ケッコンカッコカリSS。
ツイッターでアンケート取ったら不知火の方が多かったから。
pixivにも同時投稿。

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不知だったこと

私はファイルを手に、執務室の前に立った。ファイルには今日中に司令が片付けるべき書類が入っている。

それを司令に届ける為、執務室の扉に手を掛けた。だが、扉の向こうから聞こえてくる会話のせいで手が止まってしまった。

扉の向こうで、陽炎姉さんと話していたからだ。陽炎姉さんのハキハキとした声が扉越しに聞こえてくる。

しばらくその場で話を聞いていた私は、司令の言葉に凄く動揺してしまった。

司令が私を好きだと言っていたからだ。

好きじゃなければ秘書艦にしたりしない、とも。

聞いた瞬間こそ揶揄いの一種だと思った。司令が言っているのは部下としての好きだと。

だが、司令のその真剣な口振りから、段々とそれが現実味を帯びてきていた。

ただ、話している人物が問題だった。

陽炎姉さんだ。

陽炎姉さんはきっと、驚きながら話を聞いている。目の前の扉で姿が見えないので表情が分からない。だが、口振りから察するに笑っているのだろう。

でも、それが作り笑いだという事を、私は知っている。

陽炎姉さんは司令の事を好いている。私に語るくらいには。

それが私を、私の心を締め付け、かき乱す。

私が陽炎姉さんから司令を横取りしたんじゃないか、とか、そういうことを考えてしまう。

唖然としていた私は、手に持っていたファイルを落としてしまった。ファイルから書類が散らばる。

 

「ん?誰かいるのか?」

 

扉の向こうにいる司令がこちらへ声を掛けてきた時、私は頭が真っ白になってしまった。今この状態で陽炎や司令に見つかったら、私はどうしてしまうのか。

私の心は何故か、既に限界だったのだ。

気付けば、私は逃げ出すようにして走り出していた。

 

「……不知火?」

 

司令が扉から出てきた時、既に私は廊下の角を曲がっていた。その先にも廊下は続いており、その行きつく先は外だ。

私は気を紛らわすようにして体を動かし、そのまま近くの桟橋へと走る。

桟橋に差し掛かると、私はスピードを落とした。桟橋にはその先がないのだから、当然なのだけれども。

 

「……不知火は、司令のことを……」

 

私はふと、私がどう思っているのかを考える。

出てくるのは、司令の笑顔。その笑顔を見ると、自然と口が緩んでいたような気もする。気遣いの無さそうなその笑顔は愛おしいとも思う。

司令は非常に柔らかい性格で、軍人には向いていないとよく言われている。一方で、嘘は言わないし、問題にはその都度真面目に取り組んでいるし、熱血的でもある。どちらかと言えば、教師向きなのではと思う。それでも、時には不抜けた表情を見せるし、居眠りをしていることもある。私はこの弱ったところを見かける度、心が揺さぶられてしまう。

 

「不知火!」

 

後ろから声が聞こえる。いつも聞く声だ。

私は振り返る。そこには息を切らした司令が、膝に手をついていた。

司令は深呼吸をして息を整えると、目を私に向けた。

 

「不知火、急に逃げ出してどうしたんだ?」

「…………」

「いやまあ、答えたくないなら別に良いが……」

 

ここは、もう直接聞いた方が良い。そう思った時には、私の唇は動き出していた。

 

「司令は、不知火のことをどう思っているのでしょうか?」

「不知火……」

 

司令は微かに目を見開いた。動揺しているのだろうか。

 

「不知火は艦娘、司令は人間。(もと)となる部分が違います。それを分かっておられるのでしょうか?」

 

そう、私達は兵器だ。

人と同じ姿形はしているものの、それは昔の兵器が人間の姿を持っただけの話。

どこまでいったとしても、その事実が変わることはない。

 

「あ、ああ…」

「艦娘は、昔の戦艦が人の形と成ったもの。言ってしまえば兵器です。それを踏まえて、どう思っているのでしょうか?」

 

司令の目つきが変わった。いつものゆるゆるな表情とは違い、少し真剣な目をしている。

私は司令がどう思っているのかが知りたい。だから引かない。いや、引きたくないのかもしれない。

 

「……不知火」

「はい」

「不知火は、俺が思う兵器と兵士の違いって何だと思う?」

「……はい?」

「分かるか?」

 

司令の中での、兵器と兵士の違い……?

何故このタイミングで?

 

「……機械か人か…でしょうか」

「まあ、それが普通だな」

 

そういうと、司令は溜息を吐いた。

 

「だが、俺は少し違うぞ、不知火」

「どういうことでしょうか」

「俺はな?機械か人かってのもあるけど、そこに自我があるか無いかってのもあるんだ」

「…………」

「例え機械であっても、そいつに自我があるなら、俺は人として接する」

「司令……」

「生きてる兵器なんて無い。もし兵器が生きているなら、そいつは兵士だ。逆に思考の死んでいる兵士がいれば、そいつは兵器だ」

「司令は、不知火が生きていると言いたいのですか?」

「そうだ。もし死んでいるなら、俺の言葉なんて届かないだろ?」

「それは、そうですが……」

 

それでも、やはり攻撃の可能な機械は、殆ど兵器です。

その自我だって、人からすればプログラム化された、あるルールによって決められているものなのかも知れない。

様々な情報を取り入れ、あるアルゴリズムを通し、一つの事を出力する。その出力を使って、私達は動いている、とも考えられるではないか。

もしくは、遠くで不知火を操っている……というよりも、キャラクターとして不知火を動かしている可能性だって無くはないのだ。

 

