二人は、どうしても別れなければならなかった。
…守りたいものが違うから。
…迷惑、かけたくないから。
そして、どうなるかは、『神のみぞ知る』。
葵と曼珠沙華
「ねぇ、サオリ」
「何?」
二人の死神は、霧が渦巻く川岸で、対峙していた。
青い服を着た、片方の死神の名は『サオリ』で、濃い赤色の服を着た、もう片方の死神の名は、『アカネ』であった。
アカネが、重々しく口を開いた。
「…正気なの?」
「…」
「サオリ、何か血迷ったんじゃない? だって…」
「…気にしないで」
「き、気にしないでって言われても… だって、私たちは死神だよ? しかも、…あの方の元にある」
「いいの、別に」
「サオリ…!」
サオリは、アカネに背を向けて、鎌を握りしめた。
そして、およそ哀しいとも悔しいともつかない声で、呟いた。
「私が決めたことだよ。 アカネにまで迷惑かけたくないんだ」
「でも… サオリがいなくなったら、さすがに皆黙ってないよ? …それに、あたしも寂しいし」
「アカネは、十分一人でもやっていけるよ」
「嫌だよ、サオリがいなくなったら、あたし…!」
「…泣かないでよ。 泣いちゃダメ、アカネも立派な死神なんだから」
「あたし…あたし、サオリが…一番大事なのに… サオリがいなくなったら、あたしは…どうしたらいいの?」
すっかり泣き崩れてしまったアカネに、サオリは振り返って、優しく微笑んだ。
「…私もね、すごく泣きたいんだ… でも、泣かないって決めたんだよ。 こんな事で泣いちゃいられない」
そして、アカネの手を取って、立たせてやった。
「私ね、すっごく大切で、守らなきゃいけないものを見つけたんだ。 …アカネと同じくらい、大切なものを」
「あたしと…同じくらい…?」
「えへ、死神なのに、守りたいって…おかしいよね。 本当にそう思う。 …泣けてくるじゃんか」
「サオリ、やっぱりダメだよ、あんな事しようなんて… ねえ、やめて。 まだ、まだ…間に合うって…!」
アカネの言うことも聞かず、サオリは立ち上がった。
サオリはまた、背を向けて歩み始めた。
その後ろ姿がなんだか、悲しそうな死者のようで… 死者にはあまり深い思いは無かったが、それでもアカネは悲しくなった。
「サオリ!待ってよ!行かないで!」
少し進めば、そこはもう「此の世」である。
死神だけが通ることを許された、真っ暗な道を、サオリは進んでゆく。
…後ろも振り返らずに。
彼女の声もむなしく霧に吸い込まれ、サオリの姿も薄れていく。
「サオリ!サオリってばぁ! …また、いつでも帰ってきていいからね!」
「…じゃあ、次に会った時には…」
サオリの姿が完全に見えなくなるとほぼ同時に、アカネは微かな声を聞いたような気がした。
「…仲間じゃないかもしれないけど、仲間だから」