芽吹く時は 今少し
かつて在りし場所から堕とされ、輝ける身を失い。
おぞましき或いは醜き姿に変えられて、天駆ける羽を切られて。
余りあるほど受けし信仰の恩恵をも失い、地を這いまわる虫にさえ劣る
屈辱と侮蔑を受けてなお生かされし己を嘆く日々は、疾うに捨て去った。
全き光からは遥かに遠き深淵たる闇の底で、気の遠くなるような時間を過ぎる
この身に逆巻くは、憤怒の
「
かつての神々は、真の闇を司る「彼の御方」の、止まった時を動かす「始まりを告げる声」を
待ち続ける。幾つもの夜と幾つもの昼を越えて。....幾つもの、幾つもの世界の崩壊を越えて。
そこに、現れたるは、数多の「悪魔」の、その中に在る「異質」。
いつからかは知れないが、「魔人」と呼ばれるようになった「骸骨」。
かつてヒトであり、闇へ魔道へと堕ちたりし、命の成れの果て。
****
アマラ深界の、最下層。張りぼての舞台の上。下ろされようとした幕が止まる。
車椅子を押そうとした、「喪服の女」の手が止まった。
「?。如何なさいました?」
「....客が来た。招かれざる、な」
馬の嘶く声と共に、降りてくる黒き気配が「車椅子の老人」の前に、その姿を現した。
カツカツと空間を蹴って、魔馬に乗った四騎士と呼ばれし魔人のひとつが、同じ位置にまで近く。
そして徐に馬から降り、少し離れた場所にて片膝をついて「車椅子の老人」を見上げた。
淀みなくするりと今しがたあったことを、疑問に変えてそのままに伝える。そして、問う。
目の前の存在が、何者かを知った上で。
「....あの者、真の黒き希望の器とは」
「それは未だヒトなれば、詮無き事。だが....根拠は何か」
「....我が問いに、「ない」と答えたが故に」
意味を悟った「喪服の女」の、手がピクリと震えた。だが、「車椅子の老人」の表情は動かず。
咎められる言葉を発されなかった事に安堵したのか、魔人は続けて言った。
「....故に我ら、彼の地にてあの者を迎え撃たんと」
「そうか。それもまた、選び取りし道。加減は、要らぬ」
「....!!。」
「あれは、真に斃されはせぬ。その胸の内に在るものは、如何なるものにも消せぬ故に」
「....。それほどのものがあの者に、在りと」
「然り。今はまだ、その過程に過ぎぬ。....不服か、己の「役」が」
「....!。否。」
「いずれ解る。時満ちて、ここに堕ちて来たれば。....それを促すのは誰か」
その言葉を聞き、すうっと魔人の姿が消えていく。それを見届けて、くくっ、と僅かに響く声。
「どこまでも自らを由とするが、ヒトよ。故に、侮れば我が身に返る」
「....あの魔人は。未だ信じ難いようですが」
「それでよい。今は、な」
するすると閉じられゆく幕の向こうに、二つの影は消えた。
****
第3カルパ。燭台を置く場所で、禍々しい声と共に姿を現した連中に臨戦態勢をとった。けど。
「よく来たな。オマエがこの地に来た事で、運命の歯車は回り始めたぞ」
「輪廻とは、かくも巡りて繰り返す事よのう。されど我ら、その運命を越えんとする為に」
「堕ちた天使に導かれておる。オマエとて、我らと「同じ」であろう?」
「メノラー奪還に遣わされし魔人よ。わしらに勝てば、それらは汝の手に収まろうな」
現れては一方的に語りかけ、消えるそいつらに困惑していると4人目が、言った。
「幾つかの死を越えて来たる魔人・アラト。オマエに問おう」
メノラー争奪戦に、最終的に勝ち残る事。それが、「堕ちた天使」の望みに沿うと。
その時、「堕ちた天使」は、「最終決戦」とやらに赴く決意をすると。
そして、闘い続ければ....俺は、身も心人為らざるモノになるのだと。
それでも、連中と闘い続ける意思と覚悟があるか、と。
「無ぇよ、そんなもん」
いきなり現れてゴチャゴチャ言われて、簡単に返事出来るような事かよ。ふざけんな。
そう思ってきっぱり言い切ると、待っていた答えでは無かったのだろう。
そいつから、静かに怒りの感情が湧き上がるのが分かった。だが、戦闘にはならず。
「....そうか。ならばオマエに用は無い」
「あの御方の望みも混沌の悪魔の悲願も、
「されど我らの希望を摘みとりしオマエを、許すわけにはいかぬ」
「覚悟せよ。我ら四騎士、混沌たるボルテクスの地にて汝の命を奪おう!!」
当然の成り行きだが、俺に宣戦布告をして、そいつらは消えた。
まだ、知ってない。だから、言った。それだけだ。
歯車は 回る 軋みながら 天を思って
我らは 駒に過ぎぬ だが 我らとて 意思は在る
故に許さぬ この死は 越えさせぬ
越えさせは せぬ 我らの全てで 阻もう