アリサ、覚醒
<だが、今回のターゲットは…「あれ」と同型の個体だぞ。……大丈夫か?>
「ヴァジュラ種……」
そこにアラガミが居るかのように、憎しみではなく…必ず倒すと、誓う様に歯を軋ませる。
アリサは、あの益荒男との戦いから完全に実力を取り戻した。
思えば、あのスサノオは此方を鍛えているかのようだった。後に、アルトリアが供述したことだ。
事実、アリサもそう感じていた。
益荒男との戦闘中、こちらが動けない時には此方に攻撃をせず、必ず戦闘可能の方にのみ、益荒男は攻撃を仕掛けていた。そして、作戦会議や未熟な作戦会議中、益荒男はその間に割って入ろうとせず、作戦を立て終えるまで必ず不動だった。
その、アラガミらしくない、教官の様な姿勢に、アリサは諭されたのだ。
―――復讐など、お門違いのものであった。怨むモノなど、この世には最早何も無い、と。
「アリサ? どうしたんだよ?」
「いえ、少し想いを馳せていただけです。問題ありませんよ、コウタ」
アリサは、こうしてコミュニケーションをとれるようになるまで、アルトリアやアナグラの皆と触れあってきた。彼女の周りには、既に日の光を閉ざすクローゼットの扉は何処にもない。
「なら、行きましょう。この旧市街地には、こうしてヴァジュラ種が集まる可能性が高くなったんだから、早めに叩いておかないとね」
「サクヤ、指揮は任せます。私はそれに従いましょう」
「こっちもだよ!」
「同じく、指示をどうぞ」
「そうね…二人一組で各個散開。コウタは私と来て頂戴、アリサとアルトリアは教会の方をお願い。戦闘を始めたら、余裕があればスモークで連絡。これでいいわね?」
「「「了解!」」」
スタート地点から離れ、コウタとサクヤは左へ、アリサとアルトリアは右へと分かれた。
こうして、彼女達の作戦……
―――ドキドキ☆トラウマ?虎と馬にして馬刺しにしてやんよ!……虎どうしよう?作戦!!
が始まったのであった………
「という感じにしてみたのだが、どうかね?」
「オッケー。アリサで遊ぶっていうんだったら…まずはその幻想をぶち殺す!!」
「そげぶぅううううう!?」
溜め無しバスターの二つを顔にめり込ませて、ネコカオスは地面に陥没する。
現在この二人は、廃ビルの頂上からゴッドイーターを見張っているのだった。
「ゲェッホゲホッ! ……おふざけは此処までにして、最近堕天種が増えてきているようだにゃ。吾輩の知らないところで、一体にゃにが起こっているのだ…?」
「堕天種、か……そう言えば、あの白いヴァジュラ種も始めてみたもんね。えっと、確か……」
「【プリテヴィ・マータ】。インド神話の古き地母神に由来するアラガミだ」
「それそれ! ……でも、確認されたばかりみたいで、あたしたちが戦った時はすっごく弱かったよねぇ」
あの時の戦い、オレーシャは女王のオラクル結合の弱さを思い出した。
「アラガミはまず、形から入る種族だ。姿形を整えると、今度は内部の細胞構成を変化させ、独特の形をとって行く。そして、その生命活動の際に捕食したモノの情報を読み取りながら、な」
「あたしの場合は元が人間の意識。だからベースを作るのも、ゴッドイーターだったから武器を作るのも早かったんだよね?」
「アラガミの進化の根源は、その情報の取捨選択に在る。それが、人間が生きる上での最も必要なものであり、それが、人類に最も大きな脅威をもたらしているのだな……なんとも、皮肉の詰まったものだ。アラガミと言うモノは」
その言葉を聞いたオレーシャは、今や吹っ切れたアリサの姿に照らし合わせる。
そんなオレーシャの内心を気遣ってか、カオスもまた沈黙を保っていた。
そして、目下の戦いは激化していたのであった……
廃れた教会の中。
ガラスの破片と瓦礫の積もった場所を、一匹のヴァジュラが吟味するようにくらいついている。そんなアラガミの後ろには―――ゴッドイーターが潜んでいた。
「ヴァジュラ、発見しました」
「アリサ、ここは私が―――」
「いいえ」
先行しようとしたアルトリアを、アリサが手で押しとどめる。
「ここは、私が先方を。アルトリアは外に出て集合のスモークをお願いします」
「ですが……」
「問題ありません。私は……迷いは、振り切りましたから」
そう言ったアリサの目に、陰りなど何処にもなかった。
蒼穹の如き澄んだ瞳を覗きこむと、翡翠の瞳は理解したように閉じられる。
「わかりました」
アルトリアはゆっくり目を開け、己の信念を持ってアリサへ言った。
「ここは任せます。……ご武運を」
「はい」
その言葉を最後に、二人は一気に走り出す。
アリサは銃を構えると、ヴァジュラの方向に構えながら――――迷い無く、引き金を引いた。
弾きだされ、紫光の軌跡を描いてゆくエネルギー弾。
多段ヒットを目的に作られたバレットは、その指向性の赴くままに弾頭をバラけさせる。着敵の一瞬前、ヴァジュラの全身を覆う様に二発の弾は16発の弾へとその身を変え、命を抉り取る殺意の塊を吐きだした。
「ッガァァっ!? オォォォォォォォォッ!!!!」
「ック!」
着弾から一瞬のロスタイム。その間に後方へ向き直ったヴァジュラは、天敵であると同時に至上の獲物を見つけ、狩りの方向を上げる。
紫電をその身体に身に纏うと、帯電したマントから五つの雷球を発射した。
「甘い!」
しかし、手を抜かれていたとはいえ、益荒男との決戦を退けたアリサにその程度の攻撃は通用しない。
