聖なるかな another -森羅万象-   作:清流

1 / 7
永遠神剣 サードデスティネーションを久方ぶりにやったら、永遠神剣ものが書きたくなり、気づけば一晩で仕上げてしまいした。
カンピオーネの方を書くつもりだったのに、何をやっているんだろうか……。


第00話:蠱毒の世界

 皆は、『永遠神剣』というものを知っているだろうか?

 Xuseから発売されたPCゲーム『永遠のアセリア』から始まった人気シリーズで、その話の中核を担うのが『永遠神剣』である。

 この『永遠神剣』、神剣の名は伊達じゃなく、担い手となった者は常人とは比べものにならない超常の力を手に入れる。基本的に一位~十位(ちなみに《天位》《鞘》《地位》という別格の神剣も存在する)まで存在するのだが、それこそ、三位以上の高位神剣の契約者となれば、契約者は『永遠者(エターナル)』という存在になり、文字通り不老不死に近い存在になりさえする。三位ですら時を操ったり、予知が可能で、一位では「思った」事を現実に反映することができてしまうなど、トンデモ武器もここに極まれりである。

 

 さて、そんな『永遠神剣』が、いきなり目の前に現れたら、あんたならどうする?

 好奇心に任せて、迷わず手に取る?それとも、不可解な現象に逃げ出す?

 それが何も問題のない平常時であれば、どちらを選んでもいいだろう。

 波乱に満ちた人生が欲しければ前者を、逆に平穏な日常を愛するならば後者を。

 いずれの選択であっても、そこに優劣はない。なぜなら、あくまで個々人の価値観の問題であり、それ以上ではないからだ。

 

 だが、その『永遠神剣』の登場場面が絶体絶命の危機であればどうだろう?

 それも、『永遠神剣』シリーズおなじみの敵であるミニオンの襲撃の最中であったなら……。

 

 考えなくても分かることだが、100%罠である。

 絶体絶命の危機に覚醒するとか、漫画の主人公でもあるまいし、そんな都合のいいことがあるわけないのだから。

 

 更に言うなら、俺は転生者――といっても、前世の記憶っぽいものがあるだけで、チートな異能や馬鹿げた才能があるわけではない――というだけで、神の転生体でもないのは勿論、武芸の心得も祖母に精神修養の為に仕込まれた弓道以外にはない。

 それに転生したと言っても、この世界には魔法なんてものは存在しないし、前世の世界と多少の差異こそあれど、ほぼ前世の記憶にある現代日本と変わらないときている。

 どう考えても、『永遠神剣』を手に入れられるような事情は存在しないのだから。

 

 故に俺が呼び出したとか、俺の求めに神剣が応じたなんて可能性は、万に一つもない。十中八九、何者かに仕組まれたものに違いないだろう。

 しかしながら、そこまで理解していても、俺には契約しないという選択肢はなかった。なぜなら、ミニオンは下位神剣とはいえ、れっきとした神剣使いであり、ただの人間が逆立ちしても勝てる相手ではないからだ。

 

 そうして俺は、永遠神剣第十位『無形』と契約したのだった。

 『無形』はその名の通り、定形のない神剣であり、下位ながら応用性の高い神剣だ。俺が契約したてでミニオンにどうにか勝てたのもその御蔭だったが、殺したミニオンが消滅すること無く、神剣ごと『無形』に吸収されたことが気にかかった。

 

 そして、それは翌日確信に変わった。

 なぜなら、朝食卓で顔を合わせた妹が神剣使いになっていたのを皮切りに、学校でも三桁に近い神剣使いを確認したからだ。これで仕組まれていないわけがない。

 

 幸い、答はすぐに提示された。

 その日の夜、夢の中で告げられたのだ――「選ばれし者よ、異世界からの侵略者を倒し、世界を救え」と。

 これが前世で、かつ告げたのが狡猾&残虐な白髪の幼女でなければ、俺も喜んでそれに従っていただろう。

 

 だが、それは最早ありえない選択肢であった。

 妹を巻き込まれたことは勿論だが、それ以上にその聖女然とした白髪の幼女に俺は見覚えがあったからだ。

 

 『法王テムオリン』――永遠神剣第二位『秩序』の契約者である『永遠者(エターナル)』だ。

 しかも、彼女は単なる『永遠者(エターナル)』ではない。世界を破壊、マナを回収し、全ての神剣を統べる永遠神剣に帰す事を目的とした集団『ロウ・エターナル』の幹部の一人なのだ。計画や策謀が大好きで『永遠のアセリア』でも色々と暗躍していた。夢の中ではその本性たる狡猾かつ残虐さをおくびにも出していなかったが、実質、『永遠のアセリア』の黒幕と言って差し支えない人物であるのだ。

 

 さて、そんな彼女が「世界を救え」なんて言うだろうか?

