射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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「彼ら」は皆、お前のための「贄」なのだ。
今は未だ、弱き人の身でもある、お前の為の。


楔穿たれし人の身よ、汝、抗えぬを知れ

遠目からでも気付けた、「異常現象」。

 

どこからともなく大雨のごとく、「マガツヒ」が、あの高い建物に降り注ぐ。

そして、雨があがるかのように、「マガツヒ」が、じわりじわりと天へ昇っていく。

まるで何かに吸い上げられていくかのように、どこかへ消えていく。

それを、離れたところから見た2人?が、動いた。

 

「....あれは、イケブクロとかいう所だな」

「ええ。調べに行きましょう。...嫌な感じが、します」

 

砂塵舞う砂漠を駆け、「人修羅」と初めて対面した大層高いビルヂングへ向かう。

その「異常事態」によって、依頼以外のことにまで関わる事になるなど。

僕も、ゴウトさんにも予想など出来よう筈も無かった。

 

 

****

 

 

実際に現場に来てみれば、目の前で起きている現象はさらに凄まじきものだった。

ゴウトさんが低く呻いて、見据えた視線の先では マントラ軍の悪魔たちが息も

絶え絶えに苦しみ、震え、それでも膝をつかないのは力を誇示する者の意地なのか。

 

「....ニヒロ機構とやら、よくもここまで非道なことを」

「悪魔には、できない芸当でしょうね」

「....「人間」だからこそ可能な蛮行、か」

「本人は蛮行などと思ってはいますまい。寧ろ正当防衛だと言いそうだ」

「....確かにな。先に仕掛けしは、マントラの方だからな」

「.......!!」

 

どうした、と言いかけたゴウトさんを掴みあげて、物陰に身を隠す。

僕の視線を追うように、そこへ目を向けたゴウトさんの翠の目が見開かれた。

遠くから、こつりこつりと響いてくる「靴音」。

悪魔だらけのこの世界で、自分以外の靴音など久しぶりに聞いた気がする。

それは、その音を出せるのは、「人間」の証だからだ。

勿論、悪魔にも服や靴を身につけている者はいる。

 

だけれど、「人間」が出す音とは明らかに違うのだ。だから「分かった」。

ここに近づきつつあるのは、「受胎」を生き延びた「人間」のうちの誰か、だと。

 

 

「(....あれは、生き延びた1人だな。若い娘ということは。)」

「(ええ。「人修羅」と共に生き残った、「級友」とやらでしょう。)」

「(....どうするライドウ。ああ見えて「人修羅」と同じだったら。)」

「(それは無いかと。依頼主も言っていたでしょう、彼だけだと。)」

「(....ふん、つまらぬ。動じないのはいいがな。で、どうする?。)」

 

 

やってきたのは、僕とそう変わらない年頃の少女だった。

華奢で弱々しげながらも、その瞳には力強い「意志」を宿している。

何を思って、こんな所へきたのだろうか。

もしくは、誰かに会う為に....危険な世界を歩いてきたのか。

....だとしたら、「誰に?」。

滅びゆくマントラ軍の盟主に?。今、この時に、わざわざ?。

....そうではあるまい。

彼女は、「彼」に会いに来たのだ。今のイケブクロを、「彼」が見落とす筈は無い。

ならば、近く「彼」はここにくる。....緻密に編まれた定めに従って。

 

「(どうもしません。取り敢えずこのままで。おそらく幾許もせぬうちに、来ますよ)」

「(....ほう。)」

 

そうこう言っているうちに、バタバタと走ってくる音がした。

 

 

****

 

 

「彼」はそのまま出てこなかったが、かわりに少女がでてきた。

暫くして、マントラ軍No2の悪魔も出てきた。

少女の目的は何だったのか。何処へ向かうのだろうか。

その瞳に揺るがぬ「意志」を宿して。

あれは、何かを目指す者の眼差し。ならば、それは。

 

 

「これでこの世界の創世は、「氷川」とやらの1人勝ちで実行されるか」

「....どうでしょうね。「人間」の生き残りは5人いますから」

「お前はあの若い娘が、「創世」できると?」

「確固たる「意志」と「大量のマガツヒ」を持つ「人間」であることが「条件」です」

「....あの娘に足りぬのは、「マガツヒ」だけというのか」

「ゴズテンノウは、「コトワリ」と「マガツヒ」は持っていましたが」

「....「人間」ではなかった、な」

 

 

おそらく、暫しこのまま、ニヒロ機構の独走状態にはなるだろうが。

いずれ、何らかの形を以て、他の生き残りが台頭してくるに違い無い。

そしてそこに、「人修羅」は深く関わることになるだろう。

 

 

「....やれやれ。あの依頼主は、碌でも無い依頼をしてきたものだ」

「依頼達成だけなら直ぐにも終えられたでしょうが、結局は「彼」に関わらねば

ならなくなってきましたからね」

 

 

この卵の世界の行く末と命運をかけし、覇権をめぐる争い。

誰が、そこへ至る為にもっとも近き道を見出し、出し抜き、先へと至るのか。

 

 

 

 

 

 

「....そういえばライドウ。「人修羅」をヒトのように言うようになったな」

「他意はありませんよ。「彼」は悪魔でもあり、人でもありますから」

「....だいぶ感化されておるか?この世界に」

「ゴウトさん、先に行きますね」

「!!。こら、またんかライドウ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その争いの果てで、僕は「どこ」にいるのだろう。












今はまだ、定まらずとも。

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