ことりのひとしずく【完結】   作:月白弥音

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その出会いは

運命の出会い、少女マンガなどによく見られる恋愛のきっかけ。ストーリーの1つの始め方。

マンガの世界では実に甘美に表現されているが、実際はそんなに甘いものが多いわけではなく、時に残酷だ。

偶然出会った人物にそれから先の人生をよくも悪くも大きく変えられてしまうことがあるのだから。

 

 

 

ある日、偶然行った場所である幼い少女と出会った女子高生は、後に少女との出会いを運命の出会いだったと話す。

とても短い期間、だが、彼女にとってかけがえのない日々。

それは少女との出会いと別れの物語。

 

 

 

さあ彼女たちの物語を始めよう。

みんなで叶える物語が幕を閉じたあとに幕を開ける彼女とその友人たちの物語を。

 

 

 

 

 

 

【その出会いは】

 

 

 

 

 

 

 

 

結成して一年もたたないうちにスクールアイドルの頂点に上り詰めたグループが解散してはや2ヶ月が経過していた。

未だに彼女たちの人気は収まることを知らず、復活を望む声も多い。

今、養護教諭に呼ばれ、不安そうな顔つきで保健室に向かう特徴的な髪型をした生徒、南ことりも解散したスクールアイドルグループ、μ'sのメンバーの一人だ。

「失礼します」

重い扉をなるべく音をたてずに入った彼女は自分を呼び出した養護教諭、伊藤なつきの姿を探した。だが、そこに伊藤の姿はなかった。自分だけしかいない静かに張り詰めたその場の空気にことりの緊張はさらに増していく。

「職員室かなぁ?」

その場の空気に耐えかねたことりは伊藤の姿を探しに一度保健室を出ようと扉に手をかける。その瞬間、

ーーガラガラッ

勢いよく扉が開かれた。

「ひぃっ!」

「あ、ごめん南さん! 驚かせちゃったね」

しりもちをついたことりに声をかけたその人こそ、ことりを呼び出した張本人、伊藤だった。

「伊藤せんせ~、ビックリしました……」

立ち上がりながら伊藤に文句を言ったことり。

ごめん、ごめん、と言いながら先にいく伊藤のあとについて伊藤の机の横に座った。

「それで、お話って何ですか?」

「理事長、南さんのお母さんにも言われたんだけど、あなたμ'sの活動してるときから何か膝に違和感がなかった?」

「え?」

何のことかわからないと言うようにことりは首をかしげた。幼い頃、ことりは膝が悪く手術を受けたことがあったが、今ではほとんど完治していると思っていた。

「自覚は……ないみたいね」

「はい。膝が痛いわけでもないですし、歩きづらいと感じてもいませんけど……」

「そう……」

話をするかどうかの迷いが伊藤の頭をよぎる。すぐに話すことを決めた伊藤がことりより早く口を開いた。

「最近、少し足を引きずっている感じがしていたの。自覚がないのなら問題ないのかもしれないけれど……念のため病院で見てもらった方がいいと思うわ」

確かにμ'sでのダンスは自分の運動能力を超えたものであったのは自覚していたが、自分の膝がそこまで悪くなっているとは想像していなかった。そもそも完治していると思っていたことりは膝が悪かったことは覚えていても全く配慮をしていなかった。

「念のためよ、念のため。足は生活にも影響が大きいし、ね」

「……はい、わかりました」

ことりは1センチくらいだけ残った膝の手術痕を一瞥し、失礼しますと保健室を後にした。

 

 

 

 

 

 

それから数日がたち、ことりが何度も通った馴染み深い病院に彼女の姿があった。担当医と会うのは何年ぶりだろう。高校進学後は一度も検査に来ていないので、二年ぶりと言うことになる。

「久しぶりね、ことりちゃん。すっかり可愛くなっちゃって」

「そんなことないですよ~」

「スクールアイドルやってたんでしょ。私びっくりしちゃった、まさかことりちゃんがアイドルやるなんて思ってもいなかったから」

「私も、穂乃果ちゃんがやるって言い出してなかったらやってなかったと思いますよ」

「さて、今日はその事できたんだよね」

和気あいあいとした空気から一転し真面目な診察が始まった。

今までことりがやって来た練習メニューやライブ映像を見せる。担当医はその映像を見る間にことりをレントゲン室に向かわせた。

 

 

 

 

レントゲン室からことりが戻る途中、ことりの担当医が彼女の横を走り去っていった。首をかしげながらもとりあえず診察室に向かおうと再び歩き始める。

受付の前を通ったことで走っていた原因がつかめた。

なんでも入院中の患者の容態が急変し、そちらの方に行ってしまったらしい。戻ってくる時間がわからないため、ことりは待っていることを諦め、一週間後の診察予約を取ることにした。

