射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人
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未だ目覚めぬは 儚きにも似て 
手折れるには 容易き小さき花
全てを欺き傾けし 聡明なる才
その身 光在りし世にて得たり

されど稀有にして定まらぬは
光でさえ 見定める事叶わず


海桐花(とべら)の真白き花、暗香の如く

 

 

うん?。たいくつだったかい?。きみが そういうだろうとおもってね。

そう。いくつか ()()()()をよういしたよ。ああ、ここには ないんだ。

 

まぁ かわいくはないけれど べつにこわしても かえはきくから。

ほら あれだよ、わかるかな?。泥人形だよ あそんでおいで。

 

うん?。こわくはないよ。うごく泥人形なんだ、めずらしいだろう?。

()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()から だいじょうぶ。

 

—————— そう。なにもこわがることは、ないんだ。

 

****

 

アマラ深界の第一カルパ。その出入口に佇む、2つの影。

 

「....では、擬人(マネカタ)の街の入口付近に放ってくればよろしいので?」

「それまでは傷1つ付ける事無く、守り抜くのです。出来ねばどうなるかは」

 

喪服の老婆が、その悪魔の手のひらの上にある"紅い玉"を見つめてそう言うと

ブルリと身震いした悪魔は言った。その先は聞かずとも理解している、のだと。

かのお方の命令1つさえも果たせぬ無能者は万死に値するも、直々にその御手に

かけられる事などまずありえ無い。そんな無能者はその価値すらも無いからだ。

 

「....我が身に変えましても、必ずや」

 

そう言うや、ひゅるりと一陣の風に吹き消されたかのようにかき消えた。

まるで初めから、そこに誰も居なかったかのように気配さえ消しきって。

 

「坊ちゃまの願いを叶える為に....生きなさい。それが」

 

喪服の老婆の背後には闇が迫り、老婆の姿はそこに溶け込むように消えていく。

その胸の内に在る、逆巻き蠢く感情を圧し殺し、闇に委ねるように目を閉じて

消える寸前に"音"に出した言葉は、あくまで、かのお方を思ってのものだから。

 

—————— 決して、"あの女"を案じてなどいない。

 

今なお消せぬ激情の焔に支配され、この醜き体を駆ける原初より刻まれたる

烙印から伸びて縛る"茨の蔓"が今も、この身を苛み殺し続けているのだから。

その最たる()()を案じるなどあり得ない。そう、()()はあくまでも別の。

 

また1つ、投じられた"石"が起こすが如く小さな波紋の広がりを生むであろう

大きな変化となる()()()()()()()()()()への僅かな....憐憫に、過ぎないのだ。

 

 

 

「……アレ、何だろう?」

 

アサクサの街で1人のマネカタが、訝しげに雷門の方へ目を凝らして見た。

そこに...."何か"がいる。だが、この距離では"何"なのかはわからない。

 

「....ねえ。アレ、何だろう?」

「近くまで行って棒か何かで、つついてみようか」

「やめなよ!。アクマだったらどうすんのさ!」

 

ああだこうだとマネカタ達が言い合うところへ、1人のマネカタが寄って来た。

 

「なんだよ、皆でサボってちゃダメだろ」

 

「あ、ガラクタ。だってさ、"何か"いるんだよ。ホラ、見てあそこ」

「....ホントだ。よし、ボクが見てくる」

 

ガラクタと呼ばれたマネカタは、ポケットから何かを取り出して皆に見せた。

いつか自分の店を開く為に、がらくた集めをしているというこのマネカタは

確かに皆と同様に恐怖心も持ち合わせているも、好奇心旺盛でもあったので。

 

「大丈夫さ。ボクにはコレがあるからね」

 

それは"くらましの玉"というアイテムで、"戦闘離脱"の効果があるものだ。

がらくた探しの時に常に幾つか持って行き、悪魔と遭遇した時に逃げる為の

大事なものだったのだが、まだ手持ちが十分に残っていたことも手伝った。

 

