夢は諦めなければいつか叶う、それは極一部の成功者にのみ口にすることを許された言葉。
いくら努力しても叶わないことはある。勝者がいれば敗者は必ず存在する。それは揺るぎようのない事実だ。
その極一部になるために人々は努力する。たとえその努力が途中で嘲笑われるものだとしても。
実際にその努力が報われるかどうかは最後の最後、その一瞬でしかわからないのだから。
【さいごに見るものは】
ひかりの渡航資金目標額達成の知らせは瞬く間に全国に広がった。
スクールアイドル出身のアイドルが一人の少女のために一同に集まりライブを行う。それだけでも十分すごいことだが、各グループが一曲ずつ人気が根強く残るμ'sの曲を披露したことも大きいのだろう。
ひかりはスクールアイドルが好きな心臓病を抱えた女の子として全国でも有名になりつつあった。
もちろん、あれだけのアイドルを動かしたのだ、ファンからの心ない批判もあったが、それよりもずっと多い励ましの言葉が連日事務局に届いていた。
「プチパーティしようよ!」
そんなことを言い出すのはやはり穂乃果だった。
「しかし、そういうのは普通快気祝いでやるものなのでは……」
「だからプチなんだよ~ねえねえ、ことりちゃん、どお?」
「う、うん。いいと思う! 深紅さんには確認しないとだけどね」
まったく、ことりは穂乃果に甘すぎます、そうぼやきながらも穂乃果の意見に賛同するところを見ると海未も十分甘いのだろう。
こうしてひかりの病室でプチパーティをやることが決まった。
そしてパーティ当日。大学生になった絵里たちもなんとか都合をつけ元μ's全員で参加することになった。
パーティと言っても、お菓子を食べながらわいわいというようなことは出来ない。故に簡単に遊べるもの、トランプや人生ゲームなどを持ち込んだ。
「こんにちは、ひかりちゃん」
「あっ、ことりちゃん!」
「「「「「「「「こんにちは!」」」」」」」」
「みんなも! どうしたの?」
ことりの後ろから入ってきたμ'sの姿に驚きを隠せないひかり。いくら何度か会っているとはいってもやはり憧れの存在に会えると言うことは嬉しいことだった。
「みんなで遊びに来たんだ!」
「それって……」
穂乃果バックから取り出したのは人生ゲームforLOVELIVEと書かれた段ボールの薄く四角い箱。スクールアイドルになりラブライブ優勝を目指すという設定の人生ゲームで、μ'sが第二回ラブライブ優勝商品のひとつとしてもらったものだ。
ちなみに一般販売は今年のクリスマスから。つまり穂乃果が持っているものは試作品だった。
「はやくやろやろ!」
今年のクリスマスプレゼントでもらう予定だったものを一足先に遊べるとあってひかりのテンションは最高潮に。すぐにベットサイドの机に広げられ、ゲームが開始された。
「えっと、『親友を誘うも断られる。一マス戻る』だって。海未ちゃんみたい」
「し、しかたがないじゃないですか! 『親友と喧嘩する。叩いた慰謝料として1000円払う』」
「また海未ちゃんだね……」
なぜか海未の黒歴史となるようなマスによく止まりつつ、ゲームを進めていくひかりたち。
そして……
「やった! ひかりいっちばーん」
「わぁ、ひかりちゃんすごい!」
ひかりが一位でゴールした。最下位は海未。心をえぐられ過ぎたのかラブライブ出場も叶わなかった。
「今度はそうはいきません」
海未は懐からトランプを取り出した。
「ババ抜きです!」
「えっと海未ちゃん、今日は……」
「このまま負け続けるのはいやなのです」
海未の迫力に押されることり。なぜこんなにも止めるのかわからないひかりは不思議そうにそのやり取りを見ていた。
そんなわけで始められたババ抜き。一人ずつ順調に抜けていき残ったのはやはり海未と先程の人生ゲームで首位だったひかり。
ひかりの残りカードは一枚。海未は二枚。ここでひかりがババを引かなければ勝ちか決まる大事なところ。
ひかりは一枚ずつ触って海未の反応を見たあと
「こっち!」
勢いよくカードを引いた。引いたカードにピエロは居なかった。
「あっがり~」
「まさかひかりにも負けるなんて」
そのまま海未は崩れ落ちた。これで三戦三敗。特に今の三戦目はわずか五歳のひかりに負けたとあって海未の落ち込みも大きかった。
「だって海未ちゃん分かりやすすぎだもん! 誰だってすぐわかるよ~」
「あ、ひかりちゃ……それ言っちゃダメ……っ!」
無邪気な笑顔で言いはなたれたひかりの言葉は海未に止めの一撃を与えた。
どっかいたいの、と本気でひかりがナースコールを押そうとしたときは慌てて全員で止めたこと以外は特に問題もなく、ただ楽しい時間を共有した。
ある秋晴れの日。
職員室で電話を受けた音ノ木坂学院の教師は理事長室に走った。
そこで理事長に電話の内容を伝える。
理事長の表情がみるみる変わり、すぐに生徒のもとにその教師を向かわせる。
そのまま力なく椅子に座った彼女ができることは祈ることのみだった。
生徒本人にも電話の内容はすでに伝えられた。
すぐに教室を、学校を飛び出した彼女は特徴的な髪を激しく揺らしながら全力で走る。
ーー1分、1秒でもはやくその場にたどり着くために。
その目にはわずかに涙が浮かんでいた。
爽やかな秋晴れだった空も今は雲に覆われ始め、太陽の姿は見えなくなってきていた。
彼女の目にそんなことは入らない。ただ前へ進むために。ひたすら地を駆ける。
自分のことを待っていてくれるはずの、あの明るい笑顔の持ち主のもとへ。
そして彼女は目的の建物の、目的の部屋の扉を開く。
そこで見たのは今にも消えそうな灯火を取り囲み、懸命に絶やさないようにしている人々の姿だった。
「ひかりちゃん……」
「ことりちゃん。来て、くれたのね」
言葉が続かないことりに気がついた深紅がことりを手招きする。ひかりのそばでその様子を見る。だが、それを直視することはできず、すぐに目をそらした。
ひかりの父親だろうか、深紅のとなりにはもう一人、優しそうな男性の姿があった。
「……君が南ことりさんか」
「はい」
「私はひかりの父、徹郎だ。こんな場になってしまってすまないがお礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
「いえそんなこと……それよりもひかりちゃんは……」
ことりは色々な処置を施されているひかりをもう一度見る。今度は努めて目をそらさなかった。
「心臓の発作が起こった。色々な処置をしてもらってはいるが……」
深紅は泣いてしまい何かを言える状態ではなかった。
その状況を見てことりは徹郎の言葉の先を察した。
「ひかりちゃん!」
ことりはひかりの手を握った。
「死んじゃダメっ! 元気になってことりたちとまた遊ぶんでしょ。ことりたち、みんなで……待ってるからぁ……」
ことりの大きな瞳から涙がこぼれた。もうなにも言葉にならなかった。ただひかりの手を強く握ることしか出来ない。
そしてさいごの瞬間までその手を握り返されることはなかった。
この瞬間、ことりの中の時間が止まった。