射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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見えまいか 見えまいな お前には
己が身に 絡みつく未来の 黒き糸が
未来と呼ぶ 死出の道への 赤き血の糸が
お前の為に積まれた 泥人形達の屍から

お前の全身に絡まり その四肢を
ただの泥へと 返さんとする様を



善在りし生に及びて、苦果免れし叶わず

壁や天井、床に至るまで夥しい量の血に塗れてマネカタが倒れていた。

そのマネカタに声をかけて起こそうとする俺を、仲魔が止めにかかる。

 

「アラト、よせ!。見るんじゃねえ!!」

『まだ息がある!。今ならまだ助かるかもしれねーだろ!!』

「バカヤロー!。普通のやられ方してねえんだ、お前にゃキツイって!」

『はあ?。何を言って....うっ!?』

 

........悪魔化して、初めて他の悪魔をこの手にかけて以来だ。

 

あまりの惨状に思わず手を離し、口を押さえて隅っこまで走って(うずくま)る。

幸い、あんまり食ってなかったから酷くはならかったんだけど、それでも

仲魔に背中を擦られながら、涙目んなってもうひたすら吐いてた。

 

........こんな感覚は本当に久しぶりで、めちゃキツかった。

 

「あーあ、言わんこっちゃねー。大丈夫か?」

「吐いておしまいなされ。されば楽になりましょう」

「悪魔でも、こんな嗜好を持つヤツはそう多くはないわね」

「マネカタが言ってたヤツではないかのう。ほれ、あの」

「ヒドーなヤツか!。近くにいるかもしれんぞ」

 

そういや言ってたな、じゃあコレはソイツの仕業かよ。胸くそ悪い。

変な話、順応力があるのか吐きまくった所為なのか、そこから先では

しんどいことに変わりはなかったけれども、もう吐くことはなくって。

 

先へ進むとマネカタが血に塗れて震えていた。

この奥で、マネカタが暴れている!と言って。

 

扉の奥から確かに強い妖気が感じられて。一つ頷き、気を引き締める。

そっと扉を開けると、ブツブツ言いながら何かをするマネカタがいた。

よくよく聞いていれば何かを剝がす音と、肉塊を捏ねるような音だ。

気付かれないようにしたつもりだが、思わず凝視してしまったらしい。

 

「~~~~~っ、誰だっ!!」

 

立ち上がり振り返ったマネカタは、明らかに今まで見たのとは違った。

口元を布か何かで縛り隠し、服には何かを縫い込んでいるようだった。

何枚も繋ぎ合わせた物が何なのか遠目では分かりづらく、目を凝らす。

服のあちこちを染めているのは赤黒い血の染みで、返り血を浴びたか。

 

そして、それが何であるかを理解した俺は思わず半眼になった。

口元を隠す布も、服を覆うように縫い付けられたそれらも全て。

 

「なんだあ?。オレ様のコレに興味があるのか、お前」

『マネカタ襲って皮剥いでんの、アンタか?』

「そうだぜ。大人しくマガツヒをよこさねえから、当然だろう」

 

殺された時の苦悶の表情のまま剝がされた、マネカタの顔の皮だった。

苦痛に歪み、虚ろな黒い眼窩はここではないどこかを見てる孔と化して。

 

表で会ったマネカタが「サカハギ」と呼んでいたソイツは、新しく逃げてきた

マネカタ達について愚痴のように語り、ウザったいのがいると吐き捨てた。

イケブクロで殺されてりゃいいものをと、心底鬱陶しいと言わんばかりに。

 

(.....もしかして、今から会いに行くアイツの事か?)

 

ジロジロと値踏みでもするかのように、頭から爪先まで睨め付けていた

その視線がかちあい、蔑むような挑発するような口調で俺に話しかける。

 

「見かけねぇツラだが、オマエも悪魔だろ。なら、欲しくねぇのかあ?」

『?。欲しいって何をだ。マネカタの皮なんざ願い下げだぞ』

「違げぇよ!。マガツヒだ、マ・ガ・ツ・ヒ!。新鮮なマガツヒがよぉ」

『まぁ、確かに欲しいかもな』

 

コイツは俺を悪魔だと思ってるから、下手な事は言わないほうがいいかも

しれないと判断した俺は、さも悪魔らしくそう言うと「サカハギ」は口の端を

釣り上げたんだと思わせる下卑た笑い声をあげて、そうだろそうだろ、と。

納得した顔でそのくせ、明らかに見下しながら噓くさいことを言い放った。

 

「オマエなら良い仲間になってもらえそうだぜ、なあ?」

 

お前が悪魔を支配する気なら、仲間っつーより下僕だろ。

一体どうやりゃ、悪魔が自分達の餌とも言うべきマネカタに従うんだか。

けどそれを踏まえた上でコイツは、自分に不可能はないと思っているかも

しれない気がした。その為に、マガツヒを集めてるって言ってたしな。

 

「サカハギ」は気が済んだのか、足早に去って行き、残された俺はやれやれと

一息つきながらも、どうにかやり過ごせた事に安堵して先に進んで行った。

 

聖地と言うだけあって、かなり入り組んでいる道のりは砂に埋もれてたり

手つかずの場所があったりで結構手こずりながら歩いていくと視線の先に

岩山?のようなところに出てきた。どうやら終点らしい。

 

安堵して入口をはいった途端、その異様さに背筋が伸びた。

 

緑苔むす空間と、さほど大きくは無い鳥居が幾つも道を囲って伸びている。

全ての鳥居には太い注連縄が下げられ、雨粒?混じりの強風に揺れていた。

洞窟の中なのに、何処から雨風が吹き付けてくるのかはわからないけれど。

 

今までにない厳粛な雰囲気に呑まれた俺は、かつて当たり前にしていた

儀礼手順を思い出し、それに則って進んで行く。

 

突き当たったそこは、まるで昔の銅鏡みたいな入口が重々しい雰囲気を醸す。

差し当たり、どうやってあけるんだろうかと考えているとゴウン、と金属の

重たい音がしたかと思うと、見覚えのあるアイツが中から出てきて言った。

 

 

 

 

「やあ、いらっしゃい。やっぱり来たね。私が視た未来の通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




涼やかな水の音色響かせ 清らかな風運び
緑なす苔むした 命湧かす地を 正しき力で
護りたる担い手よ その濁り無き眼をもて

曇りなく 道を見据え 迷える淡き光を
導け その命の輝きを焔に変え 指し示せ
定めに従い 命尽きて 眼を閉じる時まで

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