色は匂えど散りぬるを
「う、うわぁ…ここ、本当に次の場所なの?」
夜とも昼ともつかない色の空、どこまでも続く深緑の森、木々に木の実の代わりに付いている、小さくて透き通る、色とりどりの玉だけをとってすれば、そこは童話の世界と言っても過言ではなかった。
「へへん!そうだよ。キレイでしょ〜?」
「で、サオリ…次の『試練』は…?」
そこまで聞くと、サオリは全員を見渡した。
「うん、それなんだけど…あのね、詳しくは私からは言えない。ここの『試練』は人によって違うんだ。だからそれぞれの『試練』がある。だってここは…」
木々に付く木の実、その正体が分かった気がした。
「…『
どこかで小鳥のさえずりが聞こえる。
一つだけこだましたそれは、心なしか、失った伴侶を求めるようなさえずりだった。
「うん…あんまり深く考えちゃダメだ。さ、行って行って!入ったら勝手に『試練』が始まるよ。…健闘を祈るっ!」
◇◇◇
「ね、どうしたのさっきから?ずっと不安そうな顔してるけど?」
「も、もしかして、俺のせい…か?いや違う、これは元々テイルスのせいで…」
「なすりつけないでよっ!」
たまたま一緒に入ったテイルスとシルバーが、エミーを慰めている。
…が、他人になど到底慰められるはずがなかった。
「いいの、いいんだってば…ごめん、アタシやっぱ一人で行くわ」
「ええ?!そ、そうなんだ…」
「無理強いはしないぜ。頑張ってな」
独りになった。
泣きそうだが泣けない。
泣きたくても泣いてはいけない。
泣いたら、きっと誰かが殺されてしまう。
この世界に入ったからには、誰かがそろそろ殺されなければいけない…が、そんなことは許せなかったし、許すつもりもなかった。
…殺されたくない……なら、逆に…
…だ、ダメダメ!そんなことできない、いくら怖いからって…!
思考回路もそろそろ悲鳴を上げそうだった。
見えない涙を流しながら、彼女は森の中でうずくまってしまった。
◇◇◇
「…エステル」
「何かしら?」
「その、何かあったのか?エミーに」
「え?…ショックを受けているだけよ」
「…白々しい嘘をつくんじゃない、エステル」
珍しく、ブレイズが語気を荒げた。
「エミーから聞いていた。薬を与えたそうだが、副作用がある危険な物だったのだな。ワタシには分かる。…最初からエステルは、ソニックに移すつもりだったのだろう」
「…何を……」
「でなければ、彼は完全に戻っていたはずだ!気づかないとでも思ったのか?」
刹那、どこにもなかった蔓が、四方八方から伸びてきた。
「…うるさい… 誰にも分かっちゃいないわ。分からなくていいのよ!私の真の目的を!あなた達みたいな下等生物に、何が分かるっていうの?!」
蔓には夥しい数の棘が付いていた。
容赦もなく締め上げた。
「…エス…テ…ル…!」
最後に蔓が消えた時には、…花びらが空へ舞っている頃だった。
この世界で「死んだ」者は、花びらとなって一度澪浄大華樹に吸収されて、最後の『試練』までクリアできれば、また復活する。
「…ごめんなさい…!でも、私は…!」
もう戻らない花びらを見つめながら、彼女は静かに涙した。
「私が起こしたこと…だから、私が処理するわ。早く見つけて勝負でも仕掛けないと…」
「…誰が『処理される』って?」
「…?!」
振り返ると、後ろに…噂をすれば何とやら、ソニックが立っていた。
「…!あ、あなた…どうやって…!」
「どうもしてないさ。で? 何がしたいんだ?」
冷静さを失いかけた彼女は、慌てて思考を巡らせた。
「…毒を仕掛けたのは私よ。今のあなたは毒に完全にやられているわ。でもこの私なら、毒を媒介にあなたを操ることなんて容易いわよ!覚悟なさい!」
空気が一瞬歪み、エステルは確かな手応えを感じた…はずだった。
毒から伸びている「綱」が、複数に増えて、しかもどんどん薄くなっている。
操れるはずなのに、全く気配が読めない。
「何を…!? こうなったら、彼女にもまだ毒は少しだけ残っている…なら…!」
空気が再び歪んだ。
それは毒のせいでは決してなかった。
「…誰を?」
「決まってるわ、エ…ま、まさか…!」
綱が全て消え、代わりに目にはっきりと見えるダガーが現れた。
一つしかダガーは出てこなかったが、いくらでも出せそうだった。
「手を出そうってのか? …やめろ」
「…ふ、ふざけないで…!」
その時、別のダガーが現れ、彼女にかすって血を出させた。
「…いっ…!」
紅いそれが宙を飛んだ瞬間、彼の目は嬉々として輝いた。
「…綺麗…」
「…?! この子…!」
次々にダガーが現れ、彼女はまともに全てを喰らった。
致命傷レベルにまで痛めつけられ、彼女は倒れてしまった。
彼が、ゆっくりと近づいてくる。
彼は、殺意を超えた何か…美しいモノでも見るような、そんな目をしていた。
「…もっと見せてくれないか? なあ」
刃先が食い込む。
散る血潮を、彼は恍惚として眺めた。
彼にとって血潮は虹であり、身体は宝石箱だった。
「あなた、何を…考えているの…?」
「喋らないでくれよ。乱れる」
また一突きする。
今度はもっと深く。
宝石にたどり着く前に、エステルは息を失った。
「…それでいいんだ。喋らないのが、一番綺麗なんだよ…」
そして、もはや刃の部分が紅くて見えなくなったダガーの刃先を、舐めた。
身体に流れてくるそれは、どんな薬よりも、彼を永らえさせてくれた。
そして、彼女が花びらに変わる寸前、…思いっきり刺した。
花びらに変わっても、ダガーは地を貫いていた。
彼は微笑んで、血の池と化したそこに佇んでいた。
「ソニックー!どこーー?!」
どこかからテイルスの声が聞こえる。
彼はこのままでいたいと思った。が、こんな姿だと、彼女たちに怖がられてしまうかもしれない。
「テイルス!ここだよ!」
テイルスが着くか着かないかの時には、彼に付いた血は見えなくなっていた。
それは、ただ単に「見えない」ように隠しているのだった。
あの恍惚とした目で、彼はテイルスに微笑みかけた。
「テイルス…『無事』でよかったよ」