シリアスかシリアルかは読んでからのお楽しみ!
ご都合主義
あくまでがっこうぐらし!の世界観
この二点に注意してご覧下さい。
思い返すと、親友である美紀には微かにその兆候があったと圭は確信する。普段一緒にいたお陰で、日常会話でもそういうときがあったなと覚えてたからだ。
美紀は優等生だ。学校の成績も良いし品行方正、たまに正論を突き付けることでのトラブルもあったが、概ね模範的な女子高生であっただろう。
趣味といえば読書。それも日本純文学に留まらず、大衆文学やラノベ、はては洋書の有名文学にも手を伸ばすほどだ。かなりの雑食である。それで最近気付いたが、美紀の一番のお気に入りは悲劇だと思う。圭からすると、何故好きなのかは未だに分からないけれど。
そう思うのはもちろん理由がある。美紀はよく、文学作品の名言を口にするのだ。おそらくだが、読後の余韻に浸り、気に入った台詞を言いたくなってしまうのだろう。
そして、美紀が言うその台詞を調べてみると、なんともまぁ悲劇の作品が多かった。シェイクスピアが大のお気に入り。これは絶対だと思う。
さて、ここまでの分析から、最初に述べた兆候というのがなんとなく分かったことだろう。有名文学の名言を口走るという点に特に注目してほしい。
──そう、美紀は思春期の子供が陥るあの病、所謂『中二病』の気があったのだ。
この病の症例としては「くっ、静まれ俺の右腕!」とか、「今宵は月が綺麗だな……」とか、「組織の連中め! もうここが分かったのか⁉︎」などの痛いことを平気で口に出せるようになってしまうことに始まり、存在しない何か信じたり、自分は神から選ばれた超常的なアレなんだと一人窓際でほくそ笑んだりと、まぁ色々ある。現代では誰もが一度は通る道だ。きっと満たされすぎたサブカルチャーが一番の原因だろう。
早とちりしてほしくないので補足を加えると、別に美紀はそこまで酷くはない。明からさまに痛い台詞は言わないし、いきなりカッコイイポーズ(笑)をかましたりすることもない。あくまで微笑ましいレベルの話だ。
それに圭自身、美紀につられて台詞を真似したりする。美紀に対抗するべく、シェイクスピアの有名作品を読んだことだってある。まぁ若気の至りというやつなのだ。やってるときは意外と楽しかったりするから仕方がない。
そんなふうに遊びに興じたり、もちろん学生の本分である勉学にも精を出し、面白おかしく、それでいて一若人としての当たり前の日常を過ごしていた。
それが終わった日は唐突に訪れた。
そして、美紀の様子が一層おかしくなり始めたのはその日が原因だと思う。
「すごーい、それ読むの?」
「翻訳版は読んだから読めるかなって……」
「ふーん」
その日は授業が早くに終わったから、美紀と一緒にショッピングモールで買い物をしていた。
洋書が売られているコーナーで、圭には読もうとも思わない外国語で書かれた本を美紀が手に取っていたから興味本位で聞いていた。
そんなありふれた日常の1ページのはずだった。
『わー⁉︎』
『キャー⁉︎』
「……今の、何?」
突如聞こえたのは悲鳴。それも一つ二つではない。連鎖的に木霊にし、聞いているだけで恐怖を覚えるほどの雰囲気を醸し出していた。
圭と美紀はすぐに窓に駆け寄り、外の様子を覗き見た。
「……えっ?」
「……なに、これ?」
広がっていたのは見たことのない惨状で、言葉で表現するのなら
血だらけの人間がそこら中に転がっている。しかもその重傷者と思われるそれらの人が、無事な人間を襲っている。何が起こっているのか意味が分からない。
目の前の光景が理解出来なかった。
ただ一つ分かったのは、自分たちが物凄く危機的状況にいるということだけだ。
「圭!」
美紀に手を引かれモール内を移動する。何をどうしていいのかなど分からないけど、とにかく安全を確保するために彷徨った。
エレベーターには血だらけの人間がいて使えなかった。モール内には徘徊するナニカが満ち始め、下手に移動することも出来なくなった。追い詰められてた自分たちは試着室の中で、息を潜めて隠れるしかなくなった。
「なにあれ、なにあれ、なにあれ……」
「……美紀、落ち着いて」
「圭……、ごめん、ちょっとびっくりしちゃって」
辺りが暗くなった頃、美紀がブツブツと何かを口に出すようになった。気持ちは分かる。自分だって気を抜けば叫びそうになる。でも冷静さを失ったら取り返しが付かない。
