歩いて歩いて歩きまわって、ついにやってきました。【嘆きの平原】。
場所的には鉄塔の森と同じく、神奈川県内で同経度に位置しておりまして、距離的には吾輩が知っているなかで、最もアナグラから遠い場所なのである。
どうせ、例のヴォロスさんもこっちを見てるワケですし、いっそ此処に出現する特務用のヴォロスさんとして散って貰おうかにゃーなんて下心もあるのだよ。
それに、ここの壁みたいな場所はアラガミの堆積物……つまりは排泄物で出来てて、アラガミ達も態々自分の排泄物を昇るようなマネはしないし、そこのビル群に身を隠せば将来安泰だと考えたのですよ。
……ん?どうしてアナグラに向かわないのか、だと……?
決まっているじゃにゃいか。吾輩がそこに行けば、確実にシオ諸共【分解】されて、実験動物にされる事は間違いなしだからな。
シオも他のアラガミとは違うから、ここの堆積物見ても「おおー?」ぐらいしか言ってないし、うむ。吾輩、実にいい場所を見つけたようだ。
さて、前置きはひとまずとして、我らが新たな居住区を探し―――!?
「このビル……企業名・【キサラギ】(株)……だと……!?」
「キサラギ…?」
「それは、変態どもの巣窟…! あ、“とっつき”に関してはお世話になりました」
「??」
まあるい吾輩の手を合わせ、合掌しておく。おそらく、ここは既に滅んだ後であろう。
流石のキサラギも、アラガミには勝てなかったか……
「これから此処を拠点とするが、異存はないか?」
「かおすがいるなら、どこでもいいよー?」
「それは嬉しい返答だにゃ」
オウフ、予想外の返答じゃにゃいですか。
吾輩、ついタバコを吹かせちまったよ。ああ~~~タバコがウマい。しっかし、どこから出てきてんだろ?このタバコ。
「さて、まずは建物探検といこうか。――――ついて、これるか?」
「かおすこそ、ついてこーい!」
フッ、ネタは充分に仕込めたようだ。問題ない。
そう言うワケで、キサラギ本社にてお世話になる事にしました。
奇跡的に、変な動力で動いていたエレベーターがあり、それを使ってビルの上階へれっつごー。チーン、と音が鳴り、エレベーターは到着した。
「読み通り、居住区はここか……おお、冷蔵庫にニボシが!」
「これ、たべてもいいか?」
「なぜ、玉ねぎの横にキャットフードが……そっちの玉ねぎにしときなさい」
「はーい」
居住区と思しき上階の妙に突出したフロア。下から見上げてもそこだけ異様に出っ張ってたので、何事かと思って来てみれば、大当たりだったというね。
なんだろ、このやるせない感じ。
ともかく、吾輩の666の因子を使って探索させたところ、この“びるでんぐ”には人っ子一人いない事が判明した。
生命反応もない所を見ると、キサラギ特有の変な生物も飼ってなかったらしい。
ただ、気になるのは……
「このレポートか……読むのがこわいぜ……」
怪しげな色調の日記。
一見、ただのキャンパスノートなのだが、所々付箋がついていたり、怪しげな汁が掛かっていて変色していたりと、SAN値直葬されそうなオーラを纏っている。
「とりあえず、読むしかないか……」
さて、この世界情勢がどうなっているかぐらい書かれているだろう。
そう思って、読めそうなページを開いてみた。
『●月×日
ロシアで核反応が検出され、その後すぐに集結すると言う意外なデータが送られてきた。どうやら、【アラガミ】とやらが世界を喰い始めたらしい。どうにも不思議な生物で、その起源はあの利用価値がどうしても見出せなかった、“あの”オラクル細胞が起源なんだとか。
我々が先に目を付けていたのだ。絶対に、新たな研究成果を上げねばなるまい。
ロマンと、ウチの最高の研究員のみが頼りだ』
開ける所は、丁度アラガミが世界を覆い尽くしたところから始まったようだ。
「ふむ、意外と普通。……次」
『■月●日』
「一気に飛んだよ、コレ」
『遂に、ここで研究していたオラクル細胞の塊が変化を起こした。
外見は丸い黒色の球なのだが、その実、一つ一つが命を有しているオラクル細胞が初めて意志を持って結晶化したもの。わが社が誇るハッカー・“ブルーバード”がフェンリルからハッキングしたデータによると、これはアラガミを構成する【コア】と呼ばれる部位何だとか。
どんなアラガミが生まれるのか、厳重な管理の下でこれを観察する事にした。
羽化が楽しみである』
「……………」
なぜ、そんな危険な生物を育てようと思ったのかが分からない。
というか、ハッキングしたんならその危険性も分かる筈じゃにゃいか……?