 

 

 

 

支払いを済ませたことりは最近院内にコーヒーショップができたと言われたことを思い出した。理事長をやっていることりの母は学校が廃校を免れたと言ってもやることは多いらしく今日の診察に同行しなかった。一人ならちょっとくらいいいよね、そう言い聞かせてことりはコーヒーショップのある階まで上がった。

「もしかしてことりちゃん!?」

エレベーターを降りてすぐ声をかけられたことりは知り合いに出会ったかと辺りを見回すが、そこに自分が知ってる顔はなかった。

「やっぱりことりちゃんだー」

声を頼りに下を向くとそこには車イスに乗った小さな女の子がいた。ことりがいくら小学生たちと交流があると言ってもここまで幼い知り合いはいなかった。

「私のこと知ってるの?」

「うん! 私、ことりちゃんのこと、一番好きだったよ」

幼稚園の年中か年長くらいだろうか、若干要領を得ない答えだったがことりは言いたいことを理解した。

「μ'sのこと知ってるんだ」

「うん!」

花が咲いたように笑顔を見せたその子にことりは幼馴染みの一人を重ねた。

「ね、一緒にひかりのお部屋いこ!」

その笑顔のまま提案するその子ーーひかりの頼みを断れずことりは頷いた。

「じゃあことりが押してってあげます! ひかりちゃん……でいいのかな、お部屋の場所教えて?」

「そうだよ、みなみひかり! 五歳です!」

「そっか。じゃあひかりちゃんのお部屋にしゅっぱ~つ!」

ひかりの病室にいく間も会話が途切れることはなく、ことりはとても嬉しくなったが、同時に少し申し訳なさも感じていた。

「ここだよ、わたしのお部屋!」

ひかりが案内した部屋は個室だった。ことりは念のため病室の入院者名が南ひかりとなっていることを確認し扉を開いた。

「ひかり! 一体どこに行って……」

中にはひかりの母親だと思われる女性がいた。ひかりが帰ってきたことに気づきすぐに説教を始めようとしたが、ひかりの車イスを押していることりを見て勢いが削がれてしまった。

「あ、初めまして。南ことりと申します。ひかりちゃんとは今エレベーターホールの辺りで会って……」

「ほらママ、ことりちゃんだよ! 本物だよ!」

「えっ……本物って、もしかしてあのμ'sの?」

「は、はい……」

今は元、ですけど。そう付け足したくなるのを押さえ、ことりは恥ずかしそうに頷いた。世間での見られ方は未だにμ'sの南ことりであることを改めて実感した。

「普段はこんな風に抜け出すことはないから驚いちゃった。ことりさんにつれてきてもらって助かったわ」

「いえ、私も偶然あっただけですから。μ'sのこと深紅さんも知ってるんですね」

「……ひかりがすっごく大好きでね、よく聞かされてたわ。病室でやれることってあまりないでしょ? だからこの子、暇だと思うといつもμ'sの曲聞いてるの。特にことりさんとは名字が一緒だからあの子にとって何か特別だったんだと思う」

病室のベットに入ったあともしばらく色々なことを話し続けていたひかりだったが、さすがに喋り疲れたのかいつの間にか寝息をたてていた。

そんなひかりの隣でことりはひかりの母、深紅(ミク)と話していた。

「そんな、私が特別なんて……」

「少なくともあの子にはそうだったのよ。って、ごめんなさい、ことりさんにそんなこと話しても仕方がないわよね」

偶然の出会い。そこで出会ったのは、ことりにとってはスクールアイドルをやってた頃のファンの一人でしかないはずだった。

偶然名字が同じなこと。偶然この階に来たこと。そしてひかりが偶然病室を抜け出したこと。

これは()()ではなく、()()だったのではないか。そうとすら思えてくる。

そしてことりの口から意識することなく言葉が紡がれる。

「あの、またひかりちゃんのお見舞い、来てもいいですか?」

深紅は驚いたように目を丸くし、それから言葉もなく頷いた。そして再びあげた顔には一筋の涙が光っていた。

「またいつでも、ひかりに会いに来てください」

「はい、ありがとうございます」

ことりももう限界だった。これ以上病室にいれば一緒に泣いてしまいそうだった。

失礼します、頭を下げて出てきたことり。

窓から空を見るともう日が落ち始めていた。結局コーヒーショップには寄れなかったが、それ以上に大切な出会いをしたと感じていた。

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