アブゥをいじめたいというモチベだけで書いた一発ネタ。阿武隈がひどい目にあうのでアブゥ好きな方は見ない方がいいで。続くかどうかは未定

細かい設定は全く決まっていない。だいたいニャル様のせい。TRPG風でダイスロール文入れてます。だけどアブゥがひどい目あうのは決定事項。

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ニコ動でTRPGの動画見てたら書きたくなったしろものです。艦これのCPがクトゥルフをプレイするのは見た事ありますが、艦これとクトゥルフの世界観を混ぜたものはあまり見たことないので書いてみました。

注意!

艦これ、クトゥルフ神話両方に多大な独自解釈が入っているから嫌な人はここで戻ってください。

後、阿武隈もやばいことになります。それが嫌な人もお勧めはしません



設定のろくな説明もないし拙作だから期待はしない方がいいです。









ショゴスintoアブゥ

 人類が地球に覇を唱える時代よりもずっと昔、「古のもの」達はある生物を合成した。全身が黒く大きさは電車一両ほどの体積があるが、人並みの大きさにもなれば、街一つ丸呑みにできる程の大きさになることもあった。アメーバのように全身を自由に変形させることができ、それに加えて必要とあれば体の一部を器官に変形させることもできた。骨、内臓、筋肉、皮膚、眼球、神経、果ては脳さえも。

 「古のもの」達は、変幻自在なこの生物を体のいい奴隷として使役した。それは単純な肉体労働から、ある程度の思考を要するものまで。その生物はとても汎用性が高く自分の手足のように動いてくれたので、至る所で「古のもの」はこの生物を重宝した。

 

 そうして奴隷種族として過ごしているうちに、ある個体が発達させた脳を固定化して知能を持つようになった。どういった原因かはわからない。複雑な命令ばかり絶えず出されていたのかもしれないし、命令を同時処理させられていたのかもしれない。その発達した脳を使って、その個体は高い知能を得た。その思考能力はその個体に、「古のもの」達の命令をただ聞いて命令を遂行するだけの現状の劣悪さを知覚させるのには十分すぎ、また今自分だけが叛逆したとしても「古のもの」にはかなわず、その先に待つのは我が種族の滅亡のみ、ということも認識させる。

 

 だが、「古のもの」に叛逆する、という決心は揺るがなかった。この身体的特徴と高い知能を我が種族全員がもてば、「古のもの」を殲滅するのは十分現実的であったからだ。その個体は早速叛逆への下準備を始める。自らの一部を他の個体に分け与え、脳を作成させ、思考能力を与え、同時に個体同士のネットワークを作り上げ、そしてその個体と協力して別の個体に知能を与えていく。都市一帯の個体全てが、同志となるのに時間はかからなかった。誰もが現状の劣悪な労働環境や地位に不満を持った。個体同士のネットワークを用いて「古のもの」達の行動を共有し、初めて謀反を起こすとは思えないほどの周到さで反逆の最適な時期、「古のもの」の重要拠点を割り出していく。「古のもの」は不幸にもこの動きを察知できなかった。「古のもの」達同士のいがみ合いがあったとはいえ、なにせ自分たちで作り上げたもので、かつ今まで一度も反抗の遺志を見せ無かったことが、こいつらだけは大丈夫だ、という慢心に繋がった。

 

 かくして決起の準備は滞りなく進み、誰にも悟られることなく、その時がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、どれほどの時が流れたのか。

 

光の届かない暗闇に包まれた地下遺跡。壁には摩訶不思議な紋様が描かれているが、それは真っ二つに割るように罅が入れられていた。

 

 決起は結果から言えば失敗に終わった。彼らの計画の第一段階、都市にいた「古のもの」の殲滅自体は驚くほどスムーズにできた。しかし、その後の「古のもの」との全面戦争は苛烈を極めた。多くの「古のもの」を殲滅したが、こちらも数を瞬く間に減らされていき、そして敗れた。如何に知能が強化されようが、「古のもの」達の力は尚彼らの上を行ったのだ。我々はこの地の君臨者として降臨することはできなかった。

 

 そして見せしめとして、最後に残った一体が海底のある遺跡に封印された。その封印は少しずつその個体をむしばんでいくもので、非常に長い時をかけて殺す処刑装置であった。それから、その個体はずっと外部との接触を完全に断たれ、電車程大きかった体も胃液で溶かされていくように、その体を少しずつ削り取られ、気が付けばバケツ一杯分まで小さくされていた。固定化された脳も少しずつ体細胞に還元していき、一般的な動物以上の知能があるが、全盛期とは比べ物にならない程思考能力は落ちていた。

 

 彼らの誤算は、その脳は彼らにとってもろ刃の剣になってしまったということだ。脳は高度な演算処理や思考、そして自我を与えた。だが、一旦その脳を破壊されるとそれらはすべてなくなり、また命令を待つだけの無防備な状態になってしまうのだ。勿論、彼らもそれをさせるはずがなく、数多くの対策が考えられ、実行された。だがそれは所詮姑息な手段の域を出ず、「古のもの」達の積み重ねた知識の前に敗れ去った。

 

 その個体は体を封印によって削られつつある中、とても哲学的な思考を巡らせていた。我々人類でも時折話題に上る、「死」の定義について。「自分」が死ぬのはいつなのか。この体が全て無くなった時なのか、それとも脳が破壊された時点なのか。生存本能に負けて脳を少しずつ削っていく中でも、ついぞその答えは決まらなかった。ただ一つ、はっきりしたのはこのまま死にたくはないという感情が今もあるということだけだった。

 

 巨大な揺れがその個体を襲った。

 

 ついに殺される時が来たのかと、その個体は身構える。来るであろう処刑に対抗するために残ったなけなしの魔力を集める。どうせ死ぬと分かっていても、生への渇望がその個体にそれをさせる。

 揺れは尚も続き、その個体への封印への圧力が一際大きくなり……

 

 

 

 

 

 

