Fate/AntiGod 作:グラビティ
それから私は王太子の元に辿り着き、そして幾重もの戦場を駆け抜けた。
殺して/殺されて。
殺して/殺されて。
殺して/殺されて。
数百……数千の屍の山を築き上げた。
全てを見殺しにしてきた。
だって……私ではどうにもならないから。コレを失ったその時から……いや、心の奥底ではずっとわかりきっていたことなんだ。
百パーセント、満足ができる未来なんて、そんなものはありえない。
必ず誰かが戦場で死ぬ。必ず誰かを見捨てなければならない時が来る。それならば……最初から関わりなど持たないほうがマシだった。
私は皆に冷たく当たった。
ループを利用するにしきって得られた情報を元に徹底した合理主義。物事の経過を判断し、最短の手順でフランス軍を勝利に導く。神の導きなど……そんなものは軍の士気を上げるために利用したにすぎない。
ジル・ド・レェを始めとする他の指揮官には騎士道の放棄を命じた。この圧倒的不利な戦況を前にくだらない騎士道精神など、邪魔にしかならない。もっと非情になれと……捕虜となったイングランドの騎士は皆、殺した。
昼間に行われ、日が沈むころには自然と戦闘を切りやめるこの御時勢において夜襲、奇襲、朝駆けも平然と行った。砲撃の集中砲火、相手の前線基地には火を放ち、側の目から見れば暴虐の限りを尽くした。
フランスの民はそんな私を救世主と称えて、誉めそやす。私はそんな群衆に清らかないかにも聖女らしい微笑みで応える。ああ、なんて滑稽な群像劇なんだ――。
――私は……英雄なんかじゃない。
神の言葉なんて聞こえていない、偽りの聖女だ。
皆をまとめ上げるために上辺だけ取り繕った、偽りの聖女だ。
ただの殺人者。……最低な……外道だ。
ああ、彼女であったのなら――。
彼女であったのなら、こんなことにはならなかったのかもしれない。
彼女であったのなら、もっと戦いを優位に進められたのかもしれない。
騎士道精神の放棄なんてさせなくてもよかったのかもしれない。
敵の捕虜を命乞いも無視して殺さなくてもよかったのかもしれない。
ああ、彼女であったのなら――
それなのに、かつて終わりを迎えた戦場を一人、茫然と見やっていた時、ジルはこう言ってきた。
――神に。そして貴女に感謝を。
なんの冗談かと思った。
この凄絶な光景を生み出した私に感謝? 一体何の冗談を言っているんだ、この男は?
あなたが何よりも重んじていた神を……騎士道を貶め、放棄させた私に。
気が付けば私は彼に言っていた。
――神に慈悲なんてありませんよ。
言ってしまってから、しまったと思った。
これまで私は神の声を聴いた聖女として、皆を纏め、率いてきた。
その私が神を否定するような言葉を口にしてしまっては、軍の士気に関わる。下手すれば信用を失う。
それなのに、一度洪水のように決壊した私の口から言葉が止まることはなかった。
今まで溜めに溜めてきた思い……その全てがまさに火山のごとく爆発したようだった。
そして、神を否定する言葉を口にしている内に私は気づいたのだ。
――ああ、私は神/世界をこんな風に思っていたんだ……と。
憎しみ。
それは憎しみだった。
神が全知全能の存在であるなら、慈悲があるなら、なぜ人は苦難に、絶望に踊らされるのだ?
