一回戦、本来大林良との試合になるのであるが、「天龍寺蒼夜」という選手と戦うことになる。彼は高校テニス界の皇帝と異名を取る選手であった。
※この作品は一発ネタです。もし続きが見たいという方が多くいれば連載していきたいと思います。感想等をお待ちしています。
神奈川ジュニアテニスサーキット大会
『63番丸尾栄一郎君、64番天龍寺蒼夜君は6番コートで試合を開始してください』
(ああ、何で俺はまだテニスをしているんだろうか?)
幼さを残している一人の少年が放送を聞き、地面に置いてあった自分のテニスバックを背負い、指定されたコートへ歩き出す。
「よろしくお願いします」
「・・・・・・よろしくお願いします」
天龍寺が背負っていたテニスバックをベンチに置く。中に入っているラケットを手に取り、ガットの硬さ、グリップの感度を入念に確かめる。彼が確かめていると不意に声をかけられてくる。一体何の用何だと思い、声をかけてきた人物を見る。
するとそこには対戦相手の丸尾が右手を出して挨拶を求めてきたのである。彼はどうするかと考えるが相手の敬意を払っている。それを無下にするのはあまり良くない。そのため彼も彼に対して挨拶を返すことにした。
『おお!天龍寺が試合を行うぞ!』
『マジかよ!あの高校テニスの皇帝と呼ばれている天龍寺蒼夜の試合が!?』
『それより何でこんな大会に出てんだ?』
(何でこんなに盛り上がりをみせているの?皇帝?何それ?何で痛い異名みたいなのができているの?意味がないし、興味がない)
(うう。相手があのタクマさんよりも圧倒的に強いって言われている天龍寺蒼夜さん。どんなテニスをしてくるんだろうか?)
丸尾は目の前の対戦相手の天龍寺を見て、少しばかり驚きを隠せない。彼が所属しているSTC(南テニスクラブ)の江川逞、今大会の第1シードを取っている選手を圧倒的に強いと言う。
(それに今現在タクマさんと同じ2年生で去年の関東大会、全日本テニス大会で優勝、その他様々なテニスの大会で優勝する。そして突出しているのは中学の頃、個人戦シングルスで全中三連覇を果たした。それから彼は皇帝と言われるようになった。一回戦から強い選手とする事が出来る。しかし、僕も負けるために試合をしているわけじゃない。勝つんだ!)
丸尾は静かに目の前の相手に闘志を燃やす。
「どっち?」
「
「
試合前に行われるトスを行う。一般的なやり方としては一人がラケットを回し、もう一人がラケットのグリップ部分にあるマークが裏か表かを言い当てる。高校テニス公式戦のやり方としては100円玉の花柄か100と書かれているナンバーを言い当てることになっている。しかし、地方予選では前者のやり方で行われることが多い。
天龍寺が自分のラケットを回し、丸尾にどちらかを聞いてくる。丸尾は上を選ぶと、天龍寺はトスの結果を言う。結果は下という結果になった。
「・・・・・・譲渡します」
「え?譲渡・・・(譲渡って僕にサーブかレシーブを選べってことだよな?)」
「うん。どっち選ぶ?サーブ?レシーブ?」
「(何で自分が有利なサーブ権を選ぶ事が出来るのになんで相手にわざわざ譲渡する必要があるんだろう?)サーブでお願いします」
一般的にトスを行うと、サーブ権を選ぶ選手が多い。サーブは自分のゲームを有利に進める事が出来るという事だ。譲渡という事がある。これはサーブかレシーブの決定権を譲るのである。
『ザ・ベスト・ワンセットマッチ。丸尾トゥサービスプレイ』
(自分に出来ることを精一杯するしかない)
トントン、パン!
丸尾のサービスで始まったファーストゲーム。
(球速は遅い。コースは甘い。狙えるストレート)
丸尾の放ったサーブを冷静に見極める。スピードのあまりなく、コースも狙われていない。そのサーブを的確にストレートのコースへ少し速めの球速で狙う。
(くっ、届くか?え?もうそこにいる!?)
ストレートのコースをなんと返す。体制を整え、次のボールの行方を見ようと思い、前を見ると既にそこには天龍寺の姿があり、ボレーの態勢に入っていた。
バン!
『0-15』
ボレーの態勢に入っていた天龍寺は丸尾のいないオープンコートへ軽くボレーを決め、ファーストポイントを先取する。
(次だ。今のコースが甘かった。少しコースを厳しく・・・行く!)
