短編、私はトビウオであった。名前はまだない。(多分三話構成) 作:なむさんばがらす
ディープマリーンと書いて深海棲艦と呼んでほしい厨二病な今日この頃。
3, Unidentified monstor
「やなこった。俺はそんなバカげた作戦には付き合わんからな」
彼女は激怒した。かの邪知暴虐の重雷装航空戦艦を除かねばならぬと決意した。
「役に立たぬ……忌々しいガラクタめ!!」
彼女は戦略がわからぬ。彼女は生まれてこの方、格下相手の戦闘しかしてこなかったからだ。
けれども、邪悪に対しては人一倍敏感であった。
邪悪な人間どもをこの海から除く為の作戦行動に、なぜ異を唱えるのか。彼女は激怒の中に困惑を混ぜた。
――吾輩からすれば、ガラクタは貴様等の方だ、戦艦の姫。
彼女は理解した。
コイツ(不純物)の仕業だと。
このよく喋る航空艤装のせいで、この重雷装航空戦艦の深海棲艦としての在り方が歪んでしまったのだと。
なぜなら、目の前の"コイツ"以外の重雷装航空戦艦型は、彼女に二つ返事で付き従ったからだ。
「お前らが俺に何をしてくれた?こんな寒い海で文字通り冷や飯を食わせた挙句、三か月前の敵の侵攻ではこの極北方面に敵の機動部隊を誘引して囮扱いして、そのせいで全滅した艦載機の補填に寄越したタコヤキは局地戦仕様で物資のないここじゃ無用の長物! ……その上今度は水上先遣艦隊だと?ふざけるのも大概にしろよ」
第一、俺は寒いとこはキライなんだ。とついでのようにコイツはぼやいた。
言っていることは最もだが、そもそもこの重雷装航空戦艦型に『お前ら』と『俺』の区別がつくのがおかしいのだ。
なぜなら深海棲艦はすべて、『人間への敵対』という共通の認識を持ち、階級による厳しい統制がなされ、個々の自我はほぼないからだ。
それこそ、数年前に邂逅した、同様の志を持つ艦艇群たちが言っていた『アドミラリティ・コード』のようなものだ。
「お前は……何者だ……っ!!」
戦艦の姫と揶揄された彼女は思わず問う。私たちをお前らと呼ぶ、『私達』でも『彼奴等』でもないお前は一体なんなのか? と。
「俺は俺だ。名前はまだない。……それの何が悪い」
重雷装航空戦艦型は、あっけらかんとした様子で言った。
姫はさらに困惑した。
そんなものでいいのか。
そんなちっぽけな理由(碇)でいいのか。
そんな、そんなことで……この広大な海の只中に『自分』を繋留して本当に良かったのか。
――貴様らの方こそ、いつまで『複数形』でいるつもりかね。自分を持たず、我々、私達、我ら……死ぬまで複数形であるのなら、さぞ安楽な生涯であろうよ。それこそ言われるがままに万歳攻撃して死ねる程度には、な。
重雷装航空戦艦型の艤装は逆に、彼女らの在り様を痛烈に批判した。
「……まぁ、そういうことだ。敵を『一人でも多く道連れにする』なんていう消極的な目的のための自滅作戦、なんてのはそれこそ『人間』しかやらないことだからな」
――俺(吾輩)は、『人間』には堕ちたくない。
そう言ったときの彼女らの目には、それこそ他の深海棲艦らと同様な、人間への憎しみの火がありありと浮かんでいた。
4,『レ」ミゼラブル
――む、偵察機より入電、周辺海域に敵連合艦隊!! こちらに向かっているぞ。
「お前ら……」
「断じて違う。むしろその偵察機が補足されたんじゃないのか?」
敵艦隊に補足されたままここに来たのか、という彼女の呆れたような視線を、戦艦の姫は否定した。
――爆装を下した飛び魚艦爆に追いつける艦載機などいるものか。どうする、幸いこちらの頭数(戦力)だけは揃っている。迎え撃つか?
「冗談じゃない! 我々はこの隙に手薄になった本部を叩く。お前はここに残り、敵連合艦隊を食い止め、一人連合艦隊と恐れられたモノの意地を見せよ!!」
と、戦艦の姫はこちらにわずかな手勢を残し、海域を離脱する用意を始めた。
――……同型艦を数隻引き連れている貴様らがそそくさ逃げ出す算段をしていては、その異名も形無しであるな。
「今から逃げても敵航空隊に補足されちまうぞ……おい、飛び魚!敵の編成はどうなってる!」
艤装の皮肉を聞きながら、重雷装航空戦艦は敵のさらなる情報を求め、返答の電信を待った。
『………戦…4、……母4、軽巡1、駆逐2………くそっ、敵機、ちょこまかと...ザザーッ』
――貴殿、交戦しているのか!!