 

 否、断じて否である。

 どう考えても、真逆の滅ぼす側であり、毎夜送り込まれてくるミニオン達は彼女の手によるものと見て間違いない。恐らくこの世界は、何らかの要因から、テムオリンに目つけられたのか、さもなくば、単純に運悪く実験場に選ばれたというだけなのかもしれないが……。

 

 いずれにせよ、酷いマッチポンプである――死ねばいいのに。

 

 そうすると、気になるのは倒したミニオンを神剣ごと吸収するという現象だ。永遠神剣がマナを求めるのは本能であり至極普通のことだが、流石に神剣ごと吸収したりなんてことはない。まず、間違いなくテムオリンが何か仕込んでいるに違いない。彼女の言葉通りにすることは、嫌な予感がぷんぷんする。

 

 しかしながら、現実問題ミニオンは放置できない。

 ミニオンは無差別に人を襲うし、神剣使いとなれば尚更だ。何の力もない両親を、そして狙われるであろう妹を守るために、俺は積極的にミニオンを狩る他無かった。

 

 そうして気づけば三年余り、成人する頃には俺の神剣『無形』は、第六位『千変』に変わっていた。下位神剣が中位神剣に成り上がり、銘まで変わるなど、本来ありえることではない。数多の神剣を吸収してきた結果なのは間違いない。この現象は、俺にどうしようもなく『永遠のアセリア』を連想させた。

 

 ここで少し『永遠のアセリア』について説明しておこう。この物語の主人公は、第四位『求め』の契約者なのだが、実は彼以外にも幼馴染達が同様に第五位『因果』、第五位『空虚』、第五位『誓い』の契約者であった。彼らは神剣の意思によって殺し合いを強制された。全ては、『因果』『空虚』『求め』『誓い』の四神剣を一つにして、第二位神剣『世界』を完成させるために……。

 

 さて、察しの良い方はすでにお気づきではないだろうか?今のこの世界の状況にそれはあまりにも似通っていないかと。他者の神剣を砕くのでもなく、力を奪うだけでもないが、ミニオンの神剣をまるごと吸収し、神剣を強化していく。それは『永遠のアセリア』で行われた四神剣の争いの焼き増しのように、俺には思えてならなかった。毎夜送り込まれた大量のミニオンによって死者も大量に出たが、同時に生き残っている者達は大幅に強化されている。流石に第三位に至った者はいないが、いずれも第四位以下第七位以上の中位神剣を持つ者ばかりだ。そして、昨晩からミニオンの異界からの流入は、今までが嘘のようにピタリと止んだ。これの意味するところは、明白だろう。

 つまり、お膳立ては終わり、舞台は整ったということなのだろう。

 

 

 嫌な予感ほどよく当たるとはよく言ったもので、俺の危惧した通り最悪な展開が待っていた。翌日から神剣使い同士による凄惨な殺し合いが始まったのだ。

 神剣使い達は、それまでの対ミニオンで共闘してきた友誼を忘れたかのように、人目も弁えず所構わず狂ったように殺し合った。巻き込まれた一般人は数知れず、当然センセーショナルなニュースとなって、世間を騒がしたのは言うまでもない。思えば、あの時から破滅の序曲は流れ出していたのだ。

 

 で、だ。肝心の俺がどうなったのか、疑問に思ったんじゃないだろうか?

 あー、あまり言いたくはないのだが、俺もものの見事に狂ったね。あれだけ警戒しておきながら全く情けない話だが、神剣の凄まじい強制力に抗う術はなかった。それでも俺が神剣に操られるままに、誰も殺さないですんだのは、それまで守ってきた妹の御蔭だった。俺が頑なまでにミニオンを排除し、戦わせなかった妹の神剣は未だ第十位『平静』のままだったのだが、どうやらそれが逆に良かったらしい。

 というか、テムオリンが仕込んだであろう「他の神剣使いを殺せ」という凄まじい強制力は、恐らく七位以上の中位神剣でなければ発動しないものだったのだろう。いや、そもそも低位の神剣は意思が薄いことを考えれば、大量のミニオンを異界から送り込んでこちらの神剣を強化させたのは、最初から抗えないレベルの強制力を持たせる為だったのと考えれば納得がいく。恐らくミニオンの流入が止まったのは、妹の『平静』を除いて、この世界の神剣使いの神剣が軒並み七位以上の中位神剣に至ったからだろう。妹が見逃されたのは、単純に十位など脅威にならず、計画の障害にならないと判断されたからだろう。なにせ一人正気であっても、他の神剣使いが狂っていれば意味は無いからだ。どの道、生きるために殺し合うほかないのだから。