「てか、不知火が機械だったら、こうして談義なんて出来ないだろ?」

「……あっ……」

「な?」

 

確かに、機械だけでは談義など出来ない。仮に出来たとしても、数秒もせずに答えが出るだろう。

……駄目ですね、私。司令の言う事を信じ切れていないなんて。

 

「なあ、不知火」

「何でしょうか?」

「俺の思ってること、まだ伝えてなかったよな」

「……はい」

 

司令は改まって私の前に立つ。荒れていた呼吸は既に整っていた。

 

「俺は、お前が好きだ」

「…………」

 

……駄目。いざ改まって言われると、言葉が何も出てこなくなる。色々と返す言葉を考えていたのだけれど、全て吹き飛ばされたような感じだ。

 

「俺と、ケッコンしてくれないか?」

「……それは、拒否出来るものですか?」

「…………ああ。お前が嫌なら、な」

 

そう言って司令は視線を落とした。多分私が断るものだと思っているのだろう。

 

「司令、顔を上げて下さい」

「ああ」

「司令が私を愛してくれるのならば、私も素直にならなければ、ですね」

「……つまり?」

「実は、私も司令が好きです」

「じゃあ……!?」

 

司令の顔が見る見るうちに明るくなるが、まだ私の話は続く。

 

「ですが、実は陽炎姉さんも、私以上に司令のことが好きなようです」

「ふむ……」

「だから、陽炎姉さんがどう思うのかって考えると、怖くて仕方がなかったんです。陽炎姉さんからすれば、私が司令を奪ったような感じになってしまうからです」

「そのことなら、大丈夫だぞ」

「はい?」

「俺は陽炎ともケッコンするからな」

「……え?」

 

今、司令の口から信じられない言葉が聞こえたような気がする。

私とケッコンして、陽炎ともケッコンする?

それって……重婚、ということ?

 

「そういうことよ、不知火」

「陽炎姉さん!?」

 

司令の後ろから、陽炎姉さんが顔を出した。

まさか、あの時の会話は本当に笑っていたの……?

 

「陽炎、不知火が困惑しているぞ。どういうことだ」

「あちゃー、思考回路がショートしてるねー、これ」

「重婚……重婚、ですか」

 

日本は重婚禁止で、でも司令は陽炎と私を妻にしようとしてて、でも日本は重婚禁止で……?

 

「ア…アハ…アハハハ……」

「あ、不知火が壊れた」

「ほら、やっぱ無理だって言ったろ?」

「大丈夫だって!不知火、艦娘には重婚禁止なんて法律は通用しないわよ?」

「アハハ……はい?」

「だから、艦娘には法律が通用しないのよ」

「……まあ、お前らは世間一般では兵器扱いだからな。物と重婚するなってのも変だしなあ。俺は大歓迎だけどさ」

「そ、それじゃあ……」

「そうだな……」

 

司令が左手を私に向けて差し出す。人差し指に指輪がある。

陽炎姉さんとのものだろうか?

 

「俺としては、この手の薬指に指輪が欲しいかなあ、と」

「き、急ですね……」

「その前に、だ。不知火、左手を出してくれ」

 

私は無言で左手を差し出す。

司令はその手を左手で取り、私の付けている手袋を外した。その外した手袋を左手の指で挟むようにして持ち、右手に指輪を構えた。指輪は光を反射しており、鈍く輝いている。

 

「いいか?」

「……どうぞ」

 

司令は私の言葉を聞くと、ゆっくりと薬指に指輪をはめた。その後、それを惜しむようにして手をそっと離した。

私は改めてその指輪を見てみる。

それはプラチナだけで出来た指輪(シルバーリング)で、とてもじゃないが派手なものとはいえない。

だが、私は艦娘。こっちの方が戦闘の支障にもならないだろうし、管理も楽。それに、これを司令自身が渡してくれたという事実が、なによりも私の心を喜ばせていた。

 

「さて……不知火も、な」

 

私が指輪に見惚れていると、司令が私にくれたものと同じ指輪を差し出してきた。

もう、迷う事もないだろう。司令は私に色々なものをくれた。

これからは、私も色々なものを渡す番。

 

「分かりました」

 

私は指輪を受け取ると、司令の左手を取る。

司令の左手の人指し指には既に指輪がある。ならば私がやるべき事は一つだろう。

 

──私は、その手の薬指に指輪をはめた。

 

その様子を見届けた司令は、満足そうな表情で私を見つめている。私も、司令の顔を見つめ返す。

 

「……フフッ」

「何がおかしいのですか?」

「いや、やけに素直だな、と思ってさ」

「私はいつも素直です」

「そうだったな」

「ちょっと、私の事も忘れないでよ」

「うおっ!?」

 

陽炎姉さんが司令の右手に抱きつく。司令は驚いたのか、体を一瞬振るわせた。

……少しずるいです。

 

「では、私も失礼して……」

「ちょ、不知火も!?」

 

私は司令の左腕に抱きつく。今度は驚かなかったらしい。

 

「……まあ、いいか。このまま執務室に戻るぞ。いいな?」

「勿論!」

「了解です、司令」

 

そうして、三人一緒に執務室へ戻ることになった。

戻れば仕事が待っていますが、司令と一緒に出来るのだと思うと、不思議と心が躍ります。

この不知火、一生司令についていきます。

 

──だから、これからも私を、私達を良い方向に導いてください。司令。




左手の人差し指:精神的な前向きさや、積極性を引き出す。
左手の薬指:愛を進展させる。

まさかの重婚

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