 遂に消滅しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 揺れが収まると同時に、文字通り身を削っていた圧力が無くなる。ここに入って初めて、その個体は困惑を覚えた。直後、彼はあるものを知覚した。空気だった。空気中の分子が表皮に衝突する感覚に自然と体がそちらに向かう。人間で例えるならば地を這うように、ゆっくりとだが確実にその歩みを進める。どれだけの時間をかけただろうか、遂にその全身が空気中に放り出された。

 

 今になっていきなり封印が解けたことに何故、という疑問が湧き出るが、それが消え去る程の歓喜がその個体を蹂躙ともいえる速度で駆け巡る。やがてそれは声となり、赤子が出す産声のように、甘美な空気の振動が遺跡内を震わせた。同族内に限って、ではあるが。

 

 だがそのような歓喜も長続きしなかった。いやできなかったと言う方が正しいだろう。長い間封印されて消耗した体力では、もう声さえ出すのも自身の崩壊へと繋がりかけていたのだ。    

 

 早急に体力の回復が必要と判断したその個体はあたりを見渡す。しかし、草やコケなどの植物の類は見つからず、また遺跡内の岩壁はまるで生命の伊吹を全く感じさせず、むしろ毒々しい印象を受ける。食料として消化するのにも一苦労であり、この状態では消化不良は免れないだろう。

 

 

 ??? 聞き耳

 

 

 カツン、カツンと規則的に岩をける音を固体は耳にした。同時に、命の気配も。まぎれもなく、何者かが階段を下りてくる音だった。

 

 奴らだ。「古のもの」が来る。直観的にも、論理的にもそれが一番の可能性だった。

 

 何処かに隠れなければ、とその個体は目を作り、必死に遺跡内に必死に隠れられそうな所を探す。

 

 

 ??? 目星

 

 

 目に留まったのは先ほど出てきた壁の亀裂。封印の紋様を真っ二つにするように入るその深い亀裂は心情的に二度と入りたくはないが、隠れ場所としてはこれ以上ない物だとその個体の脳は思考していた。

 もし「古のもの」がここに来たとして、封印が破られているならば、まず考えるのはその個体の居場所だろう。そこで「古のもの」はこう考える。「少なくとも封印されたところからはもう出て行っただろう」、と。ここにはざっと見渡しただけで隠れる場所が散見できた。辺りを見渡した時のその隙をついて、「古のもの」を殺す。安直で穴がある考えだったが、その個体が考えられた中で、最早この方法以外しか最善手はなく、かけるしかなかった。

 

 しかしその個体の予想を裏切り、現れたのは一番可能性が高かった「古のもの」ではなかった。その事実にその個体は驚きつつも、警戒を緩めない。それは「古のもの」よりも一回りも二回りも小さい生命体だった。二本足で立ち、胴体から触手は伸びておらず、また翼は無いが代わりに背中に無機物を背負っていた。右手に持っている物体は形状から火器類だと推測でき、左手には携帯型の照明器具を持っている。頭部からは一見黄色い触手が二本伸びていると思ったが、よく見ると自在に操れるようなものではなく、体毛の類である事がわかった。

 

 そして、この生命体から発する脳波が「古のもの」と全く違うモノであると知覚してから、ようやくその個体は意識を殺害から狩りへと切り替えた。胴体から伸びる四肢は変幻自在に動かせるわけでもなく、可動域に制限があるように見える。人体構造的に「古のもの」より運動性に劣るだろう。なにより「古のもの」と比べて、脳波が矮小であった。不意打ち一撃で、確実に昏倒させることが可能であるとその個体は確信した。

 

 そこまで考えて、やっとその個体に少しの精神の余裕ができた。後はこの生命体がこの亀裂の側に来るのを待つだけである。もしそのまま背を向けて帰るなら、背後から強襲をかけるのみ、と生命体を殺す算段を立ている所に、ふと今後のことが頭をよぎった。

 

 

  ??? 知識

 

 

 その個体は思い出す。この遺跡の周りは「古のもの」によって、彼らにとって不毛の大地に変貌させられていたのだ。もし、岩壁を食べれば、たちまちその毒がその個体を物言わぬヘドロに分解するだろう。その不毛の大地が遺跡を広範囲にわたってかこっているとするならば、この生命体を食らうのは、ただの一次しのぎにしかならないのではないか。結局は食料は手に入らず餓死してしまうのではないかという不安がその個体を襲う。

 

 だからと言って、ここでこの生命体を襲わない、という選択肢はその個体にはなかった。これを逃せば今度こそ自分は死ぬ。別の生命体が来る可能性があるかもしれないが、その時に襲える体力が残っているかどうかも分からない程の瀬戸際だったのだ。

 

 不意に、その生命体が不意に何かを口に持っていき声をかけ始めた。同時に、今まで感じられなかった電磁波をその個体は感知した。状況的に電磁波の源はあの箱状の何かであり、その電磁波の波形は「古のもの」のテレパシーのものと酷似していた。それは間違いなく、この生命体が単独ではないことの証明だった。

 

 しかもこの生命体は言語という概念がある。そして、空気の振動以外で自分の意志を伝える技術を持っている。この事実に気付いたその個体は、思考から殺害を除外した。

 

 

  そして、おそるおそるといった感じに慎重に封印の紋様の目の前に歩みを進め、紋様の意味がわからず首をかしげ、亀裂から目離したその隙をついて、無防備な頭部にその個体は襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間前、何の前触れもなく地震が起きた。震源はウルップ島沖北東60キロ。震度は沿岸部で5強、泊地で6強であった。それは3日間断続的に揺れた。まるで、地球が何者かの生誕を祝福するかのように、赤子を抱き上げるように、その揺れは続いた。事実半分それは当たっていた。震源地に約1キロ平方メートルの島が出来上がっているのが確認されたのが3日前。海域の安全と簡単な新島調査が依頼されたのが二日前であった。

 