突如、試着室の外から光が当たった。
「「っ⁉︎」」
「おい、誰かいるのか?」
カーテンを開けたそこには、ちゃんと生きている人がいた。
束の間の平穏が訪れた。
モールの最上階で生き残っていた人で集まって、生き残るために生活することになったのだ。
いたのは十一人と少ないけど、みんなで協力して生活拠点を広げていくことが目的。男性は下の階への遠征、女性は家事と役割分担して日々を過ごすことになった。
その中で美紀だけが、遠征に混ざっていた。
「美紀、遠征は行かなくてもいいじゃない?」
「うん、そうかもしれない。……でも、手に入れなきゃいけないものがあったから」
美紀はそう言っていた。確かこの前何を持ってきたのか聞いたときは、花火と布だった気がする。他にも色々と手に入れているようだが、一体何をしているのかさっぱりである。
圭は美紀が夜な夜な何かしていることは知っていた。
「私なら大丈夫、私なら大丈夫、私なら大丈夫……」
暗示するように頻繁にそう呟いていた。もしかしたら、もう既に、美紀は壊れてしまったのかもしれない。
それを確信したのは、自分たち以外の人がいなくなったあの日だ。
「きゃああああ⁉︎」
「「っ⁉︎」」
夜寝てるとき、突然悲鳴が聞こえた。
「圭!」
「うん!」
慌てて立ち上がり、声の方へと走る。
着いたその先では、炎が壁として存在していた。その中では元人間だったナニカが火に包まれのたうち回っている。
「……燃えてる……」
呆然と呟いた圭は、涙を流す。あぁ、これで終わりなのかと。酷い終わりだと。
圭は美紀を見る。そこには驚いてはいるけど、何処か冷静で、そして壊れてしまった美紀がいた。
「こっち!」
美紀に手を引かれ、飲食を蓄えている避難所に駆け込む。外から迫るナニカを防いでその日は寝た。
寝る前に最後に見た美紀の瞳は、さっき見た炎のように紅く燃えているようだった。
あの日からしばらく経ったが、圭と美紀は変わらず避難所に篭って暮らしていた。
美紀は日がな一日作業していた。瓶の中に油や灯油やらを入れて布で栓をする。それを幾つも作成したり、糸で布を縫っていたりもした。……縫っているものはよく分からないけど、瓶の方、あれはもしかしなくても武器、というより兵器ではないだろうか?
「……ねぇ、美紀。その瓶ってもしかして火炎瓶?」
「違います。これは私の魔法を行使する際に必要な道具です」
…………………………………は?
「え? 今何て?」
「だから道具です」
「そっちじゃなくてその前は?」
「私の魔法を行使する際に必要な道具って言いましたよ?」
不思議そうな顔で圭を見る美紀は、別段変わった様子はない。けれど、圭には分かってしまった。
美紀はもう、壊れてしまったんだと。
平時であれば熱がないか疑っただろう。何の設定か面白半分で問うただろう。何処から電波を受信したのかと、その頭を叩いたかもしれない。
だけどもう手遅れ。何故なら、壊れてしまったんだと理解できたから。
でも、多分だけど、今のこの状況では美紀の方が正しいのかもしれない。
だって、先に壊れてしまったのは世界の方だ。壊れてしまった世界と辻褄を合わせるのなら、自分自身が壊れてしまえばいい。
(だからといって、私までそうなるわけにはいかないよね……)
美紀は親友だ。
だから、圭は美紀を守る。
「美紀」
「何ですか?」
「ずっと、……ずっと一緒だよ」
「……当たり前です。それよりも圭、暇なら手伝ってくれませんか?」
「うん、いいよ」
そして、運命の日。
「……出来ました!」
美紀は手にしていたものをバッと広げる。圭は改めてそれを見て、それが何なのかが分かった。
「美紀、私が付けてあげよっか?」
「はい、お願いします」
基本色はほんのりと紅い黒。縁は黄色に彩られたそれを、美紀は肩に掛けるように着込んだ。圭は美紀の前で、首元に付けられた紐を結んで装着完了。
ついでとばかりに、美紀は既に作成していた三角帽子を被った。
「どうです?」
「うん、よく似合ってるよ!」
圭の言葉に機嫌を良くした美紀は装着したマントをバッと翻す。
此処に、一人の魔法使いが誕生した。
……マントon制服だけど。ガーターベルト魔法使いだけど。まぁ、美紀が良いならいいやと思う。
「それではこの場にもう用はありません。脱出しましょう」
「でもどうする? 行く宛がないよ?」
「それは決めてます。学校に行きましょう」
