森の少し開けた場所で、彼らはまた顔を合わせた。
テイルスが小走りに寄ってきて、後からシルバーがゆっくりと来た。
「あれ、他に誰かいなかったの? 一人だけ?」
「他のヤツは、誰かしら一緒にいるみたいだけど…お前一人だったのか?」
言われて、彼は少し俯いた。
「…居たよ。二人ぐらい」
「え? そうなの? どこいったの?」
その地面に何が隠されているのかを忘れたように、彼は答えた。
…いやに青い草が生える地面を、おもむろに眺めながら。
「居たんだけどな、はぐれたんだ。 何処にいるかは分からない。 だって、ここは『夢儚の森』だろ? …いつ『夢』に喰われてもおかしくないさ」
「ふ、ふーん…」
「それより、皆には会ったのか? 早いとこ探して合流しようぜ」
やや間があった。
「そ、それなんだけどね、三人居ないみたいなんだ」
「…三人?」
「うん。みんな女の子みたいだよ…誰かはよく分かんないけど」
二人はここで『居なくなった』。
だから彼らが誰かも分かる。が、あと一人は…
「…無事…だよな…?」
「え? あ、エミーのこと? うーん、探してみないとな…あのね、ボクたちと一緒に居たんだけど、一人で行くって言って離れたんだ」
「…離れた?」
「うん、一人で… だ、大丈夫だって! たぶん…」
足元が、再び色を変え始めたような気がした。
…見せてはいけない、この色は、まだ……
「…見ツケタゾ!ソニック!」
刹那、上空から見覚えのある者が降りてきた。
「うわ、メタル?! なんで今…ていうか、来てたんだ?!」
「巻キ込マレタンダ。ソレニ、俺ノ目的ハ最初カラ決マッテイル…」
モーターの起動音がした。
すぐに戦闘ができるように、最初から準備していたのだろう。
「貴様ヲ討ツ事ダ!ソニック!」
何発か弾が飛び出した。追尾型ミサイルのようだった。
軌道に狂いは無かった。
…確かに、無かったはずだった。
「…オマエなのか? …違うよな?」
弾が、空中で何の衝撃もなく砕けた。
火薬も積まれていたのに、爆発もしなかった。ただの塵と化したのだ。
「オレに負けず劣らず…なんだろ? じゃあ、違うよな?」
そこには、どんな高性能なレーダーをもってしても、絶対に掴めない『歪み』があった。
入ったものを一瞬で朽ちさせてしまうような、そんな『歪み』が…
「答えろよ。オマエじゃないって、証明してみせろよ」
朽ちたはずの弾が、今度は矢となって再び飛んだ。
…それも、メタルを確実に狙って。
「あ、危ないよメタル! 今は防御して! じゃないとここで____」
聞こえたのが一瞬遅かった。
というより、彼は最初から、助言など聞かないつもりだったのかも知れない。
「アイツ、何を…?! …テイルス、危ないからちょっと離れるぞ!」
辺り一帯が、光を遮られたように暗くなった。
周りの木々に付いている光の玉が、一斉に気味の悪い色に輝いた。
「無理か。 …じゃあせめて、ここで終わりにしてもらうよ」
メタルの周りだけに、黒く濃い霧が現れた。
それは、いつまでも相手の身体を蝕み続ける、『悪夢』だった。
誰の夢だったかは分からない。
だがそれは、今や彼の道具となっていた…
霧が濃さを増した。螺旋を巻いて暴れ狂う。
それから、彼はまるで…獲物を仕留めるような、そんな目をして笑った。
生気の欠片も無かった。
「…堕ちるんだ。 こコで『永遠の悪夢』ノ贄トナレ___」
「ちょ、ソニック?! どうしたの?!」
見る間もなく、メタルは霧に蝕まれて『消えた』。
消えたが、まだそこに留まっていそうな感覚はあった。
…助けが来ない限り、彼はいつまでも、蝕まれ続ける事になるのだろう。
「お、おーい! ソニックってばぁー?」
「テイルス! あまり刺激するんじゃない…見ろ、あれ」
「え?」
