人生とは選択の連続だ。使い古された言葉ではあるが、実感するときは意外と少ないものだ。
大抵、選択は無意識に行われ、吟味できるのはごくわずかだ。
中にはその選択すら出来ないこともある。
少なくとも、彼女たちは選択することができた。たとえ、その選択が正しいのかは分からないとしても。
【選んだ道は】
数日後、元μ'sである9人がμ'sのリーダー高坂穂乃果の家に集まった。
当時三年生だった絵里、希、にこの三人はそれぞれ別の大学だが、今は大学生活を満喫している。
当時の一年生、花陽、凛、真姫の三人は絵里の妹と穂乃果の妹が結成したスクールアイドルを支援する傍ら時々自らもアイドルとして活動していた。
そしてことりたち三人は高校三年になり、生徒会業務と学業の両立に追われていた。中学でも生徒会長を務めていた凛に次期生徒会長の白羽の矢が立っているという話もあるが定かではない。
それぞれの道を歩み始めた仲間との久しぶりの再会を一頻り懐かしんだところで
「今日私たちを呼んだのことりちゃんだよね? なんかあったの?」
穂乃果がことりに話を振った。
そこでことりは深紅から聞いたひかりの状況について説明する。
「あの子が……」
「そんな……」
「それで、ことりはどう思ったの? これを伝えるために私たちを呼んだ訳じゃないでしょ?」
絵里が話の続きを促す。
「うん……何とかして私たちもお金集めるのに協力できないかなって……」
「具体的には? まさか活動再開なんて考えてないわよね」
ことりの肩がビクッと跳ねた。
「やっぱりね、そんなことだろうと思ったわ。私は反対よ。こんな簡単に活動再開なんて、なぜ続けなかったのかって言われるだけよ。逆効果だわ」
「でも……」
ことりは頷かない。
「それに、ひかりちゃんの為だけに私たちがわざわざ動くっていうのもね」
「そもそもスクールアイドルはプロやないからチャリティーライブみたいなことも出来んしなぁ」
「でも! このまま何もしないなんて!」
「ことり!」
絵里の声がことりの言葉を遮った。
「ことり、今のあなたはμ'sに入る前の私と同じよ。一人で抱え込んで焦らないで。私たちもみんな協力する。
ことり、ことりの一番やりたいことは?」
絵里の横にいる希は少し恥ずかしそうにはにかんだ。
自分が親友のために発した言葉を、今度はその親友が仲間を助けるために使う。希にとってとても嬉しい瞬間だった。
「私が……」
ことりは考える。
ひかりのためにお金を集めること、それは間違いなくことりがやりたく、またひかりを救う唯一の方法だ。それが一番やりたいことに決まっている。
そう口にしようとしたとき深紅の言葉が頭をよぎった。
『あなたが元気の源』
『あの子にとってはきっと特別だったのよ』
違う、ことりの口から声が漏れた。
「私が一番やりたいこと、それはひかりちゃんのそばにいること。手が届かないところでお金集めに協力するんじゃない。ひかりちゃんの側で元気をあげること!」
悩みを振り切ったようにことりは言い切った。
「うん、ことりちゃんなら出来るよ!」
「かよちんの言う通りにゃー」
「そうですよ。ことりならきっと」
「みんな……」
仲間たちからのエールにことりは目頭が熱くなるのを感じた。
「でも渡航資金は……」
「私たちでダメなら他の人に頼んでみようよ、ツバサさんとか!」
穂乃果の思い付きにその場にいる全員が絶叫した。
「あ、A-RISEに頼むって言うの!?」
「さすが穂乃果……言うことが違うわ」
「そうかな、えへへ」
そんな穂乃果見てことりは笑顔を見せた。
「ことり、やっと笑顔を見せましたね」
「え、そう?」
ことり自身、自分の顔が強張っていることに気が付いていなかった。
「ありがと、みんな。でもツバサさんたち、協力してくれるかな……」
「やれるだけやってみようよ! やらなくて後悔するなら、穂乃果はやって後悔したいもん!」
「凛もそうだにゃ」
「やってみなさいよ、あんたが言い出したことでしょ」
