「うーん、どうしよ… やっぱ一人って心細いかも…」
薄暗い城内を、エミーは一人で進んでいた。
いくら探しても残りの仲間が見つからないので、エステルの提案で手分けして探すことになったが、それは集団でいるよりはるかに危険だという事は、皆分かっていた。
念のために、あの魔女から貰った十字架を首から下げていたが、どう見てもただの金属にしか見えないそれは、彼女の不安を鎮めるには不十分だった。
かなり進んだ筈なのだが、物音一つ聞こえない。
…どうやら迷子になってしまったらしい。
「やだ、どう戻ろうかしら…」
彼女が来た道を引き返そうとしたその時、背後に何かを感じた。
「?!」
慌てて振り返るも、誰もいなかった。
「…エミーか?」
「きゃあ?!」
代わりに、前から誰かの声がした。
「え、ソニック…?」
大分離れたところに彼はいたが、異様な雰囲気は隠しようがなかった。
「探したのよ…って、アンタも探してたみたいだけど」
「その通りさ。みんな上手いこと逃げるからな、追うのにも疲れたんだよ」
「…何する気?」
「何って…」
彼女は隠し持っていた十字架を、前に出して両手で握った。
「あの魔女さんが言ってたの、この事だったのね? だから無駄よ、これがあるから!」
彼女が突き出した十字架は、月光を受けて金色に輝いた。
「…ッ!」
「アタシは別に傷つけたくもないの。 だからお願い、ここで…」
「…こんなもの…!」
そう言うと彼の姿は1匹の蝙蝠に変わり、彼女が持っていた十字架を体当たりで吹き飛ばした。
吹き飛んだ十字架は壁に勢いよく飛んでいき、…粉々になってしまった。
「そ、そんな…!」
運が悪かったのか、その十字架には火薬がみっちり仕込んであった。
爆発と共に、彼女が来た道が瓦礫で塞がれて土埃が立った。
「…さあ、これでいいかな」
十字架を吹き飛ばした時の衝撃が抜けきらないのか、彼はフラフラと立ち上がった。
彼と彼女との間は、僅か数メートル程だった。
「ほ、本当に… これがダメな事って、分かってないの?」
「それは、オマエから見て『ダメな事』だろ?」
「でも…!」
掴まれた。もう逃げ場は無かった。
「や、やめ…!」
しかし、彼女が痛みを感じてすぐ後に、彼の状態が急におかしくなった。
「?! そ、ソニック?!」
彼の呼吸が急に速くなった。
まるで、毒でも仰いでしまったかのように。
「…ッ、エミー… オマエは…!」
そこで彼女は、ある一つの事を思い出した。
彼女の具合が優れなかった時、エステルは彼女にとある薬を与えたのだった。
『これを飲んだら、この先の悪事を一つ避けられるわ。 副作用は…無くもないけど、貴方なら大丈夫だと思うの。 この副作用、けっこう人によるから』
副作用が何かは結局教えてもらえなかったが、彼女が今『悪事』を避けられたのは、この薬の効果であった事には間違いがなかった。
…今は「一つ」避けられた。
もう、後は無い。
「…毒? この気は…」
彼が薬を分析しようとしたが、彼は頭を抑えてうずくまってしまった。
「…ぐっ、ああっ…!」
「だ、大丈夫…なの…?!」
荒呼吸は、治る気配もなかった。
次に彼が彼女の目を見た時には、彼の目には今までのような『悪』は映っていなかった。
代わりに見えたのは、『愛』だった。
瞳の中に何かシンボルが見えた訳でもないが、そこには確かに『愛』があった。
「…な、何…? もしかして、これが『副作用』…?!」
何も『愛』に限ったことではなさそうだったが、彼女にそれを考える余地は無かった。
「『一つ』避けたんだな。 …もう心配しなくていい、あんな薬はオレが代わりに移してあげた」
「あれ、本当に薬だったの…?」
「さあな? 人によるんじゃないか。 エミーには、ただの『毒』でしかなかったんだよ。 可哀そうに、あんな物に侵されて…」
彼はそう言うと、彼女を優しく撫でてやった。
さっきまでの狂気が見えなくなったのか、彼女は安心してしまった。
…それが最大の隙だった。
何かに溺れる前に、彼女は思い直した。
…これは、ただの「愛」なんかじゃない。
…この世で一番あってはならない、「愛」の形…
「よかった、エミーが無事で。 …他の奴には渡さない。 他に『仲間』はいるんだけどな、オマエにだけは触れさせたくなかった… それに、ずっと願ってたんだよな、オレと一緒にいたいって。 …ごめんな」
「…え? …え、い、いい…って…」
「そうか… 優しいな。 ますます放っておけないよ」
ずっと叶わなかった願い。
それが今、別の形で叶おうとしている。
嬉しくて喜んでいいのか、はたまたそれは違うのか、…その答えはもう見出せなくなった。
やっと荒呼吸が治まりかけた頃には、彼女は完全に油断してしまっていた。
突き刺さった何かも、吸い取られていく何かも、消えていく何かも、全ては、『夜』の所為だった。
「…願い事、他には無いか? 何でも叶えてやるよ」
「そう? じゃあ…」
何て晴れ晴れとした夜なんだろう。
このまま、夜がずっと続けばいいのに。
そうすれば、ずっと一緒にいられる…このまま。
全てを
「ずーっと一緒にいて、我儘も聞いてくれる? アタシ、何でもおねだりしちゃうからね?」
「勿論。 何でもねだってくれていいんだぜ」
「ほんと? じゃあ、行こっか」
◇◆◇
「…サオリ様、いつまで見ていらっしゃるのですか…!」
「そうだよ。ストーカー並だって!見過ぎ見過ぎ!!」
「だ、だってぇぇ… ソニックがぁぁぁ…!」
「惚れていらっしゃるのか何なのかよく分かりません」
「やっぱさー、それなりの素質があるんじゃないの?」
「…ええ、あの方もさぞお喜びになられるかと」
「もー…二人とも、黙っててよー、もうちょっと見させてー」
「はいはい… ではアンディ、釘の用意でも致しましょうか」
「えー? もう準備するのー?」
「早いうちに。 …そうしろと、私の可愛い白蛇達が告げております」
「うぇ! 白蛇?! 気持ち悪っ!」
「…塩でも蒔きましょうか?」
「やめてやめて! 嘘です! ごめんなさいっ!!」
◆◆◆
「…あいつ、か… 私の主を散々にしてきたのは…!」
城の上空に、月光を背に受けて、人影が佇んでいた。
彼は、見慣れたロボットを抱えていた。
彼は、そのロボットを大切に抱えると、囁くように伝えた。
「メタル… 大丈夫ですからね。 私がすぐに成敗してみせますよ… 帰ったらきっと、今度こそ一緒に、…任務を遂行しようではありませんか…!」
「…CA...I...N... タノム、ヤツヲ…」
「…無理なさらないで下さい! ただ…今はタイミングが悪いようです。 この城を抜けられるようになったら、必ずや… この〈 CAIN 〉が…!」
彼は確かな決意を固めると、悔しそうに城内を眺めた…。
彼は、背後にふと視線を感じたが、気のせいにしておいた。
…歯向かう者は全て排除する。
それが、…いやむしろ、それだけが、彼ら[