メタルのちょうど反対側に立っていた彼は、何かに憑かれたように、一点をじっと見つめていた。
…すると、彼は地面にいきなり倒れた。
「うわぁ?! た、助けないと!」
「あ、ああ… サオリの所にでも連れて行くか。手伝えよ!」
◇◆♢
火の粉がパチパチと舞う。
サオリは、ただならぬ気配を感じたのか、先に火を焚いて準備をしてくれていた。
…彼は今、火の側で再び眠っている。
「そっかあ、それは大変だったね…」
彼女はどこからか持ってきた果物を、二人に手渡した。
それは林檎のように赤いが、香りは杏子に似ていた。
「これね、みんなが取ってきてくれたんだ。ちょっとここで休んでから、今は多分各々の道を進んでるよ」
「…す、すっぱ…」
気分次第で甘くも酸っぱくもなるのだろう。
今は、涙が出そうなぐらい、酸っぱく感じた。
「あ、あのね、サオリ…。大丈夫なのかな。なんか、…怖かったよ」
「そんなに震えないでって… 大丈夫。よしよし」
サオリには分かっていた。
彼から感じる瘴気は、並のものではないと。
瘴気は瘴気を呼ぶ。
…この先、何が起こってもおかしくはないだろう。
「…あら、サオリちゃん?」
知らない声がした方を見ると、そこには一人の女の子が立っていた。
頭にはピンクの帽子を被り、雲があしらわれた服を着た彼女は、どうやらこの世界の者のようだった。
「あ、
「分かってるわよ。…この分じゃ、『試練』はナシだわ。今が『試練』みたいなものだもん」
そう言うと彼女は、二人に向き直った。
「私は彩夢。この『二之界』での試練担当よ。…え?格好が変? ああ、私は『獏』なのよ、こう見えても」
「知ってるぜ。悪夢を食べてくれるっていう…」
「あら、それは迷信よ。 私らは元々中国の生まれなんだけど、そんな設定は日本に伝わってから付けられたのよ」
「そうなの?!」
「まあでも、貴方らの夢なんかすぐに変えられちゃうからね。こう見えても結構年取ってるのよ」
彩夢は、火の側で寝ている彼に近づいた。
「こりゃ、まあ… 無理なはずね」
そう言うと彼女は、軽く空を切った。
…すると、彼の身体から、何かただならぬ瘴気が抜けていった。
周りが再び晴れた後も、心なしか…瘴気は少しだけ残っているような気がした。
「う、うーん…」
「だ、大丈夫?! よかったぁ、怖かったよ…」
「…何してたんだっけ、オレ」
「は?」
彼の朝の露のように澄んだ目で見られると、さっきまでの事など話す気も失せてしまった。
「それは…まぁその」
「何も無かったのか? じゃあ、いいか」
「そ、そういう事にしておくかな」
彼は立ち上がって、伸びをした。
「なんかいい夢を見たような気がするんだ。 久しぶりに… …きっと大丈夫だよな、これから」
何と答えたらよいか、そもそもその答えが存在するのかどうかすら分からない彼らには、目の前の存在をただ認めるしかなかった。
「…サオリ。知ってるみたいだけど、分かってる?」
「…分かってる。何をしたらいいのかも、全部分かってる……全部はできないかもしれないけど」
「うん…頑張ってね。私はここから見てるから」
「…ありがとう」
◆◆◆
「…なんで」
「どうかなされましたか?」
役目を終えたワイズ達は、彼らをこっそり見守っていた。
「…違う。あんなの、いらなかった」
「瘴気の魔物、ですか。 しかし、あそこは『夢儚の森』ゆえ、何が出るかは…」
「ダメなの。絶対に触れちゃダメ。綺麗なままでいてもらわないと、ダメなんだ…!」
「お、落ち着いてくださいよ!僕らにもできることは限られてるんです」
「でも…!」
ちょうどその時、CAINの事を思い出した。
「…あのロボット」
「ええと、乱入者ですか? 名は…」
「いいんだ、名前なんか。どうせ鉄の塊なんだ。すぐ…」
「…潰してあげるから。ソニックには触れさせないよ…」