日常に満ち溢れたジンクス、それは出会いと別れの始まりだった。

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貴方はジンクスを信じますか?

あなたはジンクスを信じますか?

 

 

世の中にはジンクスというモノが存在する。『何々をすれば何かかが起きる』と言うように漫画でよく見られるフラグのお膳立てをする事によって、自分の望みを叶えようという一種のおまじないだ。それは古くから伝わる漢方薬じみた知識ではなく、科学的根拠のない噂に尾ひれが付いたような些末なモノが多い。

 

『桜の花びらが地面に落ちてくるとき、3枚拾うことが出来れば両思いになれる』

 

『休み時間に、好きな人の名前を手に10回書いてから話しかけると、両思いになれる』

 

『教室のドアを開けると同時に好きな人がいたら、両思いになれる』

 

『図書館で、枕草子を借りると素敵な出会いが訪れる』

 

『消しゴムに好きな人の名前を書いて使い切ると両思いになれる』

 

たまたま起こった偶然に、誰かが理由を付けて、また違う誰かが同じ事を実行する。何十何百モノ人間がそれを行えばそれは数人は同じ結果を得られる人も出てくるだろう。だが噂というモノは極端で、好結果の集計しか広まらない。結果的にそのジンクスによって幾人もの人々の望みが叶っているかのように語られてしまう。

失敗した者は、その存在が居たことさえ語られない。

 

何処の恋愛馬鹿が考えたのか、それとも場当たり的な記事しか書かない週刊雑誌に踊らされたのか、この僕の周りにはジンクスがそれこそ星の数まであふれかえっていた。それこそ平然と過ごしている日常の中でいつの間にかジンクスが成されているという事態が起こるほどに。

 

もちろんそれは死亡フラグのような回避不能のものではなく、条件を満たしてしまっていても特に何も起こらないというのが普通の極めて一般的なジンクスだったのだが。

思春期真っ盛りの少年少女はそれらのジンクスを特に何も考えず鵜呑みにし、成功したり失敗したりする。

 

もちろんそれだけなら別にどうでも良い。稚拙なガキ共が発情期真っ盛りで猫のように鳴いているのかと、特に気にすることもなかっただろう。

 

自分とは関係のないところで、自分には危害の及ばない時にやってくれるぶんには僕は全く構わない。それを不快だと否定するほど僕は心の狭い人間ではないし、一人の男としてジンクスをついつい求めてしまう人の気持ちは理解できたからだ。

 

だから、僕は特にこれといってジンクスを調べようと思った事はなかったし、知っているジンクスを自分の望みを叶えるために行う事もなかった。

 

そう、それが一つのジンクスの達成条件だった……

 

 

 

 

「こんにちわ」

 

 

その日薄ら寒くなった空気を腹一杯に吸い込んだ僕は、明日から冬休みだと言う事実に自然とほおが釣りあがってしまい自然に笑みが浮かんでしまう。

 

毎度の事ながら、その表情の変化はあからさま過ぎて担任の先生からもお小言を貰うくらいだった。

地面に落ちた落ち葉を踏みしめ、雪の降り始めた空を眺めながら、僕は冬の始まりを実感する。

 

別に学校が嫌いだと言う事では無いけれど、それ以上に冬休みが僕には楽しみだった。長い休みには、普段ならでき無い事もできてしまう。

 

これといって例は上げる事はでき無いけれど、それでもその無限の自由を得たような開放感が心地よかった。

 

薄ら寒い風を受けながら、それでも気分が上乗せされている僕は通学路をスキップする勢いで帰宅し、明日から何をして過ごそうかという想像をする。

 

 

 

 

僕は学校の帰り道にある、田んぼの前の小さな社に作られた古いお地蔵さんの前で手を合わせ祈る。ひび割れ全体的に歪になってしまったお地蔵さんはこの辺りでは有名で、なんでも戦時中のさなかに作られ人々の思いを一身に背負ってきた有り難いものなのだという。

 

子供の頃からその話を何度も聞かされてきた僕は、自然とその近くにやってくるとそっと手を添えたくなってしまうのだ。『神仏を大切にしていれば御利益がある』なんて、ジンクスに溢れた町からしてみればこれも一種のまじないみたいなものなんだろうかと考えてしまう。

 

だがどうにもこのお地蔵さんとはもう長い付き合いではあるので、その場限りの突っ張ったヤンキー根性で蔑ろにしてしまうと言うのも気が引けるものがあった。端的に言えば情が移ってしまっているのだ、有名とは言ってもそれほど強い逸話を持つわけでもないお地蔵さんは、他の強いパワースポットに人気を取られて霞んでしまう。

 

今では人気のないたんぼ道と言うことも相まって、お参りに来るのは腰の曲がった老夫婦だけになってしまっている。だが僕にはそれが良かった、ジンクスなどと言ってもてはやされる神社や仏閣を見ていると何かその場所が持つおごそかな雰囲気を壊されているような気がしてしまう。

 

それこそ両親の教育のたまものなのかも知れないが、とにかく僕はブームだの流行だのといったその場限りの人気でこのお地蔵さんがにぎわうのは嫌だった。心境としてはアイドルを子供に持つ父親の心境だろうか、まあそう考えてしまう辺り僕も体外罰当たりかも知れないが。

 

 

 

昔から信心深かった僕の両親は、僕にそう言った神仏は大切にしなさいと教育してくれた。それが偶然だったのか必然だったのかはわからない。でも、僕の前に訪れたこの出会いを僕は運命だと思いたい。

 

 

何処かの何かのジンクスが達成され、僕の前に出会いを運んでくれたのだとしても。

 

 

 

 

『僕は君を愛している』

 

 

 

 

 

 

 

貴方はジンクスを信じますか?


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