「念のためだ、フトミミさんを呼んできてくれ。じゃ、行ってくる」

「う、うん。すぐ呼んでくるから!」

 

—————— 同じ頃。すべての擬人を育み生み出す、母の胎内(ミフナシロ)

 

大きな岩の上で胡坐をかき、目を閉じていたマネカタの瞼がゆっくりと開いた。

揺れていた焦点が、ピタリと定まり遠くを探るように目を凝らして見つめ続け

やがて弾かれたように慌てて立ち上がり、大岩から飛び降りて駆け出していく。

 

「....何だろうか、この形容し難い感覚は。何かの兆しか?」

 

騒めく、とでも言おうか。不愉快でも怖れでもない。

 

「だが()()は、"彼"の事を視た時に感じたものによく似ている」

 

そんな事をふと考えたあと、物心がつい(生まれ目覚め)た時には既に持っていたこの力の事を

何故、"今"なのかは分からないが。改めて考えていた頃の記憶が蘇ってきた。

 

何の為に悪魔達のような色々な能力を持たず誰よりも何よりも最下層の存在で

いなければならない理由など考えることすら無いだろうマネカタ達の中にいて

なぜここから数多生まれてくるマネカタ達の中で、他の誰も持たず自分だけが。

 

「...."彼"ではないようだね。だが、どこまでも近い」

 

悪魔達でさえも持たない、未来を垣間見る力があるのかは未だ分からない事だ。

全てのマネカタが、何の為に生まれてくるのかも分からないのと同じなように。

 

そんな事、誰も思いもしないだろう。だが、1つ分かっている事がある。

 

悪魔達に搾取されるだけの泥人形と蔑まれ、虐げられる存在だと言われようと。

マネカタにも「心」は在る。無ければ悪魔達から虐げられる行為を受けた所で

恐怖「心」など持つ筈も無い故に、マガツヒを搾取するなど出来ないのだから。

 

 

「ふ、フトミミさ....っ!!」

 

ミフナシロを出てアサクサへの地下通路で、呼びに来たらしいマネカタに遇い

そして悪魔が来たと騒ぐ彼らと共に街に戻って来てみれば、流石に目を疑った。

 

「迂闊な事をしてはいけないと、あれ程言っただろう?」

 

どうやら"何か"に近づこうとしてみたものの、急に動かれて驚き後退った所に

自分は行き当たったらしかったと知り、窘めた変わり者のマネカタを背に庇い

即座に対応出来るように隙を見せずにモゾモゾと動く黒い布の塊を()めつけた。

 

「....素直に答えれば危害は加えない。答えられるだろう?」

 

視た通り....悪魔、ではない。寧ろ、間違いなく"彼"に近いのに。

何なのだろうか、ザワザワと背筋に走る訳の分からないこの感覚は。

 

湧き上がる戸惑いを隠す為に、今は目の前の事態に対処しなければと頭を振って問う。

 

「....きみは何者だ。ここがマネカタの街と知ってて来たのか」

 

声に反応したのか塊が起き上がり、覆っていた黒い布がずれて露わになると

出てきたのは煤けて汚れてはいるものの虜囚所で見た少年と同じ人間だった。

だが雰囲気も体つきも違うその人間が、じいっと眼前の擬人たちを見つめて

発した言葉は、未来を視れる唯一の擬人ですら視る事が出来なかった。

 

 

「....わ、たしは、真幸....明夜....」

 

 

掠れた声で、震える声で、その人間は擬人たちに問いかけるように答えた。

厳密に言えば....()()は、彼等の望む"答え"ではなかったのだが。

 

 

 

 

 

「....祖神くんを....現人(アラト)くんを....知りません、か?」

 

 

 

 

 

 

 

 





混迷を以て 紡がれゆくも
読み切れぬは 光も闇も同じ

盤上の駒と 侮る勿れ

望み得たきなれば 決して
同じ轍を踏みたくなくば

駒と……侮る勿れ






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