空に跳ぶ事でその雷球の範囲から逃れると、新たに装填した着弾後ヒットタイプのバレットをガトリングの様な砲身からばら撒く。何の規則性も見出せない大量の弾を前に、ヴァジュラは成す術も無いように思えた。
だが、ヴァジュラはその場に爪を立てると、帯電するマントから多量の雷を呼びだす。身体を覆っていた紫電が地面に降りると、叫びと共にヴァジュラを雷球がすっぽりと覆い隠された。
「まだまだぁ!」
剣形態に切り替え、アリサが放電硬直状態のヴァジュラへ一閃。前足を切りつけバランスを崩すと、下方からのインパルスエッジで後ろ足の腱を破壊する。再生が遅れ、ヴァジュラは転倒する。
好機。そう思って神機を変形させながら腹下へ潜りこむと、無防備な腹へ容赦ない斬撃が5発浴びせられた。返り血がアリサの顔に掛かるも、臆することなくインパルスエッジを叩き込む。
「ガァァァァァァァァッ!!」
「ッ!」
ここで、途端にヴァジュラが起き上がった。
跳ねるように地面を蹴ると、近くの壁に前足を置いて、ばねのようにしてアリサの方向へ突進する。その巨体が迫る間に、アリサは盾を展開しながら後ずさる。
だが―――
「ヅァッ…!!」
重い。
その巨体は、見た目に違わぬ重量感があり、アリサの身体を押しつぶそうとしていた。
華奢な体でも、彼女はゴッドイーター。しかし、その特別な身体能力でも、この推進力のかかった質量は押し返せない。
あわや大惨事と言ったところで―――
「ハァァァァアアアアアアッ!」
「動かないで!」
頼もしい声が聞こえてきた。
「アルトリアさん!」
「ゼェェェッ!!」
表情に希望が戻るアリサ。その期待に応えるように、まずはコウタとサクヤの放射バレットがヴァジュラの身体を焼き切った。痛みにより、仰け反ったところをアルトリアの持つエクスカリバーでその巨躯へ深い切り傷を残す。アルトリアはアリサに目くばせをすると、彼女は答えるように神機を構えた。
「「ハァッ!!」」
ド、ドン!! とインパルスエッジが火を噴く。重厚な音が響き渡ると同時に、ヴァジュラの頭には風穴が開けられていた。それでも、頭を失おうが生命活動に支障はないアラガミであるヴァジュラは、本能のまま、先ほどのように荒々しく右脚の爪を振りかぶる。
それでも、やはり届く事は無い。
「くらえっ!!」
「下がって!」
コウタの射撃がヴァジュラの腕に命中し、軌道を反らされた爪はアリサとアルトリアを切り裂くこと無く空を切る。そして、失敗に憤慨する暇も無く、サクヤの砲身から吐き出されたレーザーがヴァジュラを貫き、風穴の仲を正確にえぐって行った。
「ガ……ァぁ………アァァアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
「まだ立ち上がるですって!?」
「逃がしちゃ駄目だ! 追うよ!!」
ようやく崩れ落ちたかに思われたヴァジュラだったが、体中から血を流しながら、教会の外跳躍してった。ゴッドイーターはそれに気付いて後を追う。
死に体のヴァジュラが何故そちらに向かったのか……?
「カオス!」
「…案ずるな。これが、人間の可能性だ」
「一つに固まってると狙われるわ! 一旦散開して! …みんな、慎重にね」
「「「了解!」」」
今度は一人ひとりが捜索に走り出す。
アリサもその後を追うと、教会の出っ張った柱を発見する。周りを見渡せば、真ん中に喰い破られた穴のあるビルが建築してある広場、その柱に身を隠していると……
「パパ…ママ……」
廃ビルの中から、風下から獲物を狙う肉食動物のように身をかがめているヴァジュラが顔をのぞかせていた。
母を喰い、父を殺したにっくきアラガミ。だが、今彼女の胸に在るのは、ゴッドイーターの誇り。意を決し、その砲身をヴァジュラの方向へ狙いを定め―――
「はっ…はぁっ……はぁっ!………」
息が、つまる。
呼吸が乱れ、心音が激しくなる。カタカタと重心は震え、砲身の先が彷徨う様に揺れ動く。
「ァァァァァァァァァァッ!!!」
「ッ!!」
咆哮に、身が竦む………
「! アリサ!!」
(ダメ!)
アリサを見つけたアルトリアが、彼女を心配して走って来た。
(―――オオグルマ先生……)
だが、その頭上には飛びあがり、牙を剥いたヴァジュラが大口を開けていた。
(リディア姉……アーサー……ダニエラさん……ヘルマンさん……)
アルトリアとの復帰訓練。アラガミを狩るたびに、忘れていた事を思い出した。アルトリアと手を交わすたびに、大切な親友を思い出していた。
―――オレーシャ。
思い出したのは、目の前で解体された親友の惨き姿。
それを振り切り――――
「避けてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
引き金を、引いた。
「チェックメイト………か」
コツン、と白き王が討たれる。
チェスの王は、なすすべなく兵士に弾きだされた。
「オオグルマ君も、
それにしても―――」
彼は、白い袖口から、新たな黒い駒を置いた。
「ナイトは、今だ戻らず……か。こちらも、動く事が必要かもしれないな。
だが、それこそ必要はないのかもしれん。
盤は、その男の手によって弾き飛ばされた。
全ての駒が、その大きな力によって馬上から――――いや、
2個のポーンと、一つのキングだけが盤上に立ちながらに残っていた。
白の兵士と、黒の王が。
「そして
己は、剣であると―――