SONIC  CRISIS KISMET   作:トラちゃん

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失われた過去の悪夢

渦が晴れた。

 

 

「あれ…?何も起こらないじゃない」

 

「…そんな筈はないわよ、エミー。よく見てみなさい」

 

 

ソニックに抱きついたままのエミーが辺りを見渡したが、何も起こらない。

 

 

「変ねえ。なんか変わったところも無いし」

 

「…変わってないなぁ…… っていう事は、成長したんだね」

 

「え? ソニック? 何か言った?」

 

「は?! オレは何も言ってないぞ?!」

 

「で、でもさっき、ソニックの声が…!」

 

「…エミー、後ろ……」

 

「え?」

 

 

彼女の背後には、もう一人、ソニックが立っていた。

 

しかし輪郭は朧げで、まるでこの世にいないかのようだった。

 

 

「だっ、誰っ?!」

 

「誰って、ソニックだよ。ね、(ソニック)

 

「な、何だオマエ…?!」

 

 

微かな金属音がした。

 

見れば、エステルが、どこからか出した剣を、もう一人のソニックに向けていた。

 

彼女からは明らかな殺気が昇っていた。

 

 

「ちょっとでも変な事したら殺すわよ。分かってるでしょ」

 

「あれ? 堕天使さんじゃん! まだ生きてたんだ、てっきり滅されたのかと思ってたよ」

 

「黙りなさい。…大天使様の意向と私の考えが一致したから、私はこうして存在しているのよ。あなたには消えてもらうしかないの」

 

「そうなんだ。…でも、ずっと君たちを見続けてた甲斐があったよ。そして、やっと会えた。僕に」

 

 

彼はソニックを愛おしそうに見つめた。

 

 

「こんなに大きくなったんだね。友達もできたみたいだね。無事で何よりだったよ。…50年前の僕とは全然違ってるんだね」

 

「50年前…!」

 

 

彼は突然に思い出した。…CAINが言っていた事を。

 

 

「教えてくれ。50年前の事を。…そして、オレの事を」

 

「分かった。びっくりするだろうけど、これも全部本当の事なんだよ。

___全ては、隠されていたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

50年より少し前。

 

プロジェクト・シャドウを牛耳っていたジェラルドは、一人アークから離れて地上に戻っていた。

 

実験施設はアークだけではなく、地上にも、島型の施設が複数存在していた。

 

彼はその内の一つ、フォートレシア__『完璧な要塞(フォートレス)島』と呼ばれている__に向かっていた。

 

見た目はただの無人島だった。

 

周りを森で囲ませているため、行き交う船も、特に目にもくれなかった。

 

彼が島に降りるなり、彼は声をかけられた。

 

 

「あの、すみません」

 

「…? 誰じゃ?」

 

 

見れば、若いハリネズミの女性が、恥ずかしそうにこちらを見上げていた。

 

 

「私、この島から立ち退きを命じられている者で、もうすぐ発ちます。あなたは研究の主要人物と聞いています。…お願いがあります」

 

「言ってみろ。機密になるようなら、聞けんがな」

 

 

彼女は、彼に地図と機械を差し出した。

 

 

「この機械を、地図に記してある場所に届けてください。お願いします」

 

「…? これは?」

 

「詳しい事は言えません…ですが、確実に届けてください」

 

「…よかろう。届けてやろう」

 

「ありがとうございます…! では…」

 

 

彼女は言うなり、足早に去っていった。

 

すぐに、控えていた船が彼女を乗せ、海原へ漕ぎ出した。

 

 

もう日は暮れかかっているし、本格的な研究は明後日からだった。

 

彼は一塊の不気味さを感じながら、地図の示してある場所へ向かった。

 

 

 

 

「…何じゃこれは! 要塞か…」

 

 

彼が地図の場所に着く頃には、もう日は沈んでいた。

 

そして、目的地を囲むように、大きな壁が何重にも立っていた。

 

 

「…空中移動専用小型機がなければ、危ないところじゃったわい」

 

 

