今は...。
今も思う。アレは、妙な悪魔じゃったと。うーん、なんという名じゃったか。
若い連中はやたらと懐いてしまったが、それも無理からぬことかのう。
アレは、悪魔らしからぬ悪魔じゃったからな。悪魔と言えば、ワシら「マネカタ」に
苦痛を強いらせて「マガツヒ」を搾り取ったり、奴隷として使ったりするのが当たり前で
ワシらはそれに抗う術は無く、受け入れるしかなかった。嫌なら逃げるしかなかった。
じゃが、アレはそんなことには全く興味を持たなんだな。何でかは知らんよ。
他の悪魔を退ける力を持ちながら、ワシらに危害を加えることはせんかった。
いつも、懐かしいものを見るような目をしておったのう。
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「ギンザ大地下道」の入り組んだ道の先に、「彼ら」は隠れ住んでいた。
「人間」を追っていたら「人間を真似て」創られた存在に会うとか、
何の因果だろうと思った。「人間」に似せているとはいえ表情も乏しいし、
動きも妙で。でも会話するのは、何気に楽しかった。
濁さずストレートな言い方がツボにきたとでも言おうか。
ただ。困ったことに、俺が向かう「イケブクロ」から逃げてきたらしい
「彼ら」によって、そこへと至る途中の扉は閉ざされていた。どうするかと
思案にくれていると「彼ら」のなかの1人が言った。
「ガラクタばかり集めてるマネカタ」にはもう会ったか、と。
行ってみれば、扉の前にはそれはもう分かりやすいほどに「人間」が
使っていたモノの残骸が陣取っている。
入ってみたら、これでもかと壊れたショーケースに飾られていて、まるで店かと
錯覚したほどによく集められていた。そしてそこに、件の「彼」が居たのだが、
通さない門番に口利きをする代わりに、あるモノを見つけてきてほしいと
頼み込まれては、否も応も無い。「それ」があるかもしれない「人間で賑わっていた場所」
なんて、ありすぎてヒントにならないと思いかけたけど、俺は1つ心当たりがあったのを
思い出して「ギンザ」に戻った。
『(...ビンゴ、だな)』。
見張りがいない間に、どうにか「それ」を盗み出したはいいけど戻ってきた見張りと
鉢合わせしたのは、世の中やっぱり甘くないらしいことの証明か。
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持ってきた「オサツ」を手に取り、こっちが引くくらい喜ぶ「彼」は、早速口利きの手紙を
書いてくれたし、そして何て書いてあったかは知らないけど、門番は、割とあっさり通して
くれた。...なんだこのノリは。まぁいいけど、通れりゃそれにこしたことはないからな。
長かった地下道を抜け、外へ出て「霊園」を通り、砂漠を歩いた。そして。
力が全てだという、ある意味最も悪魔らしい思想を貫く集団の拠点へと向かった。
...まさかそこで、探している「人間」の2人目に会うなんて、予想だにしてなかった。
高い高いビルだったモノの、入口の扉の向こうで、聞き覚えのある声に俺は急いだ。
開けた扉の先には、図体のでかい悪魔に向かって何かを言う「人間」の後ろ姿。
「東京受胎」のあと、病院からここまで自力できたのか、いきなりここまで飛ばされて
きたのかは分からない。もし、自力でここまで来れたのなら、俺より「橘」より
すげぇなと思ったけど、真相は。あいつは...「新田」は、俺に気付いて振り返ったけど
すぐには俺だと分からなかった。
また新たな悪魔が出たと思ったらしいけど、まじまじと俺を見て名を呼んだ。
そして、ここで時間を食ってるヒマは無いと、「先生」が...と言いかけた隙に、
後ろの悪魔に殴られて立てないところに悪魔の手が「新田」の頭に乗せられる。
そこから赤いモノが、抜かれていく。ずるずると、引き出すように。
俺は、初めて「マガツヒ」が抜かれる瞬間を見た。
命宿る者から、命の灯が抜かれるのを。
力無く倒れた「新田」を見下ろし、俺に向かって悪魔は言った。
「このマントラに足を踏み入れたる者は、全て、我が裁きを受けてもらう」
力を示さねば死ぬ。シンプルで分かりやすい「理不尽」。
それが、ここで行われている「決闘裁判」だった。
俺は、それに勝たなければならない。
負ければ、死んで全てが終わる。それは俺の選択肢には無い。
要は、勝てばいい。どんな手を使おうとも。
それもまた、シンプルで分かりやすい「理不尽」だ。