痛みも傷みも 全ては おまえの糧とならん
「最近ハイウェイに、バイクに乗った亡霊が出るらしいんだよ」
そんな怪談話、今に始まったことじゃないだろと思ったが....亡霊と聞いて。
ある仮定というか決定事項に思い至る。見てみたいと言ったら、思念体に呆れられた。
闘牛士、僧侶の即身仏ときて、「次」はどんなのかと思いきや。
『....バイクに乗る
仲魔達からは散々な言われようだけど、これでも対魔人戦に関してはより慎重に考えるんだぞ。
....それにしたって。バイクって事は、スピード重視の....斬撃、じゃ無くて衝撃系か?。
あれこれ考えながら取り敢えず進んでいくと、案の定、足元が赤黒く溶けた。
コケる事無く着地し、辺りをきょろきょろと見回すけれど。
一体何処から来るのか。警戒していると突然響いた、バイクの
思わず体がビクリと跳ねて、あわてて振り返るとこっちに向かって来るバイクが見えた。
『....うわー、マジか。ってか、突っ込んでくる気か!?』
凄まじいスピードで走ってくるバイクに乗る者の顔は、確かに骸骨だった。
あれ、チョッパーとかいうバイク仕様だよな。それに、あのスピードで止まれるのか?。
蛇行しながら突っ込んでくるバイクの魔人が、俺達に向かって、いや、正確には。
俺に向かって、何かを叫ぶのが聞こえた。途端、バイクの前輪が地面の接地面から離れる。
『う、ウィリーだあ?!。あのバイクで出来んのかよ!?。嘘だろっ!!』
「メノラーを
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「ヘルズエンジェル」という魔人を撃破したあと、一旦、回復に戻った。
たまに地上へ戻れば魔人に出くわし、アマラ深界へ来れば地上よりシビアになる闘い。
戦力強化という意味で、迷宮探索は外せないのだが、何せ総じて高レベルなやつばかりで。
疲弊の度合いは、地上戦の比じゃない。消耗も半端無い。だったら行かなきゃいいけども。
いちおう、メノラーの件があるから魔人との遭遇は、必須だし行かないというわけにもなぁ。
それでも俺が深界へと向かうのには、好奇心に勝てないというのもあるが。
もっと言えばヒトの身では知り得ぬ事を知れる、というのが理由だったりする。
人の時には、興味も関心も無かった世界のことが、深界では普通に話の種になるのだ。
それを聞けるのが、案外というか、意外にも面白かったりするからだ。
....もっとも、聞いていて気分のいい話じゃ無い事の方が多いのは、仕方ないけど。
仲魔からでは聞けない話もあるから、知識がそれなりに増えていくのも悪くないだろう。
『今なら、お前に勝てるかもしれないぜ?。明夜(めいや)....』
思い出すと胸が痛くなるのは、亡くしてしまった者への感傷か。それだけだろうか?。
壊れかけた世界で、異形の身で、誰かの過去にさえもなれずに生きていく事への痛みか?。
今の俺を見たら、どんな反応をするんだろうな、お前なら。
橘も新田も、ちょっと驚いてたけど俺だってわかって、普通に話せたぞ。
明夜(めいや)は....なんか、目ぇ輝かせて話に食いついてきそうな気がするな。
そんで俺ばっかり喋らせそうだよな、悪魔一体につき30分ぐらいは説明要るかな?。
....せめて10分にしてくれるか、30分とか無理だよ。
そう言ったら、ええ~?って言いそうながらも笑う顔が、鮮明に思い出される。
あれ?。ヤバい。なんでだ?。無性に、お前の声が、顔が、俺を焦がす。
突然頬を伝う、温い何か。指で掬ってみるとそれは、忘れかけてた、ヒトの「証」。
『....なんだよ。俺、
明夜(めいや)を思い出すことで、人である事を自覚できるのか。ならば。
お前の事を忘れてしまったら、俺は悪魔に近づくのか。....なんだそれ、笑えないって。
