射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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死を超えて、死の使いを超えて、至れ。
堕とされたる黒き翼持ちし、あの方の御許へ。


骸骨が誘いしは、波羅夷(はらい)への道行き

「新田」を追う道すがら、そういえば、と思い返した。

 

....あれは、アマラ経絡の出口の先。赤と黒の視界の先で見たもの。

初めて落ちた時から時々行くけれど、未だに分かりかねている事がある。

疑問符しか浮かばない、最初から今でも。

 

 

異様な妖気が漂うこんな場所に、冗談だろ?と思った。

....あり得ない。ここがどこだか知らないけれど。

なんで「あんた」が、ここにいる?。

いや、「あんた」は本当に「高尾先生」なのか?。

 

聞きたいのに声が出ない。どうして。

 

 

****

 

 

「覗き穴」の先には、演劇のような張りぼての舞台セット。

調度品なんかは本物ぽい。視線を動かしあちこち見ていてふと気が付く。

壁に貼られた幾つもの写真に、見覚えがあるなんてもんじゃなかった。

目に入る写真は。あれも、あれも、間違いない。

すべて、「東京受胎」の時のものだった。

しかも、それだけじゃない。他の写真には、俺が写っている。

 

キイキイと軋ませて幕が開いた舞台にいたのは、アマラ経絡とやらで

いつか見た、「喪服の女と老紳士」だった。

俯いていた「老紳士」が顔を上げ、こっちを見た瞬間ものすごい圧力が

矢のように俺の全身を貫いて、踏ん張るのがやっとだった。

やがて側に立っていた「喪服の女」が視線を寄越した。

....とは言っても、黒いレースの短めのベールに隠れていて

その表情は読めず、口元からしか窺えなかったのだが。

 

彼の女は、どこまでも「高尾先生」に、気味が悪いほどそっくりで。

その姿だけじゃなくよく似た声で、ここが何処なのかを教えてくれた。

俺が来たのは所謂「魔界」で、神から貶められた者たちはここを

仮初めの住処にして、刻を待っているのだと。

そう言った時、口角が僅かに上がったのは何故だったのか。

 

ここから出るすべがないんだと思っていると、察していたのか。

まだ弱い俺が、迷子同然でここに来た事はわかっているし、ましてや

ここですべきことは「今の弱い俺」では何も無いから、送ってやると。

 

「....ですけれど、これは渡しておきましょう」

 

そう言われて左手に何かが握られる感触に、目を向けると

いつのまに手にしていたのか、見るからに古めかしい「燭台」が

「メノラー」と言われたそれが、俺の手の中にあった。

迷いが生じたとき、手掛かりを与えてくれるのだというそれは

言っちゃあなんだけど、そんな大層なモノには見えなかった。

 

       

 

       ....宿命が望むだって?。曖昧な言い方だな。

       それより「アンタ」は、本当に「先生」じゃないのか?。

 

 

 

答えは無いままに、キイキイと幕が下ろされていく。

幕の向こう側にいる「喪服の女と老紳士」が、完全に隠された直後

俺の意識もそれに倣うかのように、ブラックアウトした。

 

 

****

 

 

あの後は、気付けばギンザに着いていた。

何だったんだと釈然としない出来事に考え込んでいたから

「聖(ヒジリ)さん」にやたらと心配されてしまったけれど。

 

 

 

 

『こんなもの、ホントに役立つのか』

「アラトおめー、それ捨てる気じゃないだろな?」

『....捨てないけどさ。イヤな感じがするんだよなぁ』

「では、お捨てになりますか?」

『....いや、持っとくよ。何かあっても何とかなるだろ』

 

 

 

 

ただの燭台ではないソレを持ち続ける意味。そして。

「メノラー」が、その形状のままの意味だけではないモノだという事を

俺が知るのは....これから向かう先々に「現れる」ものによってだとは

俺だけが、知る由もなかった。

 

 

 

****

 

 

「で、で、で、でっ....出たあああああっ!!」

「「死神」がっ....「死神」が出たああああっ!!」

「この先!この先っ!!」

 

 

ギンザ大地下道。

 

腰を抜かしたマネカタが、指し示すその先に。

とてつもなく恐ろしい悪魔の気配がした。

次の瞬間には、床にずるりと引き摺りこまれて。

 

落ちた先は、赤い砂舞う荒れ地。どこからか、「声」がする。

 

 

「....メノラーの炎が、私を戦いへと駆り立てる」

「....貴公が誰かは知らぬが、メノラーを持つ以上、戦いは避けられぬ道と知れ」

「故に、誰にも邪魔はさせぬ。私の結界内で雌雄を決しようではないか!!」

 

 

地面から黒い霧が噴出し、現れたモノ。

赤いムレ―タを振る後ろ姿は、「闘牛士」にしか見えない。

....但し、正面を向いたその「顔」は。

 

「死神」でありながら、「魔人」の証でもあるという

「骸骨(されこうべ)」そのものだった。

 

 

 

 

 

「さればこの剣とカポーテにかけて、今宵もまた勝利を誓わん!!」

 








全ての悪魔は、「あの御方」の眷属。
契約主よりも、「あの御方」は絶対上位存在。
結果的に契約主を騙すことになるは、必定でございます。

....それが、不本意であろうとも。

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