「今は」まだ、交差することなき「影法師」ふたつ。
何なんだ。これってお約束ってやつか?。と、思った。
フラグばっかり、立ちやがって。とも。
***
セキュリティカードを手に入れて分院に入って、情報を集めるうちに
まるで、この僅差のすれ違いは予め仕組まれたことかと、疑う話だった。
ある思念体は言った。分院に「人間」がいる、と。
更に、ある思念体は言った。ついさっき、ここにいた「人間」が。
ここを我が物顔で占拠している悪魔の隙をついて、外に逃げたらしい。と。
それを知ってからの俺は、だいぶ焦ってたと思う。
手を伸ばしても、あと少しで、届かないことに。
誰だ。「先生」か。それとも「あいつ等」か。
待ってくれ。追いつくから。待ってくれよ。
力任せに進む俺は、周りを見ていなかった。
ただ、「他の人間」に会いたいばかりに。気付かなかったんだ。
新たに「仲魔」になってくれた彼らが、疲弊している事に。
ピクシーに...「彼女に」諌められるまで、ずっと。
『...悪かった。皆も、ごめん』
「ねえアラト。ヨヨギに行きたいアタシが言うのも、アレだけど」
『うんわかってる。...ごめん』
「...なら、いいわ。アイツに勝たなきゃ出られないんだし」
『皆も、ごめんな』
「ううん、ボクらもがんばるから。ねっ?」
今の俺は、「彼らと同じ」だとわかっていなかった。
「仲魔」は、「使う」モノだとどこかで思ってさえいた。
「人間の俺」は、彼らにさえ、敵わないというのに。
「悪魔の俺」だから、ついてきてくれているのだと。
...それでも。俺は「人間」だ。外側は「悪魔」でも。
逸る気持ちを抑えて、ここから出る事へ意識を向ける。
そうだ。ロビーで悠然と泳いで?いるヤツを、ぶっ倒さねえと進めない。
じゃあ、やることは決まってる。選択肢なんて無い。
そしてもう、今からは「間違わない」。
***
どれくらいの時間が経ったかなんて、考えてる余裕もなかった。
撃てるだけ撃てる「魔法」と、殴れるだけ殴る「打撃」で。
「俺達」は、ヤツを斃した。息も絶え絶えになりながら。
やっと断末魔の声をあげて、ヤツが霧散してゆく。
それを見届けて、地味にキツかったことを反省した。
このままじゃ、先へ進むのは困難だと。
『(やることはやらないと、マズイって現実か)』
「...はぁ。もう魔力、使いきっちゃった。...アラト」
『ああ、回復してもらおーぜ。今、外に出たら、しぬわまじで』
「ボクらも、もおホント、くたくただよぉ。」
「うん、頑張ってくれてサンキュな。助かった」
...ついでに、勝てるわけないと嗤って賭けてきた
ある思念体の「オッサン」の財産ももらってきたのは
ほんの、ついでの余談だが。
***
そうしてやっとの思いで出た「外」は。
病院の窓から見えた以上に、変わり果てていた。
倒壊したビルと街並みは、あらかた「砂」に埋もれて
舞う風は砂塵と共に、俺に吹き付ける。
あまりの変わりように茫然としていたら、首の後ろの突起が
ちりっ、と乾いた音をたてた。と、同時に感じた、「何かの気配」。
ピクシーが何かを言うのを制して、思わず身構え正面を見やった。
瞬きのあいだに忽然と現れたのは「金髪の子どもと老婆」。
相変わらず上から目線で、直ぐに死んでしまう事を恥だと言い切り
それがなかったことを、安心されてしまった。けれど。
...「情け」だと?。あんた達が、俺にした事が?。
ヒトのままで、ここにいる「人間」が存在してるのに。
何で俺だけ「悪魔化」する必要があるんだよ!。
答えはなかった。それどころか、完全にスル―されて。挙句に。
「老婆」は、この世界の「今」を淡々と語り、瞬き一つの内に消えた。
世界を創るのも良し、壊すのも良し...?。
世界なんて、とっくに壊れてるじゃないか。何を今更。
あ?。...もしかして「創世」とやらか?。
なあ。「先生」といい、「あんた達」といい、
含みを持たす言い方するのは「大人」の特権か?。
...すっげムカつく。だから「あいつ等を探す、ついでに」。
何がどうなっていくのかを、知ってやると決めた。
「聖(ヒジリ)さん」に頼まれたからじゃなく、自分の意志で。
俺は、「仲魔」と共に、「ヨヨギ公園」へ向かった。
そこで1つの選択が待っている事に、気付かないまま。
「老婆」が最後に言った言葉の意味を、俺が理解するのは
まだだいぶ、先の話だとうっすら感じてはいたくせに。
そんなこんなで、「俺達」が立ち去ったあと。
一陣の風が、「アイツら」を連れてきたことは知る由もない。
***
砂塵舞うかつての都市に、二つの影が降り立つ。
1つは、「少年」だった。
風に、はためくは黒き外套。腰に帯びしは、黒き鞘と旧き銃。
黒き学生服を纏い、胸元で白きベルトに固定された「銀の管」。
目深に被った学生帽から覗くは、涼やかにして意志強き、眼差し。
「少年」のそばに、ゆらりと現れたもう1つ。
それは一見すると、ただの「黒猫」だった。
吸い込まれそうな翠の目と、艶やかな黒い毛並み。
その「黒猫」は、ちらりと少年を見上げるように鳴いた。
...否。鳴いたように聞こえるのは、力持たぬ「人間」の耳にだけ。
「...ここが、ボルテクス界か」
「どこか「帝都」に、似た雰囲気を感じるが」
徐に。ライドウ、と、「黒猫」は「少年」を呼ぶ。
呼ばれた「少年」は、すっ、と目線を「黒猫」に下げた。
「...何でしょう、「業斗(ゴウト)」さん」
「どうする?。ここで「人修羅」に接触を試みるか、それとも」
「いえ、まだ来たばかりです。ここは、一先ず」
「...少し、泳がせるか。ふむ、それもよいだろう」
二つの視線が、俺を捉えていることなど。
今は、知る由もなかった。
異界より、「彼ら」が到着です。