サボテン君の見た日常
私を求めて下さい。
私を欲してください。
そんな言葉を発し続けても決して人々には届かなかった。全てを与えるマナの化身は、ただ只管に己を差し出そうとし続ける。その純粋な力を悪も正義も関係なく、ただ扱われることに喜びを抱いて見出した者に力と試練を与え続けた。
そして、唐突に世界は終わる。
一つの物として収められた世界は、全ての時と物語を停止した。
力を持った、ただし人には真の意味で扱う事が出来ない魔導具「アーティファクト」へと歴史も人間も運命も、その全てを内包して他のアーティファクトの中に紛れ込む。そして運命づけられた人物の腕の中に抱かれ、扱える人間が現れるまで止まった運命の中で息を潜め続ける。
そうしている間にも、また、新たな世界が広がった。
息吹を取り戻した街は止まった時間を取り戻し、ただそこにあった過程と経験が消え去って事実と歴史のみが残される。そして、アーティファクトを解放した人間は、そのイメージのままに己の足を進ませた。
とある地で、強欲な商いウサギがいた。
―――彼は人間を最上の客と扱った。
とある地で、輝きを胸に宿した石がいた。
―――彼らは煌めきの光を取り戻した。
とある地で、呪いに縛られた竜人がいた。
―――彼は奈落にて運命を受け入れた。
とある地で、善悪の末に倒れた夢見人がいた。
―――彼らは夢見るままに命を落とした。
とある地で、とある地で、
また一つ、無垢なる心の持ち主によって冒険は紡がれていく。聞かされた話は葉っぱの日記に書きとめる。分からないことが多いけど、それでもぼくは話を聞きたいんです。彼が語り終えたときには、きっと。
「…やっぱり、暖かい」
「真珠の姉ちゃーん、そんな所で寝てると風邪引くぞー」
「仕方ないわね。コロナちゃん、毛布持って来てちょうだい」
「はーい」
あれ、またあの白い女の人が来ていたんだ。
ちょっと怖い黒色な時もあるけど、ふつーの時は白い人。なんだか話に聞いて倒せろみたい。でも、オセロってなんだろう? ここまで上がってくる事は無いから、ぼくは話を聞いて待ってるだけ。ほんのちょっぴり、待つのが楽しくなってきたとおもう。
でも、こうしているといつも騒がしくなる。ほら、ドアの近くがまたうるさくなってきた。いつものパターンってやつみたいです。
「―――バド、真珠はここにいるか!?」
「あ、瑠璃の兄ちゃん! …ってことは、真珠の姉ちゃんまた抜け出してきたのか」
「~~~ッ、いつもすまない。だが、今日はそんな事も言っていられないんだ。多少手荒くなるが、彼女を連れて行きたいんだが」
「あ、そう言えばアウラの曜日はディアナさんの休日だったっけ」
「その分俺達がサフォーの門を管理しなければならないのだが…」
やっぱり。いつもあの目つきの怖い人はしんじゅのお姫様を連れ戻してなんて言って、バドと一緒におはなしする。いつもよりせんめーに日記を書いてみたけど、最近字の書き方も覚えてきたような気がする。でも、コロナはきたない字だっていってたかな。よし、あのぼろい箒、こんどこそ捨てに行こう。
それからしばらくすると、二人はけっきょく帰って行きました。見送る女ペンギン、えっと、ヴァレリって名前のピンク色の翼が見えます。振ってるみたい。でも、ペンギンって鳥なのに、どうして羽根が生えてないんだろう。ともだちのププくんに聞いてみても、草人さんの体をムシャムシャするばかり。おーい、きこえてますか?
「なんだろ、師匠に何かあったのかな?」
「どうしたのバド、変に気に留めるわね」
「なんかさー、今日は千客万来じゃん? この調子だと七賢人まで訪ねてきちゃったりして……」
「ポキールさん位なら来るんじゃない? ああ、でもあの人意外と抜けてるトコもあるから、また何処かで詩を披露しようとしてからぶったりしてるかも」
「それに比べるとオールボンは真面目に奈落の管理やってたんだよなー。最近力の在り過ぎる死人が来たってあの墓の前のシャドールが愚痴ってたっけ」
「……? なんでバドが奈落の事情知ってるの」
「ふふんっ、このバド様は奈落で新しく加わった七人目の賢人と会って来たのさ! ……師匠の付添いだけど」
「呆れた。あんた、一度も一人で奈落に行ったことないみたいだけど、怖いの?」
「そ、そそそそそんなこと、ないって、うんないない!」
「バドちゃーん、コロナちゃーん、ご飯出来たからいらっしゃいな」
「ありがとうございますヴァレリさん。お腹のタマゴは―――」
シャドール。むかしむかしに話したことがあったけど、おもしろくなさそうだ、けけけ。って言われてどっかにいった。けけ。真似してみたけど何が面白かったんだろう。あれってずぅっと笑ってるのかな。
それにしてもいいにおい。ぼくは食べれないけど、こうして匂いを嗅ぐので十分です。時々あの人がくれる水はおいしいけど、ちょっとタマゴの殻くらいはほしいかも。ヴァレリのタマゴが割れたらもらおうかな。
「あ、お帰りなさい! ちょうどヴァレリさんがご飯作ってくれてますよ」
「師匠、今度は大剣使ってきたんですか! こんどあのぶわわぁ~! って分身する奴教えてくださいね!」
「こらバド、師匠は疲れてるみたいだからしっかり休んどかないと」
「………」
あ、帰ってきたんだ。いつもなら此処まであがってくるけど、けっこうお疲れムード? いつも以上にけものの匂いが濃いようです。お仲間も斬ってきたみたいだけど、モンスターならズバズバ斬ってください。ぼくも楽器ならならせるかもしれないけど、触ろうとしたら逃げられました。あの楽器の近くにいた白い火の玉は何だったんだろう。
そんなもーそーもくーそーもお終い。下の良い匂いがなくなって、トントンとあがってくる音が聞こえてきました。あの人の赤い帽子が目立ちます。
サボテンに話し続けるって、ずいぶんヒマなんだね君は。
そんな事もおもったけれど、このおはなしが意外とビックリ。信じたくないほら話も、いつのまにかこの家に集まって来たのですから。だから風を纏った竜のおじさん、大きすぎるので来ないで。ラビちゃん達が蹴散らされちゃったから。
そうしてかれはお話してくれた。今日はアイだなんだと四本足に二本のうでがあるギルバートって男の話。今は石から目覚めてセイレーンの子と一緒になったみたい。様子を見て待ちぼうけをくったギルバートはちょっぴり間抜けでした? いつかは見てみたいかもしれないけど、ところ構わないアイのお話はこちらから願い下げなのです。
「…………」
「…………」
そらはすっかり暗くなって、あの人はベッドに倒れこんで寝てしまいます。
今日も一日はへいわでした。まる。