会話しながら、圭と美紀は脱出するための準備を進める。作った兵器を圭は特製ポーチに、美紀はマントの裏側に。マジックテープまで使って改良されたマントには、瓶や何やらを数多く収入可能なのだ。
「学校? なんで?」
「……これは私の推測なので、一意見として聞いてください。私たちの学校は今思うと設備が整いすぎています。発電機に浄水器、屋上には庭園など、普通の学校とは思えないほどの環境です。まるで、非常事態にはあそこに立て籠もれるように設計されたみたいです」
「……え?」
美紀の推測を聞いて、圭は思わず固まってしまう。だって、それではおかしいではないか。美紀が言いたいことはつまり……。
「この現状、元々想定されていたのかもしれませんね」
「……ど、どうして?」
「流石に私にもそこまでは分かりません。ですが、何処かに黒幕が潜んでいる可能性は高いでしょう。自然現象でこんなこと、起こるわけがないのですから」
「……す、すごいね、美紀。よくそんなの考え付くね」
「ふふっ、もっと褒めてもいいんですよ! ……まぁ、よくある設定ですからね」
──設定。今美紀は設定と言った。圭はその言葉を聞いて、美紀がこうなった理由を理解する。
美紀は現実逃避はしていないが、今の現状を認めてはいないのだ。こんな壊れてしまった世界を、心の奥底では否定している。
でもそのまま自分でいたらこの世界で生きていけない。生き残れない。だから元の自分を壊して設定の中に入った。一種の自己防衛なのだろう。
「圭、ここを脱出する際に関してお願いがあります」
「ん、何?」
「……できれば、圭はその道具を使わないでください」
「だめ、それは約束できない」
「ですが!」
「美紀一人に辛いことはさせない。これは私の中での決定事項。だからだめ」
「……分かりました」
美紀の自己防衛にはきっと二つの意義がある。
一つは壊れた世界と辻褄を合わせるため。
もう一つは、人の形をしたナニカを殺しても、大丈夫な自分に変わるため。
「はぁ!」
美紀は布の栓を火種に瓶を投げる。砕けたと同時に火が広がり、範囲内にいたナニカ共を焼き尽くす。
あの仲間たちがいなくなった日に、ナニカには火が効果的だと美紀は確信していたのだ。しかもあれらは音に反応を示しやすい。一つ燃やせばまるで蛾のように集まるナニカに、この戦法は特に効果的だった。
焼け爛れる姿を直視したくないが我儘言っている余裕はない。注意深く観察しながら、火の影響の少ない道を通って脱出に向かっていく。
下の階へ降りていく毎にナニカの数は増えていくが、此方の道具はいわば対複数に優れている。加えて物理攻撃でないため近付く必要がない。美紀と圭は順調に出口へと進んで行った。
「──」
『えっ……?』
二階に辿り着いたとき、二人は顔を見合わせて立ち止まった。
「今……」
「声が……」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。今聞こえたのは確実に人間の声。しかも、しっかりと意思を持った生存者の声。
「圭! 何処から!」
「多分下!」
慎重に、かつ迅速に駆け抜け、出口に繋がる一階のホールを上から覗き込む。
「あっ! あそこだよくるみちゃん、りーさん!」
「ホントだ……」
「私たち以外の生存者……」
いたのは三人の女子学生。それも制服から判断するに。美紀たちと同じ高校の生徒だ。自分たち以外の生存者を始めて見たのか、それなりに動揺している。
しかし、美紀と圭に固まっている時間はなかった。
「下に降りるには非常階段かエスカレーターだけど……」
「階段は無理! 今更奥の階段に行くのは危な過ぎる!」
「でも! エスカレーターはあんなことになってるよ!」
焦りから声が大きくなってしまう。その原因は一階に降りるためのエスカレーターの惨状にあった。
エスカレーターの下の方で、ナニカがドミノ倒しにあったかのように密集しているのだ。いや、あれはもう積み重なっていると表現してもいいかもしれない。
当然、あんなところに突っ込めばお陀仏だということは間違いない。だからといって、燃やそうにも数が多過ぎて求める効果が見込めない。
二階にもある程度の数がたむろしているために、ジッとしていることも不可能だ。今も必死に牽制を繰り返しながら、エスカレーター近くまで移動しているのだ。
万事休す……か。圭は一瞬そう思ってしまう。
だが、美紀は違った。
