東方忘拒録   作:鴉間龍之

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前の一話と二話を少し修正しました。


3話「興味津々の魔法使い」

 季節は初夏の頃。

 すっかり桜は緑一色に染まり、寒さもすっかり身を潜めた。

 

 ――そんな幻想郷では、早朝から天狗の号外新聞が空から降り注いでいた。

 見出しは共通してこうだ。

 

 『真夜中に謎の光! 正体は一体!?』

 

 まあ、内容は総じてくだらないものだったのだが。

 発光する新しい妖怪だという新聞もあれば、龍神様の悪戯だと語るモノもある。どれもこれも根も葉もない憶測だ。

 そんな幻想郷中に広がった光の正体を知るのは、霊夢と紫のみだった。

 

「…………はぁ」

 

 当の目撃者である巫女は、神社の縁側で紙くず同然にも思える新聞を眺めていた。

 漏れたため息は、何もつまらない文章を読んで呆れただけではない。

 

「『謎』だの『正体不明』だの書いてるけど……いるのよね。ここ(・・)に」

 

 吐息と共に新聞を背後に投げた。それは放物線を描き、背後の客間に引かれた布団に着地する。

 その布団では、渦中の少年が静かに寝息を立てていた。

 昨晩、出現してすぐに眠ってしまった彼を紫が博麗神社まで移送し、布団(紫用の奴)に寝かせたのだ。

 当然、「何で神社に寝かせなきゃなんないのよ」と抗議が起こった。しかし、必死に懇願され、最後には霊夢が折れた。というわけで、昨日の夜中から現在まで少年は眠りこけている。

 ……しかし、不思議だ。

 この少年、本当に生きているのかどうかすら不安になることがある。

 睡眠状態であるというのに寝返りはおろか身じろぎ一つしない。加えて呼吸が小さいのか、布団の動きが見られない。眺めていると、白布を除けた遺体と勘違いしそうになる。

 そんな呼吸法からして、おおよそただの人間とは思えない。

 

「本当、何者なのかしら」

 

 そう呟くも、答える声はない。

 

「おーい!」

 

 呼ぶ声ならあったが。

 顔を上げて空を見れば、そこにはこちらにゆっくりと飛来して来る黒い物があった。近付いてくるにつれて輪郭がはっきりとし、それが箒にまたがった少女であるとわかった。

 少女の顔が確認できるより前から、霊夢は眉をひそめた。つばの広いとんがり帽を被った独特のシルエットで、誰なのか判別できたからだ。

 

「何よ、魔理沙」

「おいおい、友人が遊びに来たってのにその態度は無いだろ」

「友人じゃなくて腐れ縁の間違いじゃないの?」

 

 地面に着地した少女こと魔理沙は、霊夢の辛辣な語調に苦笑する。

 霧雨魔理沙。たっぷりとフリルがあしらわれた白と黒のエプロンドレスを着た、レトロな魔女スタイルの金髪少女だ。奔放で勝気、そのくせ大の負けず嫌いでちょっとひねくれた面もある。

 霊夢とは、友人のようなそうでもないような不思議な関係である。

 

「で、何の用件? 今は日向ぼっこで手いっぱいなんだけど」

「それなら安心だ。ちょっと話したい事……が……」

 

 活気づいた声が尻すぼみになっていく。その理由は、言うまでもなく霊夢の向こう側にいる少年だ。

 霊夢もまた、(ふすま)を閉めておけばよかったと後悔した。ひねくれ者の魔理沙の事だ。彼氏か何かと思って(はや)し立てるに違いない。最悪、天狗に密告なんて事も………

 

「おいおい霊夢。お前に人を看病するような甲斐甲斐しさがあったか?」

「どつき回すわよアンタ」

 

 別方向に勘違いしてくれて助かった、と内心では安心した。まあ、行き倒れを捨て置くような冷血に見られていたということは別件で腹が立つのだが。

 

「で、誰だぜそいつ」

「あー……昨日、神社の石段で倒れてたの。多分、外来人じゃない?」

 

 桜の下の墓を蹴ったら閃光と共に出てきた――なんて話を信じる訳もない。とりあえずは外来人――幻想郷の外から来た人間――ということにしておいた。

 魔理沙も納得したようで、「へぇ」と相槌を打つ。

 

「ま、その外来人(仮)(かっこかり)は置いといて、だ。昨日の光を見たか?」

「新聞でやたらとやってる奴でしょ? それがどうしたのよ?」

「実は、だ。私はその光源を知ってるんだ!」

 

 げ。という反応をおくびにも出さなかった自分を褒めたい。

 魔理沙は訊いてもいないのに話し始める。

 

「昨日、なんか寝れなくてな。研究も小休止入れてたし、夜の空中散歩と繰り出したんだよ。そんで、いつもより高い場所をテキトーに移動してたら…………背後からすげぇ閃光が来たんだ。目がチカチカしたけど後ろを振り返ったら、そこにはなんと!」

「なんと?」

「この神社があったんだぜ!」

 

 ご丁寧に決めポーズまでして博麗神社を指差した。

 これは参った。

 魔法使いらしく好奇心と探求心が底抜けに強い彼女のことだ。恐らく次の言葉は――

 

「と、いうことでこの山を探索しようぜ!」

 

 一語一句(たが)わず予想通りだった。

 再三に言うが、参った。

 霊夢には、魔理沙を引き止める理由がないのだ。別に山を散策されようとやましい物もないから無問題なのだが。

 ――そうは問屋(ゆかり)(ゆる)さない。

 

「好奇心が猫を殺すという言葉を知らないのかしら?」

 

 スキマ妖怪のご登場だ。因みにだが、紫の丁寧口調は、ある種の危険信号だ。嫌いな者、もしくは何かしらの警告の際によく用いられる。

 まさかの出現に、魔理沙も驚いているようだ。だが、すぐにいつもの怖いもの知らずな笑みを浮かべる。

 

「おいおい、大ボスが出るにゃ早いんじゃないか?」

「いち早く釘を刺しに来ましたの。そうでもしないと、どこまでも首を突っ込んで来そうですもの」

 

 成程、それは正解だ。

 好奇心旺盛な魔理沙は、興味のあるモノに対しては異常な程の行動力を発揮する。恐らく、今日一日はどんな手を使ってでも真相を追うだろう。

 桜の辺りに人除けや迷いの結界を張ったところで魔理沙相手では焼け石に水だ。となれば、この件への深入りは禁物(タブー)であると思い知らせる方が得策だろう。

 どうやら、紫はよほどあの墓を見られたくないらしい。

 

「本当に釘で打ち付けられでもしない限り、私は行くぜ?」

「そうですわね。なので――」

 

 口元を扇子で隠し、獲物を威圧するように目を細めた。

 

「実力行使、と言えばわかりますわね?」

 

 言葉の意を理解し、魔理沙は首肯した。続けて箒にまたがる。

 ふたりは同時に浮き上がり、神社から少し離れた空中で向き合う。

 

「正々堂々、弾幕ごっこだぜ!」

「えぇ。負けたら引き下がっていただきますわ」

「逆もまた然りだけどな!」

 

 幻想郷の空で、異例(イレギュラー)な組み合わせの勝負が始まる。

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