射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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迷いながら、開ける、この世界の1つの「禁忌」。


転瞬にて生まれ、永劫を誓わん

『なんっで【事故る】んだよっ!態とかっ!』

「態とでは無いと、毎回言っておるだろう!要因は...云々」

『返せ戻せ!俺の仲魔あっ!』

 

 

 

***

 

 

トウキョウに点在する「施設」のひとつ、[邪教の館]。

そこは、悪魔どうしを掛け合わせて、違う悪魔を創り出すという機能を持つ。

その機能は、我らを材料に使うという意味では全くもって恐ろしき所業だが、

我が主(あるじ)たるアラト殿にとっては、更なる高み、より強き戦力となる

「仲魔」を得られるということを可能とする好都合な「施設」だ。

 

......但し、いかなる条件によってかは未だに不明瞭だが、たまにこうして

ありがたくない【事故】が起こる。

 

その時のアラト殿の不機嫌ぶりたるや...ああ、怖や怖や。

 

 

 

「アラト殿、落ち着かれよ。新たな仲魔が困惑しておりますれば」

『...悪い。ええっと、俺はアラト。よろしくな』

 

 

バツの悪そうな顔を引き締めて、新しい「仲魔」へ向きなおり挨拶をされた

主(あるじ)に困惑しながらも己が名を名乗り、「今後ともよろしく」と

告げる彼の者がちらりと視線を寄越す。

 

 

「気にせずともよい、主におかれてはいつもの事ゆえ」

『...しょうがないだろ。弱点消しとスキル継承、苦労したんだぜ』

「結果として、良き仲魔を得られたではありませんか」

 

 

 

        ...わかってるよ。ここは、俺にとって必須ともいうべき機能。

        ...だけど、どうにも嫌だという思いが消せずにいる自分がいて。

        その所為で、なかなか利用する気になれない所だったんだよ。

 

 

 

そう言って聞けた少し前の話は、未だ変わらぬ主の本質を垣間見る出来事だった。

 

 

***

 

 

「橘」と別れたあと、俺は「シブヤ」の地下街を見て回っていた。

そこにターミナルとは違うマークがある扉を見つけて、恐る恐る入ってみたのだ。

小さなプラズマ?のような光が幾筋も飛び交い、およそ機械らしからぬ形の「それ」は

司教のような司祭のような男の後ろに設置されていた。

白い顎鬚を伸ばした初老の男は、サングラスらしきものをかけているのが謎だったけど。

 

 

 

「ここは[邪教の館]。我々の秘術は、悪魔を従えておるお主の助けとなり得るだろう」

『どういう意味だ?それに、他にも俺みたいに仲魔を連れてるヤツが?』

「...特例だ。実際にはお主の意志でもって行う事を、見せよう」

 

 

 

質問に答えはないまま、そう言うと、俺の「中」の「ストック」から仲魔が2体、

引っ張り出された。俺が「仲魔」を呼べたり引っ込ませたりできる原理は、よくわからない。

思うに、俺の体を軸に、便宜上「ストック」と呼んでる「異空間」に待機させてる感じか。

 

気がつくと悪魔化してからずっと一緒にきた仲魔が、機械のてっぺんに現れる。

やがて、彼らが黒い泡?のようにその姿を変えていき、中心に集まり凝縮されていく。

そして目を覆うほどの閃光が走り、薄闇に見たことのない悪魔が現れた。

呆気にとられてる俺に、館の主は事も無げに「これが秘術【悪魔合体】だ」と言った。

 

 

 

 

「案ずるな。今回は特例だ、戻っておるのがわかるだろう?」

『...なんでこんな事をする必要がある。俺が強くなればいいだけだろ』

「それで渡り歩けるほど、悪魔が跳梁跋扈する世は甘くは無いぞ」

『...俺に、俺の為に仲魔に材料になれって言えってのか』

「それを言わねば、お主は先へは行けぬ。それが何を意味するかは、わかる筈」

『.......。』

 

