自分が選んだ道の先に何が待っているのか、それは選んだ本人でさえ知ることはない。
それが分かるのはその道の終着点にたどり着いたときだけだろう。
道の半ばで結果が分かることはない。ただひたすらに進むしかないのだ。
たとえそれがどんなに苦しくとも。それがいくら険しくても。
この道の先に何が待っていようとも、もうあとには引き返せないのだから。
【この行く先は】
練習に明け暮れるうちに一ヶ月なんて言う期間はあっという間に過ぎ去り、今日はライブ当日。
こんな風にアイドルが合同で一人のためのチャリティーライブを行うのは史上初ということもあってか事前の話題性もかなり大きくなり、中心で活動しているA-RISEはもちろん、ひかりにも取材が来ていた。
当然、今日のライブ本番はテレビの生中継が入り、全国で放映される予定になっている。
「楽しみだね、ことりちゃん!」
ライブが始まるのを今か今かと待ちわびているひかりを見るだけでは先月ICUに入っていたとは到底思えなかった。
ひかりはそれほど、少なくとも見えている範囲では、元気を取り戻していた。
そんなひかりを今も蝕み続けている心臓病。ハイテンションで話し続けているひかりを見ながらことりはその事について改めて考えていた。
「ねぇ、ことりちゃん? ことりちゃんってば」
「ふぇ? どうしたの、ひかりちゃん?」
ひかりが自分を呼ぶ声で意識を戻されたことり。
「やっぱり聞いてなかった」
「ごめ~ん」
「ことりちゃんはここにいていいの?」
「ん? どうして?」
「だって他のみんなはあっちのじゅんびって言ってたから」
「ことりはいいんです。ひかりちゃんとここで一緒に見守るのがお仕事なの」
「ふーん」
納得がいってないようだが、なんとなく理解したようだった。
ことりがあの日、穂乃果の家で宣言した自分が一番やりたいこと、『ひかりのそばにいる』。それが実行できるようにとことりを準備からはずした。その代わり、出場するアイドルの衣装製作を手伝うなど当日以外の準備を行った。
「あっ、始まったよ!」
元々明るい表情が更に明るくなった。
各グループが自分の持ち曲1つ、μ's名義の曲1つを披露していく。
そして時間はあっという間に過ぎ、トリのA-RISEの出番。第一回ラブライブの優勝曲、Private Warsを披露した。
そのあとに披露するμ'sの曲はことりがこれまでの会話でひかりの一番のお気に入りだと判断したWonderful Rush。
「わぁ……!」
前奏が始まったときから今までで一番の歓声を上げた。
「これからの わんだふーらっしゅ みんな~」
自分のセンター曲ということもあってか自然にことりが口ずさんでいた。それにひかりの歌声が重なる。
「「はーるかー遠くーのーみちーさえもーそうきっとつかんで~」」
「「うー はい!」」
「わー、ひかりちゃん上手~」
「えへへ、いっぱいれんしゅーしたから」
病室が笑い声で溢れる。
『それでは最後の曲です。μ'sがイベントのために作った私たちにA-RISEにとっても思い出の曲。会場の皆さんもよかったら一緒に歌ってください!
それではいきます。『SUNNY DAY SONG』』
ことりの脳裏にあのイベントの記憶が甦る。μ'sの解散を伝えた全国のスクールアイドルが一同に集った合同イベント。スクールアイドルがいかにしていくかを示すことができたそれまでで一番楽しいライブ。
「サニデイソン! サニデイソン!
高くとびーあがれー どんなことも乗り越えられる気がーすーるーよー」
ひかりが全力で歌っていた。それはまるであの日の自分、最高に楽しんでいたμ'sのようで。
『今の私たちならきっと、どこまでだって行ける。
どんな夢だって叶えられる!』
あの日、穂乃果が言った言葉がひかりの今の状況を変えることを信じて。
ことりは一緒に歌い出す。
「「サニーデイソン! サンパワー」」
ことりとひかりで最後に同じポーズを決め、お互い笑いあった。
「ひかりちゃん、可愛い!」
「あ、ありがと……ことりちゃんも可愛いよ!」
「ふふっ、ありがと」
この笑顔が見れただけでもライブは大成功と言えるだろう。
だが、このライブはチャリティーライブ。どれだけの資金が集められたかも重要になってくる。これがわかるのはまだ数日先のことだ。とりあえず今はひかりを喜ばせることができたことに満足していた。
数日後、ことりは救う会の事務局に呼ばれた。おそらく収益が計算できたのだろう。試算した金額より上回っていればいいけど、一抹の不安を覚えつつ、ことりは緊張の面持ちで事務局の扉を開いた。
「南さん、こんにちは」
「ツバサさん!」
事務局の中には先日のライブを中心となって引っ張ったA-RISEのリーダー、綺羅ツバサの姿もあった。
「二人とも、まずは本当にありがとう。最初、南さんからお話を受けたときはアイドルなんてと思っていたが、私もあのライブは感動した」
「そう言っていただけて光栄です」
会長の言葉にツバサが返す。いつもとは違う少し下手にでた発言だった。
「ひかりちゃんもとても喜んでいたようで何より。さて、あまりこういう話をしたくはないのだが、収益金の話だ」
ことりは唾を飲んだ。ツバサもいつものような余裕は見えず、会長の言葉を待っている。
「まず結果から話そう。収益額は予想を大きく上回った」
「それじゃあ……」
ことりが期待に満ちた声をあげる。
「うん、ひかりちゃんの渡航資金は予定額を達成したよ」
「やった~!」
「よかったわね、南さん」
「はい、本当にありがとうございます!」
ツバサは抱きついたことりを抱きとめる。
「私からもお礼を言おう。綺羅さん、本当にありがとう」
「いえ、私たちは普段通りのパフォーマンスをしただけですので」
ツバサの言葉にいつもの余裕が見え始めた。瞬間瞬間で変わるツバサの様子を見てことりは少しおかしく感じ笑いが漏れた。
「どうかしたの?」
「ううん、何でもないの」
そう言いながらも笑いを押さえられないことりにつられ、いつの間にかその場にいる三人全員が笑っていた。
ライブが本当の意味で成功したことを確信した瞬間だった。