進化や食事のためではない。満腹や種族のためでもない。
施設で育てられた人工アラガミと、造られた偏食意志が、果てしない悲劇を繰り返す。
無機物を消費するアラガミは、合理的な痛みしかない道具へと変貌した。
アラガミは変わった。
禁忌登録されたアラガミは、禁忌登録されたアラガミを喰らい、禁忌登録された人間を殺す。
体内の偏食因子が彼らの嗜好を変更し、管理する。
オラクル細胞の制御、知能の制御、感情の制御、食事場の制御。
全ては監視され、統制されている。
アラガミは変わった。
時代は進化から変化へと移行し、ただの捕食による人類絶滅は回避された。
そしてアラガミの制御は、終末論の再来をも可能にした。
アラガミは変わった。
主に二種類に。支部長かネコカオスのせいで。
アラガミは変わった(いい意味で)
『グゥォォォォオオオオオオッ!!!!』
「はばたけ!」
怒りの雄叫びと共に、放射された雷が柱となって降り注ぐ。
その間をネコカオスは縫い走り、二体の鳥を上空に留めると、帝王の御元に辿りつく。
「そぉいっ!!」
そして、首を狩り上げるサマーソルト。足は鋭い甲殻類の足に変化しており、帝王の喉元を切り裂いて行く。同時に待機させた鳥が急降下し、一本の針となって目に突き刺さる。鮮血が迸って帝王の目を隠すと、次いでリンドウが斬りかかった。
無防備な背後からの攻撃。だが、必死に伸ばされた、強固なマントによって斬撃を弾かれる。それでも負けじと彼がトリガーを引くと、インパルスエッジと呼ばれる弾丸がマントの間をすり抜け、帝王の背中に命中した。
『ゴォォォアアアアアアア!!!』
「マズッ…!」
更なる怒りに、周囲に小さな雷球を纏わせる。それらを振りまわすように乱回転させると、逃げ遅れたリンドウに命中し、彼の体表に雷撃が走り抜ける。
苦悶の声を漏らすが、歯を食いしばって耐えきったリンドウは足早に離脱した。
だが、帝王は追い打ちの突進を繰り出してくる。
「下がっていろ」
腕を巨大な螳螂の刃に変えたカオスが、リンドウの前に立ちふさがる。
突進の巨躯が届く前に、その足を刻んで動くを鈍らせる。直後に分離させた鹿を開放し、横へ衝撃を加えることでピターを吹き飛ばして転倒させた。
運のいい事に、先ほどの衝撃でピターのマントは結合崩壊したらしい。
「噂に聞いてた動物園か? こりゃ、後で確保決定だな」
「させぬよ。まあ、生きて返しはするつもりだがにゃ」
復帰したリンドウが、笑いながら転倒した帝王へ走る。
「楽しみにさせて貰う…さ!!」
言葉と共に、水平に帝王の頭部を破壊した。
「はじめてたべたー」
「もう、口汚し過ぎじゃん。ほら…」
「はむ……ありがと!」
言葉だけなら微笑ましい光景に見えるが、彼女達は続けざまに刃を振るっている。
一瞬の交差でシオの口元を拭ったオレーシャは、地面を蹴って空中に跳ぶ。その瞬間、突進してきた女王同士が彼女の下で衝突し、互いの衝撃でいがみ合っていた。
「隙ありッ!」
そのまま、重力のままにバスターブレードを突き立てる。
相も変わらず正確にコアを貫き、新たに二つの屍が出来上がった。
「もぐっと。バレット頂き!」
片方のバスターを旧型のスナイパーに変え、かつての同僚だったアーサーを意識してアラガミバレットを放った。氷柱が銃口より多数出現し、その効果をしったオレーシャは自分のオラクルを浪費してまで氷柱を作り続ける。
円を描くように満遍なく氷柱を女王にぶつけると、滞空を終えて着地する。攻撃が終わった頃には動き出していたシオがオレーシャ同様二本のショートブレードを振りかぶると、ひるんでいた一体の口の中に刃をねじ込んだ。
「ええい!!」
そして、銃口からバレットを吐きだす。
これもネコカオスから教えて貰った特殊バレット。バランスブレイカーと名高い【内臓破壊弾】である。元より外部であったとしても、連続発射されるレーザーで体を穴だらけにされるというのに、本当に内部から破壊された女王は、体内で跳ねまわるレーザーにコアを貫かれて沈黙する。
これで、短時間に3体が倒された。
彼女等の奮闘もあって、残りはたったの5体だ。
「やっぱ便利だねー。オラクル細胞って、考えた通りの形になってくれる」
「でも、ニンゲンとちがうよね。オレーシャ、こうかいしてないか?」
「へーきへーき。あたし自身はとにかく、リディア姉とかは悲しむ感もしんないけどさ。でも、いまの方がシオちゃんとかも居て楽しいさー」
「そっか! じゃあ、はやくかたづけような!」
視線で返事を返すと、二人は跳ねのけあってその場を離脱した。そして、1秒前まで彼女達のいた場所には、残りの女王が創りだした氷柱が通過する。
不意打ちを外した女王は、次の初動をとる前にシオに顔面を切り裂かれる。冷たい女性の表情は、人に見合わぬ獣の口から痛みに訴える声を吐きだした。
そして、大きく仰け反ってしまったがゆえに、腹から貫いたシオの一撃によってコアを破壊される。こうして、プリティヴィ・マータの残りは5体!