嘲笑うかのように、この世界は繰り返される。
繰り返される世界の中で、人は戦い、傷つけあい、そして惨めに死んでいく。
何度でも……何度でも。
ああ、なんて、滑稽な、
私は
それでも人は抗えない。神/世界の定めた役割を放棄することはできない。
コンピエーニュの戦い。それは忠実においてジャンヌが捕虜となる、ジャンヌの
この戦いに勝ち抜き、神/世界の作り上げた
神/世界が最終的に私の死を望むなら、意地でも死んでやるものかと思っていた。
それが私が神/世界にできる唯一の反抗だと、そう思っていた。
勝ち抜いた先にまた巻き戻されるとしても、一度は
けれど勝てなかった。
何十、何百、何千とループを繰り返した。
その情報を元にあらゆる策を講じた。
それでも、勝てなかった。どうしてもブルゴーニュ公国が送りこんでくる援軍6000人に対する打開策が見つからない。
■■■25回目。ブルゴーニュ公国軍6000人の援軍のうちの3800人前後を半ば自暴自棄に切り伏せた所で私は息絶え、巻き戻された。
その時、私は思った。
――結局、こうなるんですね……。
この戦いは、勝たせてすらもらえない。
負けて巻き戻されるか、捕虜になって先に進むか。その二択しかありえないのだと私は悟ったのだ。
「――――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」
放たれた言葉が意味をなしていたのか、いないのか、それはわからない。
とにかく叫んだ。
神に対する絶望を。
世界に対する憎しみを。
こんな哀れな少女の細やかな反抗すら、神/世界は許さないのかと。
百万通りの呪詛に変えて叫び続けた。
そして■■■26回目。
結局、私は史実通りに……神/世界が仕組んだ
+++
「……」
フランス・ルーアンのヴィエ・マルシェ広場。
綺麗な青空だった。未来で訪れたあの時と同じように。
こんな日に処刑されるのも悪くない、とあれほどまでに恐れていた火刑をそう思ってしまうのは、万を超えるループの果てに、死に対する耐性が付き過ぎてしまったというのと……あの日、神/世界に対する怨恨を全て吐き出してしまったからかもしれない。
もはや絶望は超越した。
今、あるのはただ死にたいという静かな想い。
ようやく自由になれるのだ、私にとって死はとてつもなく甘く魅惑的に映って見えた。
――なぜ……どうして貴女がこのようなことに……!!!
ふと声が聞こえた。
聞き覚えがある声だ。
ジル・ド・レェ。あんなにも神を、騎士道を否定した私を未だ想ってくれているというのか――。
あなたの言葉は何回も聞いた。
思えばあなたは、いつも私の傍にいてくれた。
私の過激とも言える戦略にも文句を言わず、ただ私と共に戦場を駆け抜けてくれた――。
「……」
護衛兵に抑えられながらもジャンヌ! ジャンヌ! とヒステリックにこちらを見据えてくるジルを愛おしく思うと同時に哀れにも思った。
「……あなたは何時も、どんな時でもこうして私の傍に来てくれるんですね……」
私は軍から孤立していた。
あまりにも過激で合理主義な私の指示に不満を抱く指揮官も少なくなかったし、余計な関わりをもたない為にあえてそうなるよう仕向けていた部分もある。
だから今まで誰も捕虜になった私を助けに来てくれなかったし、それは仕方ないことだとそう思っていた。
それなのに。
「……あは」
それなのに嬉しい。
人としての心は、当の昔に捨て去ったはずなのに……それなのに嬉しい。
思わず笑ってしまった私を見て、ジルも釣られるように笑みを浮かべた。
ああ、最初からこうしていれば、私の人生はもっと――。
「……」
考えたところでもう遅い。
もう、過去には戻れない。
ここまで来るともうわかるのだ。
神/世界が私に「死ね」と宣言してきていることが。
死んで、己が与えられた役割を全うせよと告げて来ていることが――。
「いい、ジル。この世には大きな
これが私があなたに贈る最後の言葉。
言ったところでわかってはもらえないだろう。
理解してはもらえないだろう。
それでも言わずにはいられなかった。
神/世界に振り回された道化の、その哀れな最期をその目に刻み込んでもらうために――。
「……」
死ねというのであれば、ああ、死んでやる。
けれど、この身は燃やし尽くされようとも魂は天に召されない。
――私は、主のモノにはならない。
絶対に。
絶対に。
■■■26回目。無限にも思えるループの果てに私はついに地獄の苦渋と共に本当の死に巡り合い……。
……巡り会えたはずだった。
色々考えたのですが、このまま続けていくと、本編に入るまでにさらに何十話とかかってしまいそうなので、とりあえずまとめることにしました。
彼女の細かい人生については番外編などで書けていければいいなと思います。
ちなみに描かれてはいませんが、彼女は忠実と同様、あらゆる凌辱を受けてはいます。ただ、もはやそんな凌辱に何も感じられないほどこの世に絶望していただけで。
プロローグ的な序章はこれで終了。リアルが落ち着きそうなんでまったり続けます。