トントン。パン!
『フォルト』
(今度はセンター気味にフラットを入れようとしてきたか・・・これはコースを厳しく行こうとしてミスをしたと見ていいな。そして、次は安全策で行く確率が高い)
丸尾の放ったサーブはネットに当たってしまい、フォルトになってしまう。セカンドのコースは同じで少しスピードを落として入れに来ていた。
(先ほどより遅い。仕留めれるが・・・ストロークがどれくらい打てるのか見せてもらう。データのない相手に対しては少しでもデータを初めにとっていた方がいい。例え、ノーシードで聞いたことのない選手だとしても・・・)
天龍寺は一撃で仕留めることが出来るコースであったがそれをあえてセンターライン付近に返す。目の前の選手がどのくらいのコースを打つ事が出来るのかを知るためである。
(え?こんな甘い球を打ってくる?なら、これをクロスへコントロール!)
(次はこれをクロスへ、少し速いボールでどうだ?)
丸尾のクロスへコントロールされた球を、天龍寺はクロスへ打ち返す。
パコン!
(さっきより少し速いクロス。でも、これは取れる!ストレートへコントロール!)
(悪くはない・・・なら、前への反応はどうだ?)
少し甘くなったクロスの球を天龍寺はドロップをクロス気味に落とす。これで丸尾の前への反応を見極める為に打つ。
(え?そこでドロップ?取れる!)
(取るか?・・・なら決める!)
丸尾はダッシュしてから何とか取ることの出来たドロップを拾う。しかし、甘くなり山なりに上がってきた球をオープンコートへスマッシュで決める。
『0-30』
(しかし、今のドロップはギリギリまでストロークと分からないようにしていた。それに反応していた。という事は前の反応はイイのか?それとも・・・まだ、分からない。もう一度やってみるか。それで見極める)
(今は反応できたのに・・・ほとんどストロークと思っていた。いきなりドロップに切り替えて打ってくるなんて。でも、僕も負けない)
丸尾はワイド気味に寄り、ワイドへスライスを入れる。セカンドサービスのような感じではなく、キレを意識し相手を外に逃がそうとしたのである。
(俺を外へ出そうというのか?セオリーならクロスへリターンするが・・・相手が予想外の事をしてきた時にどのような対応するのかを見せてもらおう。この球をストレートへ打ち込む)
(そこでストレート!?)
(やっぱり、セオリーに対しては強いが・・・イレギュラー、予想外の球に対しては弱い。それにどこかギクシャクしている。恐らく試合経験が少ないのだろう)
天龍寺の放った打球はそのままサービスラインギリギリに決まる。
『0-40』
今の圧倒的なショットを魅せられてしまった丸尾は次のサービスをダブルフォルトにしてしまい、ファーストゲームを落としてしまう。
『ゲーム。天龍寺、1-0。天龍寺リード。チェンジコート』
「あの野郎。手を抜いて試合をしてやがるな」
目つきの悪い、髪の毛がツンツンと立っている男――江川逞。STC所属。今大会の第一シードの選手である。強烈なサーブを武器にして前に出て戦うサーブ&ボレーヤーの選手である。しかし、ここ最近では調子を崩してしまい、負ける試合が多くなってしまっている。同クラブの鷹崎奈津に片思いをしている。
「確かに彼天龍寺君の実力はこの程度ではない」
顔がブルドッグのような顔をしている――STCの三浦コーチ。数々のプロ選手を輩出した名門のコーチである。そして丸尾の才能を見抜き、直様にテニススクールに入門させた一人である。
「う~ん。確かに蒼夜さんは強いからね」
少しフワフワとした感じの雰囲気を出している――鷹崎奈津、今大会女子の部で第1シードをとっている全国区の選手の一人。偶々、壁打ちをしている丸尾に声をかけ、STCへ勧誘した人物である。そして、急激に成長を遂げ、無類の進化を遂げ、純粋にテニスを楽しむ丸尾に片思いを始めている。
江川は言われずとも既に全国区の選手の一人で今大会第1シードをとっている。そして今のファーストゲームを振り返る。
今のゲーム、天龍寺は実力の半分も出していない。いや、それどころか3割くらいの力で丸尾と戦っている。高校入学する2ヶ月前にSTCへ入ってきた有望株の一人。僅か数ヶ月という短い期間で急成長を遂げた選手。それを意図も簡単ファーストゲームをとったのである。
「それに天龍寺の野郎。全て丸尾の返す事の出来る範囲で返球してやがる」
「何でそんなことをしているの?蒼夜さんにとって丸尾君は格下の相手なんだよ?」