 

 だが、妹はこの世界における最大のイレギュラーだった。

 妹は俺に守られており、自ら戦うことはなかったが、その時間を無為に過ごしてはいなかったのだ。妹は、戦えないなりに俺の力になろうとして、『平静』との対話を積極的に行ったのだ。そうして、対話を進める内に最初は片言であった『平静』が明確な言葉を返し始め、ついには普通に話せるようになるまでに至ったらしい。これはこの世界が豊潤なマナを有しているから、可能なことであったらしい。そのおかげで、『平静』は戦うことなく、他の神剣を吸収すること無く、世界に満ちるマナを細々と吸収することで明確な自意識を確立することができたのだ。そのおかげで俺も助かったわけだが、元をたどればその豊潤なマナのおかげで、テムオリンに目をつけられたのだろうから、善し悪しである。

 

 ところで、神剣使いの強さを決める要素は三つあるのをご存知だろうか?

 一つは、契約している『永遠神剣』の位階。基本的に高ければ高い程強い。

 一つは、契約者の能力。単なる元学生と神の転生体、どちらが強いなんて言うまでもないだろう。

 

 そして、余り知られていない最後の一つは、神剣と持ち手のシンクロ率だ。

 これが顕著な例としては、『カオス・エターナル』で第三位神剣『永遠』の使い手であるアセリアや、第九位神剣『失望』の使い手ヘリオン・ブラックスピリットがあげられる。前者は『永遠』とのシンクロ率の高さから、三位でありながら二位に並ぶ強さを誇り、後者はシンクロ率の上限が超絶で、九位にも関わらず六位神剣『冥加』の使い手ウルカ・ブラックスピリットをも上回り、剣聖となっていることから分かるように、高ければ高いほど能力は変化するらしく、これは時に『位』の壁を越える要素なのだ。

 

 どうしてこんな話をしたかというと、俺と妹も高い方だからである。いや、妹の方は高いなどというレベルではない。これがあったからこそ、妹は俺を正気に戻すことができたのだから。十位で六位に干渉し、その影響を打ち消したことを考えれば、恐らくヘリオンと同等レベルであろう。それに加え、『平静』が元々精神に作用する力を持った神剣であることが俺を救ったのだった。

 とはいえ、あれだけ警戒しながらも俺が抗えず狂ったのも、『千変』とのシンクロ率の高さ故だったりするので、一概に良い事とはいえないのだが……。

 

 兎に角、俺は守っているつもりだった妹に守られたわけである。兄として何とも情けない話だ。まあ、元より一人で守ってこれたわけではないので、当然のことなのかもしれないが……。

 

 そんなわけで、どうにか正気に戻った俺は妹と相談し、基本籠城することに決めた。実質狂ってしまった神剣使い達を見捨てるも同然だったが、これはどうしようもないことであった。

 なにせ、俺と妹以外の神剣使いは未だ狂ったまま殺し合っているのだ。この状況下でのこのこ出て行くのは自殺行為以外のなにものでもない。それにいかにシンクロ率が高いと言っても、『平静』が十位であることは変わらない。とてもではないが、この世界の神剣使い全員を正気に戻すには、力が全くと言っていい程に足りなかった。『平静』の言によれば、俺と妹自身、後は精々一人か二人の精神を守るのが限度であるということだった。

 

 実はこの時、すでにテムオリンの計画は大詰めにきていたのだが、この時の俺はそれを知る由もなかった。

 因みに、後の本人の言と『聖威』の言を統合し推察したテムオリンの計画及び『聖威』の動きは、恐らくこういうことだ。

 

 マナの豊潤な世界でありながら、本来神剣も魔法もないこの世界は、テムオリン達『ロウ・エターナル』にとって、絶好の餌場だった。普通なら、世界を滅ぼしてマナを根こそぎ奪い尽くして終わりだったのだが、テムオリンは恣意的に高位の神剣を作れないか実験を思いついていたのだ。その条件として、マナが豊潤で、本来神剣が存在しない世界であることが必要だったのだが、運の悪いことに俺達の世界はその条件に見事に合致してしまっていたわけだ。

