そして、彼らはエステルの森へ出向き、常世之四界の入り口へ向かった。
そして、彼らは翔びたった。
静かの霧橋
「…こ、ここは…!?」
彼らが目を覚ますと、そこは霧に包まれた、橋のたもとだった。
心なしか、足元さえも安定していない。
空には何も映っていない。どこまでも霧が広がっていた。
そして、橋の向こう側にも…何も見えなかった。
「これが…その、なんとかっていう世界への入り口なんだね?」
「ええ、そうよ… じきに案内役が来るはずなのだけれど」
「案内役?」
その時、不意に風を切る音がした。
「これはこれは、『挑戦者』の皆様ですね」
「!?」
彼らの前には、和服に身を包んだ少年が立っていた。
…もっとも、彼の背中からは鳥の羽らしきものが生えていたのだが。
「あら、案内役ね?」
エステルが声をかけると、少年は頷いた。
「さよう。私は、この常世之四界の案内役で、天神の使い鳥でございます」
「て、天神…?」
「あらあら、気にしなくていいのよ。あの世界にはこんなのがごまんといるんだから」
「えぇ…?」
「ええ。 …私、名を錦丸といいまして、鷽(うそ)という鳥なのです」
「は?嘘?」
錦丸は、鷽という名を知らなかった彼らがおかしかったのか、少し笑った。
「それは道中にでもお話しするといたしましょう。 …さて、ルール説明といきましょうか」
「ルール?」
「この世界…常世之四界には、少し怪奇なルールがございまして… 一筋縄ではいきませぬ」
「え、もしかして…」
「察されたようですね。そのとおりです。 …簡単に言いますと、『生き残り制』でございます」
「は!?」
「皆様は数が多いので、さぞお辛いと思いますが… 古より、澪浄大華樹にはお一方しか会わせることができないと決まっておるのです」
「で、でも… お互い、手助けとかはしていいんでしょ?」
「ええ、精神的な手助けはいいのですが… 攻撃を交わさせるような、つまり物理的な手助けは無用ということです」
「な…!」
「…言い忘れておりました。もし、澪浄大華樹に合われる方が出て来れば… その方の願いは、一つだけ確実に叶うようになっております」
「…!」
「そうです。 その為の『生き残り』です」
不条理なことを並べて言われ、彼らは動揺していた。
「…そんな…」
「で、でも… オレらが行かないと、世界は助かんないんだろ?」
「そうだけど…」
エステルが立ち上がった。
「や、やっぱり… 皆さんには荷が重すぎたかしら」
心なしか、声が震えていた。
「エステル…」
「いいのよ。元はといえば…巻き込んだ私が悪いのよ… それに、お仲間を分断させるようなこと、見てられないわ」
「…いや。 『精神的』なサポートならいいんだろ? なら大丈夫じゃないか」
「…!」
「そうよエステル。 何も『分断』されることはないんだから」
「皆さん…」
「お決まりのようですね」
錦丸が手を橋の向こう側へ掲げると、霧の道が少しだけ晴れた。
「…行かれますか」
「…行くさ。行かなきゃな」
「分かりました。私は道中でもお手伝いいたします。では皆様、横一列になって、そのまま橋をお進みください」
トン、と木の橋桁の心地良い音がした。
手すりについている珠は、浅黄色や鶸色、利休茶色に光を放っていた。
橋の下には何も見えなかった。
「ね、ソニック」
「何だ?エミー」
「…アタシ、手…つないでていいかな」
「…いいさ」
「ありがとう…」
手を繋ぐのも、ひょっとしたら…これで最後になるのかもしれない。
…いや、させてたまるか。
思いを込めて、手を握り返した。
「さ、もうすぐです。 …どうかお気をつけて。 ご武運を」
霧が消えた。
同時に、彼らを繋いでいた「何か」も切れた。