それではどうぞ!
「ただいまー」
「お、おじゃまします」
放課後、俺はなぜか穂乃果の家に来ていた。
どうやら穂乃果の家は和菓子屋を営んでいるようで、店内には何人か客の姿が見えた。
「あら、おかえ、り」
穂乃果の母親だろうか?
接客をしていた女性が、俺のことを見て驚いた顔を見せる。
が、すぐに笑顔になって、
「ゆっくりしていってね」
と声をかけてくれた。
穂乃果のお母さんに礼をしてから、家の中に上がらせてもらう。
そして、そのまま居間へ案内された。
「あ、おねーちゃんおかえりー。って、えぇ!?たーにぃ!?」
たーにぃって俺のことでしょうか?
またこれはなんとも・・・
「ただいまー雪穂」
「お、おじゃましてます」
なるほど、雪穂ちゃんね。
これはお母さんの名前にも「穂」が入ってるとみた。
店の名前も「穂むら」だったしね。
「そんなにかしこまってどうしたのたーにぃ?あ、チョコいる?」
いやー、かしこまってとか言われても。
俺の中では初対面なんだよな。
それとチョコはいただこう。
「ああ、貰うよ」
雪穂ちゃんからチョコを受け取り、包み紙を取って口に入れた。
ああ、この甘さが染みる・・・
「餡子入りだけどね」
「先に言ってほしかった!」
食ってから言うな!先に言え!
あ、でもこれ美味いかも。
「雪穂ー、普通のやつないの?」
「ないよー。白餡はあるけど」
ないのかよ、さすが和菓子屋だな。
「えー、もう餡子飽きたー!白餡はもっと飽きたー!!」
穂乃果よ、和菓子屋の娘としてその発言はどうなんだ。
すると、戸が開き、穂乃果母が現れた。
「穂乃果、和菓子屋の娘が餡子飽きたとか言わないの」
まったくもってその通りだな。
「ごめんなさーい」
この娘、謝る気ゼロである。
ん?なんだこれ。なんかのパンフレットか?
「UTX?」
「ああ、それ?私来年受けるんだー」
ほう、そうなんだ。
そういや、俺のこと話してないんだけど、まあいいか。
聞かれたら言おう。
穂乃果はというと、UTXとやらのパンフを眺めていた。
俺も横から覗き込むとちょうど校舎の写真が見えた。
いや、これは校舎じゃねぇだろ、もはやビルだ。
「ん?」
「ん?どうした穂乃果?」
すると穂乃果は一瞬で雪穂ちゃんに詰め寄り、両手で壁ドンをかました。
まあ、壁じゃなくて引き出しのようなものだが。
「雪穂!あんた音ノ木坂受けないの!?」
「時間差すぎだよ!」
「まあ、落ちつけよ穂乃果。音ノ木は廃校になるって話しだろ?」
「そうだよ、みんな言ってるよ?そんな学校受けてもしょうがないって」
「そんなことないよ!ことりちゃんと海未ちゃんとたくちゃんとで廃校にならないように考えてるもん!」
そうなんだよな。
放課後に学校のいいところを探すのを手伝わされた。
出たのは歴史がある、伝統がある、古くからあるというまったく同じ意味の意見と、部活の中途半端な成績だった。
あとアルパカ。あれはいい。
「でも、おねーちゃんたちが頑張ったって無理だと思うよ」
穂乃果はその言葉になにも言い返せなかった。
でも、あの目は諦めないって目だなー。
やれやれ、これからも付き合わされそうだ。
でも、不思議と嫌じゃないな。
「じゃあ、俺そろそろ帰るわ」
「えー、もう帰っちゃうの?夕飯食べてってよー」
「いや、急に来てそれはいくらなんでも。それに明日の弁当の用意だってあるんだ」
もちろん帰るための方便である。
「へぇ、たーにぃ料理できるんだ。っと、おねーちゃん、たーにぃにだって予定があるんだから帰してあげなよ」
「むぅ、じゃあ連絡先交換して。RIMEと電話番号」
「はいはい、わかったわかった」
なんだか雪穂ちゃんの方が姉に見えるな。
「じゃあ、また明日学校でな」
「うん、また明日!」
「またねーたーにぃ」
二人に見送られて俺は出口に向かう。
穂乃果母に挨拶をしようと思っていたらまだ、お店の方にいたようだ。
「おじゃましました」
俺はそう声をかけ、礼をして出て行こうとしたが、穂乃果母に呼びとめられる。
俺のことを見て、懐かしむような顔をしているということは、やはり俺は前にもここに来たことがあるのだろう。
しかし、それだけではなかった。
「拓人君、私ね、知っていたのよ」
「知っていたって、まさか」
「そう、あなたが今どういう状態なのかということをね」
「・・・そうだったんですか」
「勘違いしないでね、それでどうこうという話じゃないわ。ただ、あの子を、あの子たちのことをよろしくね」
「穂乃果と海未とことりのことですか?」
あの子たちと言われて真っ先に思いついたのはこの三人だった。
しかし、穂乃果母はそれを聞いてただ微笑むだけだった。
「それにしても、もう名前で呼んでるのね。それも穂乃果だけじゃなく海未ちゃんとことりちゃんも」
「いや、それは本人たちの希望で」
「ああ、穂乃果との婚約はどうなってしまうのかしら?」
「婚約!?」
今すごい言葉が聞こえてきた気がするぞ。
聞き間違いだよな、こんにゃくって言ったんだよな?
