第十話 編入そして始まり
国立音ノ木坂学院。
この由緒正しき伝統校は今、廃校の危機に晒されていた。
なんとかそれを防ぐため、苦渋の末に共学化を図り、そこに俺が二年生から編入することになったのだが・・・
「私たちはこの音ノ木坂を存続させるため、この今年度から学校を共学にしました。しかし、行動を起こすには既に遅く、男子生徒は二年生に一名のみ、新入生に限っては女子生徒だけで一クラス分の人数しか入学してくれませんでした」
始業式の理事長からの話しはそんな言葉から始まった。
って、ちょっと待て、なんかいま聞き捨てならない言葉が理事長から聞こえてきた気がする。
男子が俺一人?せめて一年生に何人か入ってくるだろうと踏んでたんだが・・・
それに、一年生が一クラスってまずくないか?
「よって、大変心苦しいですが、この国立音ノ木坂学院は来年より生徒の募集を取りやめ、廃校とします」
「なんでさ・・・」
そんな俺の呟きは生徒たちのどよめきによってかき消された。
*****
「えー、それじゃあ、編入生を紹介する」
ところ変わって、二年B組の教室の入り口に俺はいた。
先ほどの理事長の話は俺に少なからずの動揺を与えていたが、今の状況の方がよっぽど動揺していると思う。
だってこれから女子だらけの空間に入って自己紹介するんだぜ?ハードル高いわ・・・
唯一の救いは担任の先生が男なことだな。
「じゃあ、入ってこーい」
そんな担任である三田先生のやる気のなさそうな一声がかかり、俺は扉を開け、戦場に赴いた。
そして、背筋をピンと伸ばして礼をしてから俺は口を開いた。
「藤間拓人です。これから二年間よろし―――」
「あーー!たくちゃんだ!!」
俺の渾身の自己紹介はそんな声によって遮られた。
「た、たくちゃんって俺のこと?」
「もう!あたりまえじゃん!海未ちゃん、ことりちゃん、本物のたくちゃんだよ!」
「本当、ですね」
「たっくん元気になったんだ。よかったぁ」
やばい、この状況についていけない。
とりあえず分かることは、最初の子と海未ちゃん、ことりちゃんと呼ばれた子たちは俺が記憶を失う前に出会ってたってことぐらいか。
こんな親しげに話しかけてくるくらいだもんな、きっとそうだろう。
それにしても、こんなかわいい子たちと知り合いだったとは。
しかし、なんと言葉を返したものか。
「高坂、とりあえず落ち着け。藤間が困っているだろう」
「うっ、ごめんなさい」
俺が悩んでいるのを察してくれたのだろう、先生が助け舟を出してくれた。
ありがとう先生、あんたいい人だよ。
「じゃあ、高坂と園田と南は既に顔見知りのようなので、それ以外で質問タイムとする。面白いのを期待しているぞ」
前言撤回。あんたは悪い人だ深山先生。
あんたは俺の母さんと同じニオイがする。
ていうか俺に質問なんてあるわけ・・・
って、なんで君たちそんな立派に手を上げてるの?
どうせ授業の時とかはもっと適当に上げてるんだろ?
「お、結構上がったな。じゃあ、朝間から順番に行くか」
*****
「ようやく解放された・・・」
結局全員の質問に答えさせられた俺はすっかり疲弊していた。
しかし、俺に彼女がいるとか好きなタイプとか・・・
さて、昼休みだし弁当食うか。
「たーくちゃん!」
またお前かっ!
俺これから弁当食べるんですが!
「なにかな高坂さん?」
先生、あんたが名字を言ってくれたおかげでなんとかやり過ごせそうだ。
これに関しては感謝するぜ。
「むぅ、どうして名前で呼んでくれないの!」
はい、やり過ごせませんでした。
質問にお答えしましょう。
ズバリ、きみの名前が分からないんです。
「い、いや、それは・・・」
なんて言えるか!確実に泣かせるわ!
「・・・もしかして穂乃果のこと忘れちゃったの?」
さり気なくネタばらししてくれたのはありがたいんだけど、このまま騙し通せるとは思えないしな。
いっそ打ち明けようか。
「実は、俺さ、」
「あ、購買行かないとパンなくなっちゃう!この話はまたあとで!」
えぇ・・・フリーダムすぎるだろ穂乃果、さん。
「あ、大きい木の下で海未ちゃんとことりちゃんが待ってるから、お弁当持って先に行ってて」
俺が行くのは確定なのな。
海未ちゃん、ことりちゃんって子たちはあの時の子たちか・・・
この短時間で記憶の手掛かりを三人も見つけるとは。
これは強運なのだろうか、それとも悪運なのだろうか。
「仕方ないから行くか・・・」
クラスメートたちの好奇の視線から逃れるように、俺は急ぎ足で大きな木を探すため、靴を履き替え外へ出た。
以外に早く木は見つかり、木の下には人が二人座っていた。
「あっ、たっくん」
「拓人君、来てくれたのですね」
「あ、うん」
二人ともすごい笑顔で歓迎してくれた。
でも、この子たちが笑顔を向けてるのは俺じゃない。
「おっ、たくちゃん来たね」
おお、俺をここに呼んだ張本人の登場か。
って、その手に持ってるの弁当だよな?