「──仕方ありません。早くも私の魔法を使うときが来たようですね」
「えっ……?」
圭が美紀を見ると、美紀は丁度懐から球体状に丸まった布を取り出した。
あれはただの布ではない。そんな安っぽいものを、美紀はこの状況で手にするわけがない。あれは布であるものを包んでいるのだ。
「美紀! こんな場所でそれは危険過ぎるよ!」
「でも、あれをなんとかするにはこれしかありません! 私を信じてください!」
中身を知っている圭は思わず制止の声を掛けるが、美紀が言っていることもまた事実。
ここで動かなければ終わりなのだ。それなら、最後の最後まで可能性を捨てずに抗い続ける。それが美紀の決断なのだ。
「……分かった。私を美紀を信じるよ」
「ありがとう、圭。……そこの人達! すぐに離れてください!」
美紀の言葉に下の三人は何かを言い返そうとするが、美紀の強い態度を見て退避を開始した。これで二次災害は防げるだろう。
つまり、やっちゃっていいということだ。
「──黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅の
「ちょっ⁉︎ この状況、このタイミングで詠唱はヤバイよ美紀!」
「──覚醒の刻来たれり」
「聞いてない⁉︎」
圭は焦燥を全無視し、美紀は詠唱を続ける。
「──
「長い! 長い長い長い⁉︎」
「──踊れ! 踊れ! 踊れ! 我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶもの無き崩壊なり!」
「ぎゃー⁉︎ こっち来るこっち来るこっち来る⁉︎」
粗方排除した二階にも、徐々に姿が見え始める。ついでにエスカレーターから登ろうとする奴らまでいる始末。
「美紀! 早く!」
「──万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!」
遂に詠唱が終わったようだ。
美紀は先程取り出した球と瓶を振りかぶる。
「喰らえ! これが私の魔法! これこそが最強の爆裂魔法!」
そして、ナニカの密集した階下に投げた。
「──『エクスプロージョン』‼︎」
瓶と球が放物線を描いて落ちていく。
先に瓶が砕けて炎が広がる。だが、やはりそれだけでは全ての障害を排除出来ない。
でも、あの球があれば。
あの、花火から得た火薬たっぷりの球があれば──!
「伏せて!」
圭はカッコつけていた美紀を引っ張り倒す。でないと、どうなるか分からない。
球が炎に触れた。
──その瞬間、閃光が爆音と共に爆ぜた。
「んーーーっっ!」
「いやぁあああ⁉︎」
耳を塞ぎ、地べたに這いつくばりながら衝撃に対処する。
爆裂は一瞬だったが、それよりも遥かに長い体感時間だと感じた。
音が静まり、風が止んだと判断した美紀と圭は直ぐさま階下の状況を確認した。
結果は一目瞭然。
密集していたナニカ爆裂四散し、辺りには夥しいほどの肉片と紅い液体が飛び散っていた。
「──あは、あはは、あははははははは! やれる、やればできるじゃん!」
狂ったように美紀は哄笑を上げる。
その瞳から、一筋の涙を流しながら。
突如巻き込まれた、人の形をしたナニカが徘徊する壊れた世界。
目の前に広がる終末の惨状。
そして、隣で笑う壊れた親友。
圭はふと、思い付いた台詞を口に出す。
奇しくも、それは美紀と同じタイミングであった。
『世の中の関節は外れてしまった。
ああ、なんと呪われた因果か、
それを直すために生れついたとは!』
もう後戻りはできない。例え動く屍だとしても殺し過ぎた。
ならば選択肢は進むしかない。
黒幕が誰であろうと。どんな企みが裏で蠢いているとしても。そんなものは関係ない。
齎すのはただ一つ。
──この壊れた世界に爆焔を!
爆裂ウィザードみーくん爆☆誕!
『このすば』を見た『がっこうぐらし!』メンバー
くるみちゃん「みき、壊れたか……」
りーさん「美紀さん……」
めぐねえ「美紀さん、強く生きてね……」
圭「ごめんね、美紀。気付いてあげられなくて……」
ゆきちゃん「わぁ! みーくんかっこいい!」
みーくん「いや! これ私じゃないですからね!」
『がっこうぐらし!』を見た『このすば』メンバー
カズマ「めぐみんがまともだ」
アクア「めぐみんがまともだわ」
ダクネス「めぐみんがまともだな」
めぐみん「よしその喧嘩買おうじゃないか」
三人『うるさい中二病』
めぐみん「ぶっ殺」