「いい調子! あと5体は競争ね!」
「よーし、やるぞー!!」
無邪気な声が、戦場に響き渡る。
「…っふう。助かった」
「礼には及ばん。こちらも食料を頂けた」
閉鎖された教会の中には、沈黙したディアウス・ピターが倒れていた。
雷撃を操るマントと、帝王の動きを統制していた頭部が結合崩壊を起こしてからは、彼らの一方的な蹂躙劇。ノンストップの大立ち回りが繰り広げられ、ついに倒すにいたった。ということだ。
「改めて、自己紹介をしよう。吾輩はネコアルク・カオス。自由に呼んでくれて構わん」
「じゃあネコちゃん、だな。……ああ、こっちの方が好ましいみたいだ」
言って、その場に腰を下ろすリンドウ。
「こっちは雨宮リンドウ。この壁の向こうにいた第一部隊の隊長やってる。あいつら、無事に―――」
『ゥ、ゴォォォォォォォォォォォォォッ!!』
「―――なあっ!!?」
アナグラへ戻れたか。と言おうとして、突如起き上がった帝王に接近される。
反射的に抵抗した腕が、帝王に神機を向け―――
腕ごと、神機を持っていかれた。
「ガ、ァァァァァアアアアァァァァアアァァアア!!!!?」
『ゴォォアアアアアアア!!』
腕を無くしたリンドウを蹴り飛ばすと、帝王は教会から逃げ出す。
吹き飛ばされたリンドウは壁に激突し、ずるりと崩れ落ちた。
「オイ!」
「カッ、ハ……あ――――」
吐血し、出血。
人間なら、このまま失血死亡してしまう。しかも彼はゴッドイーター。腕輪を無くしていいるため、制御できないオラクル細胞が最適化する為に、彼の内側から暴れ出している。
その激痛に苦しむリンドウ。ネコカオスは駆け寄ると、切断面に【混沌の塊】を塗りたくる。かつての遠野志貴へ、月の姫が処方したように、指向性のない命の塊は、リンドウの怪我を押さえこみ、その中に含まれているオラクルで暴走も抑え込んだ。
「これは、急がにゃいと…!」
彼を抱えると、ネコカオスは外に居たメンバーと合流しに行った。
激戦は、思わぬ形で原作通りになってしまったのである。
あれから、苦しむリンドウを抱えてネコカオスたちは鎮魂の廃寺にある一室に訪れた。
シオが触れていると、特異点なのか、原作通り何らかの力が働いているのかは知らないが、彼のオラクル細胞の抑制が可能だという事が判明しており、現在進行形でシオが定期的に細胞を提供することになった。
そして、驚く事に、リンドウには既にあの【アラガミの腕】が生えてきていた。
人型と言う、ある種完成された形を遺伝子から読み取ったのか、それともオラクル細胞が生命活動のために彼を生存させようとしているのかは分からない。
ただはっきりしているのは、リンドウが生きているということだけ。
「……容体は安定してるみたい。シオちゃんの細胞投与が功を成してるけど、ウロッちが言うにはすごく不安定なんだって」
『【彼の中には】【とても珍しい進化機構があるの】【それを最適化する為に】【彼は少しの間】【眠り続けるでしょうね】【きっと】【シオの細胞はそれを安定させる為に適しているんだわ】』
「つまり、どちらにせよ半アラガミ化、純アラガミ化は免れない、と言うコトか…」
『【ヒトの形をとっていること自体】【奇跡に近いわ】【後は】【彼の精神次第】【耐えきれるのも】【彼が今まで必死に生きてきたから】【限りない生への執着が】【彼を生かしているの】』
ウロッちの腕にあるボードに、次々に文字が映し出されていく。
句読点で区切られた言葉の羅列を読むと、ネコカオスは深いため息を吐いた。
「やれやれ。聞こえているかはしらにゃいが、第一部隊は誰ひとり欠けていないぞ。シオと、オレーシャと、ウロッちが導いてくれたからにゃ」
寝苦しそうに息を荒げているリンドウに、語りかけるようにネコカオスは言葉を紡いだ。
だが、それを聞いたリンドウは、心なしか楽になったようにも思える。
無意識下に言葉を理解し、安心したのかもしれない。
『【最初は】【攻撃してきたけど】【しっかり言葉を見せれば】【私の触手に乗って】【離脱してくれたわ】【でも】【取り分は私が12ね】』
「ちゃっかりしてるなー。あたしは3でいいよ。そこまで使わなかったしさ」
「シオは5!おなかすいたぞ」
そして、彼女等はいつも通りの空気に戻って、今回倒した女王の残骸の取り分を決める。
その様子を微笑ましく見ていたネコカオスは、
「それもそうか。では、リンドウの回復を祈って―――」
「「「『【イタダキマス】』」」」
合掌を掛けて、全員で食事に取り掛かった。
…………俺は、どうなったんだ?