「確かに逞の言う通りだ。奈津それは少し違うな。天龍寺君と丸尾君との間には埋めることの出来ない実力差がある。しかし、天龍寺は丸尾君と初めて対戦する。丸尾君のデータを少しでも集めているんだろう。何が不得意で得意なのかを見極めているんだろう」
三浦コーチは冷静に今の天龍寺の試合展開を分析していた。
「ったく。普通にやっても勝てんのに・・・相変わらずのプレースタイル」
「逞、お前は何時もそれでやられているだろう。彼はもしこの先戦う可能性の相手にはこのようなスタイルで試合するのは分かっているだろう?(それに逞はこれに何度もやられている。ということには気づいていない。毎回数ゲームは様子見と今まであった成長や変わった点などを修正して、猛攻を仕掛けてくる。それに様子といっても彼の絶対的有利に試合を進めるという・・・やはり改めて思う。凄い選手だ)」
天龍寺のプレースタイルを完全に理解して分析する三浦コーチ。隙のない総合力の高い選手という事で毎回試合を見るたびに思い知らされる。ここまで完成されている選手がいるだろうかと思う。
(さぁ、この後の試合がどうなるのかが楽しみだ・・・)
三浦コーチはコートチェンジを行い、第二ゲームが開始されるのをじっと待っていた。
90秒前
ファーストゲームが終わり、コートチュエンジの90秒間の休憩を行うため、天龍寺と丸尾は互いのベンチに座っていた。
(ここまでは予想通りの試合展開・・・それに今まで無名だったということは高校生からテニスを始めたんだろうか?そうだとしたら恐ろしい急成長だな)
ベンチに座り、テニスバックからタオル取り出すと汗を拭きながら考える。
(しかし、何と言うんだろう。一般的なショットは全て対応する事は出来ている。サーブも平均クラスのスピードに、スライスとスピン系も平均クラス。万能型の選手ということか?)
だが、何かが違うと天龍寺の本能がそれを否定していた。
(まぁ、これからの試合展開で考えればいいだろう。どんな選手なのかもあと2ゲームで分かる。少しずつを上げよう)
そう言うと彼は立ち上がり、コートチェンジのため先ほどとは反対側のコートへ歩いて行く。ゆっくりと呼吸をし、集中力を高めていく。
一方丸尾はベンチに戻り、バックからノートとシャーペンを取り出すと今の1ゲームがどのように返されたのか、ポイントを取られたのかを書き出していた。
そして丸尾は書き出しを終えると、彼は気づく。
(最後のダブルフォルト以外、全て僕が返す事の出来る範囲でボールを返してきている。0-0、0-15もこの時だって僕がギリギリ取ることの出来る場所へドロップを決め、浮いたボールをボレー、スマッシュで決めている。全て僕のミスを誘い、決めてきている。0-30で僕が外へサーブを打ってだそうとした時もストレートで打ち、決めに来た!これは!?)
丸尾は天龍寺が全て自分を試すかのような展開を行っているのだと気づいたのである。
(僕を試すかのような展開・・・どうすればいい。どうすれば、この展開を脱することができる?でも、まだ試合には負けていない・・・少しでも多く返すんだ)
ノートを閉じ、シャープペンをしまうとスポーツドリンクを二口ほど口に含み、口を潤す。少しでもこの試合を長くするために、自分に何ができるのかを模索しながら試合に戻るのである。
『1-0、天龍寺リード』
(さて。ここからどう攻めるとするか?相手もファーストポイントは取りたいはず。先ずは
少し速めサーブをとる事が出来るのかを見せてもらう)
パン!
(コースがいい!センターギリギリの所にフラットサーブ!でもこれは返すことが出来る!ストレートへコントロール!)
丸尾は天龍寺のセンターの深いところへ入ってきたフラットサーブをストレートへコントロールする。
(やはり・・・ある程度のスピードボールには対応する事が出来る。それに俺が打ってからの反応速度・・・いや、どの球種かコースを見極めるまでの判断力と眼が良い)
天龍寺の言う「眼」とは、テニスにはあるとあらゆるものが必要である。動体視力、ボールがバウンドしてからどのように変化するのかと様々な物のことを指している。
(どちらでも来ていいようにケアをしているようだな。なら、もう一度これをクロスでラリーするしかないな。それともワザと隙を見せ、相手に誘うというのもいいが・・・)
(くそ、
(顔が少し迷っている。それに打球にも迷いが入っているな。なら、少しずつ誘いに行ってみるか?もう少しだけこの
(このままじゃ、攻め手がない。僕の方から誘いに行ってみる!)
