作は、何かしらのスポーツを行う際の準備運動のそれだ。可笑しい事に足首を回す度に、そのつま先によって地のアスファルトが酷く抉れていく。
両者共に準備万端だ。僅かな静寂が戦場を包み込む。
「あなたも、『冥帝のベルトに選ばれる』ほどのオルフェノクでありながら、我々に仇なす活動をしている。まるで人間を護っているようだ……。オルフェノクとして恥ずかしくはないのですか?」
「愚問だな。我をはじめとする『アンノウン』の目的は、善良なオルフェノクと人間を護る事だ。我にはアナタの存在こそ恥ずかしく思える。『視野の狭いレイシズム』はいつかオルフェノクをも滅ぼすだろう」
「言ってくれますねえ……。今すぐその口を黙らせてあげますよ!」
先に静寂を破ったのはセンチピードオルフェノク。
ムチを用いて遠距離にいるオーガに攻撃する。
そのムチのしなりは未だに衰える事を知らず、急スピードでムチはオーガのボディに到達する。
しかしながらオーガは避けようとせず、そのままセンチピードオルフェノクの攻撃を受けた。オーガのその体は仰け反らなかった。オーガはムチの当たったところをみて、右手でパンパンとまるでホコリを払うかのようにはたく。そして再びセンチピードオルフェノクをみて棒立ちになる。
「な…、何故だ……、何故攻撃が効かないッ! ああああッ!」
センチピードオルフェノクは再びムチで攻撃を開始する。確かにムチは何度もオーガにあたっている。しかし、そのボディには傷一つつくことはなかった。オーガは攻撃をその身で受けながらセンチピードオルフェノクとの距離を着々とその歩みで詰めていく。ペースはかなりゆっくりだ。
「ひっ……。うぉぁぁぁぁぁぁ!」
センチピードオルフェノクはムチによる攻撃をやめ、肉弾戦を仕掛けにオーガに突っ込んでいく。
オーガとセンチピードオルフェノクの距離がなくなる。センチピードオルフェノクはオーガの胸の辺りを右拳で殴打するが、オーガは微動だにしない。攻撃を受けたオーガはカウンターとして同じく右拳をセンチピードオルフェノクの胸の部分にぶつける。瞬間、黄金の光が右拳に宿る。バンとまるで銃声のような重みのある音が周囲に鳴り響く。その音がするやいなやセンチピードオルフェノクはバットに当てられたボールのように大きく後方へ吹き飛ばされる。背中から地面に落ちると、コンクリート地に大きな皹が入る。
「そこのアナタも、はやく逃げなさい……」
オーガは未だに地面に横たわっているクレインオルフェノクに一言残し、センチピードオルフェノクに追撃を加えようと、ゆっくり目の歩調でその足を進めていく。
クレインオルフェノクは、オーガの背中を見た。その背中の大きさはどんどん小さくなっていく。なんとか立ち上がり、オーガの忠告通りにその場所を離れようとしたが、オーガが進んでいった逆方向から、2台のバイクが近づいてくるのが聞こえた。どうやら事はうまく運べそうにないようだ。
「ぐはぁッ……。何なんだ……。あの規格外はァッ!」
「見つけたぞ」
何とか立ち上がり、クレーターの出来た場所から逃げようとしたセンチピードオルフェノクだが、虚しくもオーガに捕まってしまった。
ここはとある海沿いの埠頭。人通りは限りなく0だ。ボロボロの倉庫街が、寂れた風情を演出している。潮風で運ばれる潮の匂いが時折鼻につく。
センチピードオルフェノクはおそるおそる後ずさる。体は震えている。武者震いでは決してないだろう。
一方オーガは傷一つないボディをセンチピードオルフェノクに向けたまま、足をゆっくりと動かしている。西に位置する夕陽の赤い光線が、オーガの金色のラインを輝かせている。直視していると目が焼かれそうだ。
瞬間、そのオーガは走り出した。一気にセンチピードオルフェノクとの間合いを詰めると、左手でセンチピードオルフェノクの首の根っこを掴み、その体をいとも簡単に持ち上げる。
「離せ! 離せ!」
センチピードオルフェノクは手持ちの鞭で頭、首等を殴打するがオーガはまたしても微動だにしない。ジタバタと、漁師に手づかみされた魚のように足掻くがオーガの前では無意味であった。オーガは相手の攻撃をもろともせず、右拳を作り、先程と同じように金色の光を纏わせると、その右拳をセンチピードオルフェノクの鳩尾に思いっきりぶつけた。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
センチピードオルフェノクはまたしても大きく吹っ飛ばされ、近くにあった倉庫の壁にめり込む、だけでは終わってはくれず、壁を貫通して倉庫のコンクリートの床に思いっきり叩きつけられた。
悪魔の足音は止まることを知らない。また追撃しに倉庫の中に入ってくる。そう感じたセンチピードオルフェノクは最後の力を振り絞って、先程オーガが開けた穴とは違う壁を壊して穴を作り、そこから猛ダッシュで駆けだしていった。
オーガが自分で作った穴を通して倉庫の中に入るが、もうそこにはセンチピードオルフェノクの姿も気配もなかった。オーガはもう一つの穴を見てはぁと溜息をついた。
オーガはその倉庫を後にした。倉庫の中の中心には、大きな皹が入っていて、使われる事の無かった貨物が粉々に壊されて散乱していた。