緋に交われば緋くなる
「いやいや、ってええ?! なんでこんな大人数で来るわけ? あ、人じゃないか…」
「これまた、始めて見る感じの方たちで…」
「うーむぅ、これは選ぶのが大変だな… どうする?」
「ええ、えー…と… 迷うなー…」
完全に二人の世界に入ってしまったノワール達を無視して、ワイズと呼ばれた者が語りだした。
「我々としたことが… 失礼いたしました。 我々の自己紹介は済んでおりますね。 一之界の『試練』は、簡単に言いますと…『鬼ごっこからの鬼退治、そして救済』です」
微妙な空気が流れた。
「え?」
「まあその… あなた方の度胸試し、とでも言いましょうか… ここでの出来事を難なくこなさないと、後々困ることになるでしょうから」
彼がそう言うなり、ソニック達の足元に、それぞれ一つずつ白い魔法陣が現れた。
彼らが一人立てばちょうど見えなくなるほどの小さい魔法陣が、ちょうど人数分だけ均等に並んでいた。
「うわー… 細かい説明省くとか。 もうちょい話してあげなよ〜?」
「いえいえ、サオリ様… 行動は早い方が良いのですよ。 さ、各々好きな魔法陣の上にお立ちください」
「ひでぇ…」
ワイズを訝しげな目で見るサオリを横に、彼らはしぶしぶ魔法陣の上に立った。
「で? どうするんだ?」
「えー、その位置で… はい、そこですね。 いいですか、これから動いてはいけません。 私はこれから詠唱を行いますが、これが終わるとあなた方はこの城の随所に飛ばされることになっています。 …そこから何が起こるかは、…私にはお話できかねます」
「そ。 私はあくまで監視役だからね、頑張って〜」
「サオリー! ワイズー! もういい? 終わった?」
「はいはい、今行いますので… では」
ワイズの持つ本がひとりでに開いたかと思うと、彼らの足元の魔法陣が激しく輝き、一瞬の閃光が走った。
「あ、私、言い忘れてた! これ、『鬼ごっこ』だからね、よろしく〜!」
◇◇◇
「おい、起きろって… テイルス!」
「いてて… って、あれ? し、シルバー?!」
テイルスが目を覚ますと、そこには何故かシルバーがいた。
「な、なんでシルバーがここに? 巻き込まれたの?」
「俺にも分かんないんだけどな… いつの間にか来てたんだ」
「へぇ…」
彼はテイルスを助け起こすと、窓の外を眺めた。
「実は、俺以外にも、巻き込まれたヤツがいるんだ。 確か…ロボットだったような…?」
「え?! それ、メタルソニックじゃない?」
「メタルソニック? 違うぞ。 見た目が明らかに違ってた」
「う、うそ…」
「うそ? ああそういえば、さっき鷽に会ったような…」
「あー、違うって… でも、だとしたら大変だよ。 巻き込まれたんなら、ボクたちと何かしら関係があるんだ。 返すか何かしてあげられたらいいんだけど…」
そこでシルバーは、急に辺りを見回した。
「ぶ、ブレイズは? まさか… これ、皆はぐれたのか…?」
「あれ、ブレイズと一緒に来てたの? ていうか、ここ、ボクたちしかいないような…」
「そうだ、ソニックはどこ行った? アイツも探さないとな。 いたらかなりの戦力になりそうだし」
「そうだね… うーん、なんかイヤな予感がするけど… 行こう、シルバー!」
◇◇◇
「起きなさいよっ、この石頭っ!」
「痛っ! 何すんだよ?!」
ルージュに思いっきり蹴られて目を覚ましたナックルズは、周りにいるのがルージュだけではないことに気がついた。
「あれ、エミーにシャドウにエステルに… ブレイズ?! 何でお前が?」
「ひ、久しぶり…だな… ワタシとシルバーは、巻き込まれてしまったようだ」
「もう、女の子に打撃は禁物だっていうのに… 大丈夫かしら、エミーちゃん、ブレイズさん?」
「うーん…え、エステル、ありがとう…」
エステルはヒール技を使えるようで、二人を瞬時に回復させた。
「この私がいれば、ひとまず行き倒れの心配はなくなるわよ… ってあら、シャドウさん? 大丈夫?」
エステルがヒール技を使ったのにも関わらず、シャドウはいっこうに起きなかった。
ルージュが駆け寄って、あることに気がついた。
「ちょ、ちょっと… リミッターが無いわよ?!」
「何ですって?」
「大変! どこかに飛んでしまったのかしら… 両方探さないと」
「いや待て、エステル。 確か、彼はリミッターの片方があるだけでも…」
「リミッターの片方? これよね?」
「る、ルージュ?!」
いつの間にか、ルージュがリミッターの片方を見つけていた。
「あら、流石はエージェントね。 私たち巫女の間でも知られてるわよ」
「それ、知られたら意味なくなるじゃないの…」
「よし。 これで付けれたぞ… シャドウ! 無事か?」
ナックルズにリミッターを付けられ、やっとシャドウが起き上がった。
「ぐ… すまない…」
「オイオイ、無理すんなよ。 ここで倒れたら元も子も無いらしいからな」
「ねえ… 今いないのって、ソニックと、テイルスと、シルバー… よね。 探してあげないと、何か危険な予感がするわ」
「どうしたの、エミーちゃん?」
「さっき、リミッターを見つけた時に、なんか別の誰かから見られてる気がして…」
「あらあら、女の子好きかしら?」
「なっ… 何で俺を見る?! 違うからな!」
ふざけていても、彼らは薄々、危機を感じていた。
エミーはソニックが心配なようで、急かした。
「早く行きましょ! じゃないと…ソニックが…!」