 第一段階として、テムオリンはコレクションしている神剣の中から対となる四位の天位系統神剣(テムオリンは知らなかったが、片方が地位系統神剣であり、これが原因で後に『聖威』が出張ってくる)を選び出し、その力を細分化して八位以下の下位神剣として、日本のある街にバラ撒いたのだ。その対象となるのは、思春期&中二病&高二病真っ只中の中学生と高校生達だ。良くも悪くも精神的に不安定で心身ともに成長しやすい彼らは、神剣の糧としてはうってつけだからだ。日本が選ばれたのは、治安がよく平和ボケしていて神剣という非日常を受け入れ易い土壌がある為だ。この段階で神剣は契約者を通して、この世界のマナを吸収し世界に適応していった。

 第二段階として、細分化された天位系統神剣の残りカスを核に周辺世界から引っ張てきたマナで、大量のミニオンを作成。異界からの侵略者の尖兵として、殺戮の限りを尽くさせる。ミニオンの神剣が吸収されたのは、なんのことはない。元が一つの剣であったが故だったわけだ。とはいえ、俺達の世界の周辺世界の尽くを滅ぼして、確保した大量のマナが注がれた結果、細分化される前と同等の力をもつ神剣が複数本生まれることになったのだが。

 第三段階で育った神剣使い達を殺し合わせ、神剣使いをも糧にしてさらに高位の神剣として集約する。つまり、はなからこの世界は蠱毒の壺だったのだ。

 そして、最終段階でこの世界を滅ぼし、残った一本を核にして全てのマナを集約し、高位神剣として新生させる。時間樹エト・カ・リファとしては比べくもない小規模な時間樹とはいえ、時間樹一つのマナを集約させて作る神剣である。流石に一位とはいかなくても、二位ぐらいは作れるのではという目論見だったらしい。

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。神剣世界全体に影響をおよぼす存在の排除を行動原理とする地位系統神剣第一位『聖威』の化身フォルロワは、第三段階において、この企みを察知した。と言っても、時間樹エト・カ・リファの保守に全力を上げていた彼女は、最初これを見逃すつもりだった。地位系統神剣の突然変異体第一位『叢雲』、その化身ナルカナを封じる時間樹エト・カ・リファは巨大化し過ぎており、その保守は比べくもない俺達の世界が属する小規模の時間樹の消滅など些事に過ぎなかったからだ。

 が、結果として、フォルロワは動いた。バラ撒かれた神剣は、対となる天位系統神剣、地位系統神剣であったからだ。これが天位系統あるいは、地位系統で統一されていたなら話は別だったが、双方を内包するというのが問題であった。フォルロワの脳裏には、ナル化マナを操ることを可能とする突然変異体ナルカナの姿が過ぎったからだ。天位系統と地位系統、両者を内包する高位神剣の誕生。それは第二のナルカナを作り出すことのように思えてならなかったようだ。

 カオス・エターナルの首魁ローガスが来なければ、フォルロワは惨敗し、自爆して相討ちを狙うしかなかった化物をまた生み出す可能性を、彼女は断じて許容できなかったのだろう。

 

 悩んだ末に結局、最終段階に至る直前でフォルロワは動いたようだ。俺達の住む時間樹ごと内包する神剣全てを消滅させるという結論を下して。

 因みに彼女が動いたことを察知したテムオリン達は、直ぐ様逃げ出していた。奴とてコレクションの神剣を失うのは痛かったし、計画を潰されるのも業腹であったようだが、それ以上に『聖威』を敵に回すことの愚に比べれば安いという判断だったようだ。元より奴も、俺達の世界の存続させるつもりなど最初から欠片もなかったのだから、当然の判断だったのだろう。

 

 

 一方、そんなことになっているとは露知らず、俺と妹は生き延びるのに精一杯であった。

 籠城していれば安全と思いきや、そんなことは全然なかったからだ。狂気に侵されているとはいえ、神剣使い達の中には対ミニオンで共闘してきた戦友は一人や二人ではない。中には親友と言っていい者さえおり、互いの家に遊びに行ったりもした。つまり、妹はともかく俺の存在を知っているのは一人や二人ではなく、当然俺もまた餌として認識されているというわけだ。それでも、俺と妹が束の間の平和を甘受できていたのは、俺のところに辿り着く前に狂っている者同士が殺し合うことの方が殆どだったからだ。

 

 だが、それもいつまでも続かない。俺の戦友には第四位『万化』を筆頭に、第五位では『灰燼』『夢幻』、第六位『堅固』と実力者が揃っていたからだ。たとえ狂っていたとしても、彼らの戦闘力には陰りがない。いずれ辿り着くのは避けられない未来であったのだ。味方であれば、頼もしい事この上ない彼らであったが、敵となればこれ程厄介な相手もいない。なにせ、お互い手の内を知り尽くしているのだから。