丸尾は数十回のラリーを続け、このままでは変化がない。これでは余り意味ない。そこで自分自身から攻めに入ることにした。突如、クロスでのラリーから逆クロスへのボールを返す。
(お?相手から誘いに来たのか?良いだろう。それに乗ってみるか?)
逆クロスへ打ち返してきた球をバックハンドで深くクロスへ強打で打ち返す。
(くっ!深い!返せるか?いや!返すんだ!これも少し体制がキツいけど攻める!)
天龍寺の深く伸びるバックハンドに態勢を崩しながらも追いつく丸尾。しかし、自分から誘っておいてミスしてしまってはリスクを負った意味がなくなる。少し無理をしながらも深めへバックハンドでコントロールを狙う。
『アウト!15-0』
丸尾のバックハンドはボール一個分シングルスラインの外へ出てしまい、アウト判定になる。
(今のコースは1個分外でアウト。態勢を崩しながらもコントロールを狙ってきた。大した度胸だ。さて、そろそろ終わらせていこう。次はあれで行こうかな)
(今の惜しかった。ほんの少しだったのに、切り替えていこう)
天龍寺のファーストサーブは速いフラット系ではなく、スライス系を選択し、センターめがけて打ち込む。
(ここでスライス!うっ!また、前にいる!不味い!)
(遅い。決める)
天龍寺が選択したのはサーブ&ボレーと呼ばれる。これは前に出てボレーで決めるというものである。ファーストゲームでも何度か決めていた戦術。
『30-0』
一瞬の隙を付き、天龍寺は丸尾からの帰って来た球をボレーで決める。
続いてのポイントも同じようにサーブ&ボレーでポイントを取り、怒涛のポイントをラッシュしていく。
『ゲーム。天龍寺、5-0。天龍寺リード』
ベンチに戻り、スポーツドリンクを二口程飲む。
(気落ちでもしているのか?少し注意力が欠け始めている。まだ、十分に戦えると言うのに?それとも他の意味でもあるというのか?または試合を諦めたのか・・・)
丸尾の表情を見る。何処か気落ちでもしているのではないかと思ってしまうような表情をしてしまっていた。
しかし、実際は違っていた。
(ダメだ。攻め手が足りない。僕のある手、このボールコントロールとコートカバーリングだけでは決め手が足りなさすぎる。ストローク、ボレー、サーブも天龍寺さん相手には全て見極められてしまっている!その上に返されてしまう!)
丸尾は天龍寺の完成度の高いテニス、自分の目指そうとしているテニスに対して驚きを隠すことができていなかった。更には彼が全ての上を行くテニスを見せつけられてしまい、威圧されてしまっていた。
つまり、簡単に言えば――ビビっている
ただ、それだけである。
事実、テニスという競技は精神面が不安定になってしまっては試合にならないことが多い。相手を見てからビビってしまったり、自分のミスを連発してしまい、気落ちしてしまってはベストショットを打つ事はできない。つまり、精神面に左右されてしまうと言っても良い。
だが、現状の丸尾にこの展開を変えることはできるはずがなかった。
『ゲームウォンバイン。天龍寺、カウント、6-0』
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
試合が終わり、ネットまで互いに歩いてくると、最後に握手をしてから挨拶を行うと自分のバックの場所へ向かう。
天龍寺は勝つ事は当たり前であったが、少し嬉しいものがあった。
(面白いテニスだった。今までの型にはない。新しいテニスのプレースタイルとでもいうのか?コントロール&コートカバーリングという新しいスタイル。もし、丸尾に試合経験というものがもう少しあったら、スコアは変わっていただろう。しかし、まだ伸びしろがある。それに本気でテニスというものに打ち込んだら、あっという間に強くなる逸材だ・・・ああ、楽しみだ)
テニスバックを背負い、コートから出て行くとそこには江川逞が待っていた。
「よぉ、蒼夜。お前手を抜いて試合をしていたな?」
やれやれといった表情をしながらも天龍寺は答える。
「久しぶりだな。逞・・・いきなり何を言うんだ?失礼にも程があるな」
「それはこっちのセリフだ。俺とやっている時の球と今の試合の球ではスピードも重さも違うだろうが」
