彼らはただ、終わりを待っていた。
水晶の夢
エミーは、また独りで三之界へ飛ばされてきた。
「なにこれ…まるで牢屋みたいじゃないの」
鍾乳洞らしいのは分かったが、光らしき光は、そこにある小川に反射されたものだけで、どこから日が差してくるのかは分からなかった。
決して広くない道の脇には、彼ら1人ほどの大きさもある碧色の水晶が生えていた。
「お、おーい、誰かー! …いないのかぁ」
こだました声は、どこかへ飛んで行った。
「……いるよ…」
「え?」
…はずだったが、か細い声が返ってきた。
「だ、誰かいるんだったらこっちよー! こっちに来てー!」
「そんな大声出さなくても…」
「ひゃあ?!」
てっきり、遠く離れたところに声の主がいたのかと思っていた。
そしてこの声からすると、おそらく相手は…
「…ソニックなのね」
彼は声に出さず頷いた。
本当なら嬉しくて抱きついていた。
…今は、抱きつけなかった。
「あ、あの、あのね、…何人、殺したの」
「…え?」
「と、とぼけないで… 知ってるんだから」
「…」
声が震えた。
それは恐怖か、それとも嬉しさなのか、見当もつかなかった。
「…覚えてないよ」
「なんでよ!」
彼は、彼女を優しく抱いた。
「…だって、会いたかったから。取られるんじゃないかと思って、心配してた」
「…!」
自分だけを頼りにここまで来たのは間違いなかった。
…だが、微かに香る血の匂いに、彼女はむせ返りそうになった。
もし、自分が『恋人』でなかったら…… 考えただけでも怖かった。
「こ、殺さないで…」
「何言ってるんだ? 殺せないよ。…大切だから」
怖かった、怖かったよ、と泣きつきたかった。
しかし、その相手は、果たして彼で合っているのだろうか。
そして、ここで泣きつけば、今まで散っていった仲間に何と言われるだろうか。
自分が今ここで彼を殺すことも可能だ。
…だかしかし、それで本当に事が済むのだろうか。
彼女は、ある決心をした。
「ねえ、じゃあお願い、聞いてくれる?」
「何だ?」
「…アタシを、殺して」
「…?!」
言うのは怖かった。
だが、確かに何か、彼を救える何かが、現れたような気がした。
「アタシが好きだったから、…みんな邪魔だって思ってたんだよね。でも、みんなには死んでほしくなかった。…ルールだったとしても、嫌だったの」
世界は、なんて不公平なんだろうか、と彼女は思った。
「だから、アタシがいなくなれば、そんな事もなくなる…違うかな。まだテイルス達が残ってるのよ。…もっかい戻って、ちゃんと話をしてあげて」
「…嫌だ」
「ダメ!お願い!じゃないと…!」
やはり、無理なのか…
「…分かった。分かったよ…」
「ほんと…?」
彼はそう言うと、涙に濡れた目でこちらを見た。
ダガーを持つ手が震えている。
「…やりたくない。本当に嫌なんだ…でも、お願い事、聞いてあげるって約束したんだもんな」
「…ありがとう」
「…こ、殺すなんて…や、やりたくない…… 嫌、だ…」
「…ど、どうしたの?!」
彼は声を絞り出して泣いた。
震えがますます大きくなっていく。
「泣かないでよ、早くやって…ねえってばぁ」
「…殺す」
エミーが不意をつかれたその一瞬、彼は目にも止まらない速さでダガーを振り下ろした。
…その顔は、笑っていた。
「…どう、したの…」
「…オマエも、『友達』なのか」
「…え?」
友達、という言葉が何を意味するのかは、分からなかった。
普通の意味ではないのは確かだった。
「…仲よかったのに、またオレを見捨てるんだな、そうやって…!」
「な、何…? 見捨ててなんか…」
「黙れ! そうやってまたいなくなるんだ! 仲良しでいようって、約束したのに!」
「誰のこと? ちょっと待って!」
「…消えろぉぉぉぉぉぉぉッ!」
彼は、何度もダガーで刺した。
目の前が真っ赤になって、何も見えなくなっても、刺し続けた。
…彼にも、その衝動が何なのかは、分からなかったが。
「ね、ねえ、ソニック…?」
どれだけ長い時が経ったのだろうか。
テイルスに声をかけられて、彼はようやく我に返った。
「…何だ」
「シルバー、いなくなったよ」
「…殺したんだな」
「………うん」
「じゃあ、もうオレ達だけか」
「うん」
「…オマエ、どうしたいんだ?」
「ボク、もういいよ。ソニック、四之界に行ってよ… もう嫌だ。早くみんなの所に行きたい」
そう言う彼の目には、もはや絶望しかなかった。
「…じゃあ、願い事、言ってくれ。叶えてきてやるから」
「ほんと? でも、みんな同じ願い事だったと思うんだけど」
「…同じ?」
「…みんなが、今度こそ、ずっと仲良しでいられますように、って」
「…終わったんだね」
サオリの声が聞こえたが、姿は見えない。
「ああ。なんか、早かったな」
「それだけみんな、君に早く終わらせてほしかったんだ。…じゃあ、覚悟はできてるかな?」
「…もちろん」
「分かった。私が助けてあげられるのはここまで… 頑張ってね」
「きっと、帰ってくるさ」
空間が変わった。
冬の空気のように張り詰めたそこには、…目をみはるほどの大きな大きな樹があった。
『ようこそ、いらっしゃいました』