 

 最初に来たのは『夢幻』の少女だった。俺を慕ってくれた一つ下で、妹とも親しい心優しい少女だった。そんな彼女が狂気に侵され、俺へとそのチャクラム型の神剣を向ける。その力は幻惑。精神に作用する幻術使いだ。

 俺はそんな彼女を刀状にした『千変』で、迷い無く一刀両断にし、その全てを吸収した。本来なら、こんな簡単にはいかない。彼女の幻術は、精神に直接作用するものであり、幻であっても現実に起きたと心身が判断し傷を負うという恐ろしいものだ。基本的に形状変化による物理攻撃が主体の俺にとっては最悪の相手と言っていいだろう。一対一で戦えば、神剣の位の差もあって間違いなく俺が負けるであろうから。

 だが、生憎と俺は一人ではない。戦場にこそでないが、俺の精神は妹と『平静』によって守られているのだ。つまり、実質二対一であり、今の俺に幻術は効かない。故、幻術を俺にかけたその瞬間は絶好の隙であり、そこを突いたというわけである。

 

 次いで来たのは『灰燼』の青年だった。小中高と同じで付き合いの長い互いに親友と呼べる男だった。その神剣は小剣であり、紅蓮の炎を操る力を持った神剣使い。本来、後衛型で火力担当なのだが、生来の気質から前に出たがる困った男だったが、気のいい奴で思考が暗くなりがちの俺達のムードメーカーだった。

 火力に注意しつつ、隙を狙っていたのだが、『灰燼』は後ろから突きこまれた大槍にあえなく貫かれて死んだ。

 

 貫いた大槍型神剣の持ち主は『堅固』の大男。俺の一つ上で、俺達の兄貴分だった男だ。リーダー役こそ、『万化』の持ち主に譲っていたが、肝心な所を締めてくれたのは彼だった。常にその巨体を盾にして俺達を護り、その頼もしい背中で引っ張てきた男だ。そんな彼が、後輩を不意討ちして殺し、何の感慨もなくまた俺に槍を向けているのだ。悪夢としか言い様がない光景だった。

 だというのに――俺の心はどこまでも平静であった。頭は混乱しているはずなのに、動揺など欠片もなくどこまでも凪いだ心で『千変』を構える。これもまた『平静』の力――戦友で『夢幻』の少女を迷い無く両断できたのも、それで動揺しなかったのも実はこのおかげ――であることは言うまでもないが、この時の俺は知る由もなかった。

 

 『堅固』の大男もまた相性の悪い相手だ。基本、物理オンリーの俺にとって、その名の通り堅固な物理防壁を備え、鍛え抜かれた強靭な肉体を持つ彼は、天敵と言っていい。なにせ、ダメージが通らないのだから、どうやって倒せという話だ。

 故、俺にできるのは手数と変則的な攻めで翻弄することだった。連結刃に変化させた『千変』で多角的に変則的に攻めて、けして距離を詰めさせない。接近戦では分が悪いからだ。神剣の位は同等でも、素の肉体の差が大きい為、その部分で負けてしまうのだ。

 

 しばし、一進一退の攻防が続いたが、決着は唐突だった。連結刃での負傷を恐れもせず、防御壁を前面に展開した状態で槍を構え突進してきたのだ。その突進を避けることはできなかった。なにせ、後ろには家があったからだ。守るべき妹がいる帰るべき場所が!

 俺は覚悟を決めた。槍を肉体で受け止め、動きを止めた瞬間に首を落とすと。密着状態ならば、防御壁も用をなさないし、いかに強化した強靭な肉体でも、斬ることに特化した日本刀形態の『千変』を防ぐことはできないだろう。俺も死ぬだろうが、相討つのは不可能ではないはずだと。

 結果を言えば、俺は見事に首を落とした。だが、それは俺の手柄ではない。俺の肉体に当たる寸前で槍を逸らし、衝突前に防御壁を消した大男の手柄だ。俺は何もできなかった。ただ、千載一遇の好機に体が動いてしまったというだけだ。彼が死に様に見せた笑顔と「面倒かけて済まねえな」という声だけが耳にこびりついていた。

 

 

 彼が己の肉体に吸収されていく様を呆然と見つめていた俺を、現実に戻したのは最後に来た『万化』の女だった。今思うと、恐らくこの時点で生きている神剣使いは、俺と妹と彼女だけだったのだろう。滅びのリミットがすぐそこに近づいていることを、俺はまだ知らなかった。

 