壁はかなり高かった。

 

そういえば、とある研究者が『要塞島に要塞を作る』と言っていたが、彼は何の事か分からなかったし、自分には疎遠な研究を担当していた者のことだから、すっかり忘れていた。

 

あの時は、単なる比喩かと思っていた。

 

 

…GUNの研究者に見つかれば、研究が続けられなくなるかも知れない。

 

彼らは、自分たちの研究を横取りして発展していった事もあった。

 

GUNは、兵器ばかりが多くて、人員は貧弱…そんな組織だった。

 

要塞を作るというのは、GUNに対抗するということだったのかも知れない。

 

 

 

やっと壁を乗り越えた。

 

…そこには、やけに小ぢんまりとした、鉄骨の建物があった。

 

地図の場所は確かにここだ。

 

 

「…檻みたいじゃのう。鉄柵の格子窓もあるわい」

 

 

もしかすると、実験生物を収めている建物かも知れない。

 

だとしても、実験生物には研究者を襲わせないプログラムを仕込んでいる筈だから、危険はない。

 

彼は少し躊躇ってから、建物の戸に手をかけた。

 

 

「…入るぞ」

 

 

錆びついた戸の重い音がして、戸はゆっくりと開いた。

 

中は意外に広く、そして暗かった。

 

鎖の擦れる音がした。…やはり実験生物らしい。

 

…その時、月明かりが窓から入ってきて、中を照らした。

 

 

「…?! なっ…!」

 

 

そこには、今日見た女性のような、ハリネズミの少年がいた。

 

足に鎖が掛けられていた。

 

彼は、綺麗な黄緑の瞳とコバルトブルーの体色をしていた。

 

 

「…だれ」

 

 

少年の声が聞こえた。

 

言葉は習得しているらしい。だが、あまりにもあの女性と似すぎている。

 

実験生物ではないのではないか。

 

…だとすると、この少年は何故……

 

 

「…どこから来たの」

 

「…わ、ワシは……プロフェッサー・ジェラルドじゃ。とある研究をしておる。そこの窓から衛星が見えるじゃろ、ワシはそこから来たのじゃ」

 

「…空から、来たの?」

 

「そうじゃ。ここよりもずーっと高い所じゃよ。でも人は沢山おるし、なかなか賑やかな所じゃ」

 

「変なの。え、…じゃあ、僕を……いじめないんだね?」

 

「…え?」

 

 

少年は、少し嬉しそうにして微笑した。

 

彼の笑顔を見て、ジェラルドは一瞬戦慄した。

 

…よく見ると、彼の周りには血飛沫がある。比較的新しいものが殆どだった。

 

そして何より、その小柄な身体に似合わず、彼には鋭い牙が生えていた。

 

 

「…? どうしたの?」

 

「お前、何しとる…されたんじゃ?」

 

「…聞きたいの? 聞いてもいいの?」

 

「構わん。これも研究の為じゃ。…寂しかったんじゃろ?」

 

「うん。さみしかった。みんな、僕と話してもくれないんだ。聞いてくれるひともいなかった。ジェラルドが、はじめてだ」

 

「…分かった。話してみろ」

 

 

 

そして彼は、まだ未熟な言葉で、ジェラルドに聞かせてくれた。

 

彼はもともと別の島の生まれだった。実に平和な島だった。

 

小さい頃から大人しかった彼は、外にはあまり出なかった。

 

…彼は気が少しだけ、ほんの少しだけふれていた。

 

母親が厳しかったせいで、彼は親を殺しかけた事もあった。

 

 

そしてある日、彼は厳しさに耐えかねて、親を殺してしまった。

 

 

姉が一人残った。彼は姉が好きだったから、残した。

 

見かねた姉は、たまたま繋がっていたGUNの研究者から、引き取ると話を持ちかけられた。

 

…そして彼は、何も知らないまま、GUNに引き取られた。

 

 

 

「最初はね、こんな身体じゃなかったんだ。お姉ちゃんとおんなじだった。GUNのひとは、僕を色んな方法で、『かいぞう』したんだ」

 