「――、―――!!」
ったく、誰だよ。
もしかして、アリサか?サクヤかもしれないな。
「―――!―――、―――」
「――――……――、―――!」
分かったよ。起きればいいんだろ。
―――起きれば
◇
「う、ううん……」
目を開けると、見えたのは病室ではなく、廃屋の様な天井。
しんしんと雪が降っている光景があるというコトは、ここは鎮魂の廃寺辺りらしい。
しかし、どうしてこんなところに俺は……
「やっと起きたか。腕の調子はどうだ?」
「…っと、ネコちゃんか。腕は……まあ、大丈夫だ。動く――動く!?」
次に目に入ったのは、一緒に戦ってくれたネコちゃん。
だが、彼の台詞でバッと喰われた筈の右腕を見ると――
「なんだ…こりゃあ……?」
羽や、鱗。棘に覆われた上に鎖が絡みついた異形の腕。
ヒトのものとは到底思えないそれに、自然と嫌悪感がにじみ出る。
その様子を見ていたネコちゃんが、仕方ないように首を振った。
「受け入れろ。それも貴様の一部だ」
「つっても、なあ……ッ!」
「絶対安静の重傷だ。肋骨と脛が折れていたぞ」
力を入れて起き上がろうとしたが、ネコちゃんの言う通り、ピクリとも動かなかった。
寧ろ、痛みが走るほどに。
「おおー。おきたんだな」
「ん? あんたは…」
「シオはシオだぞ! どーもだな!」
「あらら、起きてたんだ。アルトリア達は無事に戻ったから、安心してていいよ」
白い少女に、ぺったんこのムネした「それ、あたしのコンプレックス!!」――見たことのない元気そうな嬢ちゃん。
最初はここの近くに住んでいる、支部に保護できない住民かと思ったが、シオと言う名の少女の髪の毛があまりに変だった。まるで、子供が落書きで書いた人みたいに、髪の毛が固まっていたのだから。
「不思議? ま、あたしら全員アラガミだからね」
「アラガミ!? ッヅア……!」
「こらこら、取り乱さないの」
なんか、こっちの方が年上の筈なのに、手のかかる子供みたいな対応をされた。
くそ、治ったら見返してやる。
そう思ったら、黒い棒が伸びてきて、その中からホワイトボードが出てきた。
これも、コイツらのオラクル細胞の発展か――? と思ったら、
『【しばらく安静】【私は主治医担当だけど】【そう怖がらないで】』
「ウロヴォロスまで……なんでもありみたいだな。ここは」
「ふむ。まあなんだ。歓迎しよう」
「ははっ、心強いんだかなんだか……」
ネコちゃんもそうだが、ここにはよっぽど個性の強いメンバーしかいないらしい。
◇
それからしばらく。詳しく話を聞くと、この状態は安定しているが、ふとした拍子に完全アラガミ化が進行してしまうかもしれないとか。
アラガミ化の対処については、やたらと出歩かないコト。無機物などは真似して食べないコト。ただしコアは定期的に食べるコト。シオちゃんからの細胞投与を欠かさないコト。ウロッちに従うコトらしい。
「ウロヴォロスのウロッちに、人型アラガミのシオ、元ゴッドイーター現アラガミのオレーシャ、正体不明の生物ネコアルク・カオスね……夢みたいな話だ」
「だが、現実には違いなかろう。ほれ、マイルド7」
「お、気が利いてるねぇ」
……ップハー!上手い。
かなり上等なタバコがあるみたいで、とりあえ一服はつけるみたいだ。とはいっても、すぐにオラクル細胞がタバコそのものを喰うみたいで、その制御の練習だとも言われたが。
「って、アラガミ化は抑えてあるんじゃないのか?」
「今の状態は、【半アラガミ化】が最も似合う表現だろうにゃ。どちらにせよ、人間の枠からは片足離れているぞ」
「あーらら……」
そっか、もう人間やめちまってんだな。
そう思うと、少し感慨深くもなった。
新しいタバコを受け取ると、再び煙を吸う。
『【暫くは】【療養生活よ】【文句は言わせないから】【素直に受け入れなさい】』
「へいへーい」
再びウロヴォロスが文字を見せてきたが、いまはそっちよりタバコで気を紛らわせたい。
そう思って吐き出した煙は、高く昇って行った。
タバコの煙は、アラガミになったわたしにはそこまで嫌悪感は無い。
それよりも、硝煙の臭いの方がずっと染みついているから、この程度じゃ何も感じないって言った方が正しいのかも。
リンドウさんがタバコを吸っている姿は、人間を離れたことで寂しいようにも見えた。
事実、そうなんだろうな。とは思っているけども。
「これからが正念場だから。頑張って乗り越えてね、リンドウさん」
あたしはそこまで人間辞めた事に対して特別な感情は無い。アリサとしばらく会えなさそうなのは、ちょっと寂しい、それだけだし。
とりあえず、あたしはこの前の失態分、たくさんのアラガミを狩りに行こうと思った。
「ああ、ありがとな」
……聞こえてたみたい。
ああーーー!! 恥ずかしぃぃぃぃぃ!!!