向こうの電気系統に不具合が生じたのか、無線はうんともすんとも言わなくなってしまった。
そもそも、あの飛び魚艦載機には「戦闘せず、偵察のみに専念せよ」と厳命しているのだ。先ほどは爆装を下しただけと言ったが、微妙な速度調整のために20mmチェーンガンの弾数半減や対空ロケット弾のオミットなどを行って最速仕様になっており、艦爆や艦攻はもちろん、艦戦等の戦闘力重視の航空機ではまず追いつけないようにチューンアップされていた。
彩雲等の高速の艦上偵察機にやむなく発見された場合も、飛び魚艦載機の長大な航続能力を活かして十分に敵母艦と引き離してから空戦を行う、などの厳格な交戦マニュアルを言い含めていた。(もともと、アレはかなりの高練度であったらしく、空の事は戦術から戦略レベルの事まで完璧に把握していた)
「聞いただろ? 敵は機動部隊持ちだ。今から逃げたって間に合わねぇ。さっさとそこの航空戦艦に発艦指示出しやがれ!!」
その艦載機が、単機で撃墜必至の戦闘を行う、ということがどれだけ奇妙で、異常事態であるのか。彼女の目の前の戦艦棲姫には理解できない。
だが、彼女らの剣幕に押し負けた戦艦の姫は恨めしそうに舌打ちし、指揮下の重雷装航空戦艦型三隻と航空母艦型一隻に艦載機の発艦指示を出した。
ほどなくして、飛び魚艦爆と新型艦載機の大編隊が敵連合艦隊へと向かう。
「で、どうする? 砲撃部隊は? 定石通り夜まで待つか?」
「馬鹿にするな。この時期この辺りの昼が異常に長いことは知っている。空母『ヲールステイン』を残し、『レグルス』、『レイノルズ』、『レミリア』、『ルクレチア』は私とともに突撃する」
――どうやら、タダの愚か者では無さそうだな……よろしい、吾輩も同行しよう。うちの偵察機兼弾着観測機が心配だ。
「……では、『リべリア』、『ネセサリー』、『ホルマール』、『イスランド』、『ロベルタ』を連れて行け」
戦艦の姫は、彼女に重巡洋艦二隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦二隻の水雷戦隊を任せた。
「どういう風の吹き回しだ?」
「勘違いするな。戦うとなった以上、我々の力を最大限発揮できるよう艦隊を用いる必要がある。『味方』と喧嘩して敵に負けたくはない……それは『人間』のすることだ」
――ほう……そういうことならばありがたく頂戴しよう。
そして、戦艦の姫と、名前のない彼女は、即席の連合艦隊として極北の海に出撃した。
彼女らには守る国土もなく、護る国民もいない、戦いしかないのだ。
故に仲間割れはない。
戦いこそが、彼女らの存在意義そのものであるから。
戦うことでしか、彼女たちは生きられないから。
5, I don't think so.