「…お前は、本当に人殺しなのか?」

 

「ちがう。母さんがおかしかったんだ。何も話してくれなかった。お姉ちゃんたちだけを可愛がってた。もうひとりお姉ちゃんがいたんだけど、そのお姉ちゃんが病気で死んでから、母さんは僕を殺しそうになった」

 

「…正当防衛だったんじゃな」

 

「こわかったよ、でも死にたくなかったから… 僕だって、母さんが嫌いなわけじゃないんだ… もっと話してほしかったのに…」

 

「な、泣くな泣くな!ワシがおるじゃろ? な」

 

「う、うん… それでね、ここに来てから、僕には友達がいた。女の子と男の子、それぞれ二人ずつ。…その子たちだけ、機械になっちゃった。僕は、友達とたたかわされた」

 

「ま、待て待て… お前がそうなったのは、もしかして…」

 

「『じっけん』するためだったんだよ。友達とは話せてたのに、機械になってから何も話さなくなった。…また、僕は殺しちゃったんだ」

 

「…そうか」

 

「ねえジェラルド、僕って…これから何されるんだろうね」

 

「…」

 

「最初は、殺すのは本当に嫌だった。でも『かいぞう』される度に、なんか…楽しくなってきた。今日も、ふたりぐらいと『あそんだ』よ」

 

「…それで」

 

「今も、ちょっと何かされたら、…ジェラルドはいなくなっちゃうかもよ。ジェラルドは、僕の話を聞いてくれた。だから、…にげて」

 

「…優しいんじゃな、お前は…」

 

 

いつの間にか、ジェラルドは泣いていた。

 

自分の目が届かない場所で、こんなにもか弱い存在がいたことを、彼は知らなかった。

 

少年もまた、泣きそうな顔でジェラルドを見ていた。

 

 

「ねえ、にげてよ… お願いだから。手が動きそうなんだ…ねえ」

 

 

途端に、少年の目から光が消えた。

 

手にはダガーが握られていた。

 

さっきまでの優しい顔とは打って変わって、今のは血に飢えたそれだった。

 

 

「…『あそぼう』」

 

「…! や、止めるんじゃ!」

 

 

少年は、目にも留まらぬ速さでダガーを振り下ろしてきた。

 

かすって血が出たが、大して痛みは感じなかった。…急所を外していた。

 

 

「にげないで。もっとちょうだい…もっと」

 

 

またダガーにかすったが、またしても急所から外れていた。

 

とはいえ、もうかなりの箇所を損傷している。失血死するのも、時間の問題のような気がした。

 

少年は、血の付いたダガーを、ジェラルドに突きつけた。

 

返り血を浴びて、口にも付いている。

 

 

「…そこだね。いちばん、綺麗なところ。…僕が大好きな、紅い宝石…… 僕、乾いちゃった。ねえ、その紅い宝石、ちょうだい」

 

「…お前……」

 

「うごかないで…うごけないか。じゃあ、…もらうね」

 

 

切っ先が、ギリギリの所で止まった。

 

彼は、ジェラルドに腕を掴まれていた。

 

 

「…ワシじゃ。ジェラルドじゃよ」

 

 

ジェラルドは、彼に優しく声をかけた。

 

…すると、少年の目に光が戻った。

 

 

「…ジェラルド……! ご、ごめん…ね…」

 

「泣くな。じきに蘇生するわい。蘇生専用機を持ってきて正解じゃったわ」

 

「…ううん、ごめん… ごめんね…!」

 

 

 

 

「…そういえば、名前、聞いてなかったのぅ」

 

「僕ね、ソニックっていうんだ。かっこいい名前でしょ?」

 

「ソニックか…いい名前じゃ。音は光と同じぐらい素敵なものじゃよ。ほれ、音がないと、ワシらは話せんかったじゃろうが」

 

「うん。音…かっこいい」

 

「それと…持って来いと言われたこの機械、何じゃ?」

 