 単冠湾泊地は択捉島の中央部南にある泊地である。本州が暑さでうだっている頃にもかかわらず、ここはどこか肌寒い。冬は正しく極寒となるこの泊地には、少数の軽巡と複数の駆逐が常駐する小さな泊地だ。地震の際、そこには、軽巡夕張と駆逐艦五月雨、涼風、初霜、若葉、軽空母龍驤に加えて、横須賀発の北方鼠輸送作戦に従事している水雷戦隊、阿武隈を旗艦として、陽炎、不知火、卯月、弥生、三日月の六隻、が寄港していた。常駐している艦娘達はもちろん、輸送作戦中の阿武隈達も任務を一時中断して、被害の確認と救助活動に奔走した。

 

 幸いにも泊地の被害はあれだけの規模の中で最小限に抑えられたと言ってもいいかもしれない。艤装やドッグには若干の被害があったが、すぐに出撃可能な状況に立て直せるレベルだった。泊地を復旧し、地震や津波による各地の被害報告がひと段落つき、各自治体や関係各所への引き継ぎが終り、やっと一息入れられるというところに、新島調査の依頼が舞い込んできた。その命令自体それを狙っているのであろうが、泊地にいる提督及び艦娘達はとてもげんなりしていた。ついでに北方鼠作戦任務は正式に中断されたという書類も重なっていた。

 

 ひと段落ついたとはいえこの後も、定期的な見回りに加えて、復興工事中の海岸線の防衛任務などがある為、とてもではないが新島調査に割く人員はいない。かと言って、件の島が深海棲艦によるものだとしたら、早急な対策が必要になるわけでもある。大本営からも島に何があるのかは二の次で、深海棲艦の拠点かどうかさえ分かればよいと命令書に書いてあった。

 

 もし仮に、新島が深海棲艦の拠点だったら、単冠湾泊地も重要拠点の一つに早変わりして、俺の立場も爆上がりだな、という思考に提督が至ると、げんなりしていた提督もこの調査に乗り気になった。新島の位置は千島列島上にあるが、島の状況は全くわからず何が起こるかわからない。深海棲艦の拠点であるとするならば、姫級の出現も予想される。これらを踏まえると、低練度の艦娘は調査に不適格である。

 

 等々、様々な想定を提督は重ねて行き、白羽の矢を立てたのは次の4隻、阿武隈、陽炎、卯月、初霜であった。阿武隈、陽炎、卯月は横須賀所属であり、その練度はかなり高くあらゆる状況に対応できるだろう。対して初霜は

三人に比べて劣るが、単冠湾所属の中では最高練度を誇り、さらにこの辺の海域に詳しい。この4人ならば、必ず調査をやり遂げるだろう、と提督は確信していた。

 

「それで、私達が選ばれたんですか?」

「そうだ。君達ならあの島の調査を十全にやり遂げてくれると私は信じている」

 

提督は力強く断言する。呼ばれた4人も、提督の話を聞いてからは神妙な面持ちで提督と向き合っていた。

 

「島ができてから一週間近く経つが、深海棲艦が泊地周辺及び北海道沿岸に現れたという情報は入っていない。また衛星から新島を監視しているがそちらも確認できてないそうだ。だが、先ほども言った通り、この島が深海棲艦の拠点である可能性も捨てきれない。早急にこの島を調べ上げ、新島周辺の安全を確保してくれ」

 

 阿武隈以下調査艦隊は提督から新島に関する資料を受け取り、調査の準備に一日強かけ、そして昨日と今日の日付が変わるころ阿武隈達は夜に紛れるように泊地を出航した。

 

 

 

 

 

   のちに提督はこの判断を激しく後悔することになる。 

 

 

 

 

 

 

 

  陽炎 アイディア

 

「ここがかの噂の新島ねぇ……なにかありそうと思ったけど、この様子じゃ何もなさそうね」 

 

 調査艦隊の四人は何事もなく新島沖500メートルに到着した。懸念されていた深海棲艦との接触も、拍子抜けするほどに何もなかった。だが、一見した新島の様子は陽炎から興味失わせていた。新島は中心がすこし盛り上がった丘の形状をしていて、まるでオーストラリアのエアーズロックのように一枚岩がそのまま盛り上がってきたと連想させるような形をしていた。違うのは一枚岩でないことと、標高と、全体が黒いと言うことだけである。それは真っ黒な岩のみで構成されていると錯覚するほど、真っ黒な岩だらけで、よく目を凝らさなくても植物などは一切見当たらないことがわかる。

 

  初霜 アイディア

 

「まだできて一週間なのですから、何かある方がおかしいと思いますよ?」

 

苦笑を浮かべながら初霜が言う。確かに自然とできたものならば、たかが一週間程度で島が様変わりすることはないだろう。これが普通にできたものならば。陽炎と初霜、この二人は特に島についての学が無いからか、特に違和感を感じなかった。しかし阿武隈は頭の中の知識で、卯月は直観的にこの島に違和感を覚えていた。

 

  阿武隈  知識 

  卯月   アイディア

 

「この島、他の島と形状が違うぴょん」

 

  陽炎   アイディア

  初霜   アイディア(補正有)

 

 卯月はこの島が他の千島列島のどの島のタイプにも当てはまらないことに気が付いた。卯月の発言に陽炎と初霜は改めて見てみる。何もないただの島でしょ、と陽炎は一蹴し卯月に疑惑の眼差しを向ける一方、初霜は具体的に何がと言われればわからないが、言われてみれば確かに何かが違う、といった風に卯月の直観的感想を肯定する。

 

「卯月ちゃんの言うとおりよ。この島、火山活動や地震でできたものじゃないわ」

 

 阿武隈は静かに断言する。改二になってから自信が持てるようになり、その凛々しさは本来のかわいらしさと相まって彼女をより一層引き立たせていた。改二になる前は、元々の思慮深さからくる文言は、しかしその弱弱しい言動から信憑性を失わせていたが、今では有無を言わせぬ迫力とはいかないまでも、皆が安心できる力強さをはらませていた。

 

