射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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惑いて 惑いて 惑わすは悪魔のみならず
哀れなる残滓の誘いを 受け容れよ

されば 仮初めの甘き夢
泡沫に惑いて 現へと帰さん


混迷の道、艶冶なる惑いに逢わん

「アマラ深界のどこを探しても、安心な場所なんて無いわよ」

 

ある思念体が、事も無げにそう言い切った。そして。

ここの悪魔たちは皆、1つの目的の為に集まっているから

けして仲魔にはならない、とも。

 

ボルテクス界では見ない悪魔たちがいたから交渉してみたが

全然ダメだったのは....その所為かと知った。

だから、エネミーアピアランスゲージが赤くなって出現した

悪魔とは、問答無用で闘うか逃げるしかないってワケか。

 

....それは、なかなかに過酷ではないのか。だが。

 

『下手な戦略じゃ全滅もアリ、か』

「基本、俺らはアラトの指示で動くからな」

「力押しで勝てる程、ここは甘くは無いという事かと」

「今まで以上にシビアな闘い方が必要って話ね」

「オマエノ器ガ試サレル。ガンバレ主」

 

 

そんなやり取りのあと、地道にここの攻略を始めたんだけど。

 

 

....シビアなんてもんじゃ無い。闘い方以前の話だった。

入る部屋やエリアのギミックが、ボルテクス界のそれらとは

ケタ違いに面倒臭いというか、凝り過ぎている。

一見すると、やたらだだっ広いのに近づくと見えてくる壁に

囲まれていて、遠回りを余儀なくされるくらいならまだ良い。

 

 

こう行けば近いなと踏み出した先に落とし穴とか、さらには

落ちた場所が一面、ダメージゾーンとか、そこを抜けるのに

体力削られまくって死にかけるなんて当たり前だとか。

再チャレンジで別の所を踏み出したら、そこも落とし穴とか。

試されてるなんてもんじゃ無い。心をへし折る気満々だろ。

 

この迷路は、そこかしこに悪意しか感じない。

それを確かなものにさせたのは。

 

 

『....幾ら、一瞬で戻れるとはいってもな』

「....まァな。悪質っちゃ、悪質だけどよ」

「かつてのトウキョウには、よく在ったと聞きましたが」

「キレイどころには要注意って事ね。男って大変だこと」

『まさか、この歳で』

 

 

....ぼったくりバーとやらを、体験するなんて。

 

 

****

 

 

迷路攻略中の、疲労困憊な俺達はある思念体に気付いた。

 

他の思念体とは色が違っていて、薄いピンク色をしていた。

何だ?と思って近づけば、どうやら幾らか払えば回復をして

くれるらしかったから、渡りに船とばかりに頼んだのだ。

 

ピクシーは、その思念体に夜の女悪魔を見たと言って止めた。

....らしいけど。後で全然覚えていない俺に、むくれていた。

ともかく回復しないと、ここから出ることさえままならない。

そう思い直し、一杯のソレを飲んでみた。

 

そうしたら意外な事に、出てきたソレはとても美味くて。

回復は勿論、何故だか気分も良くなってきて勧められるまま

かなりの量を飲んでしまってたと思う。

 

目の前が、ふわふわしてきて何だか気持ちよくて。

思念体の声がだんだん遠くなって、どんどん霞んでいって。

そこで俺の意識は、完全に途切れた。

 

....気が付けば、入口に戻されていて。

それは助かったのだが。すっきりしない思考を巡らせてると

ある事に気付いて、顔面蒼白、愕然となった。

 

 

『....ウソだろ。やられたってヤツかこれ』

「どした。....って、おい!。所持金、減り過ぎだろ!」

「まさかとは思いましたが、あの思念体」

「だから一杯で止めときなさいって、言ったでしょお!!」

「ウウ...面目ナイ。我モ気付カナンダ」

 

悪魔の体になってから、「大人の世界」を垣間見てきたから

もう怖い事なんかねえと開き直ってた....んだけど。

つくづく、俺の認識は甘かったと知った。やっぱ、子供だと。

 

 

『アレ、ぼったくりバー、だったんだな....』

 

 

それから、二度と使うかと心に決めたんだけれど。

 

迷路の造り主は、よほど人心掌握に長けているらしい。

絶妙な場所に居させているから、腹が立つし、何より。

どうあっても、利用せずにはいられない状況になるのを

図っているとしか思えない。策略にも程がある。

 

 

けれど、闘うか逃げるしかない、そこは非情にも。

弱かった俺を確実に、より、悪魔として強くしていった。

出会う悪魔を斃す為に、持てる知恵と得る経験を活かす。

それらが、俺が生き残る為の力に変えた。そして。

 

長居はするなと言われた理由が、分かった気がした。

ここは、強くならなければ....生きられない場所だから。

まるでそうなるように、仕向けられているのかと勘ぐるに

至らないのは、それだけハードだからだったのだが。

 

****

 

ある思念体が、俺を見て問うた。どっちだ、と。

 

悪魔でもあり、人でもあり、悪魔でもなく、人でもない。

俺は未だ、何にも為れてはいない。

馬鹿正直に答えると、そいつはひとしきり笑っていたが

じ、と俺を見てひどく諭すかのように言った。

 

 

 

「人は、死して学ぶ魂を持つもの」

「悪魔は、死せず学ばぬ魂を持つもの」

「....ならば。悪魔であり、人であるオマエは」

「人修羅と呼ばれるオマエは、どうなんだろうな」

 

 

 

 

 

....わからねぇよ。今も、まだ....な。





真実は、おまえのそこには無い
真実は、おまえが得るものであり

「あの御方」が、おまえに「与えるもの」だ

それ以上でもそれ以下でもない


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