 そこから先で彼女との間に何があったのか、語るのは勘弁し欲しい。

 ただ、言えることは彼女こそ、俺が守るべきもう一人であり、妹を共に守ってきてくれた片翼だったということだ。

 結果として、俺はそんな彼女を殺し、結局妹さえも守りきれずに無様に生き延び、ただ一人生き恥を晒すことになった。狂えればよかったのだろうが、俺の中に溶け込んだ妹の遺した『平静』が俺に狂うことを許さなかった。

 

 そして、俺の『千变』が最後の神剣となった瞬間、世界に滅びが訪れた。恐らくテムオリンは、この世界の神剣が唯一に統合された瞬間に世界を滅ぼすように予め仕込んでいたのだろう。奴が不在であっても、事を成せるように。後に知ったことだが、ろくに介入もせずにあっさり撤退したのも、すでに仕込みは終了していたからなのだろう。

 

 だが、当然ながら『聖威』の化身フォルロワがそれを許すわけがない。

 全ての世界が終焉に向かい、時間樹全てのマナが俺の神剣に収束統合する前に、フォルロワは時間樹を消し飛ばさんとしたのだ。もちろん、時間樹内の世界に存在する俺がどうなるかなんて言うまでもないだろう。

 

 詳しいことは分からないので、これも結果だけを言おう。

 時間樹はフォルロワの思惑通り、跡形も無く消滅したが、俺は生憎と生き延びてしまった。それがどういう理由なのか、いかなる力が働いたかも理解できない。

 

 ただ、俺はこう思う。俺を生かしたのは、時間樹の意思だったのではないかと。

 テムオリンをはじめとした『永遠者(エターナル)』達に好き放題に内包する世界を尽く滅ぼされ、マナを簒奪された挙句、神剣の化身に消滅させられんとした時間樹の怒りなのではないだろうか。そして、己を蹂躙した天位でも地位でもない存在に助けを求めたのだ。

 そうでなければ、俺に宿るこの力が、あの瞬間流れ込んだ無数の激情が何なのか説明できない。

 

 

 さて、フォルロワは消滅させた時間樹の中央に無傷で佇む俺を見て、驚愕した。

 当然だ、俺は死んでなければおかしいのだから。

 

 「天位にも地位にも属さない神剣!?――イレギュラーがっ、安定のために死になさい!」

 

 身の丈を超す大剣が振るわれる。その刃は特別だ。特殊な異能が働いている。恐らく、あれを普通の神剣使いが受ければ、間違いなく死ぬだろう。そう、たとえそれが『永遠者(エターナル)』であっても。あれを神剣で受けてはならないと。

 

 そこまで理解しながら、俺はそれを右手にもった神剣『森羅』であえて受け止め、『万象』で剣ごと吹き飛ばす。

 

 「馬鹿な!なぜ受けられ、剣を合わせられるの!?神剣殺しの権限は確かに働いているというのに!」

 

 なるほど、神剣殺しか。道理で普通の神剣では受けられないと感じるはずだ。

 だが、生憎と『森羅』と『万象』はその限りではない。

 

 「この『森羅』と『万象』が天位にも地位にも属さない神剣だと言ったのはあんただ。あんたのそれは、天位と地位に属する神剣を殺すものだからな。どちらにもに属さない剣を殺せないのは当然だろう」

 

 「ありえない!天位にも地位にも属さない神剣――認めない……そんなもの絶対に認めない!」

 

 絶叫と共に振るわれる再びの大剣の一撃を『森羅』を大剣にして受ける。さっき受けた神剣殺しを封じるおまけつきで。

 『森羅』と大剣がぶつかり合った瞬間、大剣から神剣殺しの力が失われる。

 

 「――神剣殺しの権限が!?何をしたの!」 

 

 剣から力が失われたのを感じ取ったのだろう。フォルロワが激昂する。

 

 「安しろ、消失したわけじゃない。一時的に封じただけだ」

 

 「私の――『聖威』の権限を封じる!?そんなことできるわけが!」

 

 「〈鞘〉を壊す剣はなく、〈鞘〉は剣を封じるものだろう?何も不思議な事じゃない。これは当然の摂理だ」

 

 「〈鞘〉!?まさか、まさか貴方!?」

 

 「地位の眷属よ。お初にお目にかかる。今し方、〈鞘〉の眷属となった番外位『森羅』と番外位『万象』と契約した『永遠者(エターナル)』『調停者クオン』だ」

 

 わざとらしく気取った言い方をしてみる。別に教える必要はないのだが、あえて教えてやる。この女の行動原理からすれば〈鞘〉の眷属を殺すことは、絶対にできないはずだからだ。