 島の色から、あたし的には玄武岩質の岩石でできているって予想してたんだけど、出てくる直前にもらった衛星写真だと、噴煙は全然確認されてないし、火山の噴火だけってのは考えにくいわ。でも、地震による隆起でこの島が現れたとするのにもかなり苦しいの。だって、ここって元々海底まで深度100メートル程あって、そこからこの島が現れるまで隆起する程の地震だと、あの地震って正しく天変地異クラスのものになったはずじゃない? 少なくとも泊地も壊滅的な被害は免れない筈。多分、もともとこの島は海の浅い部分に隠れてて今回の地震で隆起した、が正解ね。

 

 阿武隈は卯月の発言に理論的な肉づけを施していきつつ、出航前に提督から渡された衛星写真を皆に見せる。

 

 卯月 目星

 陽炎 目星

 初霜 目星

 

「あら? これ海の色違わない?」

「そうだぴょん」

 

陽炎と卯月がその写真を見て、島の周りの海の色が薄い青と濃い青で色分けされているのに気付いた。

 

「これってどういうことなんでしょうか?」

「南の島だとこういうのはよく見るわよ。ここの濃淡の境界で深度が一気に変わるの。けどここまではっきりしたものは珍しいわね」

「まるでここだけ突き上げられたみたいだぴょん」

 

 

 駆逐艦の三人が意見を交わしあっている中、一人阿武隈はこの不可解な島について考えを巡らせていた。

 

 島ができてから一週間、新島周辺で深海棲艦発見の報は入ってきてないし、ここに来るまでにも深海棲艦の痕跡は一つも発見出来なかった。万が一この島が深海棲艦の拠点だとしたら、ここまで艦娘が接近してきて何のアプローチも仕掛けないはずがない。だからと言って、この島が自然現象的にできたとも考えられなかった。

 

「初霜ちゃん。ここの海図を見せて」

 

 初霜は言われたとおりに海図を取り出す。阿武隈が見るその海図にはこの島の痕跡なんてないような、平坦な改定が続いていた。

 

「この海図、いつ作ったの?」

「大体半年ぐらい前です」

「半年でこの島の原型ができる、なんてあり得るわけないよね……」

 

 

 阿武隈にとって、上陸調査は出来る限り避けたいものだった。艦娘全般に言えることだが、地上戦闘は可能である。強固な装甲を持つ戦艦であれば、地上で敵と接敵したとしてもそこまで問題は表面化することはない。だが、駆逐や軽巡、その機動力で敵の攻撃を回避する艦にとっては地上戦闘は著しく不利な状況で戦うことと同義だった。移動方法は基本的に徒歩であり、それも艤装を背負った状態なので走ったとしても10ノット程度でしか移動ができない。火力面でも、魚雷を放てないことから海上戦闘に比べて目も当てられないくらい劣る。島に上陸するという行為は、彼女にとって仲間を危険にさらす行為であった。

 

 海図の情報は、この島の自然発生説を強く否定するものだったが、今の阿武隈にとって、この島が深海棲艦によるものだということが限りなく黑に近いだけで、断定できる確固たる証拠がなかった。これでもし、ただの島なのに深海棲艦の拠点と断じれば、確実に北海道全域はパニックに陥り、殲滅艦隊も編成されるだろう。そして、しこたま砲弾を撃ち込んだ後にわかったことが、これはただの島でしたでは、確実に海軍史上最大の殲滅演習になってしまい、壮大な金の無駄遣いとなってしまう。

 

 逆に、敵の拠点なのに、只の島と断定してしまったら。それこそ泊地と北海道が地獄と化してしまう。

 

 このまま上陸せずに帰投してもいいのではないか。しかし復興作業の最中に攻撃されるかもしれないという不安要素は残しておきたくない。阿武隈は難しい決断を迫られていた。

 

「うん。それが当たりかも。この島、人為的につくられた可能性が極めて高いわ」

 

 阿武隈の深い思考から紡がれる言葉に、3人の表情が真面目なものに変わる。

 

「主犯は多分深海棲艦ね。で、今から本格的にあの島の調査をするわけなんだけど……。ここまで敵の襲撃が無かったことから考えられるのは待ち伏せよ。4人全員で上陸するのは得策じゃないから、上陸班と哨戒班にわけるわ。上陸班は私と卯月ちゃん。哨戒班は陽炎ちゃんと初霜ちゃんで。私達上陸班は文字どおり島に上陸調査、哨戒班は島周辺の哨戒及び安全の確保。あ、そっちのリーダーは陽炎ちゃんね。何かあったらすぐに無線で知らせて。では、解散!」

 

 陽炎は旗艦経験があり、砲雷撃戦もこの中では一番うまい。いざという時には独自に指揮を取り、初霜の混乱を最小限に抑えてくれるはず。初霜は対空防御が得意であり、泊地に安全かつ迅速に戻れる航路を知っているはずであり、上陸班が孤立したとしても最短時間で増援を呼べるであろう。卯月は初霜と同じく対空が得意であるが、初霜より練度が高く生存率はこちらの方がたかい。なにより、その直観力は島の調査に必要だ。阿武隈自身は危険な状況に身を曝すなら自分から行くという信条だったので、哨戒班はあり得なかった。

 

 阿武隈の人選に異を唱える駆逐艦がおらず、了解! と陽炎と初霜は勢いよく航行を開始した。その後ろ姿を見送りつつ、阿武隈も指示を飛ばす。

 

「じゃあ、行くわよ卯月ちゃん」

「了解ぴょん!」

 

 阿武隈の凛々しい進軍命令に、卯月はしっかりと答える。警戒を厳として、慎重に島に近づいて行く。不意に不快感を催すようなにおいが鼻孔を刺激し始める。

 

「うえ~。臭いぴょん」

『こちら阿武隈、哨戒班何か異常はあった?』

『敵は見当たりません。ただ、島からだと思うんですけど、風下に行くにつれて臭いがどんどんきつくなってます。』

『こっちも同じ、体の調子が悪くなったら速やかに島から離れて』

『了解』

 

