射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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かつてヒトが築きし 傲りの塔
壊れて今は 砂嵐の街に埋もれ
再び命宿せし塔は 卵の世界に
喚び出され 数多の命喰らいて

門と為らんが為 真に目覚める
その時を 未だ待たん



神へ至る柱、薩埵(さった)の定め手繰りしは

血脈のように幾筋もの赤い光の奔流が建物の床、柱、壁に流れを作っている。

幾何学模様が縦横無尽に走り、綺麗とさえ思えるほどの規律正しい赤い筋は

流れ込む命の鼓動が聞こえるんじゃないか?と思えてならない程にリアルだ。

 

近くにいた思念体に近づくと、ゆらゆらと揺れてぼうっと人影を映し出す。

 

「ここはオベリスク。トウキョウで最も高く」

 

最もカグツチに近づける所だと言う人影が、何故か誇らしげに見えるけど。

アンタが建てたんじゃねえだろがって突っ込みつつ、そうは言ってもまぁ

遠目からでも、オベリスクの高さは大したもんだと思っちゃいたんだよな。

 

だけどやっぱり、中へと入ってみれば全然感覚が違った。

 

『....しっかし、何て高さだよ。どーやって建てたんだ』

「さあな。けど、ここにアラトが探してる人間がいるんなら行くだろ?」

『....ああ。その為に来たんだ。今更、引き返さねえよ』

 

実際に内部に入ってみたら天井が見えねえとか、どーゆー構造だってんだよ。

イケブクロのマントラ軍本営は元々あったビルだけど、あれも結構高かった。

だけどコイツはヒトが造った建造物じゃないから尋常じゃねえんだろう多分。

まぁカグツチに行かなきゃならないんなら、これぐらいの高さは必要ってか。

 

『ったく、何階あるんだろうなコレ。エレベーターあるからいいけど』

 

エレベーターらしきものに乗って上の階へと昇り、少し進んだ辺りだった。

歩みを止めた俺を、仲魔達が訝しんで口を開こうとするのを目配せで制す。

 

『俺に....気付いちゃいるんだろうが、今は殺る気なしか。にしても』

 

隠す気も無いのかダダ洩れの妖気と殺気が、上の方から俺へと向けられてる。

察するにオベリスクを守護するヤツか、と思っていたら悪魔化した俺の耳に

3種類の声が聞こえてきた。けど、なんていうか....女の悪魔なんだろうけど。

 

「ククク....氷川様が予見された通り薄汚いネズミが、のこのこと」

「オベリスクの守護を沙汰された私たち三姉妹、オセの低能のようには」

「侵入者除けのカラクリを、あなたのオツムで解くことが」

 

言いたい放題言われているにも関わらず俺の関心は、全く別の所にあった。

 

「....おい、アラト。どうしたよ。おいって!」

『マジなのか?。3()()ってことらしいけど、1人くらい違うんじゃねえの?』

「はあ?。何がだよ。何言ってやがる」

 

耳をそばだてて、聞こえてくる声が言うことを聞き続けていると。

 

「峻厳なるカグツチは再生と死を繰り返し、お前だけを待ってはくれない」

 

その言葉を最後に何も聞こえなくなり、ダダ洩れだった妖気と殺気も消えた。

そして何事もなかったかのように、周囲に静けさが戻ってきたのだった、が。

 

『はー...「さぁ、来るがいい」って台詞と高笑いとか、もうベタ過ぎ』

「そうだな...じゃなくてよ!。アラトお前、何をそんな気になってたんだ?」

「静かにしておりましたでしょう?。お教えくださいませ、主さま」

 

俺の意思1つで抑えつけていた臨戦態勢のままの仲魔達が、姦しく騒ぎ立てた。

そんな大したことじゃねえし、お前らからしたら超くだらねえかもな事だぜ?。

 

『アイツら、口調からして女の悪魔で間違いないよな』

「マネカタの一部にゃそうじゃねえのがいるけどよ。それがどした?」

『...声が、凄くなかったか?。色んな意味でさ』

 

仲魔達の目が面白いほど揃って点になった様子に思わず俺は、笑ってしまった。

ほらな?、お前らからすりゃくだらねえことだろう?って言うと呆れられたが。

 

『口調と声に、ありえねー差があるっていうか』

「高慢ちきならやたら張り上げるように甲高い、とかか?」

『そうそう。まぁ俺の勝手なイメージだけどな。アイツらは違ったろ』

 

聞いてて吹き出しそうになるのを堪えるのに苦労したぜ、と言って笑ってたら。

 

「....お前、あんな殺気向けられてる最中にそんなくだらねえ事」

「流石は主さま、豪胆でいらっしゃる。頼もしいではありませんか」

「....マア、ソレグライデナクバ我ラヲ束ネルハ、叶ウマイテ」

 

それでこそ主だ!っつって、妙に感心されて背中をバシバシ叩かれて痛かった。

別に和ませる為に言ってないんだけど、まぁいいかと留めてた歩みを再開する。

そして30階まで上がってきた俺たちの前に、妙な仕掛け(パズル)がある事に気付いた。

 

『....カグツチは再生と死を繰り返し、俺を待たない、か。取り敢えず』

 

目の前の光る玉に触れてみると、周囲の空気が一変したのに驚いて思わず固まる。

そしてカグツチの周期齢が凄まじい速度で"静天"に変わっていき、止まっていた。

起こっている事への理解が遅れて足元がもたつき、足元のひし形のパネルを踏む。

 

『うっわ....!。なんだこれ、カグツチ齢と連動してやがる!?』

 

すると更にカグツチ齢が動き、目の前の壁が音を立てて下降し先への道が開いた。

試しに、もう1度踏んでみると開いていた壁が閉じてしまったのでもしやと思い

光る玉に触れてみると、周囲の空気が元に戻ったから。

 

『....ふーん、パネルの模様はカグツチ齢が進む度合いで壁の模様がその状態か』

 

壁の模様になるよう、足元のパネルを前後に踏んだ回数で合わせてカグツチ齢を

進めれば壁が動いて先へ進めるギミックらしい。面倒臭い(トラップ)張りやがって。

こっから先は全部こんなかよ、と軽く頭痛がしてるけど簡単に通れる筈も無いか。

 

『....こりゃあ長丁場んなりそうだ。いい大人が、性格が捻じくれてんなー』

「どっちがだ?。アイツらか、それとも」

『....創世に関わってる大人全部だよ。どいつもこいつもな』

 

だけどそれでも、行かなきゃならない。ここに、先生がいるんだ。だったら。

選択肢は一択しかねえ。東京が壊れる直前に俺に生き延びられる道を残して

俺や皆の日常を、命をも、その手にかけた理由を聞かなきゃならないんだよ。

 

『尤も。先生が何と言おうと、"納得"なんかできやしないって事だけは確かだ』

 

そう思って、最上階を目指して行った俺が辿り着いた先で突きつけられた事実は

俺の思考の斜め上を軽くぶっちぎって、あまりにも理不尽だと思い知るんだけど。

それよりももっと、有り得ない事を聞かされる羽目になるのは...その直後の話。

 

 

 

 

 

 

『....あんた、今何て言った?。それ、本当なのか?』

 

 

 

 




巡り来る邂逅には 歯車が足らぬ
噛み合い嵌まる符号に 今は遠く

些事たるか 戯言たるか量るには
今のお前は分不相応だと 知らず

さて あの御方の真の傀儡は誰か?





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