 

 「〈鞘〉の眷属!?番外位ですって」

 

 「まあ、それはそれとして……死ね!」

 

 案の定、驚愕して動きが鈍ったフォルロワを尻目に、俺は容赦なく『万象』を振るう。こいつとテムオリンだけは、あの世界の、あの時間樹に生まれた者として、未来永劫絶対にに許すことはない。それにこいつは神剣宇宙の安定をうたいながら、秩序を犯し恣意的に排除を行い、神剣同士の争いを助長している。〈鞘〉の眷属としても、許容できる存在はない。 

 

 「天位、地位が争わないように神剣の力を封じる力を持つ〈鞘〉の眷属が、『聖威』の化身である私を殺して神剣世界のバランスを崩そうと言うの!」

 

 『万象』の一撃を弾き返しながら、そんなことを言ってくるが、俺に迷いはない。

 

 「安心しろよ。お前が死んでも、大半の力を失うだけで『聖威』が滅びるわけじゃないさ。いずれ力を取り戻し、新しい化身が生まれるってよ。それまで『聖威』には眠っていてもらうだけの話だ」

 

 「ふざけるな!私が死んだら、誰がこの神剣世界の安定を守るというの?」 

 

 「少なくともお前じゃない!大体、秩序を保つ地位神剣に属しながら秩序を犯し、世界を恣意的に滅ぼすお前に神剣世界の安定をうたう資格があるものか!世界の守護者気取りの愚かな化身が、ここで死ね!」 

 

 「守護者気取り!?私がどんな思いで、この世界を守ってきたかも知らぬ輩が!」

 

 俺の言葉に激情を露わにするフォルロワだが、『森羅』と『万象』と打ち合う度にその力を封じられていることに気づいているのだろうか?

 

 「そんなもの知った事か!大局見ているつもりで目先しかお前には見えてない。お前こそ、神剣世界の害悪だ」

 

 「っく、力が……!勝負は預けるわ。私はこんなところで死ぬ訳にはいかない!」

 

 逃すものか!今回を逃せば、『聖威』の化身であるフォルロワを殺すチャンスは当分訪れない。俺がコイツを殺せるのは、〈鞘〉の全面的なバックアップを受けられる今しかないのだから。

 

 「転移ができない!?」

 

 「転移だけでじゃない。お前の使うありとあらゆる『聖威』由来の能力は封じさせてもらった。生き延びたいなら、純粋な神剣魔法と神剣の腕で俺を上回ってみやがれ」

 

 「貴方はどこまでも!」

 

 「恨むなら、存分に恨めよ。もっとも、お前に恨まれたとしても、俺は痛くも痒くもないがな」

 

 転移しようとしてできなかったことで、フォルロワは無防備な状態を晒した。殺すならここしかない!

 『森羅』と『万象』を共鳴させ、俺が内包する世界からマナを引き出し、膨大なマナを純粋な破壊の力へと変換する。

 

 「今は亡き時間樹に生きとし生ける者達の恨みと滅ぼされし世界の嘆きを思い知れ!

 【三千世界に知らしめよ!森羅万象の理の下、万物は流転する この理から逃れることは日月星辰、天地すら能わず!】」

 

 後に<万物流転>と名付ける神剣魔法を解き放つ。マナ存在ならばナルを、ナル存在ならばマナをぶつけるこの破壊の力に抗える者はいない。たとえそれが一位神剣の化身であっても。

 フォルロワもそれを理解したのだろう。諦めたかのように目を瞑る。

 

 だが、フォルロワを殺すことはできなかった。なぜなら、すんでのところで転移させられてしまったからだ。

 

 万物を破壊する嵐が消えた後に立っていたのは、笑みを浮かべた赤髪の少年だった。

 もっとも、少年なのは外見だけだろう。この少年は先のフォルロワ以上に底知れぬ力を感じる。

 少年が何者であるかは、前世の記憶と〈鞘〉が教えてくれる。

 

 「まさか地位の眷属に続き、天位の眷属にしてカオスの首魁に会えるとは思わなかった。『全ての運命を知る少年“ローガス”』。それにても、なんで邪魔した?」

 

 フォルロワを転移させたのは、この少年ローガスの手によるものだろう。俺が封じていたのは、『聖威』の力であって、他の神剣の力まで封じていたわけではないからだ。相当な力と技量が必要だが、外部から転移させるのは不可能ではない。

 

 「悪いけど、彼女をここで失うわけにはいかないんだ。ここは退いてくれないかな?」

 