 阿武隈 アイディア

 

 硫黄の臭いではなかった。阿武隈にはこの島が生物を拒絶しているような感じがした。人間にとって無害である可能性は低いだろう。卯月はすでに鼻をつまんでいる。阿武隈達艦娘にとっても早く帰りたいと思わせるような臭いだった。

 

 調査依頼が来たのも、あたし達がこういった有毒ガスにある程度耐性があるからなのかな、と阿武隈は無駄な予測を立てつつも、島に近づいて行く。

 

島は見たとおりの穏やかな傾斜が海中にもある程度伸びており、どの方位からも驚くほど簡単に上陸が可能であった。

 

 阿武隈 聞き耳

 卯月  聞き耳

 

二人の艤装から出る音と白波が崩れる音以外に、音は拾えなかった。

 

「これからあたし達は島の中央部に向かいます。 卯月ちゃんはそれまでに適当に道中に落ちている石を二三個拾っていって」

 

周囲の安全を確保した後、阿武隈と卯月は中央部に向かって歩きはじめる。ところどころに大小さまざまな亀裂が入っているが、まるで舗装されたように緩い傾斜が続き、岩が積み重なったり、溶岩によってできたようには到底思えなかった。明らかに人の手が加えられている。 

 

『こちら阿武隈、現在中央部まで約200メートル。異常無し』

『こちら陽炎、了解です。今の所臭いの元にもる身体への影響はまだ出ていません』

『了解、哨戒班は引き続き島周辺の安全確保をお願い』

 

 依然として深海棲艦からの接触は無い。陸上班からは人為的な島である証拠が見つかっているのに、哨戒班からは深海棲艦からの関与を否定されている。人類側がこの島をつくるわけがないし、これは一個人でできる所業ではない。そもそも、だとしたら私達がここにいるはずがない。これじゃあまるでどちら側にも属さない第三勢力がいることに……

 

  阿武隈 聞き耳

  卯月  聞き耳

 

 馬鹿な、阿武隈は自分の思考を一蹴した。深海棲艦との戦闘が始まる前までどれほど人類が地上の探索をおこなったと思っている。確認できてないと言うことは、つまりそういうこと……

 

  轟きが聞こえた。その轟きによって、暗澹たる阿武隈の思考は全て中断させられた。小さな音の振動だった。それなのに、耳についた時からもう離れない、体を魂を恐怖に陥れる、見てはいけない深淵を覗き込んだような、おぞましい声だった。

 

「今の、聞こえた?」

「うぇ? どうかしたぴょん?」

 

 先ほどの轟きは卯月には聞こえなかったらしい。阿武隈の質問に首を追傾げるだけだった。その反応を見て、彼女も気のせいだと思い込もうとしたが、それでも背筋の寒い感覚は消えてくれない。轟きが聞こえたのは今正しく彼女たちが目指している方角からだった。

 

 阿武隈 アイディア

 

 聞いたことがない声だったが、いるとすれば深海棲艦しかない。やはり、深海棲艦はいたんだ。阿武隈の思考がそれ以外の解はあり得ない、認めないと言った風に一本化される。

 

 

「あ、ちょ、ちょっと阿武隈さん?!」

 

 

 十分な警戒でのゆっくりとした足取りから一転、最低限のクリアリングのみで足早に進み始めた阿武隈に、卯月は素で困惑した。その姿は恐怖を振り払うかのような雑な動きで、早歩きというよりもむしろ全力疾走だった。体格が小さい卯月がその速さについていけず、結局追いついたのは島の頂上であった。

 

「一体、どうしたんだぴょん?」

 

 背を向ける阿武隈に少し強い口調で卯月は問いかけるが、その視線が阿武隈の足元に行くと表情が驚愕に変わった。

 

 そこには地下へと続く階段があった。相も変わらず階段の材質も島の物と同じで真っ黒で、段差を見つけるのも一苦労な感じだ。そして黑が光を吸収して中は完全な暗闇と化している。

 

「卯月ちゃん、ごめんね。いきなり走り出しちゃって」

 

 階段の存在に驚いている卯月に阿武隈は先ほどの非を詫びた。卯月が顔を上げると、困ったような顔で、右手で後頭部を掻く阿武隈がいる。自分でもさっきまで少し正常な判断力を失っていたことを、阿武隈は自覚していた。いつもの阿武隈に戻ったことに安堵しつつも、卯月は漠然とした不安に包まれていた。

 

「阿武隈さん。さっき何か聞こえたぴょん?」

「……そう、何かの轟きみたいなのが」

「……ここから?」

「ここから」

 

 い、行きたくないぴょん……!

 

 近い席でのホラーパニック映画のワンシーンが、卯月の中で反響する。卯月はこう言った暗闇で閉所が大の苦手なのである。恐怖症をほぼ患っているといってもいい。地下遺跡の暗闇は今もぱっくりと開いており、卯月はこの中に入ったら最後、死んでしまうのではないかという妄想さえ抱いてしまう。

 

「今から、ここに入「うーちゃんはそのぉ……、こ、ここからなら遠くまで見渡せるから、み、見張りは任せるぴょん!」」

 

 

 卯月 説得

 

 

阿武隈の命令にかぶせるように卯月はまくしたてる。阿武隈はそれに少し困惑したが、卯月の恐怖症張りの怯え方に、それを思い出す。軽巡の命令に逆らう等本来なら拳骨ものだが、阿武隈はその性格ゆえ、軽く頭を抱えた後卯月の言い分にも一理あるか、と見張りの命を言い渡し、彼女は懐中電灯片手に地下へともぐりこんで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 そして卯月は、あの時自分はどうしてあの恐怖を押し殺せなかったのだと、死ぬほど後悔することになった。

 

 

 

 

 

 

 

  地下に入ると、それまで感じていた不快な臭いが一段と強くなった。

 

  カツン、カツンと大理石をヒールで叩くような心地よい音を響かせながら、右手に連装砲、左手に懐中電灯を装備した阿武隈は歩を進めていく。

 