「まぁ、それ自体否定はしないよ。それよりも逞、さっき君の試合を見たけど・・・君は成長していないようだね」
天龍寺がそう言うと逞の表情が変わる。
「どういう事だ!蒼夜!俺が成長できていない!?俺はお前に勝つために今までの練習に取り組んできたんだ!」
事実、逞は今まで練習にあまり取り組んできていなかった。理由は負けてしまい、本当にプロへの道へ進んでいいのかと考えてしまう。更に最近では片思いをしている鷹崎奈津が丸尾栄一郎に恋をしているのではないと考えてしまい、練習どころではなかったのである。
「そうか?それはいいけど・・・逞、君は俺をあの状態にしたのは何回ある?それに最近俺は君と試合しても何も感じないんだよ。それはつまり、成長をしていないということだ。自分で練習してきたと言っても何も意味がない」
「蒼夜!お前・・・!」
逞の表情が鬼のようになっていく。今にも掴みかかりそうな勢いになっていくが、天龍寺は構わずに続けていく。
「事実、君は何かを思っているんだろう・・・何かが君自身の足枷となり、君自身の成長を妨げている。今戦った丸尾くんの方が十分に面白い選手だと思った。まだ、純粋にテニスを楽しみながら試合を行っている彼の方が必ず強くなる。無論、君よりも早い、スピードで成長を遂げていくだろう(丸尾くんはこの1年で必ず神奈川で知られる存在となる。俺にも図ることのできない速度で成長を遂げる。でも、逞。お前はこんな所で立ち止まっていい選手ではない)」
「(お前、俺に対して悲しんでいるというのか?奈津の事が気になってしまった俺自身に対して哀れに思い、言葉をかけているというのか?練習もサボったり、サーブしかしなかった。ここが分岐点だというのか?俺自身が変わることが出来るかどうかの?)仕方がねぇ。ここは試合で決める。必ずお前を倒してやる!」
天龍寺は不敵に笑うと言葉を発する。
「そうだな。楽しみにしている」
そう言うと彼はその場から立ち去っていく。
彼が本部で試合結果の報告を終えると、一人の女子が近づいてくる。
「蒼くん。試合終わったの?それに何処か楽しそう顔をしている」
天龍寺と比べて頭一個分ほどの身長が低い華奢の体をしている少女―清水亜希。今高校女子テニス界において圧倒的な実力を持っているナンバーワンの選手。そして鷹崎奈津のライバルと言われている。
「ああ、終わったよ。亜希。少し、面白い選手を見つけたからな」
「そう?でも、スコアはラブゲーム?実力差はやっぱりあったんじゃないの?それとも他に何かあったの?」
ラブゲーム
テニスの試合においてスコアが6-0で試合に勝つこと、またはストレートと言う。試合において圧倒的に勝つことを言う。
「うん?そうだね。これからの成長を期待される選手といったところかな?プレースタイルといしては亜希と同じようなものだ。それに試合経験が少なく、途中で崩れてしまったが、それを抜きにしても面白い。あの逞を超える存在になるかもしれない」
「そうなの?ふ~ん・・・それより逞さんはどうだったの?」
亜希は興味がなくなったのか、別の話題を振ってくる。
天龍寺は少し残念そうな表情をしながら言う。
「去年の全国大会の3回戦からほとんど成長していない。今回も普通にやっても勝てるだろう。それに何かが彼の足枷となって成長の妨げになっている。それが取れない限りは爆発的成長することはない」
「そう?それじゃ。また試合頑張ってね」
そう言うと亜希は何処かへ行ってしまった。恐らく、次の鷹崎の試合を見に行くために行ってしまったのだろう。
「さぁ、次も頑張ろうか?」
その日、2回戦、3回戦共に6-0で試合に勝つ。次の日も4回戦、5回戦も同様に勝ち上がると最終日、決勝戦に望む。
しかし、今の天龍寺と江川の間には埋める事の出来ない差が出てしまっていた。更には江川の心理状態とサボってしまい技術力の低下で天龍寺に勝てる訳もなく。
6-2、6-1
天龍寺は神奈川県でナンバーワンの江川逞相手に僅か3ゲームしか落とさず、神奈川ジュニアサーキット大会を制覇する。
そして、ある2人の少年達は天龍寺に試合に勝つために更なる飛躍を誓う。
(絶対にアイツに勝つ!今まで奈津の事ばっかり気になって練習にならなかった!もう、そんなことはどうでもいい。奈津の事は丸尾にやる。ただ、俺は勝ちたい!今以上にサーブ&ボレーを磨く!そして基礎トレーニングもしっかりとやる)
