かつて、あらゆる最先端の象徴だった都市は。
少しの面影を残して、壊れた建物の瓦礫と砂に、半ば埋もれていた。
そこから離れてしまえば、辺り一面は間違うことなく。
いつかテレビで観た、「砂漠」だった。
暫く進むと、「東京」は、「トウキョウ」と呼ばれていると知る。
読みは変わらないのでややこしいが、漢字からカナ表示になったという所か。
なんだそりゃ、と思ったが受胎により「前の世界」が滅びたせいで
旧い呼び方をかえたつもりか?。だとしたら、滑稽な話だ。
ひたすら、「人間」が向かったという南を目指す。
途中、級友と思しき思念体に会った。
相変わらず漏れ聞いた「噂話」を語り、そいつは「創世」を否定して嗤った。
途中、世界は丸くなると言ってた人だった、思念体に会った。
木星の予言によれば、「人修羅の男」が、新しい世界を創造すると。
そう言って、俺をまじまじと見て「アレ?」って言うかフツー。
語尾があやしかったから、あの時も今も、酔ってるんだなと
そう思って、さっさとスルーして進んだ。そして。
...ピクシーが。「彼女」が示していた条件の場所に、着いた。
本来なら、「彼女」とはここで別れなくちゃならない。
「彼女」も、そう言って振り返り、俺を見つめる。
...なのに。何だ、この穴が開いたような寂しさは。
母さんを失くした時とは違う、感情。
俺は、この感情を知ってる?。バカな。
...でも。このまま別れてしまうのは。...「嫌だ」。
それを言いたいのに、言えず、小さな両手をとった。
なあに?どうしたの?と、小首をかしげて俺に聞くのに。
俺は、どうしてもそれが言えないで黙ってしまった。
こんな小さな「妖精」を頼っていることが恥ずかしくて。
言ったら、嫌よ!と拒否されるのが怖くて。
けれど、「彼女」は逡巡したのか、俺に言った。
「ねえ、アラト。ひょっとしてずっと一緒にいたいって思ってる?」
『(!!)...ああ。ダメ、か?』
「ふーん。そう言われると、悪い気はしないかな」
『(!!!)...じゃあ、いいのか?。ここに居れなくても』
「しょうがないなあ...もう少しだけつきあってやるか!」
小さな両手を取る手に、思わず力が籠ってしまう。
けど、痛い!!の声に驚いて手を離した途端、間髪入れずに
頬を叩かれたけれど、今度は痛くなかった。
...俺、もうたぶん「彼女」には頭、上がらねぇなと思った。
***
なんていうか、ちょっと視界の暴力みたいな悪魔から
どんな怪我をも治す、施設があるとは聞いたけど。
やたら、意味深なのが腑に落ちなくて。
とっとと行きやがれ、イカすからって...なあ。
それで...実際、行って納得した。したけどさ、俺も男だから。
そこには、湧き出る透明な光を佇ませた泉と鉱石のような岩棚。
その上で揺れる、レースをあしらった白く大きなベール。
胡坐をかいてすわっていたのは白い肌の、全裸の美女..と思う。
何で全裸?!。目のやり場に困る!!と、焦ったけれど。
聖女と呼ばれるだけあって、本人は何ともないのか淡々としていて。
...変に焦った俺が、ものすごく俗物に思えて居た堪れなかった感は
しばらくの間、利用するたびに消えなかったのは...余談だが。
美女と思うって曖昧な言い方をしたのは、単純に顔がみえなかったから。
新宿衛生病院の思念体と違い、施設みたいだから有料なのは、しかたない。
ただ、何故か出る時に後ろを見るなって言われて、その一言が気になった。
全く意味がわからず、何か怖かったからそのまま出たけれど。
...もしも振り返ったら、どうなるんだろな。
***
砂地を踏みしめて歩くこと、どのくらいか。
時計がないので、カグツチの周回を時計代わりに
歩いてきたら、やっと「シブヤ」に着いた。
やっぱり、砂に埋もれてはいたけれど。
急いで、「人間の女」がいるという場所を探す。
喧嘩を売られて、ボコったら態度を改めてそれを教えてくれた
やたらガラの悪い、思念体には呆れたけど手加減できなかった。
地下街の一角。重たく厚い扉を、押し開く。
視線の先に見た、思念体じゃない「人影」が、動いた。
探してた、「人間」のうちの1人。
病院にいたことで、東京受胎を生き延びた「人間」。
級友であり、幼馴染の少女「橘 千晶」だった。
望んだ再会。けど、疲れ切った顔で俺を見つめる目に
俺は、姿が変わってしまったからだと怯んだ。
どんな顔をすればいいのかと聞かれて、えっ?と聞き返すと
俺の名を呼び、わかると、大丈夫だと告げられて。
俺と同じように、泣き喚いて。醒めない悪夢だと知ったと。
何が起きたのかと問われ、「東京受胎」だと教える。
納得するしかない答えに俯きながら、世界中で、「人間」は
自分1人なのかと本気で考えたと言った。
俺に会えてよかったと、「橘」は言って歩き出す。
みんなを探すと言う「橘」に、一緒に行こうとは言えなかった。
何故なら、あいつは俺に出会えたことで、希望が見えた気がすると言う。
そして。このままじゃ、気が済まない、と強い光を瞳に宿していたから。
こうと決めたら、あいつは自分の意志を曲げない。
女子だけど、その強靭さは俺でも敵わない。
我儘とは違う、強い気持ちで前を向く。
...けれど。すれ違いざまに、ぽつりと小さく呟いて
「橘」は、振り返らぬまま、ここを出て行った。
まるで、俺と自分に言い聞かせるかのように。
運命は、そんなに残酷じゃない。残酷なんかじゃない。
でないと、あんまりだと...その呟きが、どうしてか。
いつまでも、耳に残った。
1人目の。
今はまだ「弱き」、神の依代。
2/29、ちょこっと、加筆修正しました。