 

 

俺は踵を返して、そこを出た。何も言い返せなかった自分に腹が立って。

すると仲魔の「コダマ」が、無言で歩く俺に話しかけてきた。

その言葉に驚いて、俺は歩を止める。...おまえ、マジで言ってんのか。

 

意味わかってんのか?と聞けば。

 

 

「うん。ボクは、キミの〔強さ〕になる。足手纏いにはなりたくないよ」

『見ただろ?!おまえ、消えちまうんだぞ?!しぬんだぞ!!』

「あたしも同感だねぇ。おまえさんの行く道の露払いもできないんじゃ意味も無いさね」

『ダツエバ...』

 

 

仲魔の「ダツエバ」まで、そんな事を言い出して俺は、言葉を失う。

そんなに俺が頼りないかと言うと、ばかだねぇと言いながらしゃがれた声でヒヒヒと笑った。

そして。体は失くしても、記憶は、気持ちは新たな仲魔の中に残るからなんて、陳腐な言葉を

言ってまで俺に決心させるつもりなのが見て取れて、涙が浮かびかけたのを隠そうと目を瞬いた。

 

 

 

「但し、妖精の娘っこは置いときな。最初の仲魔なんだろう?」

『...それは、でも...』

「いいのさ、それで。あの娘っこは、おまえさんにとって別格だからねぇ」

「そうそう。ピクシーちゃんは、お姉さんみたいだもんね!」

 

 

 

ゲラゲラと笑って茶化すようにしたのは、俺への気遣いか。

彼らだって病院からついてきてくれた、最初の仲魔なのにと言わさずに呑み込ませて。

そうして。だから、躊躇うなと彼らは言って俺の背中を押した。

ここまでされて応えないわけにはいかなくなった俺は、再び、あの扉を開く。

 

 

 

         「「大丈夫。いつもキミのそばに在るから」」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

『だから!タイミング狙ってきたのに【事故る】なあああっ!』

「こればかりは如何にもならんと、言っておるだろうっ!」

 

 

 

...また、であられますか。ようよう【事故】がお好きと見受けられますな、館の主どのは。

我が主の言いあいも最早当たり前のように繰り広げられていて、違和感などなくなりましたなぁ。

我が主は相変わらず、時折、苦しげなお顔をなさるのは未だに直られぬようですが。

 

それでも主(あるじ)は、アラト殿は、前を向き、歩いてゆかれる。

なれば我らは、この身に持ちし力と能力でもって、矛となり盾となりましょう。

 

 

 

...したが、アラト殿は気付いておられるのか。

館の主が話した、主の身の内にある「マガタマ」が如何なるものかを。

悪魔の力を封じたるソレは、寄生した人間を悪魔の姿に変えると。ここまではいい。だが。

 

 

 

「我々は、ある使命を受けてマガタマを遣う者の手助けを任としておる。

お主がこの地に眠りし全てのマガタマを集め終えしとき...それは我々が使命を果たす時と為ろう」

 

 

 

この言葉の意味することは何ぞや?。一介の悪魔である我には分かりかねる。

...いつか分かる時が来ようが、その時、アラト殿が苦しまれることになど

ならないようにと願ってやまぬ。

 

 

その時、我はそばに居らぬやもしれまいが、それでも、切に。

 

 

 

 

「まあまあ、落ち着かれませ、アラト殿。ほれ、彼が困っておりますぞ」

 

 

 

 

そう言って、笑って背中を押すのはいつものこと。

姿が、種族が、すべてがかわってしまっても。

 

 

 




初めて訪れた邪教の館での、葛藤。その後も拭えないまま続ける行為。
せめて、強く在れと時間をかけて吟味して、決定を下す。


...のに、事故られた日には。そりゃ怒るでしょう(笑)。








ゲームプレイ中、合体事故るたびに結果が望ましくないときは即リセットでした。


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