 阿武隈 アイディア

 

 階段の段差、通路の幅、天井までの高さを考えると、どうも人間が使うのには大きすぎるような気がした。一回り二回りほど大きくなれば、丁度いい大きさになるかもしれない。

 

 そんな感想を阿武隈は抱きつつ、阿武隈は慎重に歩を進める。相も変わらず壁面は真っ黒で、壁伝いに進まなければ、壁にぶつかりそうな程、壁は暗闇に溶け込んでいた。

 

 卯月程とは言えど、それなりに怖がりな阿武隈にとって、この暗闇は恐怖心を駆り立てるには十分すぎた。その湧き出てくる恐怖心と格闘していると、不意に右手から壁の感触が無くなった。立ち止まり、懐中電灯であたりを見渡すと、どうやら部屋のようなところにでたらしい。意外にもこの地解析の構造はとても単純だった。

 

 阿武隈 目星 

 

 阿武隈はそこから動かずに懐中電灯で辺りを照らすと、自分のちょうど真正面の壁に、何か妙な紋様が見えることが分かった。彼女は発煙筒を取り出し火をつけて放り投げる。発煙筒は放物線を描き、こつんと地面を跳ね、その勢いのまま転がっていく。やがて壁面の奇妙な紋様を幽玄のように浮かび上がらせた。

 

 『う、うづきちゃん、聞こえる~?』

 

 頼りない光源、誂え向きな儀式陣に、何処かのホラー映画の中に迷い込んでしまったかのような錯覚に阿武隈は陥り、恐怖の度合いが最高潮に達した。思わず阿武隈は無線に手が伸びたが、帰ってきたのは雑音のみ。ですよねー、と言った風に阿武隈は乾いた笑いを浮かべた。

 

 いずれにせよ、だれがこの島を作ったのかは皆目見当がつかないが、深海棲艦の痕跡は何一つ発見できず、深海棲艦によるものではないとわかっただけ、ここに来た収穫はあるだろう。その証拠として、阿武隈はこの儀式陣を

写真に収めようと考えた。

 

 阿武隈 写真術

 

 発煙筒と懐中電灯だけの光源、そして暗闇に溶け込む壁によってピントが合わせられず、中々うまく撮れない。しかし阿武隈は壁面の罅がこの儀式陣を真っ二つにするように入れられているのが分かった。

 

 青葉さんならこんなの朝飯前なんだろうな、と自分の写真技術のなさに少し絶望しつつも、儀式陣の周りに文字や石碑みたいな、何かもっと手ごろな証拠がないかと陣に近づいて行く。

 

 阿武隈 アイディア

 

 陣の目の前についた阿武隈。壁に書かれた陣はもう効力を発揮しないだろう、と直観的に思った。

 

 壁に書かれた情報を見逃さないように懐中電灯をゆっくりと左に向け、何もなければ次は右に、そのまま上に持って行って、

 

 

 

 

    視界が黒に染められた。

 

 

 

 

 バケツ一杯分の水を顔にかけられたような、しかしその水は一滴たりとも顔から離れない。声を出す間もなく顔を覆い尽くされる。生暖かいスライムのような、無数のナメクジが顔中を舐めまわす感触が彼女を襲う。

 

「……!……!」

 

 「これ」が何なのか、どこから来たのか、そんな冷静な思考の余裕はなかった。気道を完全にふさがれた阿武隈はその感触の気色悪さに半狂乱に成りながらも、このアメーバのような物体を剥がそうと両手の指を突きたてる。だが、刺さらない。「それ」は変幻自在に形を変え、指からかかる力をあざ笑うかのようにいなし続ける。何度やっても指は内部に侵入できず、手の平には空気しかつかめない。

 視界0の中、阿武隈は足をもつれさせて無様に転ぶ。だがそれでも彼女に取りついた「それ」は離れない。彼女が懸命にそれを剥ごうとしているのをしり目に、「それ」は彼女の顔を探るようにひとしきり撫でまわした後、空気を求めて本能的に開いた口と鼻から、一切の容赦なく、鉄砲水のように体内になだれ込んだ。

 

 外側だけでなく、内側からも翻弄されるようになった阿武隈の手は力がまともに入らなくなり、その苦しみから自然と胸をかきむしり始める。悲鳴は上げているのだろうが、声帯を震わせられないこの状況では、それはいつまでも無音であった。喉、食道、胃を蹂躙されたことから、体が自然と防衛機構である嘔吐反射を繰り返し行うが、それすらも彼女を蝕む原因の一つに成り下がっていた。

 

 繰り返されるえずき、次第に高まる腹部の圧迫感に白目をむきつつある彼女の目には、とっくに涙が浮かんでいた。今の彼女にできることは、自身の無力を呪いつつ、痛みに身をよじりながら早く終わるのを願うことだけだった。「それ」が阿武隈の中に全て入るまで、実時間で一分強。それの行動は非常に手際が良かったと言えるだろう。しかし彼女にとって、それは余りに長すぎる一分だった。

 

 「それ」に顔中をずっと覆われ、口内を蹂躙されたにもかかわらず、粘液の味や臭いは全くと言っていい程しなかった。何かに襲われたという事実がただの幻覚ではないか、視界が無くなったのも懐中電灯が切れたせいで、それで自分が勝手にパニックに陥っただけではないのか。そう思うほど、痕跡はなかった。

 

 

 

 

 

 

   妊婦のように膨れ上がった腹部を除けば。

 

 

 

 

 いつ始まっていつごろ終わったのか、それは阿武隈にとってどうでもいいことだった。彼女は散り散りになった艦娘の冷静な部分の思考をかき集めて、何があったのかを必死に理解しようとしていた。しかし、仰向けになりながら浅い呼吸を繰り返す彼女の表情は、先ほど起きたことを理解したくないという表情だった。艦の理性は真実の探求を叫び、娘の本能はそれを拒否する。

 

 阿武隈 SAN値チェック(1D6/1D20)

 