でも、穂乃果とのこんにゃくってなんだよ!俺たちはこんにゃく職人になるみたいな夢を共有してたとでも言うのか!
「ふふっ、ごめんなさい。冗談よ」
「心臓に悪いこと言わないで下さいよ・・・それじゃ、俺は失礼します」
「またいつでも来てねー。あ、最後にもう一つ」
「なんですか?」
すると、穂乃果母は先ほどまでの笑顔から、急に真剣な顔になった。
「あの子たちから逃げ出さないであげてね。これは”私たち”からのお願い」
「っ・・・はいっ」
俺はその言葉にすぐ返事ができなかった。
*****
高坂家を後にし、自宅へ帰った俺は、夕食を済まし、居間でくつろいでいた。
「にしてもやっぱ、落ち着かないなー」
この家に住み始めてから一週間は経つが、やはり一軒家で一人暮らしというのは慣れない。
「さて、風呂にでも入るかな。ん?」
その時俺のスマホが鳴った。
「穂乃果から電話か。もしもし―――」
「もしもしたくちゃん?明日の朝七時に穂乃果の家に来て!学校行く前に行きたいところがあるの!それじゃ」
「え、ちょ、まっ―――切りやがった・・・」
これ行かなくても俺悪くないよな?
「せめて返事くらいさせてほしいもんだ。っと、今度はRIMEきた」
『明日楽しみにしてるね!おやすみ~!』
「はぁ、こんなん寄こされたら行くしかないよな。よし、風呂入って早く寝るか」
*****
朝七時、俺は約束(一方的な要求)を守るために穂乃果の家に来た。
「いってきまーす」
すると、タイミング良く穂乃果も家から出てきた。
「あ、たくちゃんおはよっ!」
「おはよ」
朝から元気だなー。
「よし、じゃあ行こう!」
「どこ行くんだ?」
「UTX学院だよ」
「UTXってあのビルみたいな?」
「うん、敵情視察だよ!」
「敵って・・・まあたしかに敵っちゃ敵だな」
そんな会話をしながら俺たちは歩きだした。
「うわぁ、これが学校?」
「やっぱビルじゃん!」
十分ほど歩くとUTXらしきものが見えてきた。
写真で見た時よりもビルビルしかった。
「あの入口にある改札みたいな機械でなにしてんだ?」
「うーんと。あ、これじゃない?」
穂乃果が雪穂ちゃんから借りてきたらしいパンフレットを見せてくる。
「ICで出席確認って・・・もはやどこに向かってんだよ・・・」
「すごいよねー」
すごいけど、すごいんだけどそうじゃない感が俺の中にある。
それにしても、なんか騒がしいな。
「穂乃果、そっち行ってみないか?」
「うん、そうだね」
人だかりの先にはモニターがあり、そこには三人の女の子が映っていた。
「たしかパンフレットにも載って――って穂乃果?」
「あのー、あの人たちって芸能人とかなんですか?」
穂乃果は春なのにコートを着て、マフラーを巻き、サングラスをかけ、マスクまで付けているツインテールの人という不審者すぎて、逆にどこからツッコめば分からない人に話しかけていた。
「はぁ!?あんたそんなことも知らないの!?A-RISEよ、A-RISE」
「A-RISE?」
「スクールアイドル。学校で結成されたアイドルよ」
「アイドル・・・」
スクールアイドルか。
たしかにこんなに人気があれば入学者も増えるか。
でもなー。
「かよちーん、遅刻しちゃうよー」
「ちょっとだけ待って」
そんな声がし、振り向くと、音ノ木坂の制服を着た子が二人走って来た。
この子たちもこれを見に来たのかな?
モニターに視線を戻すと、曲が始まり、三人が踊り始めた。
『――基本だね群れるの嫌いよ』
え?蒸れるの嫌い?なんか怪しい響きだな。
嘘ですごめんなさい。
ふと、穂乃果がいる方を見ると、先ほど来た二人と穂乃果は表情から純粋な憧れが見て取れたが、ツインテ不審者だけはなぜかむすっとしたような表情だった。
「って、おい穂乃果?」
よろけながら近くの手すりまでいく穂乃果。
「これだ・・・」
「え?」
「見つけた!」
ええ!?マジかよ!
「いや、それはいくらなんでも――」
俺は、その先の言葉を口に出さなかった。
いや、出せなかった。
そんな無謀なことを言い放った、穂乃果の顔があまりに魅力的で、俺は思わず見惚れてしまった。
いかがでしたか?
次回から結成に向けて動いていきます。
基本原作沿いですが、変わるところも多々出てくるのでご了承ください。
ご覧いただきありがとうございました。