 ローガスは笑みを崩さず、そう言う。喜怒哀楽の内「怒」「哀」が欠落しているらしいが、何とも胡散臭い男だ。少なくとも友達になりたいタイプではない。

 

 「あんたの見る運命にあの女が必要だとでも言うつもりか?今すぐ転移先を吐いて去れ。そうすれば、この場は見逃してやる」

 

 「それはできない。それをするなら、はなから助けてはいないよ。それに教えたところで、この場から移動した君にはできないだろう?」

 

 痛い所を突いてくれる。確かに〈鞘〉の全面的なバックアップを受けられるのは、今この時この場所限定である。俺が成り立てにも関わらず、『聖威』の化身であるフォルロワを圧倒できたのも、偏にその御蔭だ。本来ならば、勝負にすらならない。勿論、俺が一方的に惨敗するという意味で。

 全ての運命を知るというのは、伊達や酔狂じゃないらしい。

 

 「流石は『運命』の契約者と言うべきか?だが、逆説的に言えば今この場でなら、あんたでも殺せるということでもある」

 

 「確かにそうだね。今この場では僕が圧倒的に不利だろう。でも、僕はここでは死なないよ。僕の運命はここにはないからね」

 

 脅迫されたというのに、ローガスが紡ぐ言葉には、なんの怯えも動揺も感じられない。むしろ、確たる自信すら感じた。彼は本当にここで死ぬことはないと確信しているのだ。

 そして、俺もそれを内心で認めざるをえない。なにせ勝てるという確信はあっても、殺せる気が欠片もしないのだから。

 

 「ハア、参った。降参だ。なんだか知らないが、あんたを殺せる気がこれぽっちもしない。あんたの言う通り、ここは退こう」

 

 「そうしてもらえると助かるよ」

 

 ローガスは相変わらずの笑顔で、本当に掴みどころの無い胡散臭い男である。どうにも闘志というか、やる気を削がれる。

 

 「だが、覚えておけローガス。次は絶対に退くことはない。万全の態勢を整えて、あの女を殺しに行く。それを邪魔するなら、次は容赦しない。それがあんたであってもだ、ローガス」

 

 「分かった。彼女にも伝えておくよ。ああ、安心して。君には当分手を出さないように言っておくから」

 

 「余計なお世話だ。どうせ、あの女は俺に手出しできないさ。それをすれば、自らの行動原理と今までの行いを全て恣意的なものであったと認めると同義だからな」

 

 「まあ、それは否定しないけど。いざとなれば、我が身諸共を厭わないのが彼女だ。くれぐれも油断しないようにね」

 

 そう忠告するように言うと、ローガスは消えた。恐らく来た時同様、外部からの手引で転移したのだろう。カオス・エターナル、分かっていたことではあるが、つくづく油断ならない連中である。

 俺もそれに習い、とりあえず近場の時間樹へと転移し、神剣の気配のない適当な分枝世界に入り込み、そして崩れ落ちた。

 

 「はあ、疲れた。くそ、いきなり『聖威』の化身にローガスとか無理ゲーにも程があるだろう!ああ、クソ!あの女はあそこで殺しておきたかった……」

 

 悔やんでも悔やみきれない。すでに消滅した時間樹のマナを通じた〈鞘〉の全面的なバックアップは失われている。今の俺は成り立ての『永遠者(エターナル)』でしかない。『森羅』と『万象』は共に鞘の直属の眷属で番外位という規格外であり、その力は単純に測れるものではないが、〈鞘〉である神剣『調律』が急速に力を失っている現状においては、二位相当の力しかないというのが現実だ。

 これではローガスやフォルロワは勿論、テムオリンにすら勝てるかも怪しい。

 

 まずは『永遠者(エターナル)』としての力に慣れ、自由に扱えるようにならなければならない。

 そして、『聖威』の化身やローガスに対抗できるようになるには、神剣の力を封じる〈鞘〉の眷属としての力が不可欠だ。今度は『調律』の助けなしに、自力で発現できるようにしなければならない。そうでなければ、一位神剣の圧倒的な力で、俺の方が殺されるであろうから。

 

 「まずは『永遠者(エターナル)』としての力の扱いからか。

 ハア、先は長いな。テムオリンとフォルロワの首を取るのは何時になるやら……」

 

 そう言って、見上げた空は、いつか見た元の世界と同様に、雲ひとつなく青く澄み渡っていた。

 

 




『聖威』の化身を雑魚扱いして、圧倒できるナルカナ様強過ぎ。
でも、そんなナルカナ様に神剣抜かずに勝てるローガスさんは、もっと強過ぎ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。