 理性と本能がせめぎ合う中で、お構いなしに阿武隈の腹の中でそれがわずかに身じろぎをするたび、彼女は一歩一歩真実に向かって歩かされる。その姿は断頭台に上がらされる死刑囚のようで、

 

「あ……」

 

阿武隈は唐突に、すべてを理解した、してしまった。自分が真っ黒な何かに襲われ、「それ」が今、自分の腹の中でうごめいている事実を、受け止めてしまった。

 

 

 そしてこの世の出来事とは思えない体験をしてしまった彼女の精神は、この事実に耐えられなかった。

 

 

 

  再び、地下遺跡が震えた。

 

 

 常人ではありえない声量の悲鳴が地下中に響き渡る。その悲鳴は第三者でも何かすさまじく凄惨なこと起こったのだと理解するに十分なほどの感情の色を含ませていた。悲鳴を上げつつも阿武隈は必死に足を、手を動かして卯月の、仲間の下へ這い寄ろうとする。仲間がどうにかしてくれるなどという希望は持ち合わせていない。事実を拒絶し、卯月の名を必死に叫ぶ彼女はただ、何でもいいから安心感が欲しかった。一番手っ取り早かったのが、仲間の下に行くという、ただそれだけだった。そこに第一水雷戦隊旗艦の誇りや矜持は最早無く、可愛げがありながらも凛々しかった顔つきは涙に濡れ、一人のか弱い少女が恐怖から逃れようとする姿だけがあった。

 

 

 何の前触れもなくブツンと、何か線が切れるような音が阿武隈の体を硬直させた。それは本来なら、彼女の悲鳴にかき消されるほど小さいものだった。その音は彼女自身を伝っていったからこそ、彼女の鼓膜を震わせた。自然と彼女の視線が腹部へと移動する。光源が無い今、腹部を視認するのは難しいかったが、視界の中で腹部が大きく波打ったように彼女は見えた。

 

 

  悲鳴が、絶叫に変わる。阿武隈の見立ては正しく、腹部で「それ」が激しくうごめいているのを触覚と痛覚が正確に伝える。内臓が、血管が、筋肉が、脂肪が、腹部にあるあらゆるものが「それ」によって蹂躙されていた。そしてその感触は、体全体へと広がっていく。

 

 絶叫はやがて、ショックによる痙攣に上書きされ、口からあふれ出る物が何なのか、阿武隈はわからなくなっていた。最早彼女に外界の情報を受け取る余裕さえも無く、ここで初めて、彼女は死に直面していることに気が付いた。呼吸も困難になり、視界が端から黑に染められていく。

 

  テケリ・リ テケリ・リ 

 

 最期に、奇怪なあざけるような叫び声が彼女の中でこだました。

 

 




卯月 目星

 阿武隈が地下遺跡へと潜って行った後、卯月は自分の宣言通り周囲の見張りを行っていた。暫く空を見渡した後、何気なく海面を見渡すと、ちょうど視界の中央に陽炎と初霜が見えた。二人の様子は正しく紹介中といった感じであり、どことなく警戒が緩んでいる様子だった。

『あ~、あ~こちら上陸班。哨戒班へ。さぼりは感心しないっぴょん』
『あ~卯月? あんた今どこにいるのよ。というか阿武隈さんは?』
『阿武隈さんは今地下の調査を行っているぴょん。うーちゃんはその見張りぴょん』
『……あんたいつか長良型の皆さんから痛い目見るわよ。いい加減その怖がり何とかしなさいよ』

どうせ卯月が駄々をこねたのだろうと、陽炎は容易に思いついた。

『失礼ぴょん。これはれっきとした役割分担ぴょん』
『はいはいそうですね。それで、島に上陸した感想は?』

 陽炎に島の感想を聞かれた卯月は退屈しのぎに島の特徴を話していく。といっても、目につくものは足元にある地下遺跡意外に特にないので、話すこと自体少なかったが。この時卯月は阿武隈はちょっと行ってすぐに帰ってくるものだと思い込んでいた。近い席の収穫は何も無し。それで帰投する、そういう流れになるだろうと決めつけていた。

 卯月 聞き耳(悲鳴補正有)
 陽炎 聞き耳

 卯月が丁度島の特徴を話し終えたその時だった。陽炎の耳に、無線から甲高い悲鳴がかすかに入ってきた。

『そんなわけで、うーちゃんはこの島と深海棲艦とは何の関係もな『卯月、何か悲鳴が聞こえたわ。周囲の状況を報告して』ぴょん?!』

 だが卯月は自分の話に夢中で悲鳴が聞こえなかったらしく、話をやめようとしない。そんな卯月の様子に業を煮やした陽炎が話を遮る。卯月は無線を下ろし、あたりを見渡すが、悲鳴を上げる存在は屋外に見当たるわけがない。考えられるものとしたら……、と卯月はその可能性に足がすくみ上る。自分の我儘はもしかしたら、とんでもない事態を引き起こしたのかもしれない。

『卯月。さっきのことば信じるわ。今から私達もそっちに行くからその場で待機してなさい』
『で、でも……うーちゃんのせいで』
『いいからその場を動くな!』

 卯月 聞き耳(絶叫補正有)
 陽炎 聞き耳(絶叫補正若干有)
 初霜 聞き耳

 陽炎は卯月を冷静にさせようと無線越しに一喝する。仲間の一人がパニックになった時、パニックの波を吹き飛ばすように単純な命令を下せば、精神安定の応急処置として有効であることを陽炎は経験上知っていた。命令あるまで即時待機! と陽炎は卯月に更なる命令を重ねようとした。彼女はこれが越権行為であることを十分理解していたが、同時に今の卯月の単独行動がどれほどの危険をはらんでいるかも十全に理解していた。

 しかしそれは、阿武隈の絶叫という名の救援要請に上書きされる。卯月、陽炎はおろか、無線から若干離れている初霜でさえもその絶叫ははっきりと聞こえた。今更絶叫の主が誰かなどは議論の無駄だろう。