(僕の目指すテニス。隙もなく、相手に付け入ることのできない完璧なテニス。僕もあんな風に試合を行えるようにする。その為に僕は練習メニューの向上とテニスのみに集中出来る様に親を説得する。そうしないとテニスに打ち込むことができない)
江川逞と丸尾栄一郎
この二人は次の日から人が変わったかのよう練習に取り組んでいく。
神奈川県ジュニアサーキット大会から既に2ヶ月の月日が流れていた。すでに全国でも名を知られている天龍寺蒼夜が優勝したということは瞬く間に情報が広がっていた。
彼からしてみれば何故小規模大会如きでこんなに情報が広がっているのかと思ってしまう。別に有名な選手が大勢出場するような大会ではない。彼からしてみれば江川の成長を見るためと全国大会で戦うための調整をするために出場した程度であった。
結果は嬉しい事と残念の事が残ってしまった。
嬉しい事は無論、丸尾栄一郎という選手を見つけたということ。全く無名と言ってもいいほど選手。原石のデカさでは今までであってきた選手の中でも一、二を争う程のもの。試合の中でも成長を遂げようとする。そんな選手がどういう風に育ってくるのかが楽しみである。
残念な事は言うまでもない江川逞の成長が全くしていなかったということ。サーブと言うものは確かに驚異的なものであるが、それ以外が腐り果ててしまっていた。練習をあまりしてこなかったためであろう。そんな彼に呆れてしまい、相手に塩を送ってしまった。効果があるかどうかは分からないが、良い方に転ぶ事を願いながら帰っていった。
天龍寺の自宅で朝食を父、母、彼の三人で仲良く摂っていると父が声をかけてきた。
「蒼夜、テニスは楽しいか?この前の大会は優勝したらしいな。少し遅れてしまったが、おめでとう」
「ああ、楽しい。でも、虚しい。この前の大会は虚しいと嬉しいというのが半々といった感じだった」
「そうか?虚しいのはお前が強いだけのこと。しかし、世界にはお前以上の選手が必ずいるはず。それだったらもうアマチュアの試合にはでず、プロへ転向した方が良いんじゃないのか?」
本当は天龍寺自身、高校一年の頃にプロ転向が噂れていたのだが、彼自身はまだ早いだろうと思い、プロ転向を諦め、同世代の中で切磋琢磨出来るだろうと考えていた。しかし、実際はどうだろうか?彼が一人突出してしまい、今現在彼と戦うとしても0ゲームがその殆どを占めてしまっていた。
「・・・確かにそうなのかもしれない。それじゃ、俺はもう上の世界に行ってみる。何処まで自分の試合を行う事が出来るのかやってみたい」
「分かった。お前がプロになりたいというのなら俺は何も言わない。しかし、お前は一体どこのメーカーと契約するつもりだ?この前の時に色々なメーカーから名刺を貰っていただろう?」
テニスの大手といえば、ヨネックス、ウィルソン、プリンス等が思いつく事が多い。しかし、その他にもあまり知られていないメーカーなども存在している。
「・・・取り敢えず今使っているラケットのヨネックスでいいかな?バランスの良いラケットが豊富に揃っているからね。それにフェアはナイキ社にでも作ってもらう。靴はどうしようかな?・・・・・・アシックス社からも貰っていたからね。あそこは中々良い靴を作ってくれる。これもオーダーメイドで自分の足に合うようにしてもらう」
「そうか?なかなか、良いところの奴を選ぶわけだな・・・それじゃ、今日中にテニス協会と各メーカーに連絡するとしよう」
「そうする」
その後、ゆっくりとした家族での学校のこと、どのような目標にしていくのかなど様々な会話を楽しみながら、彼ら三人は食事を行っていった。
そして、この日天龍寺蒼夜がプロ転向を行ったという情報が流れていく。高校テニス界において名の知れている彼がどのような試合を行うのか、どれくらい活躍出来るのかと一人一人が憶測していく。
そして、更に数日後にはアメリカのメキシコ州に住むある日本選手が天龍寺に目をつけたのである。今ある自分の牙を更なる飛躍させるために研ぎ続ける。
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