射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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世界の片隅で 失せし威光を以って 嗜虐に浸り 
悦に籠りたる 水蛇在り 操りしは 蛤の玉なる秘宝 

水煙が変えたるそこは 全てが逆さま 水蛇の眷属が 
擬人を捕えて離さぬ獄 今日も 絶えぬ悲鳴が こだまする
 


捻じれし欲、高じて有漏(うろ)に満たさん

「気ぃつけろ。ゴズテンノウが倒れてから捕囚所は」

 

マントラ軍の残党により、スラム化していると。ただでさえ気性の荒い連中は

トップの圧力から解放されて。そこでは、どいつもやりたい放題なのだという。

 

「ええ?何も無いただのビルだろって?いーや、ここは...」

 

立派な捕囚所だと、マネカタ達がわんさと捕まっていると。思念体は、きっぱり言った。

けれど。その気配は微塵も無い。あちこち開けてもみたが、何も、誰もいない。

 

「どーいうこった?だれもいねぇじゃねーかよ」

「思念体が嘘をつくとは、思えませんが」

『何かある筈なんだけどな、あーくそ、分からん』

 

....これは情報が間違っていたかと、思い始めた矢先。ある部屋を開けた時だった。

微かに聞こえた、「声」。かすかに、かすかに、途切れ途切れに。この耳に届いた。

 

「ミズチは....蜃気楼を使って....ボクらを閉じ込めて」

「....ダレか、蜃気楼の中に....助けに来て....っ!」

 

全員の顔が、それかと納得した。だが肝心の出入り口が無い。その辺りを一通り回って

廊下の角まで近づいた時だった。「何か」がいる。それに気付いて背筋に緊張が走った。

 

「アラト?どうし....むぐっ?!」

『しっ!静かにしろ、何かいる!』

 

そっと覗いてみれば一体の悪魔が、奇妙なモノの前に立っている。聞こえた下卑た声。

 

「ここはミズチ様の天下だ。待ってろよ、マネカタども」

 

僅かな隙に、どこかへ消えてしまった悪魔を追うものの何かが必要なのだと分かった。

結局、振り出しに戻った。装置を動かすための「鍵」。それが何なのかを知らねば。

 

「ホラホラぁ、頑張らねーと裂けちゃうぜええ~!!」

「ぎゃあーーーーーっ!!痛い痛い痛いですううっ!」

「止めてほしいかぁ?やめてほしいかぁ?イヤだね!」

「うぎゃあああああああーーーーーっ!!!」

 

そう思った時に聞こえてきたやり取りと悲鳴。あまりに悪趣味なソレに皆の目が据わる。

 

「....なんかよお、スッゲぇイラるんですけどぉ?」

「....奇遇だな、我もだ」

「聞きだすついでに、この際だしボコっちゃおうか」

「さーんせーい。フルボッコでいい人、挙手してー」

 

満場一致で、胸糞悪いあの悪魔を潰すと決めた。()()は生かしておけないモノ。

 

「オレは“コイツ”を持ってるから、いつでもここに来れるぞぉ」

 

しかも何か、鍵になるモノを持ってるらしい。ならば。全員が異論無く静かに頷く。

 

「な、なんだキサマ!って....もしや、キサマが()()っ!?」

『あの、ってのはどーいう意味だ。ああ?』

「あれだよ、決闘裁判の勝者とニヒロ攻めの事を言ってんだろ」

「そうなのかっ?そうなのかっ??」

 

そうだと答えると、ソイツは怯みながら武器を構えなおす。そして悪趣味過ぎるセリフを

吐いて突っ込んできた。ヤバイ、主がキレる。仲魔たちが天を仰ぎ見た。

 

「ここはマントラ悪魔の歓楽街だっ!ニヒロ攻めの武勇伝なんてっ!」

「どーする気だぁ?勝てると思ってんのかよ、腐れ外道が」

()()()()()()()で、帳消しにしてやるーーーーっ!」

 

それを聞いたアラトの目が据わり、こめかみに青筋を立ててこれでもかと怒鳴った。

 

『やっかましいわっ、この変態悪魔あああっ!!』

 

****

 

その後、ソイツは生かしてはおかずにボコボコにした。多勢に無勢もあるもんか。

そして俺がボソリと言った言葉が、その場にいた皆の気持ちを代弁したようなもの。

 

「マントラの連中って、こんなんばっかだな」

「決闘裁判の時も、そうだったよねえ」

「力に特化するとこうなるのか?我は、なれんぞ」

「んん?どうしたの、アラト」

 

『....俺は、変態は許さねえ。ここの親玉、絶対ぇブチのめす』

 

怒りではなく、気色悪さのあまり拳を震わせて呟いたソレは全員が思ったことだったが

流石に目的がすり替わってんじゃないかと、己が主にツッコミを入れる者は皆無だった。

 

****

 

ウムギの玉とやらを使うと、装置から煙が噴き出す。周囲から色という色が抜け落ちて

上下が逆さまになっていく。部屋だった場所はすべて牢獄として現れ、そこには。

 

「助けて!ここから出して!マガツヒを吸い取られて」

「ゾウシガヤに捨てられるのは、イヤです!!」

「やっぱりマネカタは....苦しむしかないんですか?」

 

階が下の牢獄に囚われたマネカタは、まだマシだった。上に行くほど生きているのかさえ

まるで分からない。響き渡るのは生きながらマガツヒを搾取されるマネカタ達の絶叫。

 

「チョット前に人間が来ましたよ。少年でした」

「ソイツは我らのリーダーと同じ、最上階にいます」

「人間は、マガツヒを沢山絞れるんです」

 

それを聞いて、「新田」が無事でいるかは正直分からないが行かなければ。マネカタの悲鳴が

心と耳を苛む中を、重い足取りで走る。頼む、無事でいてくれとひたすらに願いながら。

 

「....なあアラト。あのマネカタ、何してんだ?」

 

そう聞かれて、牢の1つを覗いてみると。こちらに背を向けて怪しい動きをしている。

だが声をかけてしまったのが悪かった。ポキリという嫌な音とマネカタの絶叫が響く。

 

「!!。げげげっ、スプーンが折れたあああああっ!!」

『す、スプーン??。そんなもんで、何をしてたんだよ』

 

ギッと生気のない目で睨み怒鳴りつけるマネカタは責任を取れと。ここの穴を掘るのに

スプーンが必要だと、マガツヒを搾取されながらも力の限り俺達に向かって、喚いた。

 

「どこかの牢獄に、何でも持ってるガラクタ集めがいる」

『!?。あいつがここにいるのか!』

「知り合いか、なら話は早い。そいつから貰って来い!」

 

責任だぞ!!と言って待ちの体制を取るマネカタに逆らえず、捜したが見当たらなくて。

 

「なあ、これって蜃気楼と現実を行き来しなきゃ」

『....そうみたいだな。行くぞ、絶対ブチのめす』

 

嫌も応も無く、捕囚所の攻略に踏み出した。ミズチとやらをブチのめす事を心に誓って。




嗜好を理解するのは 難しい 常識も 理性をも 払い除ければ
或いは可能やもしれまいが その先に在りしは 禁忌の扉のみ
ヒト為らざる身ならば 躊躇いなど もはや とうにあるまいが 

ヒトで在りたくば けして開けるべからず

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