「これはね、少しの間だけ、僕に外の世界の事を教えてくれるんだ。『テレビ』って名前だったかな? あんまり音がすると、見つかるからね」

 

「そうか。 …でももう、この機械は、いらんな」

 

「なんで?」

 

「ワシと出よう。こんな窮屈な島、嫌じゃろ?」

 

「で、でも…見つかるよ…そうしたらまた、いじめられて…」

 

「心配いらん。ワシはそいつらより強いんじゃ」

 

「ほんと?」

 

「…そしてワシよりも強いのは、ソニック…お前じゃ」

 

「…! ほんと……?」

 

「そうじゃそうじゃ。…おっと、外にもう迎撃隊が来とるの」

 

「僕、つよいんだね。…じゃあ、いいよね?」

 

「行ってこい。友達の分も、いっしょにやってくるんじゃ」

 

「分かった。いってくるね」

 

 

 

少年は迎撃隊を打ち倒した。

 

それどころか、島にいる研究者を全て殺してしまった。

 

さすがのジェラルドも閉口したが、これが研究の代償だと気づけば、認めざるを得なかった。

 

 

 

「おわったよ」

 

「…そうか。なら出ようかの、ついてこい」

 

「…うん!」

 

 

 

 

 

こうして、彼はジェラルドと共に暮らす事になった。

 

…しかし、危険性を感じたジェラルドは、彼をコールドスリープで眠らせて、一定時間の記憶をなくし、成長を巻き戻させた。

 

そして孫の代のエッグマンは、祖父から預かった遺言どおりに彼を目覚めさせた。

 

…もっとも、彼は『英雄』として目覚めたから、エッグマンとは敵対することになってしまったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

「どう?分かった?」

 

 

『ソニック』は、満足そうにソニックの手を取った。

 

 

「こうして僕が存在しているのはね、僕が精神体…つまり霊みたいなのになったからだよ。だから、僕は昔の僕」

 

「それで私は、天使として霊を見張ってて、この子が危ないと感じたから、すすんで堕天して狩ろうとしたのよ。堕天使は魂の狩人の役割もあるわ。…いい意味でも悪い意味でもね。この子がまたソニックになろうとして世界を崩れさせようとした、それが今回の異変よ」

 

「堕天使さんは怖かったなぁ。斧を何本でも出せるんだから」

 

 

ソニックは、まだ話を信じきれなかった。

 

 

「…今の自分は、偽物なのか? オレ、偽物だったのか…?」

 

「ううん。偽物じゃないよ…僕と君が一つで、はじめて『ソニック』になるんだよ。だから、半分と半分なんだ」

 

「でも、お前は…」

 

 

彼はそう言うと、倒れてしまった。

 

そしてもう一人の彼は、ソニックの頭に手をかざした。

 

 

「…久しぶり、僕。また会えて、嬉しいな」

 

「…! 融合する気?! み、みんな、離れて…!」

 

 

 

閃光が走った。

 

再び立った彼は、シャドウに詰め寄った。

 

 

「…じゃあ、まずは(フェイク)から片付けないとね、シャドウ」

 

「僕がフェイク…どういう…?」

 

 

彼は、顔の横に大きなダガーを突きつけられた。

 

 

「ジェラルドが僕を研究したのは、君を作るためだったんだよ。つまり、君さえいなければ…僕は、ジェラルドの一番の友達だったんだッ!」

 

 

鈍い音がしたが、シャドウはかすっただけで、間一髪逃れた。

 

 

「逃げないで…逃げ場なんてないよ。ねえ、みんな」

 

 

シャドウが周りをみると、…仲間たちが自分に詰め寄ってきていた。

 

…それも、もう一人のソニックと、全く同じ目をして。

 

 

 

「…ッ!」

 

「…今度は裏切らないでね、みんな。僕と戦おうなんて、思わないでね」

 

「貴様…!」

 

 

囲まれた彼にとっては、まさに『悪夢』だった。

 

 

 

 

「…君のその紅い宝石、僕がもらうよ」

 

 

 

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