射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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銀の扉のその先の 誰も通わぬ墓の前
真白き獣は 待っている 強くなりし彼の者を
「死」を超え 「死者」を斃しゆく者を
真白き獣は 待っている 強くなりゆく彼の者を

「時」を超えて 待っている


忍び寄りし暗翳(あんえい)、冥道を開きたり

アマラ深界で、鍵がないと開かない扉を見つけた。

 

こういうのが気になる質の俺は、迷路攻略のついでだと言い

銀の扉の「鍵探し」の為に、行動範囲を広げていた。

だが、なかなか見つからないし強い敵も出る。

 

さすがに限界が近いと思った俺は一旦、「鍵探し」を止めて

疲弊していた仲魔と、ボルテクス界へと戻って行った。

 

そして泉で回復して....油断していたんだ。

そのまま、さっさとアマラ深界に戻っていれば。

久しぶりだと、その辺をうろついたりしなければ。

メノラーの炎の揺らぎを、無視すれば。

 

....避ける事は、できた筈だった。

 

確かに、いつかは殺り合う相手の一人だけど。

あんな面妖なやつだとは思いもしなかった。

 

リーン、と....響いたのは、この場にそぐわない程 澄んだ音色。

 

けれどその音色は、聞く者に安寧をもたらすものでは無く。

あの時と同じだ。不吉な予感を手招きし、傍に呼び寄せて

聞く者に、遠からぬ「死」を告げるものだった。

 

****

 

「イケブクロで、坊さんを見た。供養にでも来たのかね」

 

とてつもない気配に応じて、落ちてきた場所はあの時と同じ。そして。

何かがいきなり背後に張り付き、氷のような声で問われた。

 

「暗黒の力に魅入られし魔人とは、汝のことか?」

....振り向いた先には既にいない。だが。

「人はいつか死に、世界はいつか滅ぶ。汝はそれに抗おうとしておる」

....自分の真横に張り付いている。見えない何かが。

 

声のする方に顔を向ければ、その先にソレはゆらりと浮いていた。

法衣と袈裟を纏った骸骨が、カタカタと歯を鳴らしてこちらを見ている。

 

「迷い給もうな、人修羅殿よ。汝のそれは、迷いに過ぎぬ」

『....迷い、だと?』

「如何にも。汝の死への抗いは迷いであり、その迷いの暗黒は、晴れはせぬ」

 

いくらメノラーを手にしたところで、救いは無いと。....だから。

 

「一切衆生の迷いを解くは、我が務め。されば汝が身、我に任せられよ」

『....?。意味わかんねぇぞ、何を言ってる?』

「受け取られい....我が汝にもたらすは、死の救いなり!!」

 

ひときわ高く澄んだ、持鈴の音色が 戦闘開始の合図になった。

 

****

 

....また魔人が出た。闘牛士の次は、大僧正とかいうらしい。

どっかで見たと思っていたらアレだ。所謂、即身仏っていうやつだ。

けど、目の前のやつが、まがりなりにも「魔人」の看板を背負ってるのなら。

その力は、計り知れない。....闘牛士の時に、学んだからな。

 

「さあ....我が経文にて往生されよ。汝が業、我が呪の内に滅するべし」

『させねぇよ。俺はまだ、くたばるワケにはいかないからな!!』

「なんと愚かなり。いつまで生に執着するか....」

『勘違いすんなよ。オマエは救いって言葉に隠してる欲を果たしたいだけだ』

「....そのようなもの、既に持たぬ身の我には戯言よ...ッ!!」

 

死んで学ぶのも、死なずに学ばないのも。どっちも願い下げだ。

俺は生きて学び、死なずに学ぶ。....アレ?。意味同じだろコレ。まぁいいか。

この世界は、闘って負ければ絶たれるのは、自分の命だけじゃ無い。

仲魔の命も、存在も、この先の全てを知ることも、何もかもが終わる。

 

生への執着?。あるさ、諦めて無いからな。

このままじゃ、終われない。終わってたまるかよ。

何度だって言ってやる。....俺は。

 

「汝、煩悩の火に焼かれよ!。喝ぁあっつッ!!」

 

狂信の果てに、「死」を救いだと寝言をほざく悪魔に。

みすみす、やられてやる程ヒマじゃねえ!!。

 

それでもやつの猛攻に、荒い息を吐きながらも、カグツチ齢を見れば。

幸いなことに、今は煌天時。普段は忌々しいカグツチが、味方になる。

 

 

 

『....回復は後回しだ。アレ食らう前に叩くぞ』

「煩悩の火に焼かれろってか。神サマに言う科白じゃねえよ」

「二度はございません。お許しを」

「力が漲るのう。此度はしくじらぬぞ、任せよ」

「コノ爪デ、アノ骸骨ヲ砕イテヤル。粉々ニナ」

 

 

 

この世界で死の象徴が、お前ら魔人だというのなら。

俺は、お前らを蹴り飛ばし、薙ぎ払い、息の根を止める。そして。

その屍を、踏み拉き、振り返らず、乗り越えて「先へ」行く。

 

人であり 悪魔であり 人でもなく 悪魔でもない

未だ「何者」にも為れなくとも 今は定まらずとも

 

俺は....手を伸ばし、掴む。

曖昧の先に、あるものを。

 

 

****

 

 

勝ちに沸く者たちの歓喜の声に混ざり、崩れゆく骸骨の声は

吹き荒ぶ赤き砂塵に消された。呪詛ともつかぬ呟きと共に。

 

 

 

「(....人修羅と呼ばれし者よ....汝がいる、この世界は....。

何ものにも....染まらぬまま生きていける世界では、無い....。

ならば、汝は....汝が進みたる道の果て、行き着いたる意志の先。

....そこで待ちし「色」は....赤か、白か.....それとも....

何もかもを塗り潰す、「黒」か....我は最早、知る由無き事....)」

 

 

 

(...だが、既に冥道は開かれたり....数多の「死」が....やってくる....)




その身に受け容れるか 通り過ぎるか
目指すか 堕ちるか 迷うか 戻るか
未だ定まらぬ 未だ決まらぬ 未だ見つからぬ
だが我らは待っている おまえが生まれるのを

闇を纏いて 生まれてくるのを

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