射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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忘れられない痛み 居場所無き者ゆえの それでも 
共に在りし時 間違う事なくあたう限り 持てる全てで  
守りたかった 小さき世界 私は きみに なりたかった


水泡(みなわ)舞いたる清き流れ、主を得ん

現実と蜃気楼世界を、手に入れたウムギの玉を使って、行き来する。

 

色という色が失せた反転世界は、マガツヒの色だけが鮮明で聞こえるマネカタ達の

悲鳴が、より心に強い恐怖心を煽る。但し、ここにいるのが普通の人間なら、だが。

 

『ガラクタ!生きてるか?』

 

1つの牢屋を覗きこめば、そこには確かに彼がいた。ただ、ここが薄暗い所為(せい)

その表情までは流石にまったく読めないけれど、生きていてくれた事に安堵する。

 

ゲホッと咳をしたガラクタに経緯を説明し、スプーンを持ってないかと問いかければ

千円札探しでの礼だと言い、たまたま持っていたというスプーンを取り出したのだが。

 

それをただのスプーンと呼ぶには....かなり、禍々しいモノをくれた。

 

「....これ、スプーンって言っていいの?」

「どっちかってーと、スコップじゃねーのか?」

「こんなもん、どこに持ってたんだコイツ」

 

あくまでスプーンだと言うガラクタに、首を捻る仲魔たち。首狩りスプーンという

ソレはどうみてもその域を越えていたが、これで納得してもらおうという事にした。

 

ついでに助けてくれると嬉しいと言うガラクタに、ちょっと待ってろと告げる。

手短に、ここで優先してやらなくてはならない事があるという事情を説明して。

 

「わかったよ。きみたちが来るのを待ってる」

 

足早に元来た道を戻って、あのマネカタの所へとひた走った。持ってきたスプーンを

見て随分と驚いていたが、さあ掘るぞと床を掘り始め最初のひと当てで大きな穴が。

 

「!!。すごい掘れ味だ、一瞬だったな。よおし、これで」

 

こんな所ともオサラバだ!と叫んで、勢いよく穴から飛び降りた。だが、簡単に済む

筈がないと暫く経って分かった。そこを後にして移動中に聞こえた声がそれを教える。

 

「ちくしょう!。牢獄からは出られても蜃気楼からは」

 

捕囚所のトップであるミズチを斃さないと出られないと、悔しがる声がした。

 

そうして蜃気楼と現実を彷徨い、漸く辿り着いたそこには巨大な半透明の大蛇の姿を

した悪魔が悠然と待ち構えていた。だが。手下が手下ならボスもボスだと呆れ果てた。

 

それは、ソイツが俺達に言い放った言葉の所為なのだが。

 

「....どいつもこいつも拷問だなんだと」

 

他に言う事無えのか。力に心酔するヤツはその強さで以て、弱い者をどうにでもして

いいとでも思ってんのか。その理不尽な行為に対して抑えられない怒りが、猛り狂う。

 

けれどなぜ、これほどに激しい怒りが湧くのか。今と同じ感覚に憶えがあるのは何故か。

だが、そんな事を疑問に思い....気にしたのは、ほんの一瞬だけだった。

 

 

「ン?。ナンダカ オマエ、デカクナッテナイカ??」

 

気付けば攻撃を受けた所為で少し縮んだミズチと、俺の視線が近づいていく。

気のせいだと虚勢を張りながらも、段々()()は目に見えて分かり始める。

 

「ヤッパリ オマエ、デカクナッテナイ???....イヤ、モシカシテ」

 

そのうち、とうとう俺らの目線よりも下になって初めて、ミズチの顔色が変わった。

 

「!!。ヌヌ----ッ!?。ワシガ シボンデルノ?!」

『遅っせえんだよ、気付くの!!これで終わりだっ!!』

 

最後の一撃を食らったミズチが絶叫し、断末魔と共にかき消えて蜃気楼の仕掛けが

解けていき、もともとのあるべき現実世界へと周囲の様子が戻っていった。

 

『....くそったれが。反吐が出んだよ、お前らみたいなのは』

「アラト、息上がってんぞ。力みすぎたんじゃねーか?」

 

同じように、ぜーはーと呼吸が荒いお前らが言ってもな。説得力無いだろうと笑った。

そうしたら何言ってやがるんだよと返されてから、ど突かれた。主にすることか?。

 

やれやれと思いながら立ち上がる。ミズチは斃したが、「新田」はどこだろう?。

 

「部屋は二つ。アラトのダチはどっちにいるんだ....って」

 

仲魔が言いかけたその時。二つの部屋のうち1つの扉がガラリ、と開いた。

 

すると何故だか。どこで鳴らされたのかすらわからない非現実的なほどの涼やかな

鈴の音色と共に、この世界になってからは永遠に失われて久しい、そう思える様な。

 

とても清浄な、水の匂いがした。風でも空気でも無く、水と思ったのは何故なのか。

 

そしてそれはギンザの噴水のものでもなく、回復の泉のものでもない。

この世界がまだ「東京」だった頃に、県外の自然に溢れた山奥の水源で嗅いだもの。

冷たくてきれいな事に感動した、記憶の欠片が頭の中を()ぎっていった。

 

『....なあ、今さ、鈴の音しなかったか?』

「はあ?。なんもしねーぞ。耳、大丈夫かよお前」

『....だよな。気のせいか、やっぱ』

「!!。ちょっと、誰か出てくるよ!!」

 

仲魔のひとりが気付いてそう言うと、全員に一斉に緊張感が走った。

視線をそっちに向けて見てみれば探してる新田かと思ったら、違った。

 

そいつは、一瞬だけどマネカタの格好をした「人間」に見えた。

 

少し長めの黒髪をてっぺんで結い上げていて、他のマネカタには無い雰囲気を持つ。

何より目が生きてるというか。聡明、と言えばいいのか。理知的で明晰、と言うか。

 

マネカタなのに今まで会った彼らの中で最も「人間」に近い、そう思った時だった。

 

低くて凛とした声で、そいつは俺に向かって言った。

 

 

「私はフトミミ。知っているかもしれないが、少しばかり未来を視る力を持っている」

 

 

また、涼やかな鈴の音が聞こえたような気がした。

 

 




憧れたるは 真逆なる存在 焦がれたるは 孤独無き世界
私は 俺は 必要とされたかった もう一度 もし 叶うのならば
夢に見た そこで 生きたいと 願って願って 願い果てた

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