それにプラスしてパンを二袋だと?
「じゃあ、早く食べよー」
「あなたを待っていたのですが・・・」
「あはは、まあ穂乃果ちゃんだから」
二人の間に座り、そんなことを言い出す穂乃果。
うん、面倒だから呼び捨てでいいや。
「拓人君?いつまで立ってるんですか?」
「そうだよぉ、座って座って」
「じゃあ、穂乃果の隣においでよ!」
「お、おう」
流されるままに穂乃果の隣に座る俺。
配置的には、 海未 穂乃果 俺 ことり となっている。
「いただきまーす!」
穂乃果に続き、俺たちもいただきますをしてから食事を始めた。
「そういえばたっくんはどうして音ノ木坂に来たの?ことり、気になります!」
「あ、それは私も気になってました。」
「もしかして、穂乃果たちに会うために!?」
とりあえず、ことりのネタはスルーするとしよう。
しかしなんと言ったものか。
俺、記憶喪失なんだよ。とか?
いや、ストレートすぎんだろ。
「記憶、喪失?」
え、穂乃果に心読まれた?
はい、無意識のうちに口に出してたんですね。
「そんな・・・」
「うそ、ですよね?」
ことりと海未も動揺しているようだ。
「いや、本当だよ。俺は中一の春休みに車に轢かれて、その時に強く頭を打ったらしくてそれで記憶を失くしたみたいなんだ。だから―――」
俺はそこで言葉を切る。
この先を言ってしまってもいいのか?そんな考えが頭をよぎる。
傷付けてしまうかもしれない。悲しませてしまうかもしれない。
それでも・・・
「今の俺は、君たちの知ってる、君たちの望む藤間拓人じゃないんだ・・・」
ああ、言ってしまった。
結局は自己満足のための言葉。
彼女たちのために言ったわけじゃく、自分の保身のために言っただけ。
自分には記憶がないから、君たちの藤間拓人とは違うんだぞ、と。
そんな自分に腹が立つ
「・・・たくちゃんはたくちゃんだよ。だって、今のたくちゃん、すごく辛そうだよ?」
「そうですよ。記憶がないから私たちの知ってる藤間拓人じゃない?なにを言ってるんですか」
「二人の言う通りだよ。それに、ここにいれば記憶も戻るかもしれないし、ね?」
穂乃果、海未、ことりがそんな言葉をかけてくれる。
少しだけ、救われた気がする。
「ありがとな、穂乃果、海未、ことり」
「たくちゃん、やっと名前で呼んでくれたね」
名前で呼ぶと穂乃果は嬉しそうにそう言ってきた。
海未とことりも嬉しそうにしている。
それにしても、名前呼んだだけでこの反応ですか。
「さ、たくちゃんの話も終わったことだし、お弁当食べないと!」
穂乃果の一声で止まっていた食事が再開された。
「そういえばたっくんお弁当なんだね」
「ああ、一応俺が作った」
一人暮らしになるからと、向こうにいたころ母さんにみっちりしごかれた俺は、大抵の料理は作れるし、家事もこなせるようになった。
「へぇ、すごーい。この卵焼すごく綺麗にできてるねー」
「おう、それは今日の自信作だ。一つ食うか?」
「え、いいの?やったー」
ことりに卵焼をあげるだけのはずが、その後海未にはきんぴらを、穂乃果には唐揚げを取られた。
そして俺の弁当は空になった。
「じゃあ、たくちゃん。お礼にこれあげる」
穂乃果が差し出してきたのは、『マジカル製パン』略して『マジパン』の代表作『ランチポップ』のコーラ味だった。
「え、罰ゲーム?」
パンにコーラっておかしくね?
ほんとマジカルすぎるわこの会社。
「おいしいよ!!・・・多分」
「多分かよ!」
「うぅ、だってたくちゃん、コーラ好きだったなーと思って!」
「コーラ好きでも、これはなんか違うだろ!?」
「じゃあ、レアチーズ納豆キムチ味の方がよかった?」
「発酵×発酵×発酵の夢のコラボレーション!」
なんでそんなのしかないんだマジパンよ・・・
「ちなみに穂乃果のは?」
「え?ピーナッツだけど?」
「よこせぇぇぇ!!」
俺もピーナッツでいいわ!むしろピーナッツがいいわ!