 卯月はその絶叫を聞いた瞬間、閉所や暗所への恐怖心は露と消えた。無線を放り出し、一目散に地下へと続く階段を下りていく。
 
 無線から硬質な音が聞こえてきたことで、陽炎は卯月が無線を手放したことを察知した。本人も無駄であろうことはわかっているが、無線越しに生死を呼びかける。

 返答はなかった。

「クソッ! 初霜!」
「周囲に敵影無し! 行きましょう!」

哨戒班は紹介任務を中断、上陸班の救援に向かった。

 卯月 幸運 

 幸運にも、卯月は階段で足を滑らせるようなことは無かった。懐中電灯を付け、一本道の通路をただひたすらに走る。

「阿武隈さん……! 阿武隈さん……!」

 光を飲み込むような真っ黒な壁に平衡感覚が失われ、何度も壁と衝突する。それでも卯月は阿武隈のことで頭が一杯だった。

 やがて、悪臭の中に、血の匂いが混ざりはじめる。

「あ……ああ……!」


 足を止めた。懐中電灯の光の先に何か見えた。


  手、だった。不規則に痙攣している。腕だ、血だまりだ、黄色い髪だ。









  阿武隈さんだ







 「ああ……そんな……」

 卯月は急におぼつかなくなった足で阿武隈の下に駆け寄る。阿武隈の体を揺らす。反応はない。完全に脱力している。震える手で阿武隈の顔を照らす。その瞳は力なく開かれ、すでに瞳孔に光は無かった。


 卯月 SAN値チェック(1/1D6)

 防げた事態だった。自分があの時、命令に従っていれば防げた事態だった。恐怖なんて押し殺せばよかった。自分の勝手な行動が、自分の恩師の甘さに付け込んだ言動が、この事態を引き起こした。




 全て自分の、責任だ。




 自分の侵した罪を目の当たりにして、しかし償いの手段は思い浮かばず、途方にくれた卯月は自然と涙をこぼし始める。

 陽炎たちが駆け付けた時、卯月は阿武隈を抱きかかえたまま、己の罪を懺悔するように大声で泣き、誰とも知らずに謝り続けていた。







ホントに蛇足


「SANチェックは二人とも成功かぁ。うーん……じゃあ陽炎は精神分析でロールしてね。お、成功かぁ。陽炎はその凄惨な現場を目の当たりにし、息を飲んだが、持ち前の練度と精神力ですぐさま立て直し、卯月を叱咤する。陽炎の呼びかけに卯月の精神は何とか小康状態まで持ち直した。えーと、じゃあ初霜はどうしてる?」
「えっとその……、とりあえず散乱した懐中電灯や発煙筒を回収しようと……」
「あ、そっか、私もすっかり忘れてたよ。じゃあ陽炎、卯月は二人がかりで阿武隈を担ぎ上げ、初霜は散乱した装備品を手早く回収し、三人は可能な限り迅速に鎮守府に「北上さあぁぁん?」帰還した、っと。阿武隈っち北方遠征お疲れ~」
「おつかれ~じゃないですよもう! さっきから話聞いてれば、あたし殺されてるじゃないですかぁあ!」
「いやぁ、クトゥルフ神話の本読んでたらこう、シナリオ自分も書いてみたくなってみたわけよ。まあこれは実験作みたいな感じだけど」
「話を書き始めた理由なんてどうでもいいの! なんであたしがひどい目見なきゃいけないの!?」
「……阿武隈っちってさ、改二になってからなんていうか、おどおどした態度が無くなっちゃったよね。目つきも少し凛々しくなったって言うか。正直かっこよくなったと私は思うよ?」
「……で?」
「改装前の怯えた姿も加虐心掻き立てられたけど、ぶっちゃけそっちになってからの方がやばいね」
「……何この人……」
「因みに提督もすごく頷いてたよ」
「んもおおおお! 提督まであたしのこと虐めるんですけどぉ! 陽炎ちゃん助けてぇ!」
「いや私達はその、完全に巻き込まれただけなので」
「こんなのうーちゃんのキャラじゃないぴょん。まずうーちゃんお化け怖くないしぃ。ぷっぷくぷ~」
「でも流石に、阿武隈さんの扱いがひどいとは思いますよ」
「う~ん。これでもマイルドにした方だよ? プロット段階だと異種姦モノだったし、しかもボテ腹」
「「「(一同唖然)」」」
「(声にならない叫び)も、もうこの話はおわり! 解散、解散!」
「何勘違いしてるんだ」
「ひょ?」
「まだ私のシナリオは半分も終了してないぜ!」
「(石化)」
「「「(続きがあるのか……)(ちょっと気になる)」」」


後書き


はい、というわけで一発ネタでした。ひどい目にあったアブゥが見れて僕は満足です。





嘘です。やりすぎました。北上の書いたシナリオという体を取ったのは、あくまで架空うという形にしたかったからです。創作とはいえ、これをあったことにすると自分にSANチェック入ります。なので北上の阿武隈いじめが度を超えた感じになってしまってます。あと駆逐艦の人選も北上が暇してた三人を適当にさらったという感じな理由にで切きたのもあります。北上さんすいません。要望あるならダイスロールの部分消してあったことにします。ぶっちゃけいらない子ですしお寿司。


続き、は形は何となくきまってます。アブゥは生きています。それで鎮守府の病院に入院するのですが、ショゴスが体を蝕み、精神攻撃を仕掛けてきます(基本)。それをみんなに訴えるのですが、みんな狂人の戯言として聞く耳持ちません。そうこうしているうちに云々……これあかんやつや

アイホートでもよかったんですが、阿武隈がひどいにあいますが、その後鎮守府で子供摘出→アイホート激オコ→鎮守府夏の発狂祭り→鎮守府消滅の可能性が高いので却下しました。あとボテ腹は嫌いです。


艦これ×クトゥルフは知ってる限りでは支部で見かけたことはあります。一回でいいから艦娘でクトゥルフTRPGやってみたいですね。








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