私は今、自ら死のうとしているのかもしれない。
それこそ、自ら捕食者に食われることによって群れ全体の生存率を高める小魚のように……
だが、そうせざるを得ない事情があった。
アレ(・・)は、絶対に飛ばせてはならなかった。
その証拠に、私が、発艦間際に機銃掃射で破壊した敵機の積載物の誘爆で、敵の空母が一隻爆沈した。
でもその隙に、他の空母から発艦していた無駄に硬い敵艦戦の接近を許してしまった。
12.7ミリは少し……いや、かなり痛い。最悪、撃墜もあり得る。
空戦には少しばかり自信があったが、半減した弾薬では継続火力が心もとなく、また、一対多の状況にこの20ミリ単装チェーンガンはいささか貧弱すぎる。
本隊への連絡は済ませた。私の戦果と、敵の新兵器について報告しようとした時に、敵の12.7mmが私の装甲を突き破り、電信回線を焼き切った。
致命傷ではない、たかが無線アンテナをやられただけだ。
私は損傷をものともせず、太陽を目指して垂直に飛び、太陽の中に入るような形で敵機を引き離した。銃弾がかするような事態は幾度もあったが、発動機、操縦索等の重要部分への貫通は許さなかった。
「fu○kin Deep-Marine!!」
星条旗を掲げたバトルシップ級が怨嗟の声を上げるが、それはこちらのセリフだ。お前たちこそ、侵略行動などしなかった北の彼女を殺したではないか。
私は怒った。
その怒りに呼応するようにして、生体発動機は回転数を上げ、私は一層敵機を引き離そうとした。
敵機は当然追従しようと速度を上げ、私が隠れた太陽に向かって機銃を乱射していたが、有効打にはならない。私の機影など、眩しさでロクに見えていないのだから当然である。
故に、私は左捻り込みによって反転、驚く敵艦載機のマヌケ面に20mm弾を叩き込んだ。
煙を吹いて堕ちていく敵機、その後方から新たな敵機が三機、四機、五機とまるでハエの群れのようだ。
武装と数は一流だが、練度はさほどでもない印象を受けた。
なぜならかつて、旧帝国海軍航空隊の必須項目と言われた左捻り込みであるが、大戦末期はそのマニューバ特性を連合に解析され、もはや脅威ではなくなっていたのに、目の前の彼らはそれができていない。
一応、対策されていることを想定していた私は、太陽を背景に、かつ敵機の背後に回り込むのではなく方向転換のみに用いた。ただ機首を『捻った』だけだったのである。
それによって、太陽で目がくらんでいる敵機に対しほぼ一方的に攻撃ができる状況が出来上がり、すれ違いざまに二機目の敵機を落とした。
この時点で不利を悟った敵艦載機群は仕切り直しとばかりに散開し、私の追撃を誘うものと、私とすれ違ったあとに反転して追撃するものに分かれた。
よし、逃げよう。
今、私はかなりの高高度を飛んでおり、この位置エネルギーをすべて速力に変換することで、追撃する敵機を振り切って余りある速度を出すことが可能だった。
私は散った敵機を追わず、一目散に空域を離脱しようとして、信じられないものを見た。
丸々と太った爆弾をぶら下げた爆撃機が、爆沈させたはずの敵空母から何事もなかったかのように発艦していたのだ。
星条旗を掲げる艦船は、北の彼女をなぶり殺した日の丸の艦船よりも、優れた被損傷対策(ダメージコントロール)能力を持っている、と一般的に言われていたのを失念していた。
……アレ(・・)は、いけない。
すぐにでも機首を返し、仮に敵戦闘機に撃墜されようとも、重そうにふらふらと飛行するそいつらだけは皆殺しにしなくてはならない。
そう思い、行動しようとしたところで、私の思考に電流が流れた。
――ソンナニ簡単ニ捨テラレル命ナラ……何故私達ヲ見捨テタノ……?
焼き切れた回路が、度重なる無茶な空戦機動で一部ショートしただけであろうが、その刹那の間に、私の記憶の中の、言葉の通じなかった北の彼女の声が、私を責めたように感じた。
私の補助翼も方向舵も昇降翼も、まるで石になったかのように動かなかった。生存本能という枷が、私の自己犠牲を許さなかった。
私はぐんぐんと速度を増し、ついに敵機の追撃を振り切った。
敵が私を追うのを断念した辺りで、私は操縦系の制御を取り戻した。だが、既に帰還用にとっておいた燃料もだいぶ使ってしまっていたために、例の爆撃機を鉢合わせる前に燃料がなくなってしまい無駄死にすることが分かった私は、帰途を急いだ。
ほどなくして、味方艦載機の大編隊とすれ違い、その際に発光信号によって可能な限りの情報を伝えた。彼らが例の爆撃機を落としてくれさえすれば……と、私はそう願わずにはいられなかった。
思ったより長くなってしまった。反省。
あと、名前のない重雷装航空戦艦の彼女の元生物予想ですが、今頂いている回答は引っ掛けです。
私もヒントを出したときに「あ、これシャチだわ」と思ったのですが、正解とは異なります。あしからず。
予告していた「大鳳とストンプ」ですが、パロディ元とほぼ関係なくなってしまったかつ、長く、話が重くなってしまったのでカットしました。(作者は番外編の方が爆速で筆が進むという度し難い性癖持ちでち)
それでも読みたい。大鳳ちゃんに踏んづけられたい!という人間離れした提督の方は、感想なりメッセージなり評価コメントなりで伝えてくだされば、活動報告等で載せようと思います。あしからず。
三部構成とか言いつつ、早くも続きが思いついてしまう今日この頃……「多分」って書いたしちょっとぐらいオーバーしても……ばれへんか。
では、次回までごゆるりとお待ちください。