「穂乃果のパン、取るの・・・?」
「うぐっ、」
上目遣いでそんな風に言われたら俺は・・・
「もう取らないから安心しろ」
気が付くとそんなことを言ってしまっていた。
「穂乃果の勝ちだね!ふふん」
なんかむかっと来た。
やっぱ取ってやろうかな。
「ふふふ」
海未が俺と穂乃果のやり取りを見て、思わずという風に笑う。
「笑い事じゃないぞ」
「ごめんなさい、ついさっきまであんな話をしていたのに、さっきのやり取りは二人のやり取りそのもので」
そう言う海未、微笑んでることり、「いやぁ、今日もパンが美味い」と、パンを頬張る穂乃果。
こいつらといれば、そのうち記憶が戻るのかな。
実を言うと、つい最近まで記憶が戻るということが怖かった。
その時が来たら、今の俺が消えてしまうんじゃないかと。
でも、三人は記憶がなくても俺は俺だと、藤間拓人だと、そう言ってくれた。
だからきっと俺はきっと―――
「ねぇ」
そんな言葉とともに目の前に現れたのは、金髪ポニーテールと長めのツインテールの女子だった。
リボンの色から察するに三年生だろう。
「ちょっといい?」
「「「は、はい」」」
その声音には有無を言わせないようなプレッシャーがあり、俺を除いた三人はパッと立ち上がってしまった。
たしかこの人が生徒会長だったな。
名前は・・・覚えてないや。
そんなことを考えてる間に用事は済んだらしく、先輩方は立ち去ろうとするが、金髪の先輩が俺のことを見て止まった。
「どうしたん、えりち?」
「あなた、もしかして・・・」
「え?」
もしかしてなに?
この人も俺となにかあった人なのか?
「いえ、なんでもないわ。昔仲が良かった男の子に似ていたから」
「そう、ですか」
「でも、最後には裏切られたわ。約束を破られたの。彼が今どうなってるのかも分からないしね」
「そんな・・・ぐっ」
突然の頭痛が俺を襲い、思わず声が漏れる。
しばらくなかったから完全に油断していた。
でも、そんなことよりも。
「たしかにそいつは約束を破ってしまったかもしれない。でも、あんたを思っていたはずだ・・・」
「・・・あなたになにが分かるの?」
なぜだかは分からない。
でも、どうしても伝えたかった。
そんな顔をしてほしくなかった。
きっと、この人には笑顔が似合う。
いや、笑顔じゃなければだめなんだ。
「えりち、そろそろ時間ちゃう?」
「・・ええ、そうね。熱くなってしまってごめんなさい、それじゃ」
「ほなー」
俺は、去っていくその背を見送ることしかできなかった。
あの頭痛を、俺は記憶が戻ろうとするときに起きるものだと考えている。
金髪の先輩が昔のことを話した瞬間、謀ったようなタイミングで起きたんだからほぼ間違いないと思う。
でも、記憶は少しも戻っていない。
いや、実際のところ少しは戻ったと言うべきなのだろうか。
あの先輩のことがすごく気になる。
変な意味じゃなく、なんと言うか、ほっとけないと思った。
「あの人も俺の記憶の手掛かりか・・・」
「え、なに?たっくん?」
「いや、なんでもない」
幸い、今の独り言は聞こえていなかったらしい。
「じゃあ、教室に戻るか」
俺たちは教室に向かって歩き始めた。
拓人は知らない。
あの場にいたもう一人の少女も自分の関係者だということを。
それがどんな結果を生むことになるのか、まだ知る者はいない。
~~昼休み終了五分前~~
とある空き教室にて
「拓人君、えりちとも知り合いだったみたい。それと拓人君の幼馴染も見てきたで」
「それで、これからどうするつもりよ」
「このまま見守るつもり。あの三人が、ううん、あの四人がどんな選択をするのか」
「そう、なら私も出来ることはするわ。そもそも私が悪いんだし・・・」
「にこっち・・・」
生徒会室にて
「なんで今更、あいつのことなんて思い出すのよ。約束を破ったくせに。あれから一度だって会いに来てくれなかったくせに」
ふと、先ほどの少年が頭に浮かんだ。
「そういえばまだ彼の名前を見ていなかったわね。たしかこの辺に――あったわ、藤間、拓人?」
ああ、そういうこと。さっきの言葉は本人なりの弁解のつもりだったのね。
「ふざけないで、ふざけないでよ!」
その叫びは生徒会室に響き渡ったが、誰の耳にも届くことはなかった。
いかがでしたか?
ちょっと、この章のプロローグ的な側面が強くなってしまったのと駄文が合わさってなかなかに読みにくいと思います。
文才なくてごめんなさい。
これからもっと頑張ります。
しろあん01さん評価ありがとうございます。