射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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ひとつの終わりを告げるのは、オマエだ。


愚なる力の脈絡、彷徨えりて時を待たん

両手を拘束する鎖が、小刻みにジャラジャラと音をたてている。

がくがくと震えながら、座り込んだまま両手を床について項垂れているマネカタ。

後ろのゴズテンノウの体からは、その身に溜めたマガツヒがゆらゆらと抜け出ていく。

あれほど生気と威厳に満ちていた偶像は、今や崩れ落ちる寸前だった。

 

 

「....戻ったか、猛る悪魔よ。そなたもしかと見たであろう。

ニヒロの根城が、我が軍勢にて堕ちたる様を。...それが....それが、何故....!!」

 

氷川の策略に乗せられ、それを見抜けなかったマントラ軍。

「力」に拘り、過信した結果が....自滅という最悪の事態を招いた。

盟主でありながら、敵の掌で踊らされた事実に打ちのめされているのか。

 

「おのれ...っ、憎しやニヒロっ!!いかなるカラクリを使いしか!!...たばかられたわ...」

 

床につけていた手を振り上げて叩きつけ、悔しげに怒りを吐くマネカタの頭が

ふいに上がり、ここではないどこかを塞がれた両目で凝視する。

 

「....見える。....マガツヒ集まりゆく真芯に....ニンゲンの巫女が....見える。

されど....っ、今となりては....抗う事叶わじ...っ!!」

 

もはや、滅びを待つだけの自分たちと盟主であるゴズテンノウを案じ、おいたわしやと嘆く

マネカタの言葉を、この期に及んで、当のゴズテンノウが否定する。

 

 

「....否!!。我は滅びぬ!!この体は滅しようとも、我が精は死なず!!」

 

 

いつか、自分の力を得るに相応しい者が現れる。その者を介して必ず復活する、と。

そう言った時、轟音と共に偶像のあちこちにイヤな音がして、ひびが入り始めた。

もうその姿を保てるだけのマガツヒさえ、その体には残っていないのだろう。

ゴズテンノウは、今わの際、最期に怒りの咆哮と呪詛を吐いた。

 

「....静寂の世など創らせはせぬ....!!力無き世に、何の価値があろうか!!....

必ずや....必ずや....「力」の国を再興せん....っ!!!グゥオオオオオオッ...!!」

 

その首に、ビシリ!と大きな亀裂が幾筋も走り、砕けた。

支えを失くした首は、落下してマネカタを押し潰し、そのまま俺をも潰す勢いで

転がって来たけれど....寸前で止まり、その大きな顔面の眼から光が消え、物言わぬ瓦礫

となった。

 

それが、「力」を求めたものの末路だった。

憐れみさえ浮かばない、あまりにも愚かな最期だった。

 

「橘」は、こんなものを求めるのか?。ふと、そう思って首を振る。

あいつは、こうはならない。そんな気がした。

けれど俺は、「それ」を求めてはいない。少なくとも今は。

 

****

 

外に出ると、声をかけられて見下ろした先にNo2の悪魔がいた。

確か、「鬼神・トール」と言ったか。そいつは、感情の無い目で俺を見る。

 

マントラ軍とニヒロ機構の思想と力の根源の差を、それによって起こった現実と

現状を、少しの憐憫と自嘲を込めて語る。

 

〔トウキョウの支配以上の思想と、多方向に練られし計画と遂行する力〕

〔暴力で統制を図る、恐怖政治〕

 

 

「....その差は歴然だったと、今なら分かる。マントラはその枠を超えられなかった。

だから敗れたのだよ。ゴズテンノウの威光が失われたる今、同胞と信じた者たちも皆、

ここを見捨て、出て行った。もはやこんな場所に意味などないからな」

 

そして俺に、後はどうなりと好きにするがいいと言って去っていく。

 

「....真の強者のみが生きる世界を求めて、私は旅立つ。きさまが真の強者ならば

いずれまた、会おう。では、さらばだ」

 

 

その背を見送る俺に、仲魔が聞いてきた。

 

 

「....このまま、氷川とかいうヤツの世界が生まれるのかねぇ」

『どうだろうな。「橘・新田・高尾先生」、あと「聖(ヒジリ)さん」も、いたな』

「では、氷川も含めて彼らが創世を目指すと?」

『それも分からねえ。「コトワリ」を持ってるかどうかも定かじゃないしな』

 

仲魔達は俺を含めなかった事に気が付いていて、それ以上は聞かない。

自分で言っといてなんだけれど、今の俺は「悪魔」であることは事実で。

 

    ....「高尾先生」は、何で俺を生かしたかったんだろう。

    まさか、「悪魔」になって生き延びるとは思っちゃいなかっただろうけど。

    俺に、この卵の世界で何をさせたいのか。会って聞かなけりゃならない。

    ....あの人の事は、あんまり好きじゃないけれど。

    寧ろ嫌いなとこのほうがある、けど。

    

 

時折、視線がかち合う事が気のせいじゃない事は気付いてた。

でもそれは、けして「そういうもの」じゃないことは、いくら鈍感な俺でも分かる。

....なぜなら、俺を見る目に「熱」が籠って無いから。

 

なんで俺をそんな目で見るのか、いつか聞いてみるつもりだった。

聞けないまま、こんな事になっちまったけれど。

 

 

「で?どうすんだ。あの小娘を追うのか?それとも」

『取り敢えず、「新田」を追う。未来が見えるマネカタの事も気になるしな』

「未来が見える、ですか。疑わしいですが、先程のマネカタの事もありますし」

『ああ。だから、行ってみようぜ。その「捕囚所」とやらにな』

 

 

 

俺の行先は、未だ定まらない。ただ、流されているだけなのかもしれない。

けれど、活路を見いだせない今は、それしか手立てがないんだ。

結果的に、後手後手にまわるしかなくても。

 

俺は....俺でしかないし、それ以上でもそれ以下でもない。

「今」は、何者にもならない「俺」だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






新たなきっかけが生まれ、それはひとつの「目覚め」となることなんか
知る由もないまま、進む道は、別れを目指すものだとしても。

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