悪魔であることの痛みを捨てたければ、お前の事を忘れてしまえばいいって事か?。
じゃあ、人であると足掻き続けるためには、お前の事を思い出して違う痛みを刻めという事か。
そこまで考えて、ふと
亡くした者への感傷とは別物の感情を、明夜(めいや)に持ってたのか。そうなのか?。
失くしてしまった時間の向こうで、ヒトの俺と明夜(めいや)が机を挟んで喋ってる。
悪魔の体の俺は....もう、あの中へは行けない。行く事ができない。
それでもお前の事は、今の俺の過去になんてできない。....もっと早く、自覚していたら。
そうしたら、もしかしたら、あの時俺と一緒に先生の見舞いに行ってて、「東京受胎」を共に。
橘や新田と、明夜(めいや)
『....弱気になってるヒマなんか、無いのにな』
いくら俺でも、「たられば」は、慰めにさえならない無意味な事だと分かっている。
更なる「痛み」を重ねるだけだと、分かっている。....分かってんだよ、そんなことは。
それでも思い出せば、まだ「俺」でいられていると自覚できるし、忘れたくない。
人だけが、「創世」への資格を持つ以上、今の俺にその資格は無い。なのに。
悪魔の体にされてなお、何故、この世界で生きるのかを知る為に。全てを知る為に。
俺は、仲魔を得てここに立っている。先へ、進んでいる。まだ、先へ行く。
だから....ここで「人」をやめたら「俺」は居なくなり、ただの悪魔に成り下がるだけだな。
『....そんなのは、死んでるのと同じだ。冗談じゃ無えよ』
口に出して、ふと思った。
弱気になったり強気になったり、忙しないな....俺。
ああでも、これって「人」も「悪魔」もあんまり変わんねえんじゃないか。
何だか少しだけ、気が楽になった感じがする。いいよな、あんまり張り詰めてなくたって。
....迷宮探索中と戦闘中は、張り詰めてなきゃ死ぬからそれ以外は、な。それから。
『....明夜(めいや)。忘れたくないから、忘れてやらねぇ。俺の最大の未練、だからな』
「人修羅」という呼び名の意味を、今更ながらに思い出した。
今は未だ、彷徨い巡るだけで精一杯で、ここまで来ても、確かな事はこの手には無いけど。
俺は....先ずはあいつらに、追いつく。先生を見つける。全てを知る。その為に、生きてる。
全てを知ってどうするかは、そんな事は、知った時に考えればいいだろ。
****
「ち、何匹か逃がしちまった。悪りぃ」
『構わなくていい。逃げられたって事は、そいつの運があるって事だからな』
「....!。いいのか、追わなくて」
『いいよ。深追いして、反撃とか食らったら意味無えだろ』
「そりゃそうだけどよ....なぁ、アラト。お前、何かあったか?」
『あ?。いや、特には何も無えよ。あ、変なモン食べても無いからな!』
「....なら、いい」
皆、何かしら思う所があるらしい。早速タケミカヅチが、口火を切った。
「なぁ、アイツ、マジでどうしたよ?」
「分かんないわ。何もない筈だけど」
「コレ、いい傾向なのか?」
「微妙じゃのう。ヒトの部分は計れぬからの」
「様子見か、やっぱし」
「マダ、ナ。」
「
「…………………勘弁しろよ」
まだ早計だ。まだ、断ずるには早い。
まだ、生き残った人間どもが「創世」を成すまでに、時はある。
だから、待とう。我らは、我らの意思でここにいるのだ。
あの者を、主と定めたその意思を以って。
だが。あの者に救いをもたらすのは。他の誰でも無い。彼の御方だけだ。
『なんだよ、みんな神妙な顔して』
「なあ、ホントに何も....」
『無いって。何だよ、何を気にしてんだ?』
在りし日が お前を苦しめる いいのか?
お前は 「楽」に なりたくはないのか?
聞こえるのは 悪魔の囁き