射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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絡め捕れ 絡み付け 定めの「黒き糸」 爪先から 頭の天辺まで 
緩み無く ぎりぎりと 締め上げて 小指の「赤い糸」に 編みこむように
絡み付き 染まれ 血と闇の色に


黒の定め縒る糸、縬(しじら)の織の如く

ボルテクス界のどこか。現世と次元のあわい。

 

闇の帳に浮かぶ水晶を、じっと見ているのは「金の髪の子ども」。

その顔に浮かべたるは、慈愛と安寧をもたらす清らかなる微笑み。

光の中に在らば、至高の存在たりえる天の御使いに相応しきもの。

 

「....めいや。きみのおもいびとは、すこしずつだけど、きづきはじめているよ」

 

水晶がキラリ、と光ったのを見た子どもは満足げに....ほほ笑んだ。

まるで愛おしいものを見るかのような表情で、見つめながら。

一切の邪気と悪意と妖気を遮断して、あらん限りの慈しみと安らぎを込めて。

まるで、危険ななにものからも子供を守る、父親のように。

 

「....めいやが、かれにあうには。もうすこしのときが、ひつようなんだ」

「....いいこだから、それまで まっておいで。ときが みちたら、でられるよ」

 

キラリキラリと、瞬くように光る水晶を愛しげに撫でる子どもはふと、上を見る。

まるで何かを追うように、そのまま視線を下へと移し、水晶に背を向けた時には。

それまでのとは真逆に、表情も何もかも、がらりと雰囲気を変えていた。

 

「....やれやれ。<あいつ> が、うごいたのか。しょうがないなあ」

「はい、ぼっちゃま。いかが致しましょうか」

 

水晶を挟んで、「金の髪の子ども」が立つ位置の反対側に、「喪服の老婆」が畏まっている。

老婆の目に映る「金の髪の子ども」は、顎に手をやり、うーん、と首を傾げていて。

その様はどこまでも愛らしいのに....凄まじいまでの怒気を、含んでいた。

気を抜けば五体が千切れ飛び、魂さえ消滅しかねないほどの、怒りを。

その、あまりの凄まじさに喪服の老婆がつい、進言してしまったのは不可抗力だった。

 

「....ぼっちゃま。どうかどうか、その御怒りをお静めくださいまし」

「うん?。そうはいうけれど。ぼくのせかいに、<あいつ>がきたんだよ」

 

濃い混沌の力満ちるアマラ深界に、たかが「声」だけとは言え。

忌々しい「天の御使い」が入り込んでくるなど、赦せよう筈が無い。

ましてや、彼の者に直接「言葉」を降すなど。....だが、ふと知りたくなって。

 

「それで?。かれは<あいつ>に、なんてこたえたの?。おしえて、よ」

「....それ、は....」

 

いつもと違い、珍しく歯切れの悪い老婆の様子に、子どもはクスクスと笑っている。

観念した老婆は、消え入るような声で告げた。

 

「....はい、と。あれの言葉を絶対と信じて、ぼっちゃまに従わぬと」

「<あいつ>のあつりょくに、まけちゃったんだ。しかたないよ、それはね」

「....ぼっちゃま。人修羅を、お叱りにならないのですか?」

 

おそるおそる、顔を窺う老婆に子どもの目がすう、と細くなる。だが、すぐに元に戻した。

途端に全方向から老婆に降りかかった、一瞬の「死」の気配が霧散して消えていく。

 

「かれは、ここへくる。そのための「いかいへの、いらい」だよ。それに」

「....彼女が、ぼっちゃまの手に在る限り」

 

その言葉に、子どもらしい笑顔で頷く。思わず、見惚れるような笑顔で。

 

「<あいつ>が、なにをいおうとみちはさだまっている。あとは、まてばいいだけ。でも」

 

もっとかくじつに、おちてこさせるために。このてのなかにしか、いばしょはないのだと。

そうみとめさせるために。きりふだを ふたつ、よういしたのだから。

 

....そのほうが、おもしろくなるだろう?。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ、めいや。きみはそれでも、いきたいといったね。

かなえよう、ぼくのちからで。だから、ぼくのねがいものぞみも。

きみが、きみと「かれら」で、かなえてくれるね?。

 




捕えたのは偶然では 無い 捕えられるべくして 捕えられし者よ
なれば 否やは無く 従う他無しと知るだろう
だが それでは到底 果たされはしまい だから望め 
果てなく 強く 望め されば 汝が望み 果たされよう

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