◇◇◇
一方、テイルスとシルバーの二人は、まずソニックを探して歩き回っていた。
「広いな、ここ…」
「本当、見た目はあんまり広くなさそうだったのに…」
鏡が美しく飾られている、廊下の突き当たりに来たところで、彼らは部屋のドアが一つ半開きになっているのを見つけた。
「うわ、いかにも『入りなさい』って感じじゃない?」
「お、俺が先に行くぜ…」
「助かった…」
部屋は小さめで小綺麗にしてあったが、一つ異様なものがあった。
「うわあああああ?!」
「うわあああああ! な、何だよテイルス?!」
「こ、これ…!」
テイルスが指さした先には、…古めかしい棺桶があった。
「音立てるなよ! 怖いだろ?!」
「え! シルバー超能力持ってるのに?!」
「そういう問題じゃねえよ!」
「ご、ごめん… って、微妙に開いてる…?」
テイルスの言うとおり、棺桶は微妙に開いており(スキマが開いている、と言った方が正しいが)、中がもう少しで見えそうだった。
「い、いや…これ、意外とワイズさんたちのやつだったりして…」
「そ、そうかもな…」
「…開ける?」
「開け… いや、もう開いてるし、なんか開けた方が良さそう…だな…」
「え、じゃあ…一緒に開けようか?」
「ひっ… せ、せーの…」
厚い板が金属の低い音でゴロゴロと鳴って蓋が開いた後、テイルスは中を覗いてみた。
「どうだ…? 何かいたか?」
「あれ、そ…」
「ん? 何て…」
刹那、霧が部屋を覆い尽くし、気がつけば彼らは、廊下の突き当たりに戻されていた。
「な、何が…?!」
「テイルス! 危ない! 何か飛んでくるぞ!」
シルバーのとっさの反射で、彼は飛んできたものを避けた。
2、3個飛んできたそれは、鋭利なナイフだった。
ナイフは音も立てずに、床に突き刺さっていた。
「怖っ! し、シルバー…ありがとうっ!」
「いやいや、そんな事より… 何が見えたんだ? さっき」
「う、それは…」
「さすが… 避けるとは」
「っ、その声は…!」
ちょうど月光が差す位置に、声の主が立っていた。
聞き慣れた声だったが、彼らは何か違うものを感じた。
ソニックだった。
「わわわ、ちょ…うん、そうそう。 あの棺桶の中に、いたようないなかったような…」
「納得すんなよ! 今更落ち着いても遅いんだぜ?!」
「うーん、ごめん…」
「…。 それよりソニック! 何を…」
「…二人か。 まあ、十分だな」
影でよく見えなかったが、彼はマントらしきものを羽織っていた。
「し、シルバー… これ、完全にアレじゃない? だって、…鏡に映ってないんだもん!」
「?!」
彼の言うとおり、そこにいるはずのソニックが鏡に映っていなかった。
「言ったろ? 『鬼ごっこ』ってな。 オレは今、元のオレじゃない。 …新しいオレだ」
「そ、ソニック…!」
目に緋色が差し、重力をものともせず、鋭い刃を持つ今の彼は、確かに新しかった。
「シルバー。 ね、これって… あの、ノワールっていう人…じゃないけど、人が…」
「そ、それ以上言うなよ! 分かってるからな!」
「『鬼』なら何人でも増やしていいって言ってたんだよ。 オマケに… 渇いてるんだ」
「それっぽい! すごくそれっぽい事言ってる!」
「何興奮してんだよテイルス! そうだ、十字架はどこだ?! …ぐっ、ブレイズに持たせてたか! なあテイルス、お前持ってるか?」
「え…」
「え?」
「エステルに預けてた」
「…」
「はああああああ?! どうしろって…!」
「シルバーは超能力使えるから、たぶん大丈夫だよ! 足止めぐらいにはなるって!」
「ぐらいって…! あ、待てよテイルス!!」
「逃げられたか… ああいう時だけ速いんだな」
「そうそう…じゃなくって、止め…」
近づいてくる冷気に、思わず彼は気を失いかけた。
「最初がオマエとはな。 …どうだ、白に緋は映えるだろ?」
「急に…なんだよそれ。 お前って意外と文才あったんだな…!」
褒められて、ソニックは微かに笑った。
その繊細な仕草には、確かに生き物を惑わすような何かがあった。
「それはどうも。 だがな、吸血鬼って意外と『鬼』でもないんだよ」
霧が完全に晴れて、月光が冷たく差した。
「ナイフで終わるより、こっちの方が素敵じゃないか? …さ、本当の『夜』はこれからだ」
彼は相当な痛みを覚悟したが、最初の痛みはすぐに甘美なものへと変わっていった。
受け入れる者を許させるような、そんな痛みだった。
それはどこまでも深く、どこまでも美しかった。
「…さてと。 まだ渇きは収まった訳じゃない…もっと満たさないとな。 全部『染まる』まで」
彼は言うなり、空中へ浮遊した。
「あんな冷たいナイフより、この方が美しいだろ? こんな『夜』にぴったりだ」
「…ああ」
「行こうぜ。 …花は、みんな緋色に染まらせるんだ」
言葉の余韻だけが残った廊下の鏡には、風景以外は、何も映らなくなった…。
月明かりの下で、夜にだけ目覚める華。
最近はめっきり見なくなった。
なぜ彼らはまた蘇ったのだろうか。
愛のため? 復讐のため? それとも大切な誰かのため?
…思い出そうとしたその頃にはもう、相手は手中にある。
…今もまた一人と、血の海で酔いしれる者が増えていく。
全てを緋に隠して、また自分も緋に染まるというのも、悪くない…かもしれない。
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