……悩んでいても仕方がない。次。
『ジェイソンの日』
「……何月だよ!」
『あれからというもの。回収班に持ってこさせた数々のオラクル細胞を投与し、コアは次第に生き物の様な形を取り始めた。
あれから社内はこのコアの話で持ちきりで、アラガミになったらどんな名前をつけようかなんて会議も行われた。……まあ、【ウロヴォロス】なんていう、最高の名前が――』
「おい……まさか……」
『――社長によって付けられた。流石社長、俺達には出来ない事を平然とやってのける。それでこそ、キサラギの社長だ。
……それはともかく、何度か不安定な形に変形したせいで社内の調整員が何度か襲われたが、そこはキサラギ社員。実に、変態的な動きでそれらを避けていた。うむ、やはり我々はこうでなくてはな。
聞こえているか?ウロヴォロス。お父さんはおまえを待っているからな~』
「おかしい方向になってきやがった…!」
後ろを見ると、吾輩たちを付けてきているウロヴォロスが触手を一本切り落とし、シオに喰わせていた。突っ込まんぞ、負けな気がするし。
ああ、それと、彼女は正確にシオという名前で決定した。
これまたフード少年の出番を奪ってしまったが……ドンマイ。
「もう、これアレだよね? ゴールしてもいいよね?」
『12月と1月の丁度中間……今来た!』
「真面目に書け!」
『……ゴホン、つい、嬉し過ぎてはしゃいでしまったが、ウロヴォロスが遂にアラガミとして完成した!
あの美しいフォルム、黒き混沌の様な魅力……何といっても、背部の様々な特徴が浮き出たカオス加減! それをとっても最上の美と言わざるを得ない。
嬉し過ぎて、ウロヴォロスに抱きついてしまった。後ろから「主任! ずるいです!」なんて聞こえてきたが、気にしない。この子は、私の子だ! イエス、マイだーたー!』
「……何コレ? 親バカ日記?」
次のページは、なにかびっしりとアラガミの素材名が書かれた後、次のページにびっしりと書かれていた。
……まあ、あれだ。あの「諸君、私は……」で始まるアレだ。
そして、最後らへんに、最後のページとして真っ赤な字で書かれていた。
『ああ、美しきかなウロッち。最近は、わが社の子供たちの遊び場として、わが社のマスコット的存在として人気が爆発的に上昇していっている。
だが、そんな平穏を崩そうとする憎きフェンリルの奴、たしか【シックザール】といったか。奴がこちらに、“危険性、そして、周囲の住民被害を抑える為にウロヴォロスのコアを寄越せ”と言ってきたのだ。ハッキングで、態々、肉声で……!
ブルーバードめ、だからこそ“人差し指だけでキーボード打つ癖を直せ”と言っておいたのに。そのせいで、こちらの機密情報が漏れてしまったはないか。
ともあれ、私達は総出でフェンリルの進行を止めるつもりだ。幸い、この本社の位置情報まではハッキングされていないから、わが社の最新兵器で攻めればなんとか撃退できるだろう。
そして、この日誌を読んだ者へ告ぐ。もし、わが社がフェンリルに敗れ、それでもウロッちが生き残っていたなら……“彼女”を、保護して欲しい。彼女は人は喰わず、無機物や、他の小さなアラガミだけを食べる草食系女子だ。
そして、願っていて欲しい』
「ゴクリ……」
なんか、いきなり壮大な事になって来ている。
息をのみ、燃えきったタバコをどこかへ放り投げ、ノートの裏表紙までめくった。
そこに書かれていたものとは…………
『私達の勇気が、ウロッちを救うと信じて! キサラギ研究開発部主任
「ソードマスターァァァァァァァァ!!!?」
私は、ポテトだ!!
続く。