ことりは小さくうなずいた。
その日の内に深紅を通じて『ひかりちゃんを救う会』にチャリティーライブ開催の許可をもらったことりは翌日、A-RISEが所属する事務所の前にいた。
「おっきいにゃ……」
「A-RISEが所属するこの事務所はアイドル業界の四天王と言われるほどの大手だからね」
事務所の道案内のために着いてきた花陽はなぜか一緒に着いてきた凛に説明する。
目の前にあるビルの三階から五階を事務所として構えたそれはまさに大手と言う看板が相応しかった。
勇気を出して中に入り、受付に用件を話すと応接間に通された。
待つこと数分、A-RISEのマネージャーだというきつい印象の女性が入ってきた。慌てて立ち上がる三人を一瞥してソファーに座った。
「今回は初めてだから許すけど次からはちゃんとアポとって頂戴。私たちも暇じゃないのよ」
「すみません……」
いきなりの説教にただ謝るしかない三人。覚悟はしていたが、こう言われるとやはり心にくるものがある。
「それで、用件は何?」
「A-RISEにチャリティーライブに参加してほしいんです」
ことりは単刀直入に本題を切り出す。マネージャーは驚きからか目を少し大きくした。
「……日程は? 会場は?」
「未定です。これから考えます」
「呆れた、話にならないじゃない。あなたたちが再結成すればいいんじゃない? 話題性もとれるでしょう」
話はこれで終わり、そう言うかのように立ち上がったマネージャーはそのまま応接間を後にしようとする。
「……待ってください」
「……何?」
明らかに不機嫌そうなマネージャーの様子を見てことりは怯む。
「えっと、その……」
ことりが言い淀んだとき
ーートン
優しく背中を押された。思わず振り返ると、そこには花陽と凛の笑顔があった。それを見てことりは腹を括る。
「私たちじゃ、私たちだけじゃダメなんです! A-RISEの力が必要なんです!」
端から聞けば何とも身勝手で他力本願な言葉。だが、その言葉は確実に他人の心を動かす。
「やるわ、マネージャー」
「「「「ツバサ(さん)!」」」」
ドアを開けて入ってきたA-RISEのリーダー、ツバサ。その言葉には嘘偽りがなかった。
「あなた勝手に……」
「だって、共に競いあったライバルだもの。困ったときはお互い様でしょ」
「誰がスケジュール管理すると思ってるのよ、もう」
ぼやきながらもスケジュール帳を確認し始めるマネージャー。その口ぶりからすでに何度もこういうことがあったのだろうことが予想できる。
「南さん。場所も日程も私たちに任せて。スクールアイドル出身の他のアイドルにも声をかけてみるわ」
「そんなそこまで……」
ことりが遠慮しようとするのを
「気にしないで。一週間時間を頂戴。それで全部決めちゃうから」
そんな頼もしい言葉と、綺麗なウインクで押さえ込んだ。
それから一週間、ツバサから時々送られてきた途中経過報告メールでスケールがどんどん大きくなっていくことに驚いていた。最終的には参加グループは六組、会場はアキバBLITIZに決まった。
そして、もうひとつ重要なのはμ'sの曲を各グループ一曲ずつやると言うことだ。練習期間も考えて開催はおよそ一ヶ月後の八月の半ばに決まった。その練習を元μ'sのメンバーが見ることになり、誰がどこにいくかも決めなければならなかった。
やはりA-RISE、やる規模が違う。その企画に最初から携わっている誰もがそう感じるだろう。
そんなライブより重要なことがライブの企画が決まって少したった頃に起こった。
ひかりが一般病室に戻ったのだ。それは一先ず命の危険を乗りきることができたなによりの証だった。
「ひかりちゃん!」
その知らせを受けてすぐ、ことりはひかりの病室に駆けつけた。
「ことりちゃん……!」
全身をという訳にはいかないが、ことりはひかりの頭をその胸に抱きとめた。
ライブとひかり。どちらも